原子力委員会参与会

第 9 回

〔日時〕 昭和37年11月9日(金)14.00~17.00

〔場所〕 赤坂プリンスホテル

〔配布資料〕

(1)原子力発電所建設敷地決定に際して
(1)-2 候補地点の地質調査
(2)石川、駒形両委員の海外出張について
(3)ヒントン卿の招へいについて
(4)「原子力損害の民事責任に関する国際的最低基準に関する条約」について
(5)原子力調査季報
(6)原子力委員会専門部会等の審議状況

〔出席者〕

(原子力委員会)近藤委員長、石川、西村、兼重各委員

(参    与)稲生、岡野、菊池、倉田、嵯峨根、瀬藤、高橋、塚本、成富、伏見、藤岡、正井、松板、三島、三宅、吉沢、和田各参与。

(関 係 者)鈴江事務次官、通商産業省、外務省、経済企画庁、日本原子力研究所

(事 務 局)島村局長、江上次長、政策課長、調査課長、国際協力課長、原子炉規制課長、研究振興課長、アイソトープ課長、原子力開発機関監理官、その他担当官

6.議事概要

 議事に入る前に近藤委員長から開会の挨拶があり、続いて政策課長から配布資料の確認があった。

石川委員:報告の始めに、今朝ラジオでも放送していましたが原電2号炉の敷地決定について嵯峨根参与にお願いします。

〔1〕原子力発電(株)の第2号炉建設敷地の決定について

嵯峨根参与:今朝の役員会で会社として正式に第2発電所の敷地を決定させていただきました。敦賀半島の突端の丹生と右肩の立石、浦底、色ケ浜地区が良いということで目を付けて地震、運輸、人口、風向等を調べて理想的であるので立石、浦底、色ケ浜地区に決定し、敦賀発電所と呼ぶことになった。丹生は関西電力(株)の発電炉建設予定地となった。問題となるのは地質ですので、これについては資料(1)-2号に善かれている。(嵯峨根参与から資料(1)-2号の説明があり、)長い線の部分には確かに断層らしいものがあるが昔から考えられていた⑫⑬のところに断層がないので今後安全性その他の面で検討していただくことになる。山の右側の斜面に努力すれば原子炉が3基位いは置くことが可能である。最も難しいと思われた敷地が見つかったのでどんどん進めたいと思う。

岡野参与:決定した土地は官有地かそれとも民有地なのか。

嵯峨根参与:民有地ですが福井県は非常に熱心で土地の人々も協力的であった。そのため作業が非常に進んだ。

藤岡参与:海流や漁業との関係はどうか。

嵯峨根参与:外海はふぐやはまち等の定置網漁場であり、害の明白なものは良心的に考えるが、一般的な補償は難しいと伝えた。その後に陳情があり冷却水を外洋に流すなということなので、湾内は15メートルから22メートルの深さがあるので深い部分から水を取って浅い所へ流す方法が可能であるのでこれに変えるつもりで専門家に調査させている。現在東海村では10-7μμcで世界の基準より非常に少ないのであるが伏見参与等に安全基準審査会で世界並とすることの検討をしていただくよう期待している。海流の動き方は分っているがどう出すかということはまだ決っていない。日本人は世界の他の人種に較べて敏感なのか、そうでないなら世界並にしてほしい。

藤岡参与:湾のなかのContaminationとか温度差等はどうか。

嵯峨根参与:水温は仙台火力の場合での浅い海でも差し支えない実績がある。ここは更に深くからとれる。これも専門的に調査中である。出来れば深い海の低温度の水を使いたい。また湾内は現在、ソ連からの輸入木材の貯木場に使用しているが県の方で原子力発電の方を優先的に進めるということである。また海水は冷却系統に用いるのでContaminationは心配ない。

稲生参与:嵯峨根参与の話では理想的な土地が見つかったということで喜んでいる。人工密度も少なく結構だが、12~3キロメートルの所に敦賀市があり、現在のアメリカの基準では難かしいが、これでは日本には原子力発電所が出来ないので十分に考えて、あまり早急に基準を作らないようお願いしたい。

