昭和37年度日本原子力研究所事業計画

 原子力委員会の策定した昭和37年度原子力開発利用基本計画に基づき、昭和37年度日本原子力研究所の事業計画を次のように定める。

第1部 総 論

  第1章 基本方針

 昭和37年度は、原子力委員会の策定した原子力開発利用長期計画の第2年度にあたり、各種事業が着々と軌道にのる。とくに、放射線化学中央研究所の新設、JRR−2の高出力定常運転、JPDRの連続運転、燃料再処理装置の試運転等と相まって工学的研究が本格的に緒につき始め、また、ラジオ・アイソトープの生産業務も開始され、応用研究の比重が逐次高まって行く。このときにあたり、次のような基本方針の下に逐次体制を整備する。

(1)研究開発計画は重点的に策定することとし、その計画を推進するため、関連各部門の緊密な連絡の保持および協力一致の体制の確立により、研究所の機能を集中的に動員できるよう組織、運営の刷新を期する。

(2)基礎的研究については、研究員の自由な創意を尊重し、長期的な観点からこれを評価するよう努め、応用の研究に対しては、絶えず評価を行ない、進度に応じ必要な措置を講じられるよう配慮する。

(3)大規模な施設の稼働に伴い、その運転管理の万全を期するため、逐次専門の操作員を養成する。かくして、研究員とは別個の操作員の系列の確立をはかる。

(4)原子炉の高出力運転に伴い、取扱う放射線のレベルが上がるので、放射線管理の体制を再検討し、その徹底を期する。

(5)核燃料の計量管理の徹底を期する。

(6)会計制度を企業会計制度に統一し、経営管理の徹底を期する。

  第2章 昭和37年度の主な事業(その概要と方針)

(1)放射線化学中央研究所の設置

 この研究所には民間には設置しがたい大施設をおき、有望な放射線化学の中間規模試験、放射線工学および線源の開発を行なうとともに、大施設で実施するのに適当な基礎研究を行なう。

 昭和37年度建設に着手する主要な施設としては、30万キュリーのコバルト−60照射室、大出力粒子加速器等があり、施設建設中は、東海研究所等既存施設を利用して試験研究を進める。

 これらの事業を強力に推進するため、役員1名の増員を行ない、年度当初から基幹要員の確保をはかるとともに、東海研究所からの積極的な応援を行なう。

 また、広く関連研究機関と密接な連絡を行ない、適切な研究計画を立案するため、運営委員会等の活用をはかる。

(2)原子炉

 JRR−1は、前年度に引きつづき簡易な照射実験および訓練用に用いる。

 JRR−2については、第2次燃料として90%濃縮ウランを用いて出力上昇試験を行なった後、下期から高出力定常運転に入り、その共同利用を開始する。また、この炉は、インパイルループ等による照射試験に使用するほか、中性子回折装置等による物理的実験、ラジオ・アイソトープの製造等に使用する。

 JRR−3については、第1四半期中に臨界試験を行ない、引きつづき低出力運転を行ない、各種特性の測定を行なう。

 JRR−4については、建家の建設をほぼ年度内に完成し、炉体の工場製作と相まって、年度末頃据付工事に着手する。

JPDRについては、下期に臨界試験を行ない、年度末から昭和38年度初期にかけ試運転を行ない、以後定常運転に入る。なお、軽水炉臨界実験装置は、年度半ばに完成し、JPDRの臨界迄に、必要な各種データをとる。

 半均質炉、水均質炉、高速炉等については、従来からの研究を継続する。前記三型式の炉を含め、原研として開発すべき動力炉については、慎重な検討を行ない、逐次目標を確立して行く。

(3)ラジオ・アイソトープの製造

 JRR−3を利用し、昭和39年度上期からの製造開始を考え、約900坪のラジオ・アイソトープ製造工場の建設に着手する。とりあえずは、製造試験のすんだ6核種を中心として製造を計画し、将来はCo−60以外の核種について経済性を検討の上、国産化を計画する。なお昭和37年度はJRR−3を用い、既設の試験工場において若干のラジオ・アイソトープを製造し、これを頒布する。なお、頒布については、とりあえず卸し売りを主とする。

