住友原子力工業株式会社の原子炉施設
(臨界実験装置)の設置について



 原子力委員会は、昭和38年3月22日付で、次のとおり「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条」に規定する許可の基準に適合していると認める旨の下記の答申を内閣総理大臣宛に行なった。


 住友原子力工業株式会社が研究用ならびに教育訓練用の目的をもって、茨城県那珂郡東海村大字石神外宿に設定する低濃縮ウラン軽水減速非均質型、最大熱出力100Wの臨界実験装置1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
 なお、各号の基準の適用に関する意見は次のとおりである。
 核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可規準の適用に関する意見。

(平和利用)

1 この臨界実験装置は、住友原子力工業株式会社が、研究用ならびに教育訓練用の目的をもって使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2(1)この臨界実験装置の使用目的は適切であり、臨界実験装置の型式および性能は、その使用目的に合致している。

(2)臨界実験装置の利用に関する組織および技術的能力は十分であり、その利用効果を挙げることができる。したがって、この臨界実験装置の設置および運転は、わが国における原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 臨界実験装置の設置に要する資金は、関係付帯経費を含め、総額約3億4千万円であり、その金額は住友原子力工業株式会社の昭和37年度以降3ヵ年の株式増資額合計11億9千万円のうちから賄なうことになっており、その調達計画の内容からみて、臨界実験装置を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4 下記の原子炉安全専門審査会の、この臨界実験装置の安全性に関する審査結果のとおり、この臨界実験装置を設置し、その運転を適確に遂行するに必要な技術的能力があるものと認める。

(災害防止)

5下記の原子炉安全専門審査会の、この臨界実験装置の安全性に関する審査結果のとおり、臨界実験装置の位置、構造および設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染されたもの、または原子炉による災害防止上支障がないものと認める。

(記)

原子炉安全専門審査会の報告

(昭和38年2月18日付)

I 審査結果
 住友原子力工業株式会社が、研究用ならびに教育訓練用の目的をもって、茨城県那珂郡東海村大字石神外宿に設置しようとする熱出力最大100Wの低濃縮ウラン軽水減速型臨界実験装置の安全性について同社が提出した「原子炉(臨界実験装置)設置許可申請書」(昭和37年10月10日付)に基づいて審査した結果、この臨界実験装置(以下「CA」という。)の安全性は、十分確保しうるものと認める。

II審査内容

1.立地条件

(1)一般環境
 このCAの敷地は、東海村の西端陸前浜街道沿いの二軒茶屋付近に位置し、水戸の北東約13km、東海駅の西方約2kmの地点にある。
 敷地は約16ヘクタールの面積を有し、CAから敷地境界までの最短距離は、約90mに計画されているので、このCAの敷地としては十分の広さを持つものと考える。

(2)水利
 この施設の用水は、地下水を利用することになっているが、用水の所要量からみて、CAの運転に支障となることはないと考える。
 排水は、二軒茶屋から原研道路沿いに排水管を敷設し、新川排水専用路へ排水する計画になっており、また、この施設から放出される排水に含まれる放射性物質は、ごく微量であると考えられるので、排水について特に問題はない。

(3)地盤
 敷地周辺は、砂礫層、砂層、粘土層の互層からなる洪積層の上にローム層がおおっている。ボーリングの結果によれば、建屋の基礎のおかれる深さ4m以下には厚い密な砂礫層が存在しており、地耐力の点で問題はない。

2.装置の概要

(1)装置の概要
 このCAは、いわゆるタンク型のもので、直径高さともに約2mの不銹鋼製の炉心タンク内に燃料棒を装填した集合体を置き、制御棒により反応度を調節し、低出力で運転される。
 燃料には、濃縮度1.5%の二酸化ウランペレットを直径約2cmのアルミニウムの管および直径約1.3cmのジルカロイ−2の管内に充填したものを使用する。燃料棒の長さは約2mで、使用されるウラン235の量は約33kgである。
 このCAは、炉心タンクへ水を注入して後、制御棒によって臨界にするものである。
 制御棒は粗調整棒12本および微調整棒1本を備えている。粗調整棒は2本を1組として駆動し、粗調整棒6組のうち2組が上限になければ、循環ポンプは駆動しないようになっている。
 炉心タンクへの注水速度は、0.1cm/secに制限され、また、水位は、オーバーフロー式の水位調節装置によって制限される。水位調節装置の設定を上方に変更する場合には、自動的に循環ポンプの停止、制御棒の全挿入が行なわれることになっている。このほか、このCAには内径5cmのアルミニウムの管を用いたボイド発生装置が使用される。
 このCAの安全保護設備としては、インターロック、警報系およびスクラム系の安全保護設備を有している。スクラム信号は、出力上昇、炉周期減少、電源電圧低下、地震、炉心タンク水位上昇、安全スイッチの投入および手動によって発せられるほか、ボンド発生装置の異常によっても発せられる。スクラムに際しては、粗調整棒の落下およびダンプバルブの開放の2つの独立した停止装置を作動させる。
 このCAの耐震設計としては、炉心タンク支持部には0.4g、安全装置には0.6g、その他の施設および装置に対しては0.3gの水平震度の地震に対して安全なように設計されている。
 CAのこれらの設計は、安全上妥当なものと認める。

(2)CAの特性
 このCAは、燃料配置、温度などを変え、またボイドなどを挿入して、可撓性のある実験を行なうことになっているが、これらの実験は、次の範囲内で行なわれる。

