第3部 検 査

まえがき(省略)

第1章 核燃料検査に関する審議および検討の経過(省略)

第2章 海外における核燃料検査技術に関する状況調査

2.1検査技術調査団派遣の経過

 まえにも述べたように核燃料の検査についての調査を十分にするためには海外の実情を実地に視察することが最も必要であることが部会の当初から討論された。第4回部会で検査小委員会が作られ、検査の具体的内容の検討をはじめ、第5回から第7回部会にわたって訪問先の選定、訪問候補先の受入れの可能性の問い合わせを行ない、34年7月初めに核燃料使用者の立場としての原電、研究機関のほか核燃料製造者の立場の者を含めて調査団員を選定した。

 予定された団員は10回にわたって打合せ会を開き、訪問先の最終決定、訪問先における調査事項およびその作業内容に関する調査を行ない、多くの資料をとりまとめて“Naclear Fuel Inspection Technique PocketBook”Part1,2を作成し、第7回部会に提出して各専門委員の意見を求めた。

 調査団は34年9月21日羽田を出発し、アメリカ、カナダ、イギリス、フランスおよびドイツの関係機関を訪問し、34年11月18日帰国した。

 帰国後調査結果報告書を作成し、これを第9回部会に提出し、引き続き第10回部会にわたって、報告書の内容について検討が行なわれた。

2.2調査結果

 「核燃料検査技術調査団調査報告書 第1部および第2部」に詳しく述べられているとおり、金属ウラン製造から金属型燃料の加工、二酸化ウラン、燃料の加工、被覆材の製造、燃料要素の組立加工の諸段階にわたる実地を調査し、各段階における検査の業務を見学し、その間分析を含む諸種の検査機械の製造と開発研究も視察し、燃料の使用状況、使用者の受入検査の体制もあらまし調査することができた。

 燃料の形態がほとんど決定され、大量生産体制をとっているのは、AEAのSpring Fields工場とついでS.I.C.NのAnnecy工場のみであって、このような状態では、製造上の品質管理と検査が完全に表裏一体をなしており、そのほかの大部分の燃料加工工場では、まだ、生産量も少ないし、燃料の実効性改善のための設計変更、または燃料の諸性質を究明し、生産工学的研究のために狭義の検査というより、多くの試験が行なわれている。二酸化ウランペレットとステンレス鋼またはジルカロイ-2の被覆管からなる型式の燃料とアルミニウム-ウラン合金・アルミニウム被覆の板状燃料とはやや規格化された生産体制であるが、なお生産量はかなり限られている。

 検査技術の開発研究としては多くのものが発表されているが、燃料の炉内挙動が今日なお統計的解釈に耐えるだけの十分のデータが少ないので、検査基準の設定にはなお論議のある段階であって、したがって研究開発された検査技術がすべて直ちに実際の燃料加工のときの検査に適用されているのではなく、燃料加工者が、加工製品の検定または品質維持、あるいは品質改善の手段として適用しうるかどうかを研究中であるというように見受けられる。

 工業的生産の体制をとっているところでは品質管理的手段によって検査の経費を節減しようとしていることは他の産業とは異ならない。しかしながらこの場合でもなお燃料に対する完全性の要求がほかの工業製品よりはるかに高いので、限られた検査項目については全数精密な検査を行なっている。燃料要素組立工程におけるヘリウムリーク試験およびX線検査などがそれである。

 もちろん燃料型式のそれぞれにおいて、それぞれ個有の検査を適用しているので、原理的には同一であっても、検査設備および判定基準はそれぞれによって異なるので包括的な説明はきわめて困難で、報告書ではかなりくわしくその間の事情を述べている。

 各所の検査の実態を調査した結果によれば、検査のために機械化および標準化が努力されているが、まだ人間の観察および測定によらなければならないところが多く、検査技術者の養成に苦心している模様でありこれらの点がわが国における検査技術開発上の問題となるであろうと考えられる。

