材料試験炉専門部会報告書を提出

1.本部会の設置目的および審議経過

 材料試験炉専門部会は、材料試験炉をわが国に設置するうえに必要な基本的事項について検討するため、昭和35年8月設置されたものである。

 第1回専門部会は、昭和35年10月4日開催され、部会長に三島徳七東京大学名誉教授(原子力委員会参与)を選出し、ただちに審議に入った。その後、部会は毎月1回定例的に開催され、昭和36年10月には、この間の調査検討事項をとりまとめ、「材料試験炉専門部会中間報告書」として、三島部会長から、三木原子力委員会委員長あて提出された。これまでの審議状況ならびに同中間報告書の内容については、原子力委員会月報Vol.6No.11(昭和36年11月)に報告したとおりであるが、その後、部会は中間報告書をベースとして、運営方法、照射料金、運転管理態勢、要員充足等の諸問題について、順次より一層具体的に審議検討を行ない、その間、日本原子力産業会議の「材料試験炉設置問題に関するメモランダム」に含まれる見解が委員から述べられ、その趣旨も生かして、昭和37年4月27日開催の第16回材料試験炉専門部会において、その成果を報告書としてとりまとめ、同日付で最終的報告書として三島部会長から三木原子力委員会委員長あて提出された。

材料試験炉専門部会審議経過

 以下に報告書の全文を掲載する。

昭和37年4月27日

原子力委員会委員長

  三木 武夫 殿

材料試験炉専門部会会長

三島 徳七

材料試験炉設置に関する基本方針について

 材料試験炉専門部会は、昭和35年10月以降、材料試験炉に関し先進諸国における開発の状況とその動向について調査を進めるとともにこ 材料試験炉をわが国に設置するうえに必要な基本的事項について検討を行ない、昭和36年10月中間報告をいたしましたが、その後さらに調査検討を加え、一応の結論を得ましたので、別紙のとおり報告いたLます。

原子力委員会材料試験炉専門部会構成

部会長  三島 徳七  東京大学名誉教授
 稲生 光吉  三菱原子力工業(株)副社長
 今井 美材  原子燃料公社理事
 江上 竜彦  通商産業省企業局参事官
 久布白兼致  日本原子力研究所理事
 駒井健一郎  (株)日立製作所社長
 嵯峨根遼吉  日本原子力発電(株)常務取締役
 瀬藤 象二  日本原子力事業(株)社長
 橋口 隆吉  東京大学教授
 橋本 宇一  金属材料技術研究所所長
 長谷川正義  早稲田大学教授
 平塚 正俊  住友原子力工業(株)社長
 前田七之進  富士電機製造(株)常務取締役
 森田 乕男  日本原子力研究所副理事長
 矢木  栄  東京大学教授
 吉田 確太  東京電力(株)副社長

 1.材料拭験炉設置の必要性

 一般に、原子炉の炉心部に使用される構造材料および燃料要素は、比較的高温で長い間強い放射線に照射される。このようなきびしい条件におかれる原子炉用材料や核燃料は、普通一般の材料の場合に行なうような機械的性質の試験やその他の物理的・化学的性質を検討するだけでは不十分であって、あらかじめ放射線照射下における特性やその挙動を十分に見きわめておかねばならない。これらのことは、原子炉の安全性を確保する見地からもきわめて重要なことである。

 したがって、このような目的で行なわれる照射試験とくに、インパイルループによる開発試験・確性試験等は、原子炉用材料および燃料の国産化をはかるうえから、また、新型式の原子炉を開発するうえから、技術上必要欠くべからざるものであり、専用の材料試験炉の設置が強く要請される。

 昭和36年2月、原子力委員会の決定した原子力開発利用長期計画においては、昭和45〜55年の10年間に、原子力発電が経済的に完全に採算ベースにのって、600〜850万キロワット程度建設されることが見込まれており、このためには、昭和45年までの前期10年間に100万キロワット程度を建設することが至当であるとされている。原子力発電設備の自主的な国産化を達成することは、国家的にみて大きな目標であるので、後期10年の前半には、技術導入の域を脱却して、国産化を具現する態勢をとりうるよう開発を進めることが肝要であると考える。このような背景のもとに、昭和36年5月に調査したところによれば、材料試験炉による照射需要はきわめて大きく、とくに、インパイルループ試験には、9本ないし10本のインパイルループを必要とする。

 ひるがえって、わが国において照射試験を行ないうる原子炉としては、当面JRR−2・JRR−3があげられるが、JRR−2は、本格的なインパイルループ試験が有効に行ない得ないうらみがあり、また、JRR−3は中性子束が低いので、照射試験の範囲も限られたものとなる。したがって、これらの研究用原子炉のみでは、今後わが国で必要とする原子炉用材料・燃料の照射試験を量的・質的に満足せしめるには、はなはだ不十分である。