1.超過反応度最大 2%△K/K(制御棒等価反応度4%△K/K以上の場合)
 最大1%△K/K(制御棒等価反応度2〜4%△K/Kの場合)

2.内蔵反応度
 固定模擬ボイド:超過反応度の範囲内
 可動模擬ボイド:0.2%△K/K以下
 動ボイド:0.2%△K/K以下
 その他の反応度変化を急激に起こす可能性のある実験:0.2%△K/K以下

3.臨界水位
 燃料部分最高位より上方

4.水位調節範囲

 タンク上面より約56cmの範囲内
 ただし、水位調節装置の設定変更は、等価反応度にして0.5%△K/K以下に制限することになっている。

5.炉心タンク水温80℃以下

6.最大反応度付加率

 水位上昇:2×10−4 △K/K/sec以下
 粗調整棒引抜:1×10−4 △K/K/sec以下
 微調整棒引抜:3×10−4 △K/K/sec以下
 これに対し、このCAの制御系には、粗調整棒12本が備えられており、その等価反応度は、超過反応度の200%以上で、CAの停止に要する吸収反応度は、十分と認める。
 また、このCAは、負の温度係数など固有の安全性を有するほか、低出力で運転されるので核分裂生成物の蓄積も少ないという特性をもつものである。

3.平常時の安全対策
 このCAは、年間5kWhの範囲内で運転されることになっており、敷地外の一般公衆および従事者に対する被ばく線量および放射性物質の濃度が、昭和35年科学技術庁告示第21号に定める許容値を十分下まわるように、次のような配慮をもって設計、計画されているので、その安全性は確保しうるものと認める。

1)放射線の遮蔽設計等

(i)CAの運転中は、装置室への立入りを禁止する。

(ii)従事者の受ける被ばく線量は、年間5/3rem 3ヵ月間1rem以下になるように管理されることになっている。

(五)一般人の受ける被ばく線量は、年間0.1remよりはるかに低くなっている。

2)廃棄物の処理

(i)気体
 このCAから放出される気体廃棄物は、きわめて少量で特に問題とならない。

(ii)液体
 このCAの排水に含まれる放射性物質は、ごく微量であるので問題はないと考えるが、さらに次のような考慮がなされていることは妥当と認める。

(イ)管理区域からの排水は、最大許容濃度以下であることを確認した後、排水専用路に放出することになっている。

(ロ)上記排水専用路が完成するまでは、上記農度以下にしたものを、タンク車によって日本原子力研究所に運搬し、廃棄を依頼することになっている。

(ハ)実験室などから出される濃度の高い廃液は、廃棄物処理機関に廃棄を委託することになっている。

(iii)固体
 固体廃棄物は、廃棄物処理機関に廃棄を委託することになっている。

4.事故評価
 このCAで階段状反応度外乱を与えるものとしては、燃料誤装荷、計測孔の決潰、動ボイドの消滅、模擬ボイドの脱落などが考えられるが、燃料棒1本の誤装荷による反応度増加は、約0.05%△K/K、計測孔の決潰によるもの0.3%△K/K以下、動ボイドの消滅によるもの0.2%△K/K以下、模擬ボイドは脱落のおそれのない固定のものとそのおそれのある可動のものがあるが、後者によるもの0.2%△K/K以下、またそれ以外の実験によるもの0.2%△K/K以下であり、このうち模擬ボイド実験およびその他反応度変化を急激に起こす可能性のある実験は、いずれの二つをも同時には行なわないことになっている。これに対して、このCAでは、0.5%△K/Kの階段状反応度が加えられたときに、すべてのスクラムが作動せず、異常発生後15秒を経て手動によりダンプバルブのみが作動したと仮定した場合でも、約15MWsecのエネルギーが解放されるに過ぎない。
 またランプ状に反応度が加えられる場合としては、水位の連続上昇、制御棒の連続引抜き、炉心タンク水温の低下などが考えられるが、水位の連続上昇による反応度付加率は2×10−4 △K/K/sec、粗調整棒の連続引抜きによるもの1×10−4 △K/K/secであり、炉心タンク水温の低下によるものはこれより小さい。これに対し、このCAでは5×10−4△K/K/secの反応度付加率で、反応度が加えられたときにすべてのスクラムが作動せず、異常発生後15秒を経て手動によりダンプバルブのみが作動した場合でも約40MWsecのエネルギーが解放されるに過ぎない。
 このいずれの場合においても、燃料および燃料被覆材の溶融、破損には至らない。
 また、20MWsecのエネルギー解放を仮定した場合の被ばく線量は、CA室外で最大1.5rem程度であるから、従事者は勿論、敷地外の一般公衆に対しても安全である。

5.技術的能力
 このCAの設置計画は、住友原子力工業株式会社が中心となり、関係各社の協力を得て進められる。これらの会社は京都大学の未臨界実験装置の設計、製作の経験を有し、また米国コンバッスション・エンジニアリソグ社、ユナイテッドニュークレア社と技術コンサルタント契約、技術契約などを行なっている。
 CAの運転管理は、住友原子力工業株式会社東海研究所長の下に臨界実験装置管理室が担当し、管理室は、室長を含め7名で構成され、放射線管理は、放射線管理室長および補助者1名が当ることになっている。
 また、実験および運転については、安全委員会を設け安全性の検討を行なうことになっている。
 これらの、CAの設置、運転のための組織および人員ならびに技術的経歴からみて、このCAを設置し、かつ適確に運転するために要する技術能力を有するものと認める。

III 審査経過