第3章 検査技術開発

3.1原子燃料公社

 原燃では東海製錬所における金属ウラン製錬パイロントプラントの操業開始に伴い、生産されたインゴットおよびビレットの検定のために検定室を設けて金属的な試験を開始した。このビレットの内部健全性試験の非破壊検査法として超音波探傷器が早く設置されたが、探傷器に示された図形と実際試料内の欠陥の形との相関を求めるために多くの試料を裁断して、その断面についての肉眼および顕微鏡的観察が必要であった。

 一般に検査の技術はその技術単独のものではなく、その検知した信号の解釈は統計的結果に基づくべきものであって、検査技術を十分開発するために原理的な研究と繰り返した検査作業による統計データの蓄積が必要である。そのためには多くの試料と労力を必要とするので、この検定室を拡大して広く燃料および部材ならびに完成燃料要素に関する検査の技術開発のための施設が設置された。

 ここでは金属ウランおよび酸化ウランの燃料体についての検査方法の研究のほか、被覆材の品質判定としての内部欠陥および外部欠陥の検査の施設とその研究燃料要素の特に溶接部の健全性に関する検査の研究を取りあげている。

 後述するように原燃におけるこの研究結果は、直ちに原研そのほかの研究機闘および燃料開発に携わっている民間メーカーにも伝えられ、必要に応じて共同研究および施設の公開を行なっている。

 また原燃はこの施設を用い、原研のJRR-3一次装荷燃料の検収検査にも協力している。

3.2 日本原子力研究所

 燃料開発研究の立場から原研では冶金特別研究室において金属ウランの溶解設備をはじめとし、圧延機などの一連の加工設備を設けることに諸種の試験機類および検査設備が設置された。

 非破壊試験装置としてその大部分は設計・試験的要因が多く、わが国で最も早くこれらの設備を設け、ここにおける装置および測定の経験がそのほかの諸機関における検査設備の設置に大いに役立った。

 特に表面汚染検出装置はJRR-3一次装荷燃料の検収検査の実務にも役立った。

 またこれら各種の試験・検査設備は国内の燃料メーカーの開発研究の際の試験用にも公開されて効果を上げつつある。

3.3金属材料技術研究所1)

 金材研では諸種の新金属材料の開発研究と並んで一般金属材料の非破壊検査の技術開発研究を行なっている。超音波探傷、電磁探傷、磁蛍光探傷、X線探傷などに関する諸施設は燃料または燃料要素を直接の対象とするものではないが、被覆材料の素材検査には適用されるし、ここで研究された非破壊検査の技術の原理は燃料にも適用できるので、原研、原燃その他の機関と協力関係をもっている。

  注:1)以下、金材研と称する

3.4溶接協会

 溶接協会が原子力平和利用研究委託試験として行なった被覆材料の溶接に関する試験研究に関連して、その非破壊検査について一応の試験を行ない、同協会の会員会社がそれぞれ項目を分担して材料ごとに主としてX線を用いる検査の試験を進めている。

3.5検査専門委員会(原子燃料公社)と民間諸機関

 前述したように検査の技術は普遍的で、統計的基礎の上に立たなければならない。この意味から検査技術の統一化、少なくとも測定された結果の統一ができなければならない。また検査の基準は早急に作ることは困難であるとしても、燃料の使用者、製作者の協議と合意によって求めて行かなければならない。

 このような作業を伴う協議機構としては当専門部会の範囲をやや越えるものと考えられたので、原燃内に検査専門委員会が設けられることとなった。

 原燃の検査専門委員会は当専門部会と密接な関連があり、参加委員ならびにその所属する団体はほとんど一致しており、検査専門委員会の作業結果がこ、部会にも反映することになっている。

 同専門委員会に参加している各団体はそれぞれ検査設備をもっているので、統一された検査結果を得るための方法の統一を目的として共通試料または持ち廻り試料による測定を各所で行ない、その結果について討論し、また検査技術に関する情報交換を行なっている。

