JRR−4の安全性に関する委員会の答申

 原子力委員会では、昭和36年10月20日付で諮問を受けた日本原子力研究所JRR−4原子炉施設の設置の安全性について審議を行なっていたが、結論を得たので次のとおり昭和37年4月4日付で内閣総理大臣あて答申を行なった。

37原委第23号
昭和37年4月4日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所の原子炉(JRR−4)の安全性について(答申)

 昭和36年10月20日付36原第3396号をもって諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


 日本原子力研究所の原子炉(JRR−4)の安全性については、日本原子力研究所の提出した「JRR−4の設置に関する書類」(昭和36年10月19日付)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門夢査会の安全性に間する報告書のとおり、安全上支障がないものと認める。

(別添)

昭和37年3月30日

原子力委員会委員長
  三木 武夫殿

原子炉安全専門審査会会長
矢木 栄

日本原子力研琴所の原子炉(JRR-4)の安全性について

 当専門審査会は、昭和36年10月23日付37原委第90号をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 I 審査結果

 日本原子力研究所が、遮蔽に関する各種研究を目的とし、茨城県那郡珂東海村日本原子力研究所東海研究所に設置しようとする熱出力連続最大1,000kW(短時間最大3,000kW)の濃縮ウラン・軽水減速冷却不均質型(水泳プール型)研究用原子炉の安全性について、同研究所が提出した「JRR−4の設置に関する書類」(昭和36年10月19日付)に基づいて審査した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうるものと認める。

 II 審査内容

1.立地条件

 この原子炉の設置予定場所は、日本原子力研究所東海研究所の敷地のほぼ中央にあって、民有地境界から約300m離れているが、後述の平常時および事故時における安全性の検討結果から考えて、一般公衆の安全に支障を与えることはない。

2.原子炉施設

(1)原子炉の性能
 この原子炉は、いわゆる“水泳プール型”原子炉であって、すでに多くの実績をもつ他の同種の原子炉と同程度の負の温度係数および負のボイド係数を有するものと期待されるので、2%程度の反応度の印加に対して固有の安全性を有するものと考える。

 この原子炉のもの包蔵反応度は約6%であり、一方この原子炉の制御系の吸収反応度は

  粗調整安全板(4枚)  計   約19%δK/K
  微調整棒  (1本)   約0.5%δK/K
  後備安全装置(2個)  計   約1.8%δK/K

であり、原子炉停止に要する吸収反応度の量は十分と認める。

 この原子炉の熱出力は連続最大1,000kW、短時間最大3,000kW(ただし、二次冷却水温度20℃以下)となっているが、冷却系統設備の設計からみて妥当な値であると考える。なお、この原子炉においてはプールの水の急激な異常放出は考えられないので、自然循環による冷却に期待しうる点は安全上有利であると考える。

(2)原子炉の保護系
 原子炉の運転の安全を期するため、事故発生を予防するインター・ロック方式、事故発生時にはその程度種類に応じて、警報系、スクラム系および後備安全系の安全保護設備を有している。

 この原子炉のスクラム条件としては、出力上昇(二系統)、炉周期減少、地震、電圧降下(停電も含む)、微調整棒下限、プール液面低下、一次冷却水量低下、一次冷却水温度の上昇および下降、一次冷却水放射線レベル上昇の他、安全スイッチ投入、炉心ブリッジ固定解除、散乱実験室開扉等があり、また手動にてもスクラムしうるようになっているが、これらは妥当なものと考える。

 なお、実験の必要上その他により、プール液面低下、一次冷却水量低下等はスクラム条件から除外されることがあるが、その場合の措置は保安規定等に定め、安全性が保たれるようにするので支障はないものと認める。

 微調整棒は手動または自動によって操作されるが、粗調整安全板は手動によって操作される。ただし、粗調整安全板および微調整棒がスクラム信号によって同時に炉内に挿入される動作は、すべてに優先するようになっている。粗調整安全板は原子炉の起動時においてそのうちの1枚が炉内に完全に挿入されている条件の下に、残りの3枚を同時に操作することができるが、しからざる場合は同時に2枚以上を操作することができないようなインターロックが設けられている。以上の制御安全系の設計は妥当なものと認める。

