再処理専門部会報告書を提出

 再処理専門部会は昭和34年5月以降15回にわたり使用済燃料の処理に関する問題の検討を行なってきた。

 その間、昭和35年5月に「海外の再処理状況調査とわが国における当面の研究開発方針」に関して中間報告を行ない、また昭和36年4月には再処理調査団を海外に派遣し世界の現状と動向を調査した。

 これらの諸資料を集約して昭和37年4月11日付を以って部会長(大山義年東京工大教授)から原子力委員長へ次の報告書が提出され、同月18日の委員会において了承されるところとなった。以下に報告書の全文を紹介する。

昭和37年4月11日

原子力委員会
委員長 三木 武夫殿

再処理専門部会
部会長 大山 義年

 再処理専門部会は、昭和34年5月以降わが国における使用済燃料の処理に関する当面の研究開発方針および再処理のあり方について、15回にわたり審議を重ねてきましたが、今回その結果をとりまとめましたので、ここに報告します。

第1章 わが国における使用済燃料の再処理

1−1 再処理の意義

 原子炉の燃料として用いられる核燃料物質は、炉内で完全に燃焼しきることはできず、ある限界まで燃焼すると、使用済燃料として原子炉からとり出される。

 この使用済燃料中には、残存ウランおよびウラン−238から転換したプルトニウム(トリウム系原子炉においては残存トリウムおよびウラン−233)が含まれておりまたこれらのものと同時に高放射能を有する多種の核分裂生成物が共存しているので、在来のエネルギー源である石炭、あるいは重油等とはいちじるしくその趣を異にしている。

 使用済燃料中に含まれているプルトニウム、残存ウランは、長期的な原子力平和利用の面からみて重要なエネルギー源であり、これを原子炉燃料として再使用することが要請される。したがって使用済燃料の燃料成分を有効に利用する観点から原子力発電の発展に伴い増大する使用済燃料を再処理することが必要となる。とくに濃縮ウランを用いる軽水型動力炉の場合はこの使用済燃料中の減損濃縮ウランの積極的利用は大きな漂題であり、再処理の意義はきわめて大きい。

 また使用済燃料は多種類の高放射能性物質を含んでいるので、炉から取出されたままの状態で長期間放置もしくは廃棄することはできない。したがって、たとえさし当りプルトニウム、劣化ウラン等が実用化の段階に達していなくても、高放射性廃棄物を処理する観点から使用済燃料を再処理することが必要である。

 このように使用済燃料の再処理はプルトニウム、残存ウラン等を有効に利用する燃料サイクルを確立する積極的な面のみならず使用済燃料の廃棄物処理という消極的な面からみても必然的な要請であるといえる。

 ひるがえって世界における再処理の現状を考察するにアメリカ、イギリス、フランスの3国においては、すでに再処理工場を有し、動力炉からの使用済燃料の再処理を工業生産的に実施する計画を具体的に進めており、さらに欧州原子力機構のユーロケミクにおいては、加盟国の使用済燃料を共同処理するパイロットプラントの建設を進めている。これらの事実はそれぞれ自国内の動力炉からとり出される使用済燃料を再処理する方向にあることを示すものである。したがってわが国においても原子力発電の発展に即応して再処理の方策を確立することが重要である。

1−2 再処理体制のあり方

 原子炉からとり出された使用済燃料は、その量が増加した場合、これを単に貯蔵のみによって処理することは不可能であり、使用済燃料を再処理することが不可欠となる。

 この場合、再処理体制としては既存の海外の再処理施設、たとえば米国および英国の再処理工場に再処理を委託する方式と、国内で再処理する方式とが考えられるが、わが国の原子力開発利用が総合的に進展するためには、ぜひとも燃料サイクルの確立を要するので、わが国の動力炉から出た使用済燃料の再処理は、国内で行なう体制が必要欠くべからざるものである。

 一方わが国からみて、海外に再処理を委託するためには、多量の使用済燃料を海上輸送することが前提となるが、この使用済燃料の海上輸送には世界的に経験が少なく、解決を要すべき問題を残している現状である。たとえば、輸送用大型キャスクの問題をはじめ、海上輸送に伴う第三者損害賠償の問題は重要な案件となっている。さらにたとえこれらの問題が解決されたとしても、輸送費は再処理のために要する全経費中、大きな割合いを占める可能性があるので、再処理の海外委託は問題が残るものと考えられる。