 36年12月までに15種類の試料を配布し、金属ウランの密度、カタサおよび結晶粒度測定、酸化ウランペレットの密度測定などについておよそ一定の測定値を得られることが確認され、ヘリウムリーク試験の作業の共同講習を行ない、そのほかX線探傷、超音波探傷などの共同研究も計画されている。

 各民間団体はこの共同作業を分担して行なうとともに、情報交換された検査技術の適用を試み、またそれぞれ単独に開発研究をすすめて来た検査技術の内容について、相互に発表して検討を行なっている。

第4章 核燃料検査の具体例

4.1JRR-2一次装荷燃料

 JRR-2用燃料の第一次装荷分の製造に関し、その製作途上で数回にわたって立会検査が実施され、原研からも職員が派遣されてこの立会検査に参加した。検査項目はつぎのごとくであった。

① 肉眼検査
② 寸法検査
③ X線透過試験
④ ブリスター試験(900F、30分)
⑤ 沸騰水試験(24時間)
⑥ 被覆厚さ検査(マグナゲージ)
⑦ 流動耐圧試験
⑧ 表面汚染度検査(シンチレーションカウンター)
⑨ 材料の化学分析

 燃料板に関する肉眼検査と寸法検査はブリスターテスト、X線透過試験およびマグナゲージによる被覆厚さ検査を終了したものについて第1回40枚、第2回103枚、第3回230余枚について行ない、仕様書に従って表面のしわおよび深さ5ミルを超える傷のため、第1回に3枚、第2回に2枚が不合格、第2回で手直し再査11枚という結果であった。

 被覆厚さはマグナゲージ(Model FM-100、Magna Flux 社)で測定されたが、のちにX線検査基準決定のときの3枚の燃料板の不良箇所から7個の試験片を切りとり、実測したが、仕様に合格していた。

 燃料要素検査のうち寸法検査で仕様の不明確と製作の不備があって、手直し加工後の再検査で全数合格した。

 流動性試験は燃料要素の部材および組立工法による冷却材の要素内を通過するときの流動抵抗と要素の変形を測定するもので、最高360gal/min、水温80℃で行なわれて試験前後の外形および燃料板の間隔寸法を測定した。この結果機能に支障ないものと認められた。

 この流動性試験に際して燃料板の一部に黒色の異物が付着していることが認められ、分析の結果これがウランであり、その箇所に被覆破損を起していることが判明した。この原因については種々の論議があったがアルミニウム・ウラン合金心材中の金属ウランまたは炭化ウランがその因となっていると考えられ、24時間の沸騰水試験で被覆破損試験を行なったところ、22本の要素のうち合格したものが20本で、これを燃料板の数でみると総数374枚中、被損を起したものが5枚で、破損を起したところは1枚が3ヵ所、1枚2がヵ所、2枚が1ヵ所で合計8ヵ所であった。

 このような事態を招く前に燃料板の全数についてX線透過試験が検査として実施されていたのであるが、20%濃縮のこの合金心材に対する製作社の経験の少なかったことから検査基準を決定するときの判断が甘く欠陥を見逃していたといえるようである。

4.2JRR-3燃料

 JRR-3一次装荷燃料用ウラン地金はその一部約4.2トンを原燃で製造し、所要量の残余約3トンをIAEAから提供を受けた。

 後者はカナダ産の地金で、化学分析およびデンジャーコエフィシエントの測定が規定され、IAEAによる中立機関とカナダ側およびわが国内で原研および原燃においても化学分析試験が行なわれた。IAEAおよびカナダでの試験のための試料はディンゴットを鍛造して6"×6"の断面で約200kgのビレット6本または7本分になったものの中央部からとった。この試料採取に当っては係官がカナダに派遣された。ビレット外観検査も行なわれ、端部に鍛造割れが認められ、加工に際してこれらの部分は除外されることになっていた。

