核燃料専門部会報告書を提出

 核燃料専門部会は33年4月18日設定され、33年7月24日の第1回部会以来13回の部会を開催し、加工、分析、検査の各分野につき、活発な討議を重ねてきた。その結果、国産1号炉用燃料の加工方式、核燃料の分析、検査方式などに関する検討も終了したので、4月27日付で原子力委員会委員長あてに報告書を提出した。以下に報告書の主要部分を紹介する。

 なお専門部会は5月23日の原子力委員会において解散することに決定した。

昭和37年4月27日

原子力委員会
  委員長 三木武夫殿

核燃料専門部会
部会長 三島 徳七

 核燃料専門部会はわが国の核燃料加工方式および分析、検査方式を検討するため昭昭33年4月18日設置され、昭和33年7月以降、国産1号炉用核燃料の加工方式、核燃料の分析、検査方式などについて審議を行なってきましたが、その結果をとりまとめましたので、ここに報告します。

第1部 加 工

まえがき(省略)

第1章 JRR-3用燃料事兼の加工方式に関する審議および検討の経過

1.1部会における審謙および検討の経過(省略)

1.2二次装荷燃料開発方針に関する検討および決定

 第3回部会(33.11.14)における基本的方針の決定、および第8回部会(34.10.30)における全般計画の原則的承認の線に沿い、原研と関連各機関、民間企業との密接な協力体制により二次装荷燃料の開発について準備が進められた。

 すなわち、原研内においてはプロジェクトの設定が行なわれ、関連研究室の協力体制、研究分担などが明らかにされ、また、原研内外にわたっては主として旧JRR-3燃料要素委員会が技術的総括的検討の場となり研究開発から試作に関する実行計画、タイムスケジュールなどが検討され実施の段階が進められてきた。

 しかるにこの間研究開発のおくれ(国内における照射試験計画の実施遅延などによる)および民間企業の状況などから、二次装荷燃料を予定時期までに確保するためには、研究開発→試作→生産という順に段階的に進めることが不可能となったので、必要時期までに確保する方法について関係者間で検討協議が重ねられた結果、JRR-3燃料要素全般の研究開発は段階的に行なうこととするが、二次装荷燃料については国産により生産確保(試作開発と呼ぶ)するものとされ、とくに天然ウラン棒は圧延方式により成型加工することと、これに関して原研において行なわれた基礎研究結果はできる限り活用すること、試作開発には従来まで協力してきた原燃をはじめ関連民間企業が製造担当することなどの方針が決定された。

第2章 JRR-3用燃料要素の加工方式に関する国内の研究開発

2.1日本原子力研究所における研究開発

 原研におけるJRR-3用燃料要素の製造加工、諸性質試験検査などに関する研究は実質的には33年度から開始され、34年度前半までは主として基礎研究であり、34年度後半からはいわゆる応用研究が実施された。

 基礎研究期間中に行なわれた主な研究課題は、①高周波誘導炉による金属ウラン真空溶解、鋳造。②溝型ロールによるウラン棒の圧延加工。③加工および熱処理を行なった金属ウランの物理冶金的研究の3項である。これらにより得られた結果は引き続き行なわれた同所の応用研究のための重要な基礎となったのみならず、その後の国内の他機関における製造加工に関する基礎技術に対しても大いに寄与するところとなった。

 つぎに、応用研究においては、①高周波誘導炉による金属ウランビレットの溶解鋳造、②溝型ロールによる実寸大(径1")のウラン棒の圧延加工、③金属ウラン棒(径1")の熱処理(β処理、α処理など)、④金属ウラン棒(径1"の熱サイクル試験、⑤、②~④に関連するウラン試片の物理冶金的試験などが主な研究課題であった。また、燃料棒の被覆材料であるアルミニウムに関しては、軽金属協会との協力研究態勢のもとに耐食性に関する研究(JRR-3における使用条件に近い状態での動水腐食試験)が実施され成果を得、被覆材料組成の選定につき意見が述べられた。さらに燃料の安全性検討の立場から被覆に穿孔した場合の燃料棒の挙動につき腐食試験が行なわれつつある。(以下省略)