 万一、外的機械力等によって粗調整安全板の挿入動作に支障を来たした場合に備えて、後備安全装置が設計されていることは妥当な設計である。

 以上より、異常時における原子炉停止に対しては十分な計画がなされているものと認める。

(3)原子炉本体の構造
 プールはアルミニウムで内張した最大幅7m、深さ10m(水深9.5m)、長さ16mのもので、長さ10mの第一プールとそれに続く長さ6mの第二プールとが、ゲートによって分けられている。第一プールの一端は、凸字状となっていて、その三方向に散乱実験孔用シャッター、水平実験孔ビーム・チューブおよびリドタンク用サーマルコラムがプールタンクの内張に取りつけられている。また、原子炉停止後の炉心の遮蔽と冷却に必要な液面レベル以下には、管などの貫通部は全くなく、プールタンクアルミニウムの板厚は10mmであるので、このプール水が短時間内に大量に漏洩することはないといってよい。

 リドタンクは、サーマルコラムを介して、プールと直角方向に設けられた幅4m、長さ4.5m、深さ7m(水深6.7m)のもので第一、第二プールタンク同様アルミニウム板で内張されている。

 炉心部は、MTR型燃料要素、黒鉛をアルミニウムで被覆した反射体要素、格子栓などの集合体である炉心要素と、炉心格子板とからなっている。

 この炉心部は、炉心支持枠によって組み込まれ、炉心ブリッジによってプールの中に吊り下げられている。ブリッジは、プールの長手方向に沿って、移動できるようになっていて、炉心部を第一プールの凸宇部と、第一プールの中央、および第二プールの中央の3ヵ所に任意固定して、実験に供するようになっている。

 原子炉運転時にはブリッジは、手動式レールクランプ装置によって、必ずクランプして、使用するようになっている。

 下部格子板には、集水筒がとりつけられていて、原子炉運転時には、プール水が集水筒を通って、炉心要素を冷却すをようになっている。炉心要素を冷却したプール水(一次冷却水)は、集水筒から、プール内に設けられた冷却水管を通ってポンプで吸入され、熱交換器に送られ、二次冷却水によって冷却される。

 二次冷却水は、、冷却塔によって冷却される。原子炉の熱出力が200kW以下の場合は、プール水は自然循環によって燃料要素を冷却するようになっているが、その計算の仮定は妥当であり、燃料要素の冷却は十分に行なわれるものと思われる。

 熱交換器と冷却塔の容量は、原子炉の最高熱出力を夏季1,000kW、冬季3,000kWで運転できるよう設計されているが、これらの容量は十分である。

 原子炉の熱出力が200kWを越す場合、プール水は炉心を上部から下部に強制対流で流れて炉心要素を冷却し、集水筒に集められて冷却水管に吸入されるようになっている。この強制対流を確実にできるようにするため、集水筒には、自然循環時には開かれ、強制循環時には閉じられる弁がついている。弁は電磁石によって動作し、消磁した時弁は自重で落下して、弁を閉とするように設計されている。強制循環時、弁があやまって閉となったり、弁が漏洩したりすると炉心要素を下向きに流れる冷却水量が十分とならない心配があるが、この場合は、炉心部の直上、直下の冷却水温度が異常となったことを検出し、スクラム信号がでるようにっている。最高熱出力3,000kWの時の強制循環時でも、炉心出口の冷却水温度は高くなく、沸騰によるボイドの発生はないと計算されている。この計算の仮定は、妥当と思われるので、上記冷却水の異常温度検出とあいまって、炉心要素を下方に流す強制循環による冷却は、十分行なわれるものと判断される。

 一次冷却水は集水筒からプール内の冷却水管を上方に向って吸入されるので、一次冷却水管の事故があった場合、サイフォンによって、プール水が大量に放出されることが考えられるが、このサイフォン作用がたとえ起っても、プール水面の低下がある限度を越さぬように、プール内の冷却水管には、保護弁がついている。

 炉心は、前述のように、プール内を移動できるが、その場合集水筒からの集水を3ヶ所の炉心停置位置のいずれでも行なえるようになっている。

 ある場所で集水を行なう時は、他の2ヵ所の集水管は盲板をしてプール水をそれらから吸入しないように保護されている。

(4)燃料要素
 燃料要素は濃縮度約90%の濃縮ウランとアルミニウムとの合金からなる典型的なMTR型のものである。厚さ0.05cmのウランアルミ合金を厚さ0.038cmのアルミニウムで被覆した燃料板15枚を8cm角、長さ1mの外形寸法の燃料要素に形成させたものである。この燃料要素1本のウラン含有量は235Uで約166gである。