 このような点を総合してみると、使用済燃料の再処理を国内で実施し、わが国の燃料サイクルの確立に資すべきである。

 なおこの場合、国内における再処理事業は原子燃料公社が担当することになっているので、原子燃料公社においては、早期に万全の体制を整えるべきものと考える。

1−3 燃料型式別の再処理

 わが国において使用済燃料の再処理を考える場合、重要なことは燃料の種類とその数量であるので、燃料型式別に再処理を考察する。

 動力炉からとり出される燃料の数量は多量であり、また連続的である。研究炉および臨界実験装置からのものはきわめて少量かあるいは間けつ的なものである。便宜上炉としては動力炉と研究炉に、燃料の種類としては、天然ウラン、低濃縮ウラン(5%以下)、高濃縮ウランに大別することにする。

(1)研究炉用燃料

(a)濃縮ウラン系
 研究炉用高濃縮ウランはJRR−1、JRR−2を初めとして大学、民間において建設される原子炉に使用され、低濃縮ウランは、臨界実験装置に使用される。これら研究炉用の濃縮ウランはすべて米国より賃借しているものであり、使用後は日米細目協定により返還することになっている。したがって研究炉用濃縮ウランの使用済燃料は国内再処理の対象から除外して考えるのが妥当である。

(b)天然ウラン系
 天然ウランを使用する研究炉としてはJRR−3があり、さらに天然ウランを使用する臨界未満実験装置があるが、使用済燃料として再処理を要するのはJRR−3のみである。すなわちJRR−3の使用済燃料は昭和38年度から年間6トンずつ取り出される予定であるが、研究用に用いるものは別としてわが国で再処理工場が稼働するまでは貯蔵することが最も適当であると考える。

(2)動力炉用燃料

(a)天然ウラン系
 原電1号炉において英国から輸入する燃料要素は英国に返還される予定であるので、国内での再処理の対象にならないが、国内で生産した天然ウランを用いるようになれば、その使用済燃料は国内再処理の対象としなければならない。天然ウラン系にあっては、その使用済燃料中に含まれるプルトニウム、劣化ウランが有用物質として挙げられるが、プルトニウムは燃料として利用がいまだ確立されておらず、かつ劣化ウランはその利用が十分に明らかになっていない現状である。したがって天然ウラン系の使用済燃料の処理としては、短期的にみれば、未処理のまま貯蔵することが当面採られるべき方法であるともいわれるが、長期的にみれば貯蔵は現実的でなく再処理することが必要と考えられる。すなわちマグノックス被覆の天然ウラン燃料においては、水中に長期間浸漬しておくことは技術的に問題があるので貯蔵は再処理するまでの暫定措置であるといえる。

 なお天然ウラン系の使用済燃料を再処理したとしてもプルトニウム、劣化ウランの利用が確立しないときは粗製のまま貯蔵することも検討する必要があろう。

(b)低濃縮ウラン系
 低濃縮ウラン系の使用済燃料中に含まれるプルトニウムについては、天然ウランと同様であるが、減損ウランについては、天然ウランとは異なり、ウラン−235の含有率が高く、十分価値をもっているので、これを回収し動力炉に再び使用することができる。しかも濃縮ウランは現行の日米原子力協定においては、日本政府が購入しこれを原子力発電事業者に賃貸することになっているので、減損濃縮ウランの有効利用は積極的に推進する必要がある。したがって低濃縮ウラン系についての再処理は天然ウラン系より積極的な意義をもつものといえる。

1−4 使用済燃料の要再処理量

 動力炉からの使用済燃料は国内で再処理することを前提として、再処理工場を考える場合の要件としては動力炉から取出される使用済燃料の数量を天然ウランと低濃縮ウランの種別に分け、かつ時間的要素を入れて推定することが必要である。

 そこで、昭和36年2月に改訂された原子力委員会の原子力開発長期計画を基礎として計算することとした。同計画によれば、昭和35年を初年度として前期10年間に電気出力約100万kW、後期10年末には前期の分を含めて総電気出力約700万kWないし950万kWに達するものと想定しているが、建設時期、炉型式の明らかなものは、すでに建設中の原電1号炉で、これにつづく発電2号炉は、低濃縮ウラン軽水冷却型炉が適当であるとし、その他については具体的に示されていない。