2.2原子燃料公社における研究開発

 既述のようにJRR-3用初期装荷燃料に使用するウラン地金にはできるだけ原燃で生産されるウランを使用する方針がとられたので、34年度から原燃の事業計画にJRR-3燃料用ウラン地金の製造が繰り入れられ、これに基づき、原燃は精製、還元の工程につき基礎および応用試験研究を行ない、その成果を反映して合計4.2トンの鋳塊(径5"、長さ16"、単量約100kg)が35年度にかけて製造され、国外加工メーカーであるカナダAMF社に送付された。この原燃担供分の地金に対しては原研と原燃との間に地金の不純物、密度などにつき仕様が取りきめられ、分析法、品質検定などに関し両者間で検討作業をすすめ、原研への納入を完了した。鋳塊は外削を行なわず、表面状況の良否を判定し、また健全性検査には鋳塊上部切断面の肉眼検査を行なった。それらの結果カナダAMF社に送付した全個数(42本)の鋳塊はすべてそのまま圧延加工工程にかけられ、加工用ビレットとしての役割を果たしたことになった。(以下省略)

2.3民間企業における研究開発

2.3-1 天然ウラン棒製造に関する研究

 JRR-3燃料用天然ウラン棒製造に関しては31年度から各種の方式および研究課題について主として研究補助金により民間企業においても研究開発が行なわれてきた。

 すなわち、まず天然ウラン金属の溶解および造塊に関しては、当初消粍電極式アーク溶解法が試験研究され、ついで現行の高周波誘導炉式真空溶解法が研究開発され、かなりの技術水準に達した。

 つぎにウラン棒の成型加工に関しては初期には熱間鍛伸による加工が若干試みられ、さらに熱間押出法によるウラン棒製造方式が広範囲に研究され、とくに押出法に基づく研究開発の結果は在来の熱間圧延法によるウラン棒の製造加工のそれとほぼ比肩されるまでに開発されたものと見られる。またウラン棒の熱間圧延加工に関する研究開発は主として原研において実施されてきたことは既述のとおりであるが、民間企業はとくにその応用研究に対して協力を行なってきた。

 さらにウラン棒の熱処理、機械工作、物性測定などの関連作業、試験、検査についても民間企業において逐次独自の研究開発がなされてきたことはもちろんである。

 以上の結果に基づき押出加工および圧延加工により民間企業で試作された天然ウラン棒試片(JRR-3燃料用の実径)に対してはそれぞれ海外に照射試験が委託され、まもなくそれらの成果が判明する段階にきている。

2.3-2 燃料要素の製造に関する研究

 燃料要素の製造についてはアルミニウム被覆法、溶接法、燃料要素に対する各種検査法の研究などが主な研究課題でありは2.3-1と同様、31年度から研究補助金により民間企業においてかなりの研究開発が実施されてきた。

 まず天然ウラン棒に対するアルミニウム被覆法に関してはいわゆる、機械結合型による被覆技術はかなりの技術水準に達した。その研究結果は目下計画中の照射試験(海外委託)により照射特性に対する検討が行なわれる予定である。さらに被覆法に関してはいわゆる金属結合型についても研究開発が続けられている。

 つぎに被覆管の端栓溶接についても施工条件、材料組成、各種の施工法、溶接割れ、気孔などについて検討が行なわれかなりの水準に達した。

 以上の組立てられた燃料要素に対する各種試験検査法に関しては民間企業においても研究開発が行なわれてきたが、それらの結果と相まって製造技術がさらに開発向上されつつあることは当然である。

第3章 JRR-3二次装荷燃料の加工方式に関する検討

 JRR-3二次装荷燃料要素に対しては現在その仕様書の作成検討が行なわれているが、およその問題点は論議しつくされたので以下にその予定される製造工程に関連して主要な項目について概要を述べる。

3.1天然ウラン地金

 二次装荷燃料に対するウラン地金としては、ダービーとビレットとが加工メーカーに提供されることになった。これらは両者ともに原燃から供給されるが、ダービーは加工メーカーにおいてそのまま再溶解し、加工用ビレットとするもの、返り材と混ぜて再溶解し同じく加工用ビレットとするものに分け使用されるであろう。

 ビレット寸法は径2.5~3"の間の値が採用されることになるが、この寸法から径1"の丸棒を圧延加工する加工度が初期装荷燃料の場合に比し不足ではないかとの点が論議された。しかしながら原研の基礎ないし応用研究の結果では、600℃付近における圧延加工度は最低75%程度あれば十分であり、β処理条件を組み合わせても加工度不足のおそれはないという結論に達している。

