第2部 分 析

まえがき(省略)

第1章 核燃料専門部会における核燃料の分析に関する審議経過(省略)

第2章 核燃料専門部会設置当時における核燃料の分析研究開発の状況(省略)

第3章 金属ウラン分析合同委員会における核燃料の分析研究開発の状況

3.1分析法の研究経過

 わが国において核燃料としての金属ウランに含まれる微量物質の定量が必要になってきたのは比較的新しく1)、32年頃からである。

 注:1)原子炉燃料用天然ウランの純度試験法:中井敏夫、中島篤之助 分析化学6.110(1957)

 翌33年当専門部会が設置され、金属ウラン分析の問題を討議し、組織的に微量物質の定量法を研究しようという機運がもり上り、関連各機関でも活発な研究が始められるようになった。

 これらの状勢に対応し、34年8月、分析合同委員会が発足し現在に至っている。同委員会は翌35年10月、22元素の分析法について検討結果をとりまとめ、さらに分光分析法の研究結果を加えて、「金属ウラン中の微量物質の分析方法」という資料を発行し関係各方面に配布しており、現在その補足改訂の準備が進められている。一方34年10月原燃の地金をJRR−3の燃料素材に用いることになり、原研と原燃で試料採取法、分析値の表示法など受け渡し上の具体的な問題についてのとりきめを行なう必要が生じ、これまでに開発された分析技術は実際面で始めて活用される機会をもつに至った。

 このようにわが国における金属ウランの分析法の研究は諸外国に比べ非常に着手がおくれたにもかかわらず適切な研究組織の活動により急速に進歩し、一応分析の実施には支障をきたさない段階にまで到達している。

3.2金属ウランの品位

 分析法の研究を行なうにあたっては常に対象となる微量不純物の種類ならびに含有量を知る必要があり、まず金属ウランについて要求される品位を明確にしなければならない。

 核燃料に用いる金属ウランは高純度でなければならないが、核的性質、加工性、機械的性質などの見地からその品位についての考え方は通常の高純度金属の場合とは異なっている。吸収断面積の面では、ホウ素、カドミウム、ガドリニウム、サマリウム、ユーロピウム、ジスプロンウムなど、加工法の面では炭素、窒素水素、酸素、ケイ素のほかにフッ化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムのような介在物、機械的性質の面では炭素、窒素、水素、ケイ素、鉄、クロムアルミニウムなどの存在がとくに問題となる。

 ウラン中の不純物の規格として確定したものはないが、その数例を第3表に示す。

第3表 ウラン中の不純物の規格例

 これら元素のうち、ホウ素、カドミウム、銀、金、マンガン、ガトリニウム、窒素、コバルト、銅、バナジウム、クロム、鉄、モリブデン、トリウム、ケイ素などは主として原料から混入するものであり、ニッケル、マンガン、鉄、ケイ素、炭素、アルミニウムなどは装置から、また塩素、炭素、窒素、酸素、水素、ケイ素、酸化ケイ素、フッ化マグネシウムなどは製錬工程からの混入が考えられる。またジルコニウム、ニオブなどの元素が添加される場合もある。コールダーホール型燃料では炭素、鉄、アルミニウム、ケイ素はむしろ添加元素というべきであろう。

 核的性質を判断する方法としてデンジャー・コエフィシエントを規定することがある。この係数は通常上述のような各元素の分析値から計算して求めているが、直接デンジャー・コエフィシエントを測定する方法が迅速かつ精度よく実施されるようになれば、分析の対象としなければならぬ元素の数はかなり少なくすることができるであろう。

3.3 標準試料

 機器分析において標準試料は不可欠なものであり、さらに他の分析法の検討あるいは個人差の比較などにもきわめて有用である。従来、ウランの標準試料としては、New Brunswick Laboratoryから分析証明書付のものが販布されており、これを利用して来たが、最近は品切れで入手できない状勢にあり、分析合同委員会では標準試料の国産化を重要視し、原燃の地金を使用して原研および原燃でとりあえず分光分析用の標準試料の調製に着手、試料の分析は分析合同委員会各委員の協力を得て行なっている。また原燃では高純度金属ウランの製造の研究を開始しており、今後標準試料の製造は分析合同委員会の重要課題として強力に進められるであろう。