 使用済燃料の数量を推定するにあたり、前期10年の発電用原子炉の開発規模は長期計画に示された規模、約100万kWとし、その他JRR−3、JPDRを含めて試算を行ない(第1表参照)、後期10年末においては、長期計画に示された規模の下限値をとって700万kWと想定した。また建設の時期についても前期10年間の開発のテンポは漸進的にのびるものと考え、後期10年については指数函数的に増加するものとして、第1図に示すように推定した。

第1表 使用済燃料計算基礎


第1図 原子力発電の長期想定

 その間に建設される炉型に関しては、前期10年には天然ウランガス冷却型炉を1〜2基、他を低濃縮ウラン型炉とし、後期10年にあっては総開発規模(600万kW)に対し、天然ウラン型炉の占める割合を20〜50%(120〜300万kW)と仮定した。さらに使用済燃料の量に影響を及ぼす燃焼率、熱効率については前期10年にあっては、天然ウラン黒鉛減速型炉では、3,000MWD/t、濃縮ウラン型炉では、11,000〜13,000MWD/tとし、後期にあってはピットマン報告による技術の進歩を見込んで使用済燃料の量を控え目に算出しこれらの比較的控え目な前提条件をもとにして算定しても各年次に原子炉からとり出される使用済燃料の数量は第2表に示すように年々増加して、昭和45年には約90〜130トン、昭和55年には約370〜550トンに達する。

第2表  要再処理燃料量の長期見通し


 このうち現在建設中の原電1号炉の天然ウラン燃料(注)は英国AEAとの契約により、英国に使用済燃料のまま送り返し売却する予定になっているので、その場合における要再処理燃料量は昭和45年において年間35〜70トン、昭和55年には年間310〜500トンとなる。これら2つの場合を図示すれば第2図のとおりである。

(注)天然ウラン燃料は重水炉とガス冷却炉の平均をとって100MW、1年当り21t(燃料率5,000MWD/t)濃縮ウラン燃料はP WR、BWR、軽水核過熱炉、OCR、SCR、GCRの平均をとって、100MW、1年当り4.6t(燃焼率19,000MWD/t)とした。

 もしこれらを再処理せず全部貯蔵していくとすればその累計量は第3図に示すように、前期10年末には約420〜450トン、後期10年末には2,500〜3,500トンに達するものと推定される。原電1号炉からの使用済燃料を除けば、前期10年末に100〜140トン、後期10年末に1,650〜2,600トンにおよぶものと推定される。

第2図 使用済燃料量の長期見通し
第3図 要再処理燃料の累積量


1−5 再処理工場のあり方

 動力炉燃料の再処理を目的とするからには、その再処理費は経済的な観点を考慮して合理的なものでなければならない。この点に関しては現在までのところ、再処理事業の性格が純経済的なものでないので再処理の経済性を検討するには、一応米国原子力委員会(AEC)の再処理料金が標準として考えられている。

 1957年に設定した当初の再処理料金は1日当り15,300ドル(1日の処理量1トン)であったが、賃金物価指数等によるエスカレーション方式でスライドするので、1960年8月以降は16,988ドルと改訂され、またこの傾向を、1967年に外挿すると21,000ドルになるという。

 これに対し民営再処理工場建設を計画している米国IRGで行なった1日1トンの工場の試算によれば、再処理費は年間操業日数に応じて次のようになっている。

  年間操業日数(日/年)   再処理費(ドル/日)
150
40,000
200
21,000
300
18,000

 また原子力委員会核燃料経済専門部会の再処理の経済性に関する中間報告をもとにして行なった試算によれば、わが国で1日1トンの工場を建設し、運転(300日/年操業)した場合の再処理費はトン当り約800万円(約22,000ドル)となっている。これは使用済燃料の遠距離海上輸送の点を考慮に入れるならば、上に述べたAECの再処理料金およびIRGの試算値と比較して必ずしも割高なものではない。

