三菱、日本原子力の原子炉設置に関する委員会の答申

 原子力委員会では、三菱電機株式会社の原子炉および、日本原子力事業株式会社(NAIG)の臨界実験装置の設置について、本年始めから約半年にわたって審議を行なっていたが、この程結論を得たので、NAIGの臨界実験装置については7月9日付、三菱電機株式会社の原子炉については同月25日付でそれぞれ次のとおり内閣総理大臣あて答申を行なった。

NAIG臨界実験装置の設置に関する答申

37原委第55号

昭和37年7月9日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

日本原子力事業株式会社の原子炉施設(臨界実験装置)の設置について(答申)

 昭和37年2月21日付37原第583号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。


 日本原子力事業株式会社が、動力用原子炉ならびにその燃料要素等の研究を目的として、神奈川県川崎市末広町に藷置する、低濃縮ウラン軽水減速非均質型、最高熱出力200Wの臨界実験装置1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適用に関する意見は次のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準の適用に関する意見

(平和利用)

1.この臨界実験装置は、日本原子力事業株式会社が、動力用原子炉ならびにその燃料要素等の研究を目的として使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2.(1)この臨界実験装置の使用目的は適切であり、臨界実験装置の型式および性能は、その使用目的に合致している。

  (2)臨界実験装置の利用に関する組織および技術的能力は十分であり、その利用効果を上げることが出来る。

 従って、この臨界実験装置の設置および運転は、わが国における原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3.臨界実験装置の設置に要する資金は、関係付帯経費を含め、総額約1億8千万円であり、その全額は、日本原子力事業株式会社の昭和36年度の株式増資分5億円から賄なうことになっているが、その調達計画の内容等から見て、臨界実験装置を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4.別添の、原子炉安全専門審査会の、この臨界実験装置の安全性に関する審査結果のとおり、この臨界実験装置を設置し、その運転を適確に遂行するに必要な技術的能力があるものと認める。

(災害防止)

5.別添の、原子炉安全専門審査会の、この臨界実験装置の安全性に関する審査結果のとおり、臨界実験装置の位置、構造および設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物、または原子炉による災害防止上支障がないものと認める。

昭和37年6月25日

原子力委員会

委員長 三木武夫殿

原子炉安全専門審査会会長 矢木  栄

日本原子力事業株式会社の原子炉(臨界実験装置)の安全性について

 当専門審査会は、昭和37年2月21日付37原姿第9号をもって審査の結果の報告を求められた標記しつ件について結論を得たので報告します。

 I 審査結果

 日本原子力事業株式会社が、動力用原子炉ならびにその燃料要素等の原子炉物理実験を目的として、神奈川県川崎市末広町日本原子力事業株式会社NAIG総合研究所に設置しようとする熱出力最高200Wの低濃縮ウラン軽水減速非均質型臨界実験装置の安全性について、同社が提出した「原子炉(臨界実験装置)設置許可申請書」(昭和37年2月20日付)に基づいて審査した結果、この臨界実験装置(以下C.A.という)の安全性は十分確保しうるものと認める。

 II 審査内容

1.立地条件

(1)一般環境

 この施設の設置予定場所は、神奈川県川崎市末広町、日本原子力事業株式会社NAIG総合研究所内にあり、東芝教育訓練用原子炉(濃縮ウラン、軽水減速冷却、不均質型、熱出力100kW)に隣接している。

 同数地は約9ヘクタールの広さを持ち北側は多摩川河口に面している。C.A.より最も近い隣接地との境界までの距離は約100mあり十分な広さを持っていると考える。

 同敷地は、県営埋立地であり、周辺は石油関係を主とした工業地帯で人家はない。

 C.A.から多摩川をへだてた約2.5kmの地点には羽田国際空港があるが、C.A.の設置地点は滑走路延長への垂直距離700m、転位表面境界から270m隔っており、離着陸時の航空機飛翔方向、位置から見て、この施設方向に向うような急角度の旋回は考えられない。かりに不時着地点をえらぶ場合でも、このような地形状況においては海側にえらぶのが普通であり航空機墜落事故の生ずるおそれはないと考えるが、万一墜落事故が起ったとしても後述の事故評価での検討の結果敷地外に災害をおよぼすおそれがない。