(4)計算センターの設置

 研究活動の本格化に伴い、現在のIBM650では量的にも質的にも不充分なので、新しく大型計算機IBM704クラスを借り入れることとし、このため新しく約250坪の建家を建設する。将来は、計算センターとして組織的にも確立する。運用面では、主要な関係各研究室でそれぞれプログラミングが可能なように人員を養成する。

 なお、原子炉コードについても逐次整備し、将来コードセンターとしての機能も果たすことを目標とする。

(5)燃料再処理ホットケーブの整備

 前年度から建設中のホットケーブに抽出塔を移設し、コールドでの試運転調整を行なう。本年度は、これに付帯した居室、実験室、廃液操作室等を増築し、燃料公社のミキサーセトラーも収容し、公社との共同研究の体制を一そう強化する。

(6)プルトニウム研究の強化

 既設のプルトニウム特別研究室に約150坪程度の増築を行ない、昭和38年度以降の研究に備える。

 既設建家の中においても、本年度から取扱い量を数グラムないし数10グラム程度にあげ、溶液化学的な研究のほか物理化学、分析化学、金属学の面からの研究も追加し、これと並行しプルトニウムを高速炉だけではなく熱中性子炉に対する利用についての調査研究に着手し、総合研究の体制を一そう強化する。

(7)各種炉内照射装置の運転および整備

 JRR−2の高出力定常運転、各種炉内照射装置の本格的使用、ホット・ラボの使用に伴い、これらの有機的な連繋をはかることにより、日本における照射実験は今迄とは違った遙に高水準のものとなるので、原子力研究の促進に飛躍的な貢献を期する。

 すなわち、JRR−2に設置するNaK封入カプセル照射ループ、金属材料照射装置、汎用水ループは、慎重な試験を行なった後、炉内照射試験を開始する。高温高圧ガスループ、溶接部照射装置は、慎重な炉外試験を行ない、炉内照射試験の開始に備える。また、任意時間照射容易な簡易照射装置の開発試験を行なう。

 JRR−3に設置する極低温照射ループは、前年度完成したJRR−2にある低温照射ループの経験に基づき、設計、製作に入る。

 以上の事業を遂行するための予算は、現金総額約50億円、債務負担行為限度額約14億円を計上する。

 また、役員1名、職員136名を増員、年度末定数は役員を含めて1,484名とする。このうち、放射線化学中央研究所関係職員の年度末総数は19名とする。

第2部 各 論

  第1章 基礎的研究

(1)原子炉物理

 水均質炉の炉物理的研究では、二領域型臨界実験装置のブランケット系を改造し、酸化トリウムスラリーによる零出力実験を、中性子スペクトルおよび中性子バランスに主眼をおいて、理論計算と比較検討しながら研究を進める。改良型水均質炉としてマイクロスフェア燃料を使用した沸騰自然循環炉の概念につき、実現可能性検討のため、予備実験を行なうとともに、スラリーの流動に関して濃度分布、速度分布、圧降下等を測定し、また、マイクロスフェアの耐破砕性、耐磨耗性の改良をはかる。

 高速炉の炉物理的研究では、天然ウラン5トンを用いて高速中性子のパルス実験を行ない、非弾性散乱の影響をしらべる。また、臨界実験を想定して高速炉の核計算を行なうとともに、高速炉全般についての調査調査研究を行なう。

 原子炉物理の理論的研究では、確率過程として中性子輸送を解析的に扱い、炉内中性子束分布などを求め、また、種々の減速材に対する熱中性子化方程式を導出して中性子のスペクトルと核常数計算公式を求める。このほか、吸収性反射体をもった重水均質系の臨界性並びに高濃縮ウラン軽水および天然ウラン重水非均質系の臨界性の解析的研究を行なう。

 数値解析の研究では、2次元拡散方程式の数値解法およびモンテカルロ法による熱中性子利用率計算の研究を行なう。なお、プログラミングについて解析的な調査、研究を行なう。