岡野参与:東海村の時には協力会を作らせて補償その他に効果があったが、だいたいの場所が決ったら早いうちに協力的な組織をつくることが有効と思うので念のため。

嵯峨根参与:すでに敦賀市に一つ出来た。福井県自体に開発公社、開発促進会があり、今すぐには必要がないという人もある。

岡野参与:よそからの誘惑に乗らない効果が大きい。敦賀半島の交通状況はどうなのか。

嵯峨根参与:敦賀市からの道路がないので、現在のところはポンポン蒸気船で行くが、福井県と覚書を取りかわして県が自主的に道路を作ることになっている。

松根参与:このことについて委員会の方で可否を決めるのか。

石川委員:委員会として決定したことがあるのでこれから申し上げる。

 政策課長から資料1号の説明があった。

近藤委員長:今日の閣議に報告しました。これと同様な報告が通商産業大臣からありました。別段とりたてて質問もなかったので単なる報告で済みました。

松根参与:土地の適否の方は具体的な申請が出てからになるか。

石川委員:土地の適否については現在の段階ではいわずに、炉の設置の時に両方兼ねて安全性を審査することになる。

松根参与:最終的にはそうなると思うが、具合の悪い場合を考慮して前もって安全性がどうかということを考えているか。

嵯峨根参与:全然人のいない場所なら安全性について対策はいらないが、この土地ならばこれだけの安全措置をすれば良いということを専門家に検討してもらう。

松根参与:良くわかりました。これは最初の問題ですので政府も推進に協力するようにお願いします。

石川委員:この問題はこれ迄にして資料2の議題に入りましょう。

〔2〕石川、駒形両委員渡欧米とヒントン卿の来日

国際協力課長から資料2号に基づいて石川、騎形両委員の渡欧米について説明があり、次いで資料3号に基づいてヒントン卿の来日について説明があった。

石川委員:IAEA総会について局長にお願いします。

〔3〕IAEA第6回総会について

島村局長:9月18日から26日迄ウィーンで開かれた第6回総会に出席した報告を申し上げます。特別に日本に関係のあるものは少ないが、少量の核燃料物質の入手手続の簡素化の問題があったがこれは次回に延期された。石川委員、嵯峨根参与、松根参与が出席されたことがあり、アメリカとソ連の対立があり非常に難しいと聞いていたが今回はこれに較べて良くなっていた。ソ連のエメリアノフ等が低開発国に対するIAEA援助の決議や分担について好意的な発言をしたが、アメリカも今後検討しようということであった。

新しい原子力局長に世界的な視野で見るようにということで私が行ったが、ウィーンに出かけて日本をじっくり見ることが出来て非常に参考になった。

原子力に関して日本の中身は決して誇れないが、低開発国が日本の後に70余力国もあって先進国から教わらなければならないが、後から続く国々に対して援助をしなければならないと思った。

 ユーラトム本部を訪れて石川、駒形両委員の訪問を伝えた。申し遅れたが現地の内田大使が2日目に一般演説を行ない、内容は昨年の三木委員長が出席した時のラジオ・アイソトープ・センターについての経過と、明年3月に日本でアジア原子力会議を開催するということであった。

 帰りにインド、パキスタンに立寄ってアジア原子力会議に参加するように要請した。

藤岡参与:エメリアノフはどういう資格で出席していたのか。

島村局長:ソ連代表としてである。

栗野課長:昨年モロトフが引込んでから、今年の2月の理事会ではエメリアノフとエクランドとが親密になっていた。ソ連としても警戒しながら見守って行くということらしい。

石川委員:次に民事責任条約について政策課長にお願いします。

〔4〕民事責任条約について

 政策課長から資料4号に基づいて陸上炉に関する最低基準に関する政府間会議について報告があった。

瀬藤参与:この問題は我妻参与が中心になって検討したが決っている法律に何もいえないのでは委員会の審議方法に問題があるのではないか。ただ1回の審議であのようになったのでは十分な審議が出来なかっので、もっと審議するようにしてもらいたい。

政策課長:今後そのようなことがないようにしたい。

瀬藤参与:来年の外交会議ではどのようにまとまると予想しているか。

政策課長:責任限度額などの点もあり相当もめるのではないかと考えている。

瀬藤参与:資料4号の(4)(5)はどうか。

政策課長:(4)、(5)については、大筋はこうなりそうだと思う。

嵯峨根参与:そういう時の準備を委員会ではしているのか。

西村委員:来年の外交会議で決ることは非常に難かしい。国内法との矛盾が出来るだけ少ないように努力したい。

瀬藤参与:国内の法律に少しも滴足していない。

西村委員:嵯峨根参与や瀬藤参与の不満点はこの国際法が通ればご希望の線に近づくことと思う。

石川委員:ある問題だけを国内法に合うように出来ないのか。

西村委員:それは出来ません。

瀬藤参与:この金額はまったく根拠のないものかというとそうでもないが、しかし違った国では金額も変るのではないか。もう一つは国会審議の際に国際法が出来た時にはそれに対応するようにという付帯決議がなされていたようだが、これによって少々の伸縮が出来ると思う。