3.4分析法の概要

 化学分析法、分光分析法、ガス分析法についてその概要を述べる。

3.4−1 化学分析法

 化学分析法で定量可能になった元素は20数種に及んでいる。各元素ごとに提案された数多くの方法が共通試料の分析により検討され、二、三の代表的方法に整理されている。

 これらの方法はいずれも多数の委員により試験され、その精度、適用範囲などが確認されている。しかしこれらは今後の研究によって、さらに統合されることになるであろう。

 その他の元素については今後研究を続ける必要がある。

 各元素についての分析法の比較は第4表を参照されたい。

第4表 金属ウラン中の微量物質の代表的分析法の比較




3.4−2 分光分析法

 発光分光分析による金属ウラン中の微量物質の定量法は広く行なわれており、発光法には担体蒸留法がもっともよく採用されている。

 担体としては酸化ガリウムよりも塩化銀を用いる方が感度も精度もよいので、現在比較検討中である。

 また化学分析の研究と並行して両者の比較検討も行なっている。

 試料中に存在する鉄を内部標準として利用する方法も検討されたが、ホウ素のように揮発しやすい元素については定量できないこと、および鉄の化学分析が必要であるといった欠点がある。

 担体蒸留法のほかに溶液法、蒸着法についても研究が行なわれている。溶液法では標準試料が簡単に作成できること、妨害元素を除去しておくこともできることなどの利点があるが、分析時間がやや長くかかる短所をもっている。蒸着法は研究に着手したばかりである。

 分光分析の場合にはその装置がまちまちであるから一定の分析方法を決定することは困難であり、分析線も各分光器の特性に合ったものを採択しなければならないという本質的な問題もある。したがって標準試料が研究促進にとって、きわめて重要となってくる。

3.4−3 ガス分析法

 ガス分析の研究は分析技術や装置の関係でもっぱら東大工学部で基礎的に検討が加えられ、その技術をもとに原燃で研究を続けている。

 この分析の対象となる元素は酸素、水素、窒素、炭素であるが、炭素は鉄鋼の場合と同じく燃焼法で定量している。ガス分析としては通常酸素、窒素、水素の3元素について真空融解法が、標準法として研究されており、これが最も信頼できるものである。

 水素のみを目的とする場合は、試料を比較的低温で加熱し箇体状態のまま、あるいは融解して放出ガスを分析する。

 また窒素は2,000℃の高温でも分解の困難な化合物として存在しケルダール法による結果と一致しないこともあるので、さらに検討する必要がある。

第4章 今後の研究開発における諸問題

4.1化学分析

 化学分析による微量不純物質の定量はきわめて精密な技術を要する。一方、化学分析によって得られるそれらの定量値は他の機器分析法の基礎となり、きわめて重要である。したがって信頼できる正確な分析方法の研究開発は最も必要なことである。

 現在、金属ウラン中の微量物質のうち15元素の化学分析法の検討が一応終わり、残りの元素については審議中なので、これら分析方法の研究が早急に完成されることが強く望まれる。

4.2分光分析

 分光分析は最近長足の進歩をとげ、改良を重ねつつ日進月歩の分析法である。ppm単位あるいはこれ以下の微量成分を自動的に迅速に定量しうる特徴をもっているので、核燃料中の微量物質の定量に欠くことのできない方法である。

 したがって広く行なわれており、世界各国とも、この分折方法の研究を活発に行なっている。すなわち分光分析装置の性能を上げ、分析方法を改善し精度、感度の向上をはかりつつ分析法の確立に努力している。

 わが国もこれにおくれぬように分光分析の研究開発を進める必要がある。

4.3その他の機器分析

 現在、分析機器としては分光器が採用されている程度であってX線分析法はじめその他の各種方法による研究はまだ初歩の段階である。

 今後各種分析機器は著しく発達するものと考えられるのでこれを十分に利用して核燃料分析部門の研究開発をはかることが必要である。

4.4濃縮ウラン

 わが国においてもウラン濃縮に関する研究は33年から始められており、一方濃縮ウランを用いた燃料要素の加工も最近では行なわれるようになったが、これらの研究を進めて行く上で重要な問題は濃縮度の測定と不純物の分析である。さらにこれらは海外から濃縮ウランを入手する場合においてもゆるがせにできない問題であるから、これらの研究は早急に取り上げる必要がある。