 以上要するにこの敷地の一般環境はこの程度のC.A.を設置するのに支障がないと認める。

(2)地盤

 この敷地は数10m厚の沖積地盤にあり、建物は地表面下約5〜15mの間にある細砂層に支持されている。砂層の下部には軟弱泥層があるので、このため建物の自重による沈下は予想しなければならないが、建物が軽量なので、その沈下量もとくに支障となる程でないと考える。なお施設はC.A.室、燃料室とその他の部分に分れているので、両部の不同沈下が予想されるが、両部の取合部に留意して設計されているので支障はないと認める。

(3)洪水、高潮

 この敷地は軟弱地盤も深く、厚い埋立地にあるので、将来かなりの地盤沈下を予想しなければならないが、C.A.の設置場所の標高は約5mであるので差当り洪水、高潮による浸水のおそれはなく、将来地盤沈下が生じても防護の対策が講じ得られるので、この点支障はないものと認める。

2.臨界実験装置

(1)臨界実験装置の特性

 このC.A.はいわゆるタンク型のC.A.であり燃料配置、臨界水位、温度などを変え、またボイド、ポイズンなどを挿入し可揆性のある実験を行なうことになっているが、これらの実験は次の範囲内で行なわれる。

  1.臨界水位 燃料下端から70cm以上
  2.水対燃料体積比 1.5〜3.0
  3.温度         80℃以下
  4.超過反応度    0.5%△K/K
  5.内蔵反応度
    固定ポイズンまたは模擬ボイドによる内蔵反応度   12%△K/K
    固定ポイズンまたは固定ボイドを除いた場合の最高水位時の内蔵反応度
                                          4.1%△K/K
  6.最大反応度付加率 2×10-4K/K/sec

 これに対しこのC.A.の制御系には安全板5枚および微調整板1枚を備えておりその等価反応度はそれぞれ6〜15.6%△K/K、約0.8%△K/Kである。これら吸収反応度の値はC.A.を停止するに十分と認める。

 このC.A.は負の温度係数および負のボイド係数など固有の安全性を持ち、また低出力で運転されるものであるので、核分裂生成物の蓄積も少ないものである。

(2)装置の概要

 この臨界実験装置は直径約1.8m、高さ約2mのアルミニウム合金製の炉心タンク内に燃料棒を装填した炉心集合体を置き、軽水の調整、または制御板の調整によって臨界にし、低出力で運転される。

 燃料には濃縮度1%、2%、3%の二酸化ウランのセラミックペレットを直径約1.2cm、長さ約188cmのアルミニウム被覆管に収めた棒状燃料および外径約3.9cm内径約1.5cm長さ約188cmのステンレス被覆管に収めた環状型の燃料棒を使用する。

 使用されるウラン235の量は1%のもの2.5kg、2%のもの50kg(この内10kgは環状型燃料棒に使用)3%のもの7.5kgであり、合計60kgが使用される。

 これら濃縮度の異なった燃料棒は色彩による識別を行ない、また濃縮度の異なるペレットは同時に取扱わないなど燃料の取扱いについて十分な管理がなされることになっている。

 炉心タンクへの給水は手動スイッチの操作により流量調節弁を通して一定速度で行なわれ、給水速度は反応度付加率にして2×10−4△K/K/sec以下である。炉心タンクの水位は水位制限レベルスイッチおよびオーバーフロー装置によって制限される。