石川委員:専門部会で検討したい。

西村委員:二つの考え方のうち、こちらの方が国内法よりbetterだというのですか、現行のものは私は産業会議の要望に非常に近いものだと思っている。

石川委員:それではその他について

〔5〕その他

江上次長:その他のうちいろいろ申上げることがありますが、10月10日の科学技術振興対策特別委員会に原子力委員会から西村委員が出席し、原研からは争議について、理事者と労組両者が出席した。その際に原子力委員会として、(1)原研の給与方針、(2)国産ウラン鉱の開発方針、(3)原子力関係の人材養成について、どういう考え方を持っているかという質問があった。これについては明日の科学技術振興対策特別委員会で原子力委員会としての態度を明らかにすることになるが、刷り物で配る段階ではないので一応読みまして参与の皆様のご意見を伺いたい。

(原研の給与制度について)

(1)原研は原子力研究の国の中核をなすものでありその研究者の処遇は、この種政府関係機関のうちで最も高いばかりでなく民間を含めて考えても相当上位の水準とすることを基本的な考え方とすべきである。

(2)原子炉等の運転者に対しては、その職務が社会的責任の加重されるものであることから特殊の考慮を払うことが適当である。

(国産ウラン鉱の開発方針について)

(1)現在の天然ウランの需要は年間約10トン(研究用)である。原子力発電の進む長期計画の後期では年間数100トンに達する。

(2)他方国内の現在把握されている埋蔵鉱量は、ウラン量換算1,000トン程度である。

(3)したがって、濃縮ウラン燃料はもちろん天然ウランも海外資源に依存しなければならない。

(4)海外ウラン精鉱市場価格はここ数年間は軟調を続けると思われる。

(5)海外からの供給には量的には数年間は問題がないので国産ウラン鉱は将来の時期のために、当面は国内資源の発見と確保につとめる。

(6)わが国の鉱床条件に適した探鉱精錬方式を確立するため、技術の開発に努め、大規模富鉱帯の発見に備える。

(人材養成について)

(1)現在では原研において原子炉研修所、アイソトープ研修所において養成訓練が行なわれ、原研以外では放医研で放射線防護および放射線医学利用関係が行なわれ、海外留学で高度の知識、技術の向上を図り、大学の原子力関係講座数も次第に増加してきた。他に原子力作業員の養成のため茨城総合職業訓練所原子力工業科がある。民間企業所有の研究用原子炉により、企業内における技術者養成訓練も逐次軌道に乗っている。とくに必要性の大きいアイソトープ関係技術者の養成訓練機関は早急に充実することが必要である。

(2)日本原子力研究所技術職員の養成訓練については従来とも努力を払っていたが、今後とも原子炉研修所、アイソトープ研修所における研修を一層押し進めるとともに、とくに原子炉運転技術者等のための専門技術訓練については特別の研修制度を設けることとしたい。

藤岡参与:第1の給与については答弁用としてはそれでよいが原研のありかたについて、特殊法人となったのは国立研究機関、大学、会社等と違ったいろいろの良い所を集めて作ったからである。私は原研にいたことがないが、どうも良いところをとるつもりが悪いところが集まってしまったと、とくに菊池理事長がいわれる。原研を役人が監督することになっている。役人は役人的に考えてきちんとしたがり、学者は大学的に考えるのでどうしてもしっくりしないので会社の人や役人が運営をうまくやり学者が自由に研究できるようにすれば良いが、うまくいかなければむしろ国立研究所とした方が良い。第2の国産ウラン鉱については全面的に賛成です。第3は計画的な養成をやっているということであるが、私はもう少し科学技術庁と文部省との融和が必要であると思う。兼重委員のような人もいらっしゃるので私の委員の頃とは違っていると思うが、私の委員のときには科学技術庁と文部省の二面行政であった。私は何んでも科学技術庁でやるのは反対です。

島村局長:随分以前に私だけでなく原研が出来たとき大きい夢と期待があったが、これからもますます良くしていきたいと思う。原研の良い面が見られずに悪い面のみクローズアップされてしまう。

倉田参与:原研について皆が寄ってたかってああこういうような体系だと癌になるのでないか。第2のウラン鉱は前回は1,300トンであったが今回は1,000トンとなっているが、これはどうしたのか。

高橋参与:1,300トンは2年前の内輪な数字であって今年の4月に1,800トン、現在では2,000トンに近づいている。1,000トンから1,300トンはその内の有効利用できるものの数字で、1,000トンについては金属換算なのではないか。