(2)原子核物理

 高速中性子と原子核の相互作用の研究では、主として5.5MeVバン・デ・グラフを用い、飛行時間法の改良として検出器の感度を上げ、中性子の弾性散乱および非弾性散乱の実験を種々の核種について行なう。また、高速中性子の非弾性散乱に伴うガンマ線の角度分布を測定する。

 低速中性子と原子核の相互作用の研究では、飛行時間法により、金、ボロン等の低速中性子に対する吸収断面積の精密測定を行なう。また、磁気型コンプトン分析器を用いて中性子捕獲ガンマ線の測定を行なう。

 中性子断面積の精密測定並びに共鳴の研究ではJRR-2に設置したクリスタルモノクロメーターにより、151Eu、143Nd、109Ag等の断面積の精密測定および中性子共鳴付近の断面積の精密測定を行ない、試料の物性構造、温度等による影響を測定する。

 核分裂生成物を中心とした原子核構造の研究では、ベータ線スペクトロメーターを用いて、サマリウムおよびこれに近い中量核元素の原子核のレベル構造を研究する。また、大型ベーク線スペクトログラフを整備の後、内部変換電子の強度を写真乾板から分析する方法を研究する。

 低エネルギー原子核理論についての研究では、荷電粒子に対する光学模型による計算を進める。

 飛行時間法による中性子物理の研究では、リニア・アクセレレーターを用いて、飛行時間法により、金、銀、タングステン等の全断面積の測定および捕獲ガンマ線の測定を行ない、これを分析して核構造の研究を行なう。

 その他、リニア・アクセレレーターの制動輻射による(γ.n)、(γ.p)反応によって作られる放射性同位元素の崩壊を測定し、これにより原子核の構造を研究する。

(3)固体物理

 固体物理の研究では、水素化物について核磁気共鳴装置等により、電子状態、水素、金属間の結合の性質等をしらべる。また、NaNO3およびその固溶体について、照射に伴う格子欠陥の状態をしらべ、それがNaNO3の相転移に及ぼす影響について研究する。強誘電体であるKNO3については、常温から数百度の温度範囲に亘って誘電率を測定し、強電相の現われる臨界点の圧力効果および照射の影響を研究する。

 照射損傷の研究は、JRR−2に設置した低温照射装置を用いて照射した銅その他の試料の諸性質、回復過程の測定をつづけ、非金属の照射損傷は、前年度迄の研究成果を基とし、外方面の測定により一般性のある結論を得るため、照射量、照射温度等の照射条件を変え、また、測定の種類を拡げて研究を進める。

 熱中性子による原子炉材料の固体物理的研究では、中性子回折装置を用いて、アクチエド化合物、遷移金属、水素化合物等の試料について、常磁性散乱の測定を行ない、とくにUF2の磁気構造の解明にあたる。

(4)分析化学

 金属ウラン中の不純物の分析に関しては、要求された元素の大半はすでに検討を終わっているが、なお、希土類元素の抽出並びにマグネシウム、酸素の定量について検討を進める。炉材料については、ビスマス、ベリリウム、重水中の不純物の分析法を取上げる。

(5)物理化学

 燃料再処理の溶液化学的研究では、アミン抽出機構の理論化学的研究並びにウラン、プルトニウム、トリウム等の抽出平衡実験を行ない、高温冶金法については、塩化物分溜による除染効果の向上、レビテーション溶解炉を利用する高温溶融処理による再処理実験を行なう。

 弗化物取扱技術の確立については、F2、HF、BrFa3、UF6等を自由に取扱える基礎技術の充実に力を注ぎ、それとともに、弗化物の分析手段などを開発し、将来のプルトニウムを含む試料の弗化反応技術の確立に資する。

 炉内化学反応の物理化学的研究では、光分解による遊離基の生成を赤外スペクトルおよび電子スピン共鳴吸収により測定し、遊離基および励起分子の構造、反応性等の基本的性質を研究する。

 ウラン化合物の固体化学的研究では、ウラン酸化物U37、U49の比熱測定を行なってその遊離エネルギーの変化を求め、熱的安定性を検討し、純粋なウラン炭化物試料では、帯磁率を測定して炭化物の結合状態を知り、これにより炭化物の分析に利用する。