 これらのことから一般に1日1トンという規模がここ数年の間に建設される再処理工場の経済的最小ユニットであるといえる。

 一方再処理工場の建設費についてみた場合、プロセス機器類の占める割合が低いので、工場規模が増大しても所要資金はあまり変動しない。したがって長期的な観点に立って見れば適当規模の工場を建設することが得策であるが、問題は単に再処理工場のみの経済性で考えられるべきものではなく、使用済燃料の海上輸送あるいは使用済燃料の貯蔵等の要因をも考慮に入れて総合的燃料サイクルの観点に立って検討されるべきものである。このような要因を織り込んで経済的に最小ユニットの工場を建設しておくことが望ましい。

 なお、当部会において検討した再処理工場の再処理費を表示すると第3表のとおりであり、これを工場規模と対比すると第4図に示すとおりである。この図から1日1トンの処理能力を有する再処理工場の再処理費はトン当り500万円〜1,170万円と大きくバラついているが、前にのべた核燃料経済専門部会報告をもとにして行なった再処理費の試算値は1日1トン、工場における再処理費の平均の値に近い。一方海外に再処理を委託し、トン当り500万円で再処理しえた場合には、これに海上輸送費としてトン当り700万円(TID−8531による)を加算すれば、海外委託再処理に要する経費はトン当り約1,200万円となる。国内再処理を行なう場合の再処理費がこの程度以下でよいというのであれば、第4図からおおよそ1日の処理能力700kg程度の工場でも国内再処理の方が経済的にも有利になりうるものと考えられる。

第3表 再処理工場規模と再処理費

第4図 工場規模と再処理費

 これらの諸観点を総合して、当部会としては、わが国に建設する再処理工場として1日0.7トン(フル運転時(注)約170トン/年)ないし1日1トン(フル運転時(注)約240トン/年)の規模のものが妥当であると考える。

(注)フル運転時でも保守のための除染、保守、燃料バッチ間調整のために工場の停止期間があり、実稼働率は70%程度として計算した。

 以上においてわが国の要再処理燃料の量から再処理工場の規模を考察してきたが、その建設時期はいつになるであろうか。

 前述したように原子力発電計画の初期には要再処理燃料の量が少ないので、上記工場の処理能力の方がはるかに大きい。このような観点から年間に生ずる使用済燃料の量が1日0.7〜1トンの工場規模に見合うようになる時期まで工場の稼働開始をずらすならば、その場合には使用済燃料の貯蔵量はかなりの量に達し、また工場が稼働を開始しても当初数年の間は要員の訓練ならびに試生産期として年間の処理量はフル運転時のそれに比して低くなるので、ここで考える後期10年末(昭和55年末)までに生ずる要再処理燃料の大半は処理しえなくなる。したがってこの後期10年末までの間に生ずる要再処理燃料の総量を処理するのに最も合理的であるためには、開発の当初における工場の余剰能力をおさえ、かつ後期10年末における工場の能力不足(その時点における累積貯蔵量)を最少にしうるような時期を考えるべきである。

 第5図はそのような観点から要再処理燃料の累積量(原電1号炉燃料を含めた場合)と1日1トンの再処理工場を昭和43年に稼働せしめた場合の処理量(累計)との関係を示したものである。この図から次の2点が推論される。第1には工場が稼働開始するまではもちろん、稼働開始後も2〜3年の間は要再処理燃料の方が工場の処理量を上回り、必然的に貯蔵(未処理燃料貯蔵)施設を必要とする。第2には天然ウラン系動力炉の開発規模が大きい場合には昭和46年に要再処理燃料の量に見合い、後期10年の後半には再び使用済燃料の量が工場の処理量を上回る。また、天然ウラン系動力炉の開発規模を低く見積った場合1日1トン工場では幾分大きめかと思われるが工場の余剰能力が著しく大きすぎるほどのものではない。

第5図 要再処理燃料(累積)量と再処理(累積)量

 なお、原電1号炉燃料を英国に送りかえすのであれば、1日700kg規模の工場の建設を考慮するか1日1トンの工場を昭和45年頃から稼働せしめる必要があると考える。

 このような観点からみると工場の稼働開始の時期は原電1号炉燃料の処置、要再処理燃料推定量の幅、さらには工場規模の幅等の条件によって多少のズレはあっても昭和43年頃になるものと考えられる。

 これらを総括して当専門部会としては、1日0.7トン(約170トン/年)ないし、1日1トン(約240トン/年)の再処理工場を、昭和43年頃から稼働せしめることが妥当であると考える。