 これら炉心タンク内の水位の急速な上昇あるいは異常上昇を防止するための装置の設けられていることは妥当である。

(3)臨界実験装置の保護系

 臨界実験装置の運転の安全を期するため、インターロック方式、警報系、スクラム系の安全保護系を有している。インターロックには起動インターロックのほか、高水位事故等を防ぐための給水インターロックが設けられている。スクラム信号は核計測系異常、電源電圧異常、実験室開扉、地震、安全スイッチ投入および手動によって発せられ、安全板の落下、およびダンプバルブの開放の二つの独立した停止装置を作動させる。

3.平常時の安全対策

 平常時の運転においては、敷地外の一般公衆はもちろん、従事者に対しても放射線量率および放射性物質の濃度が、昭和35年科学技術庁告示第21号に定める許容値を十分下まわるように、次のような配慮をもって設計計画されているので、その安全性は確保しうるものと認める。

(1)放射線の遮蔽設計等

(i)C.A.の運転中は装置室への立入りを禁止する。
(ii)常時、従事者の立入る場所で、最も放射線量率の高い制御室においても、その線量率は最高熱出力200Wでの運転時でも約0.5mrem/hr以下になるよう設計されている。
(iii)このC.A.は年間最大10kW時の運転を行なうことになっており、その場合上記の制御室において受ける年間の集積線量は25mrem以下となる。
(iv)従事者のうちで燃料を取り扱う者の最大被ばく放射線量は3名で作業を分担した場合年間最大1.7remとなる。

(2)廃棄物処理

(i)気体
 この臨界実験装置から放出される気体廃棄物は極めて少量であり、問題とならない。
(ii)液体
 通常運転時排水には殆んど放射性物質は含まない。万一燃料棒が破損し、炉心タンク内の水が汚染した場合、炉心タンク内水量の倍の容量の廃水貯槽があり、廃棄物処理場も十分な処理能力があるので十分安全である。
(iii)固体
 管理区域内での廃棄物は廃棄物処理場に保管し、適当な量に達した後、廃棄物処理機関に処理を委託することになっているが、廃棄物の量から見て妥当な方針である。

(3)放射線管理

 この施設の放射線管理は放射線管理室長が行ない、従事者の集積線量が、昭和35年科学技術庁告示第21号を下まわるように管理される。

4.事故評価

(1)反応度事故

 このC.A.では、0.5%△K/Kの階段状反応度が印加されてもC.A.は安全に保たれる。これに対し燃料1本の誤装荷による反応度の増加は約0.07%△K/Kであり、またポイズンおよびボイドは、脱落するおそれのない固定のものと、そのおそれのある可動のものとがあるが、後者は等価反応度にして0.2%△K/K以下に制限されることになっており、これらの反応度が誤って印加されるとしても、C.A.は安全に保たれる。

 またランプ状に反応度が印加される場合としては制御板の連続引抜き、炉心タンク水温の低下、連続水位上昇であるが、このC.A.には水位制限スイッチにより給水の停止が行なわれ、またバックアップとしてオーバーフロー装置が設えられているので水位の連続上昇は防止される。かりに、水位制限スイッチ、オーバーフローの設定を誤った場合には最大2×10-4△K/K/secの反応度の付加が行なわれるが、この場合手動スクラムによりダンプバルブのみが作動したとしても、この場合のエネルギー解放は、棒状燃料要素を用いた二領域の炉心の場合には約150MW−sec、また環状型燃料と棒状燃料を用いた二領域炉心の場合には約43MW−secとなるがいずれの場合においても燃料および燃料被覆材の溶融には至らない。

 しかし、第2の場合には環状型燃料の温度が上昇し、プラグのシールした部分が破損することが考えられる。この場合、環状型燃料60本全部が破損し燃料中に蓄積された核分裂生成物が放出されたとしても、計算の結果敷地外の一般公衆の受ける被ばく線量は極めて低く、放射線障害防止上の問題はない。