 化学分析試験の結果は試料内のわずかな偏析の範囲を除いてきわめてよく一致していた。

 原燃で製造したものは直径5"、長さ16"の鍛造ビレットで、化学分の試験のほかに内部健全性および表面欠陥に関する検査基準が設けられた。

 金属ウランビレットの製造および試験に関する経験の少ない時期であったので、原燃および原研で共同研究的態度で打ち合わせならびに試験を行なった。原研では化学分析のほかに密度測定、顕微鏡組織、およびビレット横断面の蛍光探傷とマグロ組織試験を行なった。内部欠陥検査の手段として超音波探傷を用いた。当時としては小さな欠陥までは十分には検出できなかったが、可能な限りの測定を行なうこととした。

 燃料要素の検査については原研はAECLに検査を委託して、製造中および製造後の検査を行なわしめた。

 検査項目はつぎのごとくであった。

① 寸法検査
② 外観検査
③ 表面汚染検査
④ X線透過試験
⑤ グライコール試験

 これらに関する測定データの提供およびX線フィルムの送付をうけるとともに原研では到着した燃料要素について

① 外観検査  全数
② グライコール試験  抜取
③ 寸法検査の一部  抜取
④ 表面汚染検査  抜取
⑤ 送付X線フイルムの検査  全数

 の到着後検査を行ない、またウラン棒の試験のために圧延、熱処理ロッドごとに約1/2"長さの試料を提出させたものについて全数の金相試験、密度、健全性試験などの試験を行なった。これらの国内の検査については原研および原燃が協力して行ない、必要な項目については原子力局の立会をうけた。グライコール試験に関しては設備の関係で日立製作所の協力を得た。

 寸法検査のうち長さおよびフィンの高さについて、規格値から外れるものがそれぞれ53本中8本および269箇所中45点について認められたが、使用上支障のない部分であったから棄却としなかった。

 表面汚染検査は100本中1燃料要素当り17μgという規格値を超えるものはなかった。

 グライコール試験はカナダで行なわれたものと同じ試験条件で行なわれたが、30本中で判定基準とした連続気泡にいたる程のリークは認められなかった。

 送付されたX線フイルムは816×2×3、約4,900杖に及ぶ。AECLが判定基準として用いた標準写真と対比したところでは全数合格であったが、JIS2級以下と考えられるもの50組(3%)があり、その内訳はタングステンスポット2、気孔40、および溶けこみ不良8組となっていた。

 金相試験によるウランの結晶粒度はいずれも規格値200μ以下で、最大200μ、最小90μ上の範囲にわたり、ウラン地金の区分が3ロットであるが、有意差は認められなかった。

 金相試料の断面の顕微鏡観察によると最大0.2mm直径の欠陥(介在物によるものおよび収緒孔によるもの)がごく少数に認められが、大きな支障のもととなるとは考えられなかった。

 数本の燃料要素を抜きとって破壊試験を含む諸試験を行なうことになっており、その具体法について検討中である。

 この一次荷燃料に関する経験を基にして国内で加工される二次装荷燃料の仕様および検査基準の設定に関し検討が進められている。

4.3その他

 未臨界の指数函数実験装置が東京大学、東京工業大学および富士電機に設置され、その燃料が国産された。

 とくに前2者は燃料加工メーカーが共同製作に当ったもので、基準の設定、検査の実施とそのデータの整理によって燃料加工に関する経験、知識が増大した。

 製品品質の統一保持が検査の重要な効用であるとともに製作における技術改善の手段となることも検査の一面の重要な効用であった。

 立教大学、近畿大学および日立製作所における小型研究炉の燃料の検査は原子力局が安全審査の立場から、データの提出または試験立会によって行なった。

第5章 検査技術開発の問題点

5.1超音波試験

 核燃料の非破壊検査への超音波の利用には多くの利用型式がある。機能的分類を行なって、個々の問題点を述べる。

 ① 透過波を用いる単一体の内部欠陥検査

 具体的には金属ウランまたは被覆材の加工素材としてのビレットまたはスラブの内部欠陥検査と金属ウラン燃料棒の内部欠陥検査とがある。

 被覆材の素材検査はすでに国内の金属材料メーカーでも多く採用しているところであって、かなりの技術開発が進んでいる。ただ核燃料用になると一般利用の材料より要求が厳格であるし、一般材料が主として強度低下のおそれの立場から検査するのは対して、被覆材は高放射の下で、内部の燃料の変形や分裂生成物の蓄積による内圧に耐え、かなり長期にわたって冷却材の腐食効果をうけてなお包蔵性を保たなければならないので、腐食やクリープ現象による貫通を起すような介在物の存在のないことも検出しなければならない。