 なお技術修得の目的と要再処理燃料の数量との関連において当初は試生産期とし、以後漸次処理能力を上昇させて数年後にはフル運転を行なうようにすることが望ましいとの結論に達した。具体的要目は次章において詳述するが、特記したい点としては上記の規模および稼働の時期は、あくまで長期計画にもられた原子力発電が計画通り実施されることを前提において考慮されたものであり、しかもいくつかの条件をおいて算定されたものであるので、発電計画の実施のズレと再処理施設の建設、稼働開始の時期のズレがおこる可能性はあるが前述の操業方式を適宜調整することによってこれらのズレはカバーされるものと考える。

第2章 再処理工場についての要目

2−1 要再処理燃料

 要再処理燃料としては新長期計画において示されたように前期10年に100万kW、後期10年に600〜750万kWの原子力発電所が建設され稼働することを前提とし、天然ウラン系および低濃縮ウラン系燃料を対象とするものとする。なお、研究用原子炉に用いられる高濃縮ウラン系燃料は米国政府から賃貸されているものであり、かつ、その再処理工場としては設計概念も著しく異にするのでさしあたってはこの対象から除外することとする。

2−2 工場規模

 工場規模については動力炉から取り出される要再処理燃料の量と見合いかつ経済的にもより合理的な規模でなければならないが、すでにのべたようにわが国に建設する最初の再処理工場は、1日の処理量として0.7トンないし1トン程度の処理能力を有する規模のものが妥当なものと考える。

 また、再処理工場の施設としては燃料の受入れ、貯蔵、脱被覆、溶解、主分離、ウランおよびプルトニウムの精製、廃棄物処理、工程管理のための分析等の施設を含むものとし、場合によってはプルトニウムおよびウランの金属あるいは酸化物への転換工程を付置することも考慮する必要があろう。これらの施設のうち、貯蔵施設については工場の稼働開始前はもちろん稼働期間中にも、使用済燃料の貯蔵を必要とする可能性が大きいので、十分余裕をもった貯蔵施設も付置すべきものと考える。

2−3 建設時期

 建設時期については、新長期計画において前期10年の後半とされているが、使用済燃料中の有用成分の回収利用の観点からもまた長期間使用済燃料をそのまま貯蔵しえない事情を勘案すれば、再処理工場は動力炉から使用済燃料がでてくる時期には建設されることが望ましい。しかも再処理工場の設計、建設には5〜6年を要するので、第3表に示すように昭和37年度に予備設計に着手したとしても、稼働開始時期は昭和43年頃となる。かりに昭和43年に稼働を開始し、当初は試生産(70トン/年〜90トン/年)、次いで処理量漸増(130トン/年〜190トン/年)をへてフル運転(170トン/年〜240トン/年)に入るもの、と仮定した場合、原電1号炉の使用済燃料をも含めた場合はほとんど工場の休止期間はなく運転されると見込まれる。したがって、建設計画としては昭和37年度に予備設計に着手することが適当であると考える。原電1号炉の使用済燃料を英国へ売却した場合には、2ヵ年程度のおくれで処理能力に見合うようになると推定される。

第3表 再処押工場建設計画案

2−4 建設計画の進め方

 わが国に建設される最初の再処理工場は原子力開発の一環として長期的見通しのもとに建設運転されなければならないが、その目標とするところは、わが国において稼働する動力炉からとり出される使用済燃料を再処理するとともに、将来の本格的操業のための再処理技術の確立、要員の訓練をはかることにある。

 その工場の建設を進める場合、わが国においては再処理技術が未経験の分野であり、しかもその技術の特殊性、とくに安全性の確保を重視して、十数年の経験を有する先進諸国から技術導入を行なうことが適当であると考える。しかし工場の建設にあたっては、国内技術でまかなわれるものも多いので最大限に国産化をはかるべきである。

 建設計画の第1段階としては予備設計を行なって具体的な設計理念を確立する必要があるが、予備設計においてはとくに安全性を重視しつつ建設費および操業費の見積りを行なって建設のタイムスケジュールを決定し、これと並行して敷地の選定を行なうことが適当である。

2−5 工場設計要目

(1)処理方式
 再処理方式としては、諸外国ですでに実用段階にあるビュレックス法を採用することが適当である。また前処理工程については、機械的脱被覆法が、化学的脱被覆法に比べて放射性廃棄物量が少なくなることから近来大いに開発されてきたので、この採用を考慮すべきである。