(2)航空機墜落

 臨界実験装置室下部は厚いコンクリート壁に囲まれており、航空機が建家の下部に衝突した場合は、航空機燃料は建家外で燃え室内の温度上昇は限定される。

 航空機墜落事故の最悪の場合として、衝突が建家上部で起り、航空機燃料の大部分が臨界実験装置室に入り燃焼するとして、衝突時の飛散物によりC.A.本体が破壊され、燃料被覆が全部破壊された場合燃料中に蓄積された核分裂生成物がすべて放出されるという実際には起り得ない場合を想定しても、計算の結果数地外の一般公衆の受ける被ばく線量は極めて低く、放射線障害防止上の問題はない。

(3)災害評価

 以上のように現実には起り得ないと思われる苛酷な事故が発生した場合においても一般公衆に対して災害をおよぼすおそれはないと認める。

5.技術的能力

 このC.A.の設置計画は、日本原子力事業(株)が中心となって進められ、同社は原子炉の設計、製作の経験を有しておるので、C.A.の設置に要する技術的能力は十分あるものと認める。

 C.A.の運転管理はC.A.管理室長、操作責任者1名、操作員4名、放射線管理室長および放射線管理員3名が当ることにな弗)ており、このうち2名は原子炉主任技術者の資格を有し、1名は筆記試験合格者である。

 この他に安全委員会をおき計画された実験と運転について安全性を審議することになっている。これら運転管理上の組織、ならびに操作に当るものの人員および技術歴から考えて、この臨界実験装置を適確に使用するに足りる技術的能力があるものと認める。

三菱電機原子炉の設置に関する答申

37原委第54号

昭和37年7月25日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

三菱電機株式会社の原子炉の設置について(答申)

 昭和37年1月19日付37原第81号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。


 三菱電機株式会社が、原子炉製作技術原子炉物理、中性子物理、中性子による物性の研究、および遮蔽実験などの研究を目的として、茨城県那珂郡東海村字舟石川に設置する濃縮ウラン軽水減速冷却型、連続最大熱出力30kWの原子炉1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適用に関する意見は次のとおりである。

 ○核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準の適用に関する意見

(平和利用)

1.この原子炉は、三菱電機株式会社が原子炉製作技術、原子炉物理、中性子物理、中性子による物性の研究、遮蔽実験などの研究を目的として使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2.(1)この原子炉の使用目的は適切であり、原子炉の型式および性能は、その使用目的に合致している。

(2)原子炉利用に関する組織および技術的能力は十分であり、その利用効果を上げることが出来る。従って、この原子炉の設置および運転はわが国における原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3.原子炉の設置に要する資金は、関係付帯経費を含め、総額約4億7千万円である。このうち約3億2千万円は、三菱電機株式会社の設備資金として昭和36年度および37年度にわたって計上され、また約1億5千万円は三菱原子力工業株式会社の協力にまち、土地費、付帯設備などに当てることになっている。

 両社の資金調達計画の内容等から見て、その調達は可能と考えられるので、原子炉を設置するに必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4.別添の、原子炉安全専門審査会の、この原子炉の安全性に関する審査結果のとおり、この原子炉を設置し、その運転を適確に遂行するに必要な技術的能力があるものと認める。

(災害防止)

5.別添の、原子炉安全専門審査会の、この原子炉の安全性に関する審査結果のとおり、原子炉の位置、構造および設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物、または原子炉による災害防止上支障がないものと認める。

昭和37年6月25日

原子力委員会

 委員長 三木 武夫殿

原子炉安全専門審査会

会長 矢木  栄

三菱電機株式会社の原子炉の安全性について

 当専門審査会は、昭和37月1月20日付37原委第4号をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 I 審査結果

 三菱電機株式会社が、原子炉製作技術、原子炉物理、中性子物理、中性子による物性の研究、遮蔽実験などの研究を目的として茨城県那珂郡東海村字舟石川に設置する濃縮ウラン軽水減速冷却型、連続最大熱出力30kWの原子炉1基について、原子炉設置許可申請書(昭和37年1月16日付)に基づいて審査した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうると認める。