 したがって一般の場合に許容されうるこれら介在物による超音波応答と空孔によるそれを識別して判定しなければならない。今日のところ超音波技術のみでは万全を期し難いので、採取した試料の金属的な検査や被検体の化学的試験を併用することが行なわれている。この観点からわが国における試験を進める必要があるであろう。

 金属ウランへの超音波探傷の実施は原子力開発が始まって以来のものであり、その超音波に対する性質も文献によらざるをえない状態であった。主として原燃で多くの金属ウラン試料を用いて研究しているが、直径の大きな鋳造ビレットでは金属ウラン内の超音波減衰と粒界散乱および鋳肌面の不良のために十分な検出能が得られない。適当な周波数の選択、超音波ビームをマスクまたはレンズで絞ること、鋳肌面を切断除去することによってかなり改善されたが、いまだ満足すべきものでない。この場合特に問題とされたのはビレット内に存在する欠陥の性質で、ビレットが以降の加工を受けるにしたがって、欠陥がどのように挙動するか、そして最終製品である金属ウラン棒の中にどのような欠陥となって残るか、さらにそれらの欠陥が核燃料としての使用中にいかなる影響を与えるかどうかであった、そしてこれらの関係が明白にされてはじめて検査の基準が明確化されるのであるから、この意味においてはまだ開発研究がやっと緒についた段階といえる。このような研究のためには加工の立場、使用の立場からの検討が必要であって、多くの人の共同研究が必要と考えられる。

 金属ウラン棒の超音波探傷も同じことがいえるが、一般には直径が比較的小さく、結晶粒が熱処理によって微細化されており、被検体表面が十分良好であるから、かなり十分な検出能が得られるようである。ここでは被検体が部材として完成品であるから検査結果の自動記録化と迅速化が望まれ、この意味における研究が必要であろう。この場合も基準設定にあたっては前述と同様に広範な試験が必要である。

 管状金属ウランまたは板状、スラブ状の金属ウランおよびその合金の試験は未着手であるが、原理的には棒状のものと同様であろう。

 ② 反射法を用いる単一体の内部欠陥検査

 金属ウランは超音波減衰が大きいので、通常の材料のために開発された反射法検査器または超音波厚み計は適用が困難である。被覆材については適用が可能である。

 ③ 表面波またはラム波を用いる単一体の内部検査いわゆる斜角探傷法またはラム波法を用いると表面近くの欠陥の検出が感度よく行なわれる。

 これは金属ウラン棒または被覆管の内外表面の欠陥検査に適用されている。わが国ではこの試験研究は着手されたばかりであって、結論が得られていない。

 ④ 金属ウランの結晶粒度の非破壊検査

 金属ウラン内の超音波速度が比較的小さいので、一定周波数に対する金属ウラン内の波長が金属ウランの結晶粒度の大きさと同程度ないしは小さいところになる。波長が平均結晶粒度の大きさと同程度になると粒界散乱による減衰が急に大きくなるので、透過汲のエネルギーが急減する。この効果を利用して金属ウランの熱処理効果の良否を非破壊で検査することができる。一定の形状のものの検査はきわめて迅速で平均粒径の判定に対する再現性も十分高いので各所で採用が研究されている。この意味では可変範囲の広い機器の開発が望まれる。