(6)放射化学

 核燃料の放射化学的研究では、ネプツニウム、ウラン、トリウムを対象として溶媒抽出、イオン交換、共沈などの手法でその化学的行動を研究する。

 核分裂生成物の放射化学的研究では、黒鉛、UO2、UC等の中の核分裂生成物の拡散実験を行ない、また溶融塩と溶融ビスマスの間の種々の核種の分配率を測定するなど核分裂生成物に関して基礎的研究を行なう。

 放射化分析では、JRR−2の本格的稼働に対応して、超微量不純物の定量をとくに半導体材料について開発する。

(7)プルトニウム

 プルトニウムの溶液化学的研究では、照射ウランからプルトニウムを分離精製する方法の開発として、プルトニウムの溶媒抽出の基礎データをとり、また、放射化学分析法を改良する。一方、プルトニウムの酸化物および炭化物の製造の基本的問題となる熱力学的、物性的研究並びに将来の定常的な分析に備えての微量プルトニウムの抽出並びに光度定量による分析的研究を行なう。なお、プルトニウムの中性子照射、プルトニウムの沈澱反応を研究する等プルトニウムの取扱いの習熟につとめる。

 プルトニウム燃料の基礎金属学的研究では、金属プルトニウムの入手をまって、既設プルトニウム特研の一部こおいて、従来からのU−Al系、U−Fe系のウラン基金属間化合物の研究を生かしてPu−Al系等の基礎的特性を測定する。

 その他プルトニウムを高速炉だけでなく熱中性子炉に利用する場合の核的価値等について調査研究を行なう。

(8)放射線化学

 東海研究所における放射線化学の研究は、次の通りである。

 非金属材料の放射線効果に関する研究では、各種高分子のガンマ線、電子線、中性子線の照射による分子量、分子形態の変化を研究し、また、リニア・アクセレレーターによるパルス照射での短寿命遊離基の寿命、構造などを測定する。

 放射線化学の物理学的研究では、環状化合物とくにベンゼン置換体の温度効果の研究を進め、溶媒効果との関連を研究する。また、CO2の放射線分解における同位体効果を研究し、黒鉛とCO2との反応性の解明に資する。

 有機化合物の放射線化学の研究では、溶液の状態での中性子照射によりホット・アトム反応機構の解明を行ない、また、標識有機化合物を用いる同位体希釈法により、非水溶媒系の反応の研究を行なう。

 水溶液の放射線化学では、無機水溶液の放射線化学的挙動の解明、有機水溶液の放射線効果における無機イオンの作用、とくにフェノールの放射線合成に主体をおく。

(9)燃 料

 UO2系セラミックスの研究としては、UO2試料の照射前の焼結性、熱伝導度の測定、高温における物性の測定を行ない、照射後、また物性の測定を行なって照射効果をしらべる。

 炭化トリウムの研究としては、金属トリウムと黒鉛との高温反応、炭化トリウムの耐湿性、酸溶解性を研究し、あわせて物理的諸特性値を求める。

(10)動特性

 原子炉動特性の実験的研究では、JRR−3、軽水炉臨界実験装置、半均質炉臨界実験装置で、パイルオッシレータ一法、統計的手法、パルス中性子源法等により動特性を測定し、各方法による動特性を実験的に解析し、動特性を支配する各種の因子について検討を進める。

 研究炉の核的特性および動特性に関する研究では、炉の出力校正への熱外中性子による核分裂の寄与の補正を求める実験、熱および熱外中性子のエネルギースベクトルの測定、パイルオッシレーター法による伝達関数および即発中性子寿命の測定並びに重水中の光遅発中性子諸常数の測定を行なう。

(11)遮 蔽

 遮蔽の研究では、ガンマ線遮蔽の問題として、前年度に引きつづきガンマ線再生係数の測定を一層精度よく、かつスペクトル測定まで行ない、また、体質線源遮蔽も検討を続ける。なお、遮蔽計算については理論的検討を進め、コードの開発を行なう。