 II 審査内容

1.立地条件

(1)一般環境

 この原子炉敷地は、東海村の西端に位置し、水戸市の北東約13km、東海駅の西方約2Kmの地点にある。

 敷地は約20ヘクタールの面積を有し、原子炉から敷地境界までの最短路離は100mに計画されているので、敷地としては十分の広さを持つものと考える。敷地周辺は大部分針葉樹地帯および耕地であり、付近に工場等特別の施設はない。

 原子炉から最も近い人家までの距離は200m以上で原子炉から半径500m以内の人口は330人に過ぎない。

 以上要するに、この施設の一般環境には、原子炉の出力、特性から見て安全上の障害となるものはない。

(2)水理、排水

 この原子炉の用水は地下水を利用することになっているが、用水の所要量から見て原子炉の運転に支障となることはないと考える。

 排水は、現在新設予定の陸前浜街道と東海村那珂町境界との交差地点付近から、原子燃料公社に至る村道に沿い排水路を設け、既設の新川排水専用開渠に放流する第一案と、二軒茶屋を経て原研道路にそって排水路を設け、前記の新川排水開渠に放流する案の第二案が計画されている。

 このいずれの案においても、排水専用を用いこの排水が灌漑などに用いられるおそれはない。

(3)地盤

 敷地周辺の地盤は、初崎層群の上に砂礫層、砂層、粘土層の互層からなる洪積層におおわれている。

 ボーリング等の調査結果によれば、炉室の基礎がおかれる深さ5m以下には、厚い密な砂礫層が存在しており、地耐力の点で問題はない。

2.原子炉施設

(1)原子炉の性質

 この原子炉は、すでに多くの実績を持つタンク型原子炉である。

 この原子炉のもつ超過反応度は最大1.1%△K/Kであり、一方この原子炉には等価反応度約1.7%△K/Kのシム安全棒2本があり、原子炉停止に要する吸収反応度は十分と認める。

 この原子炉の連続熱出力は30kWであり、この程度の熱出力では熱除去の面で安全性に支障を与えることはない。

(2)原子炉本体

 この原子炉は、コンクリートの生体遮蔽体に囲まれ直径1.5m、高さ4.5mのアルミニウムで内張りされた炉心タンクの底部に、炉心部が固定されたものである。

 炉心部は、燃料要素および黒鉛反射体などからなっている。

 炉心タンク上部には、上部遮蔽体が挿入され、上部の遮蔽を強化している。

 ただし、この上部遮蔽体は100W以下の低出力運転の際には取除いて、炉心タンク上面近傍まで水を満たすようになっている。

 この原子炉は、100Wをこえる運転時には強制循環により冷却され、100W以下の運転時には自然循環によって冷却される。

 強制循環の場合、冷却水は、炉心下部のプレナム室から燃料部を通って、上部のオーバーフローポートから流出し、貯水タンクを経て、循環ポンプによって熱交換器に導びかれ、二次冷却水によって冷却される。

 プレナム室には、自動開放弁がついており、100Wをこえる運転中に循環ポンプが故障した時および100W以下の運転時には、弁が開いて炉心タンク内で自然循環が行なわれるように設計されている。

 強制循環による最高熱出力30kWの運転時、自然循環による100W運転時のいずれの場合においても炉心からの冷却水出口温度は高くなく冷却系の設計は十分余裕があるものと認める。

 また、この原子炉では冷却水温度を73℃まで上昇させて高温実験を行なうことも計画されているが、最高熱出力30kWで高温実験を行なっても沸騰によるボイドの発生はないと計算されている。この計算の仮定は妥当と思われ、また、冷却水の異常温度の検出もされるので高温実験を行なうことは安全上支障のないものと考える。