4.5使用済燃料およびプルトニウム

 原子炉、臨界実験装置などに使用された核燃料物質はプルトニウムをはじめ各種の核分裂生成物を含んでいるので、これらについては特殊な分析技術が必要であり多くの困難な問題が残されている。分析技術者の養成は勿論のこと、新しい分析方法および機器の研究開発を強力に推進すべきである。さらにプルトニウムの核燃料としての利用研究は再処理とも関連して、核燃料のリサイクルの面から最近とくに真剣に取り上げられつつあるので早急な分析技術の確立が望ましい。

4.6その他の核燃料

 核燃料物質としてはセラミック系あるいはサーメット系なども重要であるので、これらを中心とする核燃料の開発が発展するに伴い、これらを分析する技術は今後一そう研究開発されなければならない。

 なお、イエローケーキなどの核原料物質についてもいまだ残された問題があり、さらに追求する必要がある。

4.7標準試料

 標準試料とはその成分が精密に分析され、最も信頼しうる分析値が表示されているものであり、機器分析を行なうためには欠くことのできないものである。また化学分析についても研究開発あるいは標準化などになくてはならぬ重要なものである。さらに工場などにおける日常の分析業務にも常に必要である。

 標準試料は均質な素材をえらび、これから適当な形状の試料を調製し、その成分を数ヵ所の分析室で入念に分析してはじめて作られるのであり、その調製には多大の労力を要する。

 現在アメリカではNational Bureau of StandardsやNew Brunswick Laboratoryなどの政府機関が中心となって各種の標準試料を調整配布し学界、業界の要望に答えて多大の貢献をしている。

 現在ウランの標準試料の作成については分析合同委員会の共通分析試料作成に関連し、原研および原燃が標準試料調製の研究をなしつつあるが、さらに一歩進めて本格的な標準試料製造技術の研究開発を核燃料の化学分析の研究開発と並行して推進することが必要である。

4.8試料採取法

 分析試料の適切な採取法の確立のための研究は困難かつ地味な仕事であり、その精度も概して化学分析におとっており、さらに国によりあるいは機関によって異なるため、しばしば紛争を起している。核燃料やイエローケーキのような国際的なものには世界共通の試料採取法が、新しい統計学を応用して研究開発されることが望ましい。

4.9標準分析法の確立

 核燃料あるいは核原料物質についての標準分析法を確立することは、これらの物質の受け渡しを行なうに当って、きわめて重要なことである。しかし、分析法の標準化は国内のみを考えても容易なことではなく、常に関係各機関の意見が一致することが必要で、往々にして、最も優れた方法が必ずしも標準分析法とならないという事態も起りうる。また、一旦分析法が標準化して固定すると、そのために分析法の検討がなおざりにされ分析法あるいは分析機器に進歩に取り残されてしまうといったおそれも考えられる。

 したがって、当面の課題としては、これまでに国内で研究開発された分析法に検討を加え、さらに、新しい研究成果もとり入れた最も信頼しうる分析法の確立につとめるとともに、これらが広く内外の諸機関に実施されるよう努力するなど、慎重な配慮のもとに標準分析法の確立をはかる必要があろう。

4.10 分析技術の研究開発のすすめ方

 以上分析について今後研究開発を進めて行く上の問題点を取り上げたが、いずれも重要な問題で早急に解決しなければならないものが多い。このためには現在の分析合同委員会を一そう強力なものとして、その活発な活動を期待する。一方、とくに濃縮ウラン、使用済燃料、プルトニウムなどの分析については関係ある公的機関、学会、協会、民間企業などの広い協力が必要と考えられる。したがって当局は諸般の事情を勘案し一段とこれらの研究を助成するよう過切な施策を講ずる必要があろう。