 一方、この種の照射試験を外国の機関に依頼することも考えられるが、その場合、次に示すような種々の欠点や不便が伴うことはさけられない。

(1)国内の炉とは異なり、希望する時点において、任意の希望する照射条件が得られるかどうかは、はなはば疑問であり、かつ、海外への照射依頼の見通しに不安定な要素がみられる。
(2)元来、この種の材料試験は、照射期間中の試料の変化・挙動等を追跡することに大きな意義があるが、海外に照射を依頼する場合には、この意義を生かすうえに、いろいろな困難があって、試験の遂行に大きな障害をもたらすものである。
(3)海外における照射料金は、アメリカの場合、AEC所有のMTR、ETRにしても、また、民間所有のWTR、GETRにしても、きわめて高額のものであり、さらに、照射前試験および照射後試験に要する費用を加算すると、その外貨支払いはきわめて莫大に上ることが予想される。

 このような欠点や不便を考えると、原子炉開発の重要な部分を占める照射試験を全面的に外国に委託して目的を達成せんとすることは、はなはだ困難となる。したがって、わが国原子力開発利用長期計画を効果的、かつ強力に推進し、原子炉用材料・燃料の基礎的性質の試験、国産化技術確立のための工学的試験、新しい原子炉型開発のための試験等を促進するため、基本的で重要な要件としては、高い中性子束のもので有効に照射試験を行ないうる専用の材料試験炉を設置することが、ぜひとも必要であると考える。

 2.材料試験炉の規模

 材料試験炉の規模の決定に当っては、照射試験の需要から、必要な中性子束・必要なインパイルループの大きさと数とを基礎としなければならない。前記の需要調査を基礎とした場合、中性子束については、第1表の平均中性子束を一応の対象とすることが適当であり、インパイルループについては、必要最小限度の試験を行ないうるよう考慮して、少なくとも第2表のインパイルループを必要とするものと考えられる。

第1表 材料試験炉の平均中性子束

第2表 インパイルループの領域別直径別本数

 なお、燃料領域の6インチループは、将来の研究開発に必要となることも考えられるので、その設置については、後述の炉の規模および建設費の範囲内で、設計の段階において検討するものとする。

 また、カプセル試験については、構造的・経済的に許される範囲で、なるべく多くの試験を行ないうるよう配慮することが肝要である。

 材料試験炉は、これらのインパイルループ試験用・カプセル試験用実験孔を効率よく配置し、実験相互の干渉が物理的にも機械的にもなるべく少なくなるようにし、かつ、必要な中性子束が得られるように設計されなければならない。このような配慮を加えて、その規模を推定すれば、必要とされる熱出力は、大略50MW程度になるものと考えられる。

 なお、照射試験と関連して、照射前試験および照射後試験もきわめて重要な試験である。材料試験炉が安全に運転され、かつ、その使命を全とうするためには、これらの試験を十分に行なうことのできる適正規模の臨界実験装置・ホットセル等の付帯設備を設置することが必要である。

 3.建設費および運転費

(1)建設費
 材料試験炉の建設費については、その設計内容により大幅に異なるものであり、現在の段階では細目にわたる積算は困難である。しかし、これまでに得られた資料を参考にして推算すると、熱出力50MW程度の炉の建設費は、敷地関係経費を別として、インパイルループを除く炉関係25〜30億円、建家関係9〜11億円、その他主な付帯設備関係16〜19億円、合計50〜60億円に見積られる。また、インパイルループの建設費については、ETR等の実例を参考とすれば、9本分として25〜30億円が見込まれる。

(2)運転費
 運転費については、建設費との関係もあるが、燃料費・人件費・間接費(金利を除く)等を含めて試算した結果、年間13〜16億円を必要とするものと推定される。

 4.材料試験炉の設置

 外国における材料試験炉は、GETR、WTRの2炉以外はすべていずれも政府が設置したものである。これは、国家目的に沿った研究開発を強力に促進するためと解されるが、それと同時に、建設費・運転費が巨額に達し、民間企業では建設・運転されがたい等の事情も大きな理由であると考えられる。わが国としては原子力開発態勢の技術的後進性の克服、原子力開発利用の自主性確保の観点から、国の計画的・組織的原子力開発の一環として、できるだけすみやかに専用の材料試験炉を設置し、これを関係機関が共同使用し、原子力開発研究の促進に資することが必要である。

 このような海外における事情およびわが国原子力開発の要請にかんがみ、材料試験炉は、日本原子力研究所に、国の資金をもって建設し、これを効率的に運営すべきであると考える。

 5.材料試験炉の設計・建設

(1)建設の時期
 材料試験炉の建設・運転までには、仕様および立地の検討に2年、建設に3〜4年、臨界から平常運転までに約1年位の期間を要するものと考えられる。したがって、実験に材料試験炉が役立つのは、設置計画をはじめてから6〜7年の後である。すなわち、昭和37年度から順調に作業が進捗したとしても、昭和41年に運転を開始しうる態勢となる。