 制御棒(シム安全棒2本、調整棒1本)は、炉心タンクの下部からローラーナット・スクリューによって駆動されるが、制御棒の引抜きは制御棒を炉心上部に突き上げることによって行なわれ、スクラムに対してシム安全棒が重力で落下するよう設計されているので、駆動装置を炉心タンクの下部に置くことによって安全上に支障を及ぼすことはないと考える。

(3)燃料要素

 燃料要素は濃縮度約13%の二酸化ウラン燃料を0.5mm厚の2Sアルミニウム被覆した外径約6mmの燃料棒の所要数を集合体に組んだものである。

 燃料要素には、燃料棒9本を組込んだ基本燃料要素36本と、燃料棒18本を組込んだ異形燃料要素7本とがある。

 異形燃料要素は中央に円筒状のアルミニウム製カプセルを挿入しうるようにしたもので、カプセルの中には、実験の目的により空気、ヘリウムまたは重水を注入する。

 燃料棒は、ペレット封入またはスエージ加工したものが用いられ、基本燃料要素では36本中18本にスエージ加工のものを使用する。

 これらの燃料は、三菱金属鉱業(株)で粉末まで加工し、三菱原子力工業(株)で燃料要素までの加工を行なうことになっているが、両社はこれら燃料の製造経験を有し、各種の試験結果も得られているので、このような燃料を使用することは安全上支障がないものと認める。

(4)実験設備

 実験設備には、中性子回折実験用の中性子流取出し装置、側面のサーマルコラム、指数関数実験用の上部サーマルコラム、実験用の水タンク、その他各種の実験孔などが設けられている。

 これらの実験設備は、原子炉の安全性に支障を与えるものではないと考える。

(5)原子炉の保護系

 この原子炉には運転の安全を期するため、インターロック、警報系、スクラム系の安全保護設備が設けられている。

 スクラム条件としては炉周期減少(2系統)、出力上昇(3系統)、電離箱電源電圧低下、実験設備異常、電源そう失等があり、また手動によっても作動しうるようになっている。出力上昇に対しては原子炉タンクの上面を開放して運転する場合は、上面開放運転時の出力100Wに対してスクラムレベルが設定される。

 警報条件には、炉心タンク水温異常上昇が含まれるが、これは通常運転時、および高温実験時のそれぞれの場合に応じて設定値が定められている。

 これらの安全保護設備を設けることは、妥当なものと認める。

(6)耐震設計

 この原子炉は、炉体は水平方向0.6g、垂直方向0.3g配管類は水平、垂直とも0.4g、建屋は水平0.3gの震度の地震に対して安全なように設計されている。

 なお25gal以上の加速度が働くとスクラムが作動するようになっている。

 この耐震設計の方針は、この原子炉の立地、構造からみて十分安全側にあるものと認める。

3.平常時の安全対策

 この原子炉の平常運転時においては、敷地周辺の一般公衆はもちろん、従事者に対しても、放射線量率および放射性物質の濃度が昭和35年科学技術庁告示第21号に定める許容量を11分下まわるよう次のように設計計画されているので、その安全性は確保しうると認める。

(1)遮蔽設計基準

 原子炉本体の遮蔽は、定常時の運転条件に対して、炉体表面において、放射線量率が0.5mrem/hr以下になるように設計されている。なおこの場合の炉室における放射線量率は無視しうる程度であると推定される。