 ⑤ JRR-3型燃料の被覆結合性試験

 透過法を用いて、透過披エネルギーの減衰率の大小から結合性の不良、良を判定しようとする試みと、反射波エネルギーのそれから良、不良を判定しようとする試みとが並行している。

 この場合に問題になるのは判定された結合性の良否が、実際の燃料の伝熱除去との関係をつけることであって、この後者の測定が容易でないし、試験材料が高価なために研究がまだ十分進行していないようである。

 ⑥ JRR-2型燃料板の被覆結合性試験

 結合面の良否を超音波透過法によって測定することができるが試料の調製の問題と、そのほかの試験との関連を求める問題が残されている。

5.2X線試験

 溶接部の欠陥検査にX線を用いることは一般構造材料でも広く行なわれており、わが国の水準は世界的にみて高いところにあるといわれている。一般材料では大型構造材料への適用のための研究が進められ、100万ボルトX線発生装置も国内には設置されているが、厚肉部品の検査にはなお不十分であるというので、ベータトロンやガンマ線探傷の技術開発が進められている。

 核燃料における溶接は一般的に寸法の小さい、肉厚のうすい、しかもX線透過能のよい被覆材料のそれであって、この場合には低エネルギーのX線の方がむしろよいことが知られている。しかしながら実際上非常に小さい欠陥を検出し、しかもきわめて多くの燃料の検査に適用し、溶接部の強度より包蔵性の確保を第1の目的とする検査であるから、研究すべき点がなお多く残されている。しかも溶接部が高温で、照射下の腐食と応力発生に耐えながら包蔵性を確保しなければならないので、この立場からX線探傷をどこまで行ないえて、その検出結果が包蔵性とどのような関係をもっているかを試験することが必要で、ここでも共同研究が望まれる。

5.3渦流探傷

 金属材料の電磁気的性質を非破壊検査に利用することが各方面で研究されているが、その一つとして渦流法が被覆管の欠陥検査や被覆厚み検査に実用されつつある。

 被覆管素材の非破壊検査法としては比較的迅速で経費のかからないという利点があり、欠陥検出感度もかなり高いようであるが、寸法変化や材質変動によるノイズ効果のために検出感度が低下することがあるので、これを防ぐために種々の回路が研究されている。

 ロールボンディングやスエージング、同時押出法のように燃料と被覆材とを同時に成型加工を行なおうとする場合には特に加工後の検査が重要で、これらに渦流法を適用することも重要な研究課題となっている。

 この試験法はわが国ではまだ経験が少ないが、原子力分野に限らない応用方面があるので関心をもたれている。

5.4リーク試験

 燃料要素に最も厳格な要求を課せられる包蔵の完全性は全数についてヘリウムリークテストなどのリーク試験が適用される。

 リーク試験そのものは特異な技術ではないが、検査の確実性をはかるために被検体の処理という問題がある。また製造加工の方式と関連して、ヘリウムの内圧および検査容器の真空度、時間の関係と想定される分裂生成ガスの漏洩との関係を明らかにすることおよび製造直後に検査された包蔵性が燃料の炉内挙動によってどう変化するか、など、リーク試験をめぐって種々の問題がある。

 リーク試験としてグライコール試験やアルコール浸漬試験も経費の低い検査法として通用されている例が外国にあるが、これらの方法をそれぞれの燃料の炉内使用状況から考察することも必要であろう。

5.5オートクレープ試験

 軽水型動力炉では高温高圧の水および水蒸気による腐食が重要な問題である。燃料要素被覆管の素材に含まれる欠陥や介在物が腐食に悪影響を与えるし、とくにジルコニウム系合金の端栓溶接の際の窒素および酸素の溶接部への侵入は燃料要素の炉内使用中における包蔵性の喪失に至らしめるので、素材ならびに端栓溶接後高圧の高温水または水蒸気でオートクレーブ試験が行なわれる。これは同時に燃料要素加工中に加えられた不均等の応力検出の手段(熱ひずみ試験)をともなっているので、被覆材の材料開発および燃料要素組立加工技術の開発段階における試験としても必要であるし検査の項目としても重視される。