 もちろん、コールド試験での範囲において論じられているのであるが、最近のカナダAMF社の情報によれば現在は3"程度のインゴットから加工を開始している例もあり、同社は多数の燃料棒の照射挙動に関する統計的データの解釈からこのような方針をとっていると思われるので、地金ビレットの寸法を二次装荷に対して上記の範囲に予定することについては問題がないものと思われる。もちろん3"程度の良質なビレット製造技術が完成していなければならず、今後の与えられた準備期間にもこの点の努力が要請される。

 ウラン地金の化学成分値に関し、酸素、窒素、水素などの二、三の成分については初期装荷燃料用ウランのそれより若干の変化が見込まれる予定である。

3.2圧延加工方式

 上記寸法の加工用ビレットから圧延により径1"の丸棒(実際には圧延仕上げの径は1.08"程度となろう。)を製造する技術は原則的には国内の既存の研究成果を活用することになるから、この際にはぜひともゴシック系溝型ロールによる圧延技術を採用することが望ましく、またその予定で準備が進められている。この点初期装荷燃料の圧延加工には仕上工程ではオパールーフラット系列が溝型として使用されているのと異なるが、この場合にはカナダAtlas社の鉄鋼用ミルを使用したものであり、ウラン専用の方式ではない。すでに国内ではウランに適当な溝型ロールによる圧延技術が開発されたので、これによる成果を期待し、二次装荷燃料国内加工における特徴とすることが望ましい。

3.3熱処理工程

 天然ウラン棒仕様としては、有害な異方性をなくすために熱間圧延および熱処理の適当な組み合わせをするよう製造要領が規定されるが、まずβ処理を行なうことは不可欠である。最近のAECL報告によれば、NRX燃料棒にはかっては圧延のまま、すなわちβ処理せずに使用された実績がかなりあるが、もちろん異方性残留による使用時の変形度はかなり認められている。原研での研究の結果では、圧延のままのものはもちろん熱サイクルによりかなりの寸法変化を示すが、単に軸方向の伸長のみならず断面形状が丸棒から角棒の形状に移って行く傾向も見られ、これは明らかに圧延工程中に棒をパスごとに90°ずつ回転することにより断面内に一種の不規則性が残留し、その原因になっているものと思われる。

 β処理の必要性については問題はないが、それに続きα焼鈍を行なうべきか否かの点は論議のあるところである。初期装荷燃料にはカナダAMF社ではこれを全く行なわず、またいわゆる脱ガス処理も施していない。

 原研での研究結果では、既述のごとくβ処理が急冷を伴う場合にはその後にα焼鈍を行なう方がよいことを見出しており、結晶粒度そのものに対する直接的好影響はなくとも粒形状の均一化、残留応力の除去の点では好結果を及ぼすことが明らかであるから、採用する方がよりよいといえる。

3.4被覆工程

 ウラン棒に被覆用アルミニウム素管を結合せしめる方式は、ダイスを通し押抜(または引抜)工程で行なわれる、いわゆる機械結合型被覆方式であり、ウラン表面とアルミニウム内面とは機械的に密着するだけである。この結合度をいかなる程度に得るかということは大いに論議のあるところで、それには、まずウラン棒表面の仕上げ粗さ程度とアルミニウム管の引抜きにおける加工度、すなわち肉厚減少率が問題となろう。もちろんアルミニウムの材質さ、硬軟程度も若干の因子になると思われるが上記二点が主要因であろう。初期装荷燃料では約7%の肉厚減少率が適用されているが、二次装荷燃料に対してはこれよりも大きい肉厚減少率も採用することになろう。少なくとも、コールド試験の範囲では結合強度の点で高加工度の方が優れているからである。しかし長期の燃焼状態では、はたしてこの優位が保たれるかどうか少なくとも国内では不明の項目である。

3.5被覆用アルミニウムの材質

 既述のとおり国内における共同研究(軽金属協会が中心になり主として耐食性の見地から行なったもの)の結果として、被覆用には下記成分のものが推奨された。

AI  Si  Fe  Cu
9.0以上  0.15~0.35  0.35~0.70  <0.03

Mn  Mg  Cr  Zr  Ti
<0.03  <0.01  <0.03  <0.03  <0.03

その他  Bi Pb Sn Niはそれぞれ<0.01
Cd<0.003 Li<0.008
B,Co それぞれ<0.001(いずれも%)