  第2章 応用の研究

1.原子炉開発および関連研究

(1)半均質炉

 前年度に引きつづきプロジェクト研究として総合的に試験研究を進める。今年度は新たに燃料の照射試験に着手する。従来からの研究計画の継続として、臨界実験装置による炉物理的研究では、積分法による中性子スペクトルの測定並びに箔およびカウンターによる共鳴領域の過程に重点をおいた実験と理論計算との比較検討を行なうほか、パルス中性子源法による反応度測定並びに周波数応答法によるドップラー効果に及ぼす温度変化の影響の測定を行なう。

 燃料要素の研究では、U02の高温による炭化反応およびウラン拡散の研究を行なうとともに、照射後試験の準備を行ない、また、核分裂生成物の挙動を追求して、その捕捉除去の方法を開発する。

 ビスマスの研究では、熱対流型ビスマスループによりクロンム・モリブデン炭素鋼、モリブデン合金およびタングステン合金の腐食試験を行ない、強制循環ビスマスループにより黒鉛の腐食試験およびビスマス−気相二相流流動試験を行なうとともにビスマス中の不純物および核分裂生成物とくにポロニウムの除去を開発する。

 黒鉛の研究では、黒鉛中へのビスマスの浸透、高温特性、とくに高温時の不浸透性の変化測定並びにヘリウム中の不純物との反応の研究を行なう。

 伝熱および流動の研究では、高温高圧ガスループにより、燃料棒束の熱伝達率、通路中の圧力損失を求め、最適寸度決定に資する。

(2)軽水炉

 臨界実験装置により、年度後半において、主としてJPDRに関する諸特性、とくに制御棒の較正、燃料の反応度評価、燃体ポイズンの負反応度の測定を実施する。

(3)熱除去および構造要素

 軽水炉における伝熱、流動の性能向上のため、強制対流下の気泡の成長と脱泡の現象、バーンアウト現象、二相流動における振動現象等の機構を明らかにし、沸騰型軽水炉設計上の基礎資料を得る。

 ガス冷却型原子炉の熱除去を改善するため、高温用板状、フィン付き板状、フィン付管群の各燃料要素における常圧風洞による低温時の伝熱特性、高温ループによる中圧時の伝熱特性を研究する。

 一方、原子炉構造設計上の問題点解決のため、構造要素の高温における機械的強度の研究として、黒鉛の各種非破壊検査方法の開発、集中応力部の応力測定を行なう。

(4)原子炉計測

 原子炉核計装標準化のため、従来の原子炉核計装機器の改良をはかり、さらにトランジスター化および磁気増幅器を利用した核計装の開発を行なう。

 速中性子測定法の研究としては(n.p)反応励起関数データを実験等により集積することにつとめ、しきい核分裂計数管を試作してJRR−3での測定に応用し、半導体放射線検出器の研究としては、半導体を利用した6Liスペクトロメーター、しきい核分裂計数管を試作検討する。

(5)JRR−3の特性試験

 設計と運転特性との対比および安全円滑な運転に資するため、臨界時、低出力運転、出力上昇の各段階にわたって、静特性、動特性を測定する。すなわち、出力較正、制御棒較正、燃料要素と重水レベル変動に関する反応度測定、温度係数、質量係数、ボイド係数、危険係数等の反応度試験、中性子温度の測定、格子常数の測定、その他重水、ヘリウム系統、各種計測制御機構の特性試験を行なう。

(6)リアクターコードの開発

 JRR−1、2、3、半均質炉および水均質炉臨界実験装置による実験と並行して中性子スペクトル臨界量等の各種計算を行ない、実験結果と比較検討する。また、JPDR用燃焼コードの整備を行なう。

2.安全性の研究

(1)安全性解析

 安全性解析とそれに伴う実験としては、研究炉を対象として、動特性の研究と密接な連絡をとりつつ、事故解析、すなわち炉履歴に対する遅発中性子ポイズン等の影響、照射物質移動時の動特性、冷却系を考慮した動特性、自動制御系の安定性等の解明につとめ、また、炉および建家全体を一つの系とした遮蔽の実験と計算との検討を行なう。

 安全性に関する炉工学的研究としては、炉およびループ関係機器の現場用非破壊試験、冷却材漏洩検出技術の開発、燃料破損検出装置の改良、炉付属製系における核分裂生成物の挙動とその捕捉法の開発を行なう。