(2)廃棄物処理

(i)気体
 この原子炉からの主な気体廃棄物は実験孔内で生成される41Aであるが、その量はきわめて少なく、生成された41Aの全量がたとへ一時に炉室内に放出されたとしても、炉室内の空気中の濃度は、従事者に対する許容濃度をはるかに下回り、問題はない。
(ii)液体
 液体廃棄物は、最大許容濃度以下であることを確認した後、排水専用路に放出する計画になっており、また排水専用路が完成するまでは、上記濃度以下にしたものをタンク車によって原研に運搬し、廃棄依頼することになっている。
 この原子炉で生成される液体廃棄物の量は、極めて少量であり、これを処理するに足る施設を有し、またタンク単によって廃液を運搬することも容易と認める。
 従って、これら液体廃棄物の処理方法は原子炉の運転、および放射線障害防止に支障を与えることはないと考える。また実験室などから出される濃度の高い廃液は、廃棄物処理機関に委託することになっている。
 これらの液体廃棄物の処理方法は、この原子炉から出される廃棄物の量から見て妥当なものと認める。
 なお、前期排水専用路の早期完成が望ましい。
(iii)固体
 固体廃棄物は廃棄物処理機関に委託することになっているが、原子炉から出される固体廃棄物の量は少量であると予想されるので、この処理方法は妥当と認める。

4.事故時の安全対策

(1)安全保護設備

 すでに述べたように、この原子炉には警報、スクラムおよびインターロックなど、原子炉の事故を防止するため、十分な安全保護設備が設けられているものと認める。

(2)考えられる事故

i)反応度事故
 反応度外乱として考えられるものに、実験孔が決潰して水が浸入した場合、燃料棒を誤まって落した場合などがあるが、この両者が同時に起ったとしても、印加される反応度は約0.84%△K/Kにすぎず、この程度の反応度外乱物に対しては、たとえ炉がスクラムしなくても原子炉の自己制御性により炉は安全に保たれる。また起動事故として、制御棒が誤操作により最大引抜速度0.02%△K/K/secで連続的に引抜かれた場合にも炉は安全に保たれる。
 これらの反応度事故により、燃料および燃料被覆の溶融や破壊等に至ることはなく、原子炉の安全は十分保てるものと認める。
ii)冷却系事故
 この原子炉の最高熱出力30kWでの運転時に冷却水入口管の破断などが起り、瞬間的に冷却水が流出した場合には、燃料最高温度は260℃に上昇するが、燃料の溶融はもちろん被覆の溶融や破壊にも至らず、この場合にも原子炉は安全に保持される。

(3)燃料破損事故

 以上述べたように、反応度事故、冷却系事故などによっても原子炉は安全に保たれる。この原子炉の燃料要素の場合には被覆に腐食が進行したことなどが原因となって燃料被覆が破損することは皆無とはいえないが排気は常にモニターされており、事故発生時には水ダンパーにより排気を停止し、核分裂生成物の放出を防止できる。

 この破損の場合でも燃料被覆破損部の燃料全体に対する比率はごくわずかであると予測されるが、この比率が10%になるという実際には起り得ない苛酷な事故を考えても、この破損事故により外部に放出される核分裂生成物の中で、最も問題となる沃素の集積濃度は、敷地境界において9.71×10-4curie−sec/m3であり、これは幼児に対してほぼ3.5remに相当するが、現在国際的に考えられている最も低い値である英国医学研究審議会(MRC)勧告による緊急時の許容値25remと比較すると1/7程度であり、周辺の一般公衆に対して放射線障害のおそれはないと考える。

 以上の考慮から判断し原子炉の安全性は十分確保されるものと認める。

5.技術的能力

 この原子炉の設置に関する業務は三菱電機株式会社および三菱原子力工業株式会社が協同して行なうことになっているが、これらの会社は原子炉の設計製作に関する経験を持っているので、原子炉を設置するために必要な技術的能力があると認める。

 また、原子炉の運転管理は、三菱電機研究所長の下に、原子炉管理室が担当し、管理室は管理室長、実験指導者を含めて21名をもって構成され、管理室長には原子炉主任技術者が当ることになっている。

 これら構成員中、原子炉主任技術者の資格を有するものは3名、放射線取扱主任者の資格を有するものは7名であり、それぞれ運転管理、放射線管理、実験研究指導の各部門に配置され、さらに原子炉の運転管理について安全を期するための審査機関として安全委員会を設けているので、この原子炉を適確に運転するに足りる技術的能力があると認める。