 またオートクレーブ試験は酸化ウランペレットの焼結性試験としても用いられる。

 試験そのものは特異なものではないが、施設上の問題があると考えられる。

5.6結合性試験

 結合性試験としては、燃料の形式によって種々の試験法が実地に用いられている。

 JRR-3型燃料の被覆の結合性試験に超音波を利用することについては前に述べた。この型式の燃料の結合性試験として、このほかに霜試験と呼ばれるものがある。これは結合面と熱伝達特性を直視的に試験する方法で、アメリカでは早くから採用された検査法であったが、局部的欠陥の検出のためには感度があまりよくないので検査法としてはすたれた。しかしながらこの方法は燃料の平均的な熱特性を試験する意味で比較的簡便であるから、試験法としてはなお関心がもたれている。

 ロールボンディングによって作られるJRR-2型の板状燃料における被覆の結合性試験は、超音波や渦流でも検査されるが、微細な貫通欠陥が最もおそれられるので、端栓溶接組立法による燃料におけるヘリウムリークテストと同様に全数について適用されるオートクレブ試験も一種の結合性試験である。この場合欠陥を通して侵入する高温水または水蒸気との反応で、板状燃料の表面にブリスターを生じるのでブリスターテストともいわれている。わが国ではこの試験法はこの型式の燃料の製造研究がまだ緒についたばかりであるから試験の設備および研究もまだ少ないが、製造研究の進行に並行して試験法そのものの検討も必要となるであろう。

5.7表面汚染検査

 燃料要素表面にウランまたはその化合物が付着していると炉内でその放射化のため冷却材系が汚染され、破損燃料検出機構に実際の破損とは誤った信号を与えることになるので、燃料要素表面のウラン汚染は厳格に制限される。

 汚染の許容量は破損燃料検出機構そのほか炉の設計から定められるが、その検査手段としてどの方法を採択するかは問題が残されている。

 検査法としては、直接表面をシンチレーションカウンターでアルファ線をスキャンする方法、GM管でベータまたはガンマ線をスキャンする方法、アルファ線検出の感度を高めるため燃料要素をガスフローカウンター内の陰極として閉じこめる方法、スミヤ法で表面をふきとったのちこの試料について放射能を測定し、または燃料要素を化学的に処理して表面層を取り除きこの薬剤中に含まれる放射能を測定し、さらにこの清浄効果を増すために超音波エネルギーを適用するなどの間接法がある。

 これらの諸種の方法は燃料要素の寸法、形状、被覆表面の性質、ウラン汚染の性質の解明ののちにはじめて自信をもって選択しうるので、製造加工の経験の蓄積と平行して、検査法の研究を進めねばならないと考えられる。

5.8寸法検査

 寸法検査は一般に行なわれているものと異ならない。ただ固有の形をもつ個々の燃料の高い寸法精度の測定するための方法がとられる。エア・マイクロメーターや差動コイルマイクロメーターなどの測定手段も採用されるであろう。

 完成燃料要素の被覆厚みの非破壊測定手段として、オートラジオグラフィック厚み計、ガンマ線やX線を用いる厚み計、渦流厚み計などは個々の燃料形式についての通用を研究する必要があるであろう。

5.9熱サイクル試験

 金属ウラン燃料の照射変形と類似の影響を与える熱サイクル試験は、燃料開発試験としても用いられている。熱サイクル生長と照射生長との関係は、今なお金属学的討論の余地のあるところではあるが、インパイル試験の前に燃料の炉内挙動を推定することの必要から、各方面とも施設をもって研究している。試験の性質から同一装置を用いる同種の試験では相対的な比較ができても、装置や試験条件が異なる相互の間では、直ちに比較することが困難であるが、国内での燃料開発試験の段階では各所の試験データの比較を行なっておく必要もあろう。