 したがってその後、この材料試験炉を十分活用し、原子炉用材料・燃料の国産化を促進して、自立態勢の確立を期待しうる時期は、昭和44〜48年頃となるであろう。この時期は、長期計画後期10年の前半にあたるが、これは動力炉の計画建設量の残り約半数をすべて国産化する態勢樹立の時期である。このことは、わが国の原子力開発利用が自立を達成するまでの間、材料試験炉の建設が時期的に決して余裕のあるものとならないことを示している。

 原子力開発利用長期計画でも、このような観点から、昭和40〜41年に運転を開始する目標のもとに建設に着手することになっており、この線に沿ってできるだけすみやかに諸般の準備を進めることが望ましい。

(2)用地の選定
 材料試験炉の設置場所の選定に当っては、水利・地盤・気象・社会環境等の一般的な立地上・安全上・経済上の諸条件を考慮することはもちろんであるが、照射条件がいちじるしく阻害・制約されない環境の選択、関係研究機関の共同的な施設として運営されるという特殊条件など運営管理上の諸条件を合せ考慮することが必要である。

(3)設計・建設
 材料試験炉の建設にあたっては、日本原子力研究所が中心となり、諸外国で運転または建設されている材料試験炉をさらに調査・研究し、炉の性能はもちろん安全性を考慮して、材料試験炉発注のための仕様書を作成するものとする。なお、仕様書作成上必要な主要項目については、概念設計を行ない、必要に応じ外国のコンサルタントを利用し、その万全を期することが望ましい。インパイルループは、材料試験炉本体と一体をなすものであるから、炉の設計にあたっては、相互の関連性について十分な検討をすることが必要である。また、インパイルループの建設費は、炉本体の建設費と匹敵するほど多額にのぼるものであり、その設計・建設には、かなりの長期間を要するので、材料試験炉本体と併行して設計に着手することが肝要である。

 このほか、材料試験炉の運営上欠くことのできない臨界実験装置・ホットセル等の付帯設備についても、材料試験炉に対応して設計ならびに建設を進めることが必要である。

 6.材料試験炉の運転管理

(1)運営のあり方
 本材料試験炉は、その設置の趣旨ならびに施設の性格にかんがみ、関係機関の協力を得て、共同利用の実をあげうるよう、円滑、かつ、効率的な運営をはかることが重要である。このためには、材料試験炉の運転管理および照射計画等に関する運営体制を整え、かつ関係機関の運営面への実質的な参加が十分なされるように配慮することが必要である。

 このような趣旨にもとづき、日本原子力研究所においては、運営方針・照射試験計画・安全性の審査等に関する具体的な業務の推進に関して、関係機関との有機的な連けいを密にして、材料試験炉の円滑な運営管理に遺憾なきよう努めることが必要である。

(2)運転管理要員の確保
 材料試験炉は、その性質上各試験ごとにかなり異なった条件で炉を運転することになるので、その運転に際しては、とくに安全を確保すべきであり、また、インパルループ実験においては、実験条件の調整に完壁を期する必要がある。これらの理由から、運転管理上のより高度の訓練経験をもつ人員ならびに照射試験のためのより高級な技術者を多数必要とするが、これらの要員を短期間に確保することはきわめて困難である。

 したがって、日本原子力研究所においては、あらかじめ運転管理要員計画をたて、関係機関の協力を得て専任職員を確保し、設計・建設の初期から計画に参画させることが必要である。さらに、材料試験炉の運転管理技術を研修せしめるため、職員を外国の適当な機関に派遣する等その養成についても、積極的な措置を講ずることが必要である。とくに、インパイルループの種類・規模・型式は、実験内容に密接につながり、その操作は、高度な技術を要するので、あらかじめ十分研讃をつんでおくことが望ましい。

(3)照射試験費に関する基本的な考え方
 照射試験費は、材料試験炉が日本原子力研究所の施設として運営されることにかんがみ、日本原子力研究所の原価方式に従って算定され、徴収されることを原則とする。一方、このうよにして定められる照射試験費は、かなり高額のものとなり、開発途上にある民間企業の希望する照射試験を阻害するおそれも多い。したがって、原子炉用材料・燃料に関する国産化を積極的に推進するためには、少なくとも研究開発の段階においては、民間から要請のある照射試験に関し、情況に応じ、照射試験に要する経費に対し、何らかの軽減措置を講ずることが必要である。なお、原子力開発利用の自主的態勢が達成されるにしたがい、民間の負担能力も漸増することが期待されるが、研究促進上とくに重要と認められる原子炉用材料・燃料の開発については、必要な照射試験を含め、有効にして積極的な方策を樹立することが望ましい。