原子力船運航者責任条約審議のための
海事法外交会議について

 「原子力船運航者の責任に関する条約」の審議のための特別海事法外交会議は、1962年5月14日から、50ヵ国の参加のもとに、ブラッセルにおいて開催された。わが国からは、下田武三(ベルギー駐在大使)、杠文吉(科学技術庁原子力局長)および辻章男(運輸省海運局長)が代表として参加した。

 この条約については、昨年4月のブラッセルにおける海事法外交会議および同10月のウィーンにおける常設委員会において、若干の部分を除き、ほとんど審議をつくされていたものであるが、このたびの外交会議においても、おおむね従来までの内容が確認された。会議は、5月24日、28対10、棄権4をもって、条約を採択し、条約は同25日署名のために開放され、同日11ヵ国がこれに署名した。

 条約採択につき賛成した国は、イギリス、フランス、西ドイツ等の西欧諸国、わが国、インド、中国等のアジア諸国、中南米諸国等であり、反対したのは、アメリカおよびソ連圏9ヵ国である。また、棄権したのは、スカンジナビア3ヵ国およびスイスであった。

また、会議において署名したのは、ベルギー、中国、韓国、インド、アイルランド、リベリア、マレー、モナコ、パナマ、ペルーおよびフィリッピンであった。

 アメリカおよびソ連圏諸国が反対したのは、主として、原子力軍艦を対象に含めたこと、外国判決の承認および執行を規定したこと等の理由によるもののようである。

 会議は、条約採択の後、(1)国際基金等による国際的損害補償制度および国際機関の条約加入条件を検討するための常設委員会および(2)国際的裁判制度に関する問題および他の海事法諸条約との関係に関する問題を、検討するための常設委員会の二つの常設委員会を設置する決議を採択した。