5.10その他の試験

 そのほかの金属的な試験、物理的測定についても、方法そのものが特異なものではなくても各所で測定された結果が同一のものを得られるように、試験の方法試料の準備を含め統一的なものとするための努力が必要であろう。

 そのほかの試験として板状燃料のウラン-235分布のオートラジオグラフィックな測定の研究も必要であろうし、スエージングや揖動充填、同時押出のような新しい成型技術に伴う諸種の検査技術の開発も必要であろう。

5.11検査基準の設定とインパイル試験

 核燃料の検査において、最も重要でかつ困難な問題は、現在開発中の各種の原子炉用燃料のそれぞれについて、前述した各検査項目をどのような検査基準で行ない、抜取数をどの程度にして検査すればその燃料の安全性と実効性を保証できるかということである。

 前述の各検査法が十分に開発され、微細な欠陥および性能の検知がおこなわれるようになったうえで、その検出限界以内のある水準で合否を決定することが必要であるが、このような検査基準の設定のためには統計的に十分信頼しうるデータがなければならない。

 しかしながら核燃料の破損はそれが大事故にいたらないにしても、炉の停止、燃料取換、汚染除去などの重大な経済的損失を招くので、今日のところ各国とも十分すぎるほどの検査項目と検査基準によって検査を実施し、ついで検査データと炉内使用実績との関連データを積み上げることによって、逆に検査法ならびに加工法を検討し、これらの方法を変更してきている。

 この結果かなりの項目について検査基準を引き下げることができたが、逆にいくつかの項目についてはより厳格になってきているという実情である。場合によっては実用炉におけるデータの積み上げだけでは破損燃料の例があまりにも少ないので、とくに計画した試験炉で人為的に作った欠陥をもつ燃料の実用試験またはループ内試験をおこなっている例がある。

 検査データと照射挙動および照射後試験データを関連づけるためには、燃料の加工、検査の段階と原子炉運転中の燃料に関するデータをとる必要があること、および使用済燃料または試験のために定期的に炉から照射済燃料を取出し、ホットラボラトリーにおいて試験を行なう必要がある。

 このためには特殊な施設と巨額の経費を要するが、たとえばすでに多数の燃料要素の製造経験を持っているイギリスAEAにおいてすらなお巨額の資金を投じて計画的な照射後試験を行ないつつあるのが実情である。

 第1部加工においても述べたように、燃料の国産化のためには加工技術そのものの研究は勿論、試験材料および試作燃料の照射試験、試作燃料の実用化試験による炉内データの蓄積および照射後のホットラボ試験を各機関が協力して行なう必要があり、さらには、実用化に入った段階においてもなお当分の間は、このようなデータの蓄積と解析に努力する必要があると考える。

 このためには、公的機関の関連施設を拡充し、当初の輸入燃料に関してのデータの整理収集を行なうとともに、原子炉運転者の協力を得て、燃料に関する炉内データの集積を計画的にすすめ、さらに照射済燃料の試験計画を樹立することが必要である。また一方、国産化を目指す国内の各機関の協力により、製造試験および試験生産中のデータの提供を求めるなど検査基準確立のため総合的協力体制をとることが最も望ましいと考える。

第6章 まとめ

 以上各章にわたって当専門部会における検査関係の審議経過、海外における核燃料検査技術に関する状況調査の結果を述べ、検査に関する国内の現状と技術上の問題点を概観した。

 それぞれの項目に述べたように、核燃料の検査の意義は重要で、これによって核燃料の開発が行なわれ、その製造加工における品質維持が可能である。

 具体的に個々の燃料について、どのような検査を、どのようにして、どんな基準で合否判定すべきかは、なお多くの努力が必要であるが、検査技術開発のための調査ならびに国内での体制づけのこの当専門部会としての目的は一応達成されたと考えられる。

 今後の問題は原研、原燃を中心として関係各機関の協力によって技術的問題の解決、前章最後に述べた長期にわたる検査データの蓄積と照射後試験データの積み上げならびにこれらによる燃料製造加工への反省および検査基準の考慮を行なうことが必要である。