(2)保守方式
 保守方式には、遠隔保守と直接保守の2方式があるが、遠隔保守方式は、実稼働率が高くなる利点があるが、また融通性があまりない等の欠点がある。一方直接保守方式は融通性も多いが実稼働率が低い欠点がある。

 本格的生産工場の場合には、除染日数を少なくする目的から遠隔保守方式が適当であり、パイロットプラントないし半生産工場では直接保守方式がよいと一般的にいわれているが、放射能の強い部分は遠隔保守を、弱い部分は直接保守という組合わせ、さらには故障あるいは事故等にそなえて、工程中の主要な個所はこれら両保守方式の併用といったことも検討することが望ましい。

(3)臨界管理
 再処理工場においては、連鎖反応による核爆発はまずおこり得ないであろうが、臨界事故をおこさぬように厳重な臨界管理を実施することがきわめて重要である。

 臨界管理法として、濃度による方法、回分量による方法、幾何学的形状による方法および中性子毒による方法がある。近来、幾何学的形状による管理が多く採用される傾向にある。しかし臨界管理は再処理工場の安全運転を確保するたてまえから上記の方法を適当に組み合わせて十分安全でしかも経済的な方法を採用すべきであろう。

(4)その他
 再処理工場の遮蔽は建設した後では、その改造が困難なので、遮断壁の厚さはあらかじめ将来における燃焼度の向上等を考慮に入れて設計する必要がある。なお、劣化ウランは当分の間精製の必要がないと考えられるので、その貯蔵について十分検討を要する。

2−6 敷地選定

 工場数地の選定にあたっては、公衆安全の立場から十分考慮しなければならないが使用済燃料の輸送費を少なくするためには、原子炉の設置場所からあまり遠隔の地でないことが望まれる。

 再処理調査団報告によれば敷地選定にあたって考慮すべき項目として、工場の位置、敷地の広さ、地質条件、地下水条件、気象条件等があげられているのでこれらの諸条件について十分検討する必要がある。

 再処理工場の敷地選定基準はアメリカにおいてもヨーロッパにおいても、まだ決定されていないが、わが国としては欧米の経験に徹して、再処理工場として必要な条件を十分審査の上決定されるべきものである。

2−7 建設費および直接操業費

 工場の建設費および操業費は、本設計を行なってからでないと、明確な見積ができないが核燃料経済専門部会の報告書に基づいて推算すると、つぎのようになる。総建設費は、1日0.7トンの直接保守工場の場合、おおよそ65〜75億円程度、1日1トンの直接保守工場の場合70〜80億円と見積られる。年間直接操業費は、1日0.7トンの工場では7〜8億円程度、1日1トンの工場では9億円程度が見積られる。これ等の数値は設計理念や運転の方式によって異なってくるのはいうまでもない。

 また、この建設費のうち技術料と特殊な機器費を除いては、あまり外貨を要しないものと思われる。

第3章 再処理技術の研究開発

3−1 再処理に関する基礎研究

 溶媒抽出法に関する基礎研究は広い範囲にわたるが溶媒抽出法の基礎データを得るため小規模な装置による試験を推進することが望ましい。

 とくにわが国では、高放射能下の工学の経験がまだないので、日本原子力研究所に設置されるホットケーブを用いて溶媒抽出法の一連の工学試験を行ない、装置の改善等を積極的に進める必要がある。これら一連の工学実験により高放射下の運転操業の経験が得られる再処理工場の建設運転に寄与することが大きいものと考える。

 なお臨界管理については、その重要性にかんがみ研究開発を推進する必要がある。

 その他溶媒抽出法以外の再処理方式、たとえばフッ化物蒸留法、高温ヤ金法などについてもその将来性にかんがみ、基礎研究を実施することもまた必要である。

3−2 分析技術の開発

 再処理工場を安全に運転するためには、厳正な日常分析が円滑に行なわれるべきである。このような分析管理には、高い放射能を扱うという特異性ばかりでなく、多種多様な分析対象および分析方法が要求される。しかるに、わが国においては、高放射線下の試料採取ならびにその分析の技術に関する経験はほとんどなく、再処理分析関係の技術的基盤は皆無といってよいであろう。したがって再処理工場に必要な分析技術の確立とその分析要員の養成は、ゆるがせにできないことであるので、工場建設の時期と見合って積極的な措置を講ずることが望ましい。