瀬藤参与:私は養成訓練の専門部会の部会長をやったことがあるが、あの数字は前回の長期計画に基づいており、新しい長期計画が出来たときは訂正するということであったが、長期計画は現在ではかなり違っている。

菊池参与:原研として因っていることは原研内の訓練に研修所があまり使えないということである。原子炉研修所等をもっと内向けにしたい。原研の仕事全体を通して協力したい。

嵯峨根参与:私のいいたいことを菊池参与がそのままいってくれましたが、私のコンタクトしている研究者はなかなか良くやっていますが、設備等の関係で大学の講座のレベルが他の講座のレベルに達しないので原研との交流が必要である。また原研内部の研究者を適当な時期に外に出すことを考慮しなければならない。国会に対する答にならなくても良いが考えておいていただきたい。ウランについては世界市場で価格が低下して来て横ばいが続くと思われるので貧鉱を相手にすることはない。

高橋参与:人形峠は貧鉱ということが世間に広まっているが、最近は品位も上り有望視されてきている。考え方をあらためることが必要である。

嵯峨根参与:TotalValueで千ドル/キログラムを割る見こみがなければ急いで開発することはない。

(調査季報について)

江上次長:調査季報は今年初めて局の職員が自由な立場で書いたものでお手許のものが創刊号です。皆様の批評をお願いします。この間の科学術振興対策特別委員会でこれに対して議論があったので、これから全く自由な立場では書けないが、原稿料がないのでこれに対しても考えたい。

伏見参与:委員会月報はこのまま続けるのですね。

江上次長:月報は続ける。それとは別に出す意向である。

藤岡参与:各国予算の比較ですが、オーストラリアでは予算を人口で割っているが、これだと日本はもう少し上がるのではないか。

石川委員:次回は12月20日(木)になります。

伏見参与:安全性審査は私個人で行なうかのように思われているが、原子力委員会が行なうのである。原子力委員会は民間のProposalに対して良否を決定するだけでなく、民間に対して行政指導的立場で考えて、長い目で見てどの辺に発電炉を置くのが良いかを考えていただきたい。

嵯峨根参与:ドイツの研究所のように実用炉がバラバラ出来たのでは具合が悪い。実際には少し指導があれば大きな送電線の近くに大きな炉が出来るようになる。

石川委員:具体的にはどういうことなのか。

嵯峨根参与:設置者ではやれないこともあり、原子炉等の事故の際の避難等に関する Local Authority が必要である。敦賀発電所の場合も敦賀市あたりに考える必要がある。

瀬藤参与:伏見参与、お困りでしょうが委員と懇談したらよい。とにかく法規の問題であり、なかなか難しいと思う。

伏見参与:原子力委員がよく審査会に出席され、その意味ではいろいろ話しています。委員との懇談も兼重委員のお計らいでしたとがあります。

岡野参与:土地の決定は今後の例にもなると思うが、民間が役員会のようなもので決めて報告するということに出来ないか。あるいは決めたものに対し許可制としなければいけないか、なにかやり易い方法が考えられないだろうか。例へば9電力で決めて委員会に報告すれば良いということですね。この点について局長どうですか。

島村局長:国会でも断えず問題となるが、今のままが一番妥当だと思う。原子力発電(株)が勝手に決めて良いのかどうかということですね。何か考えなければならないが、各々の具体的な炉を置く土地を確保して、どういう土地にどの型の炉を置くかということで原子力委員会として許可することになるが実際には途中で連絡し合っている。委員会が何年迄にいくら作らなければならないということで、幾台の炉が日本に置けるかを大づかみにすることはあるが、国営でやるのではないからこれ以上には出来ない。東京電力や中部電力というところも考えているかも知れないが何んら聞いていない。国で候補地を上げると地価が上がるとか反対運動が起る等いろいろの障害があるので、はなはだ水臭いようないい方であるが安全審査の段階で検討を行なうことにしている。

岡野参与:そうゆうことならば賛成である。

嵯峨根参与:電力会社に任せて下さい。頼りのないということなら努力しましょう。

島村局長:原子炉を設置するとなると許可することになる。土地については冷淡のようだが会社で決めていただきたい。

嵯峨根参与:エンジニアリングを施して工事すれば許可になるような規制をしていただきたい。

伏見参与:私の申しているのは建設に関することだけで取締っていると都市計画というものがなくなってしまうがこれで良いかということである。

岡野参与:しばらくはこれで良いのではないか。

石川委員:もう少し経験を積まなければ結論が出ない。