 Fe/Si≧2

 この組成は通称2S系であるが、もちろん溶接性についても施工条件を適当に調整することにより心配ないとされているので、二次装荷燃料の被覆用アルミニウム材として採用する予定である。

 初期装荷燃料の場合カナダAMF社においては、ISFを採用しているがその理由の一つには多分に経済的因子もあると思われる。また、前述の被覆工程における加工度の点に関係していることも考えられる。

3.6燃料の照射挙動に関する検討

 二次装荷燃料が第1章に述べた方針および計画に基づき国産化されるのに対し、これらの耐照射性をいかに推測するかは大いに論議のあるところであったが、初期装荷燃料の加工メーカーであるカナダAMF社からの技術導入が民間企業によりなされているから、同社における多年のNRX燃料棒製造技術とそれらの対照射性に関する統計的データからの解釈などが間接的に大いに役立つと思われる。また一方直接的には民間企業によって行なわれているウラン棒試片および燃料要素の海外照射委託の結果が役立つものと思われる。

第4章 今後の研究開発上促進すべき問題点とその対策

4.1JRR-3用二次装荷燃料とそれに続く装荷を確保するための短期的な研究開発

 JRR-3用二次装荷燃料については前章までに記述したとおりこれを確保する方針、その計画、これに関連する国内の研究開発の現状、製造加工方式の具体的検討内容および仕様の検討経過が明らかになっているが、なおこれを一そうよく完成するためには、予想される時期(製造開始は38年初めで、終了は同年末頃)までに若干の打つべき対策が考慮される。その第一は径2.5~3"程度の健全かつ良質なるウランビレットの製造技術の向上である。

 第二は、溝型ロールによるウラン棒の圧延技術の浸透とその完成である。

 第三は各種検査技術のうち、とくに材料の欠陥検出技術の向上とこれによる基準の確立である。

 これらに対する方策として、第一には、原燃および民間企業における不断の努力が望まれる。第二は、たとえば原研の研究設備を関連民間企業が活用することにより一日も早く技術経験の集積を得ることが必要と思われる。

 第三には、原燃を中心としてこれに関連各機関が協力し、燃料要素検査技術の集約的開発をはかることが必要であろう。

 つぎに二次装荷燃料に続く装荷を確保するための研究開発上促進すべき問題点としては

 第一に、ウラン棒製造技術としての押出法および鋳造法の完成

 第二に、被覆方式のうち、金属結合型被覆法の完成が上げられる。

 第一は、現在押出法について、技術的にはほぼ完成に近い域に達しており、もっぱら耐照射性に関する検討が残されていると見なされるが、鋳造法に関しては今後さらに十分な研究が関連民間企業あるいは原燃においてなされることが望ましい。

 第二は、現状では民間企業において、すでに多少の研究開発が行なわれてきたが、結合状態の均一性を得るなどの点につき一そうの研究が望まれる。

 したがってこれらに対する今後の方策としては、

 第一に、燃料要素の照射特性に関する検討評価の国内における実施

 第二に、燃料要素を経済的に製造するための方式工程の検討

が必要である。

 すなわち第一は、きわめて重要な項目で、今後の長期的開発にも影響するものであるが、原研内において、燃料開発のため炉内照射装置(カプセルおよびループによる)の高度の利用が切望される。

 また第二は、今後のあらゆる機会を通じて燃料製造方式、工程などを一歩ずつでも経済的になしうるよう民間企業努力を他から育成することが望ましい。

4.2金属ウラン基燃料に関する今後の研究開発方針

 将来のJRR-3燃料をはじめとして一般に金属ウラン基の燃料に関し、今後どのような方向に開発が行なわれるべきかについては種々検討されているが、わが国としてはそれらを使用する原子炉において、プルトニウム生産を主目的としない限り、金属ウラン燃料は当然できるだけ高温かつ高燃焼率で使用されるように計画されるであろうから、そのためにはいわゆるスエリングに耐えるような燃料の開発が望まれるであろう。これに対する研究開発は国内ではもちろんいまだ系統的には行なわれていないので、これらにつき基礎的ならびに応用的な研究が行なわれることが望ましく、またこれらの研究をより効果的に遂行するには国内関連各機関の共同研究態勢なども必要と考えられる。