 事故時に対する安全性については、非常対策用モニターの設置を行なうため、核種の放出源、拡散、沈着とくに逆転層時の局地性、拡散雲等を考慮に入れた被曝解析を行なう。また、大気、海洋中での放射性物質の拡散、沈降、付着の機構を明らかにするため、拡散実験および解析を行なう。

 建設技術の研究としては、遮蔽構造、格納容器、耐震構造につき、建設途上の炉につき基礎データを求め、また建築材料の放射線に対する損傷の基礎データを求める。

(2)放射線管理の技術開発

 外部被曝に関しては、中性子吸収線量測定技術開発のため、中性子線用ガスシンチレーターを開発するための基礎実験を行なうとともに、電離箱について、共存するガンマ線が中性子線測定に及ぼす影響を測定する。また、大型加速器にそなえ、高エネルギー放射線測定技術開発のため、二次電子スペクトロメータの試作、再結合領域における電離箱の特性解析を行なう。さらに、従来の方法に代わる速中性子被曝測定法の開発として、フイルム黒化、チェンバー、ガラス線量計による方法を比較検討する。

 内部被曝に関しては、生体中の放射性核種分析法として、血液中の極微量ウランの蛍光および電着法による分析、トリウムの比色定量法の開発を行ない、排泄物中の放射性同位元素量から体内残留量を推定するため排泄の時間的変化、シ尿中の分配係数等の常数を求める。また、人体放射能の測定としては、対象核種としてRa、32P、90Sr+90Y、U、Thを取上げ、ファントームを用いて較正定量を行なう。本研究実施に当たっては放射線医学総合研究所と連絡を密にする。

 汚染検出並びに除去に関しては、空気中、水中におけるラジウム、トリウムなどの有機試薬による迅速定量法の開発を行ない、廃棄物処理を考慮した各種除染用ペーストの性能と汚染核種、形態、汚染材質の表面状態等との関連性の測定を行なう。

(3)原子炉動特性および制御の研究

 原子炉の動特性に関しては、JRR−1では制御棒落下特性、スクラム時の反応度変化、負の反応度変化に対する中性子束の減衰等を測定し、JRR−2では高出力での連続運転の定常化緊急時の動特性、循環系の漏洩および腐蝕の測定を行ない、JRR−3では臨界試験、低出力運転時の特性測定を行なう。

 また、これらと並行して、JRR−1低出力域における自動起動実験、JRR−3での不連続制御実験を行なう。

 一方、JPDRについては従来の解析結果と軽水炉臨界実験装置からの実験データと比較検討する。

 原子炉制御に関しては、上記動特性の研究と関連を保ちつつ、不連続制御の解析、統計的手法による制御系の伝達函数の測定を行ない、さらにデイヂタル制御の解析を進めて計算機制御への基礎を固める。

3.燃料材料開発および関連研究

(1)燃料開発研究

 金属合金系燃料の研究では、高温用金属ウラン燃料開発のため、まず真空クリープ試験機による照射前の耐クリープ性ウラン燃料のスクリーニングを行ない、次いで小試片による照射後の特性を測定し、U−AI燃料については、ウランの偏析、加工による縞、介在物、結合層の拡散等の内部欠陥と破損機構との関連を解明する。

 ウラン濃縮については、イオン交換電解分離法によるカリウム、リチウム、ルビジウム、ウランの分離効果を測定し、また、化学交換反応による水溶液系、水溶液−容媒系に対するウラン同位体の分離については、20段カスケードの製作を行なう。

(2)材料開発研究

 金属材料の腐食浸食の研究では、主としてジルコニウムとその合金および不銹鋼については、高温高圧水ループでの炉外動水による腐食と小型水蒸気ループでの沸騰水および水蒸気による腐食の実験を行ない、アルミニウム合金、ニオブ合金、モリブデン合金については、炉外高温水蒸気およびガスによる流動腐食の挙動を研究する。本研究の実施に当たっては、金属材料技研究所と連絡を密にする。