3−3 放射性廃棄物の処理

 再処理工場からは多量に放射性廃棄物が排出されるので、その処理はきわめて重要な要件である。欧米においては現在は高レベルの廃棄物はタンク貯蔵を行なっているが、さらに安全確実な処理方法を鋭意開発中である。また中低レベルの廃棄物はそれぞれ定められたレベル以下に処理して放出している。とくに土地の狭あいなわが国においては、これらの廃棄物の処理および処分は重要と考えられるのでその研究開発については系統的に、より一層力を注ぐべきである。

3−4 関係技術者の養成

 再処理工場の操業には、その安全管理、保守管理の面から普通の化学工業に比較して、多くの専門的技術者が必要である。したがって、ホットケーブによる工学試験により十分ホットの経験を得るほか、相当数の技術者を海外の再処理工場へ派遣して、各分野における専門的な訓練を受けさせることは必要欠くべからざることである。

第4章 再処理に関連する重要事項

4−1 使用済燃料に関する措置

 原子炉からとり出される使用済燃料については、昭和36年9月11日の原子力委員会において「使用済燃料を海外に返還する場合を除き、国または公的性格を有する機関が所有する」旨の方針決定が行なわれている。

 海外から導入される動力炉の使用済燃料は、その中に含まれるプルトニウムおよび残存ウランの買戻しについて特別な取り決めがなされないかぎり、その使用済燃料を海外諸国に売却することはきわめて困難であるということが最近明らかにされた。このようなことを前提としてわが国において再処理を実施するまでの間、民間の原子力発電会社が使用済燃料を長期にわたり、みずから貯蔵するにしても、また原子燃料公社等において貯蔵するにしても、そのためには金利、貯蔵保管費等の多額の費用を負担しなければならないであろう。

 なお使用済燃料を再処理して有用物質を分離した後の廃棄物の処理については当然なんらかの処理をほどこす必要があるが、特に廃棄物中の高放射性物質については障害防止の完壁を期する必要があること、およびその永久貯蔵には多額の経費を要すること等の理由により、国の施策として一元的措置する必要がある。

 わが国において再処理施設が建設され稼働された時点においても、再処理により回収されるプルトニウムについては昭和36年9月11日の原子力委員会の決定により国有とする方針がうちだされているので、原子力発電を行なう民間企業が公社に委託して再処理を実施しても、それより抽出されるプルトニウムは国有となる。これらの観点からみて使用済燃料を、海外に売却しうる場合は除外して、使用済燃料の形体で買上げることが最も合理的な方策である。

4−2 プルトニウムの研究開発

 濃縮ウラン系動力炉からの使用済燃料中に含まれる減損濃縮ウランは軽水型動力炉の発展とともに重要な燃料源となるので、使用済燃料の再処理は大きな役割をもつものと考えられる。

 一方天然ウラン系動力炉の場合はプルトニウムの経済価値に大きく左右されるのは当然のことであるが、再処理調査団およびさきに行なわれた日米原子力産業合同原子動力会議において明らかにされたように米国および英国に対して必ずしもプルトニウムの買戻しの保証を期待し得ないことが明らかにされた。したがってわが国としては再処理して取得されるプルトニウムの原子炉用燃料としての実用化をはかることは原子力開発を進める上で従来にもまして重要なことといえる。

 この点に関しては新長期計画でも長期的核燃料サイクルのあり方とも関連してプルトニウム燃料の開発は重点項目の一つにとりあげており、後期10年の前半において、濃縮ウランの代替物として、熱中性子炉への実用化を、後期10年の後半において高速中性子増殖炉への実用化を目標として強力に推進することを明らかにしている。

 ひるがえって、アメリカ、イギリスにおいては再処理して得られたプルトニウムを利用して、熱中性子炉への利用等積極に原子炉燃料としての実用化に力を注いでおり、その可能性について明るい見通しが得られつつある。

 このように海外においても原子力平和利用の進展するにつれて、その一還としてプルトニウム燃料の開発が大きくクローズアップされるに至っている。したがってわが国としても再処理に関連してプルトニウムの研究開発をさらに積極的に推進することを強く要望するものである。