 この種の燃料要素については、国内および国外において多くの経験があるので、安全上とくに支障はないものと考える。

(5)耐震設計
 炉心部高出力運転時におけるブリッジ固定クランプおよびプール壁等原子炉本体主要部分に対しては水平震度0.6、その他原子炉関係機器に対しては水平震度0.4、建屋関係に対しては、水平震度0.3で、また、その水平震度のそれぞれ50%の垂直震度について安全なように設計されている。

 なお、炉室地階に地震計を設け、上下動、水平動、いずれも25gal以上の加速度が働くと、スクラムが働き、炉は停止するようになっている。この耐震設計の方針は、この原子炉の立地、構造形式からみて十分安全側の処置である。

(6)実験周設備
 この原子炉には、遮蔽実験用として、多数の設備が設けられている。すなわち、実際寸法の試験体によって、マクロ的な遮蔽実験などを行なうための第一、第二プール、基礎物理量や常数の測定などに用いるリドタンク実験設備、空気中の二次遮蔽効果、散乱線の影響などを測定するための散乱実験設備があり、この他に水平実験孔、ガンマファシリティ等がある。

 第一、第二プールタンクおよびリドタンクの構造は前項(3)「原子炉本体の構造」に記したようなものであるので、プール水が多量に流出するということは考えられない。プール中につき出たサーマルコラムは、プール内張によって、第一プール側とリドタンク側とに分割されており、また、コンクリートによるアルミニウム内張の腐食を防ぐために、その接触面には合成塗料が塗布される。

 したがってサーマルコラムが何らかの事故によって破損したとしても、第一プールの水がリドタンクの水に混合することはないと考えてよい。

 その他上記の実験設備については、原子炉の安全性の見地からみて、支障と思われる点はない。

3.平常時の安全対策

 この原子炉の平常運転時においては、敷地周辺の一般公衆はもちろん、原子炉の運転に従事する従業員に対しても、放射線線量率および放射性物質の濃度が科学技術庁告示第21号に定める許容値を十分下まわるように、次のような配慮をもって設計計画されており、管理能力も十分あると認められるので、その安全は確保しうると認める。

(1)遮蔽設計基準
 原子炉本体およびその付属施設の遮蔽設計に当っては平常運転時に受ける従事者の被ばく線量が作業条件を考慮して1週10mremを下まわる値を設計基準としている。

(2)廃棄物処理

i)気 体
 この原子炉から平常運転時に放出される41Aの量は極めて少なく、約5.5μc/secと推定される。これだけの量が高さ20mの排気筒から放出されるとき、年間平均濃度の敷地外での最大値は約1×10-10μc/ccとなり、一般公衆に対する最大許容濃度の1/300にすぎない。

 炉室内でも、水中に溶解して中性子の照射により生じた41Aが温度の上昇により、一部ガスとして分離し炉室に放出される可能性はあるが、10%の放出を認めても一時間3回の換気回数により1.2×10-8μc/cc程度となり、職業人についての最大許容濃度を十分下まわっている。

ii)液 体
 10-7μ/cc以上の廃液は原研内廃棄物処理場に送られるが、その処理能力は十分である。

iii)固 体
 固体廃乗物は、原研内廃棄物処理場に送られるが、この原子炉では遮蔽実験に使用される試験用材料の放射性固体廃棄物が相当量生ずるものと考えられる。しかし、これに対処しうる廃棄施設が、この原子炉を運転開始する時期までに設備されることになっている。

(3)放射線管理
 この原子炉および付属施設においては、日本原子力研究所として統一された放射線管理が行なわれ、従事者の受ける被ばく線量が年間1.5rem以下となるように管理される。

4.事故時の安全対策

(1)安全保護設備
 前項2−(2)「原子炉の保護系」で述べたように警報、スクラム、インターロック等のほか、ブリッジ上部の安全棒落下機構が何らかの事故によって破損しても、手動による後備安全装置が施されているので事故に対する保護設備の機能は十分備えていると認める。