 金属材料の照射効果では、金属材料照射装置が整備された後、主として炉内照射によるマグノックスの冶金的諸特性を検討する。

 材料の中性子照射による脆性破壊の研究については、原子炉用鋼材およびその溶接部につき衝撃試験、引張試験による照射前試験を実施するとともに金属材料照射装置による照射実験を行なう。

(3)照射技術の開発

 前年度完成の汎用水ループについては、連続運転等により徹底的に炉外試験を実施し、水冷却ループの開発に資し、また、比較的発熱量小さく、かつ、任意時間照射の容易な簡易照射装置の開発試験を行なう。

 NaK封入カプセル照射ループは、本年度末に完成する、その間NaK封入カプセルの大型化、モニタリングワイヤーによる照射量、燃焼率測定等の開発試験を行なう。

 照射実験に共通して問題となるガンマ熱については、各種試料、各実験孔での発熱量を測定し、測定技術の確立をはかり、また、炉の実験孔内空間を有効に利用するため、鉛、ボロン等の組合せによる遮蔽プラグの短縮化をはかり、一方照射用カプセルの耐照射、耐圧、耐熱、耐振性の改良をはかる。また、JRR−2燃料要素の一部を同心円筒状とし、高い中性子束を有効に照射に利用するため、予備的検討を行なう。

4.燃料再処理研究

(1)再処理装置の研究

 パルスカラム方式の再処理装置研究では、前年度行なわれたモックアップ試験結果から必要となったパルセーター、界面制御、流体輸送とくにエジェクター、エヤーリフト、サンプリング関係の部分改良のための実験を行ない、問題点の解決をはかり、一方本年度末にはホットケーブに抽出塔を移設し、コールドによる試運転調整を行なう。

(2)再処理プロセスおよび再処理廃棄物の処理の研究

 溶媒抽出法については、アミン系その他の新溶媒の適用性とその限界を求めるとともに、各系溶媒の放射線損傷抑制剤をもとめる。

 再処理に連なる廃棄物処理のプロセスについては、ホットケーブ、プルトニウム特研からの廃液の凝集沈澱、有用核分裂生成物の分離回収、流動層および無機イオン交換体による廃液の固型化の研究を行なう。

5.プラズマ工学研究

 核融合の研究では、高温プラズマを得る方法の一つとして、まず、入射用プラズマガンの問題点をプラズマ物理的に追求するため、プラズマガンを試作し、生成プラズマの特性測定、磁場に入射した場合の挙動、入射方式等の予備的実験を行なう。

 MHD直接発電の研究としては、前年度購入のプラズマ発生機によって、主として高温ガスの電離法のうち、非平衡電離の方法を実験的に行なう。すなわち、1,000〜2,000゚Kのガスに高周波パルス放電を加えることによって、ガス温度の上昇を少なくして、ガスの電気伝導度を高めること並びに高流速ガスの停滞によってガス温度を高め、これを超音速で噴出させることにより熱源の温度を比較的低温に保ちつつ高度の電離を得ることの二方法を並行して実験する。

6.ラジオ・アイソトープ製造研究

 この分野では、JRR−2による高速中性子および高中性子束の利用を中心として無担体ラジオ・アイソトープ、18F、32Si、3H等の製造研究、ホットアトム効果による32P、47Ca等の製造研究を行なうとともに、これらに共通な基礎的問題として化学形の決定の研究を行なう。

 また、リニア・アクセレレータを利用した(γ.n)反応による132Csの製造研究を行なう。

 また、イオン交換および溶媒抽出により155Eu、無担体140La等の高純度ラジオアイソトープの精製および45Caなどの希土の高純度ラジオアイソトープの製造研究を行なう。

 ラジオアイソトープ試験製造工場においては、とくに32P、131Iについては1バッチ1キュリー程度の製造試験に入るための技術的検討を行なう。この他、前年度に引きつづき(n.γ)反応による短寿命ラジオ・アイソトープ64Cu、56Mn、90Y等を始めとして、すでに製造研究の終わったラジオ・アイソトープについて製造段階に移行する。これらは半ば定常的な製造試験を行ない、操作および品質の安定化をはかる。