(2)考えられる事故

i)反応度事故
 実験による反応度外乱、冷水事故等により原子炉に印加される反応度は多くても1%δK/K以下であり、炉の動特性解析結果から知れるごとく仮りにスクラムされなくても原子炉は安全である。

 起動事故としては粗調整安全板3枚一括動作により最大1.5%δK/K/min(平均0.75%δK/K/min)の反応度変化を生ずる可能性があるが、必ず1枚の粗調整安全板が全部炉心内に存在しているので、仮に3枚の粗調整安全板が全部炉外に引き抜かれたとしても、この場合の原子炉の超過反応度は最大限1〜1.5%δK/Kであり、連続引き抜きの状態においても危険な状態に達することはない。4枚目の粗調整安全板の連続引き抜き事故の場合にも、他の3枚の粗調整安全板が所定の位置にある条件の下では、この原子炉は危険な状態には到達しない。なお、粗調整安全板の操作は手動のみで行なわれるものであるから、その動作の異常は当然操作員の注意を惹き、また誤操作の場合においても上記の最大限の反応度に達する以前に多数の警報系、スクラム系の動作が行なわれるから更に安全である。

 次に運転中における粗調整安全板の連続引き抜き事故については、粗調整安全板は同時に1枚しか動きえないことおよび1枚の粗調整安全板に残存する吸収反応度は、1.5%程度以下であることから、仮りに誤操作および保護系の不動作が複合しても原子炉の安全性は確保される。

 最悪の反応度事故として、起動時に粗調整安全板の3枚が所定の位置より上り過ぎて原子炉が臨界寸前の状態にあった場合、4枚目の粗調整安全板が誤操作または機器の故障で連続的に引き抜かれれば、原子炉には最大0.5%δK/K/min(平均0.25%δK/K/min)の反応度変化率で粗調整安全板の有する反応度が全部投入されることが考えられる。ただし、この種の人為的な誤りの複合および機器の誤動作の重畳は考えられないし、仮にこの場合にも多重化した保護系統により原子炉はスクラムされるので、上記のごとき仮想的条件のもとでも、原子炉の安全は保持されると考える。

 以上より本原子炉においては反応度事故によって燃料の溶融等に至ることなく、十分に安全が保てるものと認める。

ii)冷却系事故
 前項2−(3)「原子炉本体の構造」で述べたようにこの原子炉の炉心は第一あるいは第二のプール中におかれて運転されるが、これらのプールはいずれも建屋の構造と一体となるように施工された耐食性のアルミニウム板で内張りされている。これら内張りを貫通する配管などはすべて、運転停止後の炉心からの放射線の遮蔽と炉心部の冷却に必要な水を保つに十分な液面より上に設けてあるので、プール水の漏洩に対しては十分な安全性が保たれていると考える。

iii)燃料要素破損事故
 燃料要素の構造は前項2−(4)「燃料要素」で述べたとおりMTR型で0.038cmのアルミニウムで被覆されている。したがってこの被覆に腐蝕、疲労などによって小さな孔や亀裂が生じることは皆無とは云えないが、アルミニウム被覆の約1cm2にわたる破損が生ずれば、これは冷却系に備えられた放射線検出器などによって検出可能であり、事故の拡大を阻止することが可能である。仮にこの程度の破損による核分裂生成物が外部へ放出されたとしても、最も問題となる131Iの影響は、最悪気象条件下においても、科学技術庁告示第21号に定める許容被ばく線量の約103分の1となり問題はない。

(3)災害評価
 上に述べた諸事故を考えたとき、いずれの場合にも燃料の溶融は起らず、また問題となるような燃料被覆の大破損も考えられない。従って一般公衆に対して問題となるような事故は生じないものと考える。

5.技術的能力

 この原子炉の設置計画は、日本原子力研究所のJRR−4建設室を中心として進められる。室員としてはJRR−2およびJRR−3の建設に相当の経験を有するものが中心となって構成されている。また原子炉の製作据えつけは、この種原子炉の設計製作に経験をもつ株式会社日立製作所が当ることになっており、この原子炉の設置に要する技術的能力は十分確保されるものと認める。JRR−4の運転管理には、JRR−4運転開始までにおける原研内各原子炉の運転管理の経験が十分生かされ、これらに多くの経験を有する職員が有効に配置されることになっているので、この原子炉の運転に必要な技術的能力は十分確保されるものと認める。

III 審査経過