核燃料経済専門部会の答申

 核燃料経済専門部会は昭和33年4月以降、「長期計画に関連する核燃料経済の検討」を諮問事項として燃料サイクルについての検討をつづけてきたが3月14日、これまでの検討結果をまとめて原子力委員会に答申書を提出した。その内容は以下のとおりである。

 なお、核燃料経済専門部会は3月28日の第6回原子力委員会定例会議において解散することが決定された。

昭和37年3月14日

 原子力委員会
   委員長 三木武夫殿

核燃料経済専門部会
部会長 大山義年

 核燃料経済専門部会はわが国の長期計画に関連する核燃料経済の検討を目的として、昭和33年4月以降核燃料サイクル、ウラン濃縮および再処理経済について審議を行なってきましたが、ここにその結果をとりまとめ答申致します。

1.総則

 原子力委員会は昭和32年12月に「発電用原子炉のための長期計画」を決定、そのなかで原子力発電の見通しとして昭和50年までに約700万kWという規模を想定し、これに基づき原子力発電の効果を試算したが、その際具体的な炉型式の組合せに関しては燃料サイクルの見地を重視してさらに検討を行なうべきであるとした。

 核燃料経済専門部会は燃料サイクルの検討を行なうべく「長期計画に関連する核燃料経済の検討」を諮問事項として昭和33年4月18日に設置されたものであり、そのメンバーはつぎのごとくである。

 部会長   大山 義年   東京工大学
 専門委員   浅田 忠一   日本原子力発電株式会社
  同 上   浅田 弥平   原子燃料公社
  同 上   荒川 康夫   電力中央研究所
  同 上   今井 美材   原子燃料公社
  同 上   佐々木重雄   慶応義塾大学
  同 上   高橋  実   電力中央研究所
  同 上   高村 善博   通商産業省公益事業局
  同 上   武田 栄一   東京工業大学
  同 上   千谷 利三   東京都立大学

  同 上

  橋口 隆吉   東京大学
  同 上   宮田  滋   電源開発株式会社
  同 上   山田太三郎   通商産業省電気試験所
  同 上   山本  寛   日本原子力研究所

 審議のはじめに、まず燃料サイクルを問題とするにあたって考慮せねばならない種々の要因をできるだけ取り入れて広い視野から問題に接近しようとした。しかし、燃料サイクルを構成する要因に関連する諸技術は開発の途上にあったので、これら要因には未知の要素が多く、そのためにできるだけ無理でない仮定を置き問題の視野を或る範囲に限定した上で具体的な計算を行なうほかなかった。具体的なアプローチとして、プルトニウムとウラン235の等価性を仮定した燃料サイクル方式を採用し、長期計画の開発規模に基づいて原子炉を建設するものと仮定して、生成プルトニウムと減損ウランをリサイクルした場合の核燃料所要量を試算し、サイクル全般における物量収支を検討した。

 こうして計11回におよぶ審議のすえ、燃料サイクルによる物量的な燃料節約効果の検討を中心とした第1次中間報告書を昭和34年8月19日、原子力委員会に提出した。

 第11次中間報告の物量的試算によって、使用済燃料のリサイクルによる核燃料の節約効果が相当大であることを指摘しえた。しかしわが国に通した燃料サイクルのあり方を求める場合には、このような物量的効果の検討のみならず経済的効果をも重視せねばならないので、上記物量的な試算の条件の下に、プルトニウムをリサイクルする場合の発電コスト試算を行なったところ、プルトニウムの再使用は当時の諸技術の段階ないしは核燃料価格の条件では必ずしも発電コストを低下せしめるものではないことが示された。すなわちプルトニウムのクレジットを12ドル/gとし、濃縮ウランの価格を米国原子力委員会の旧価格表のままとする限りでは、使用済燃料を米国で再処理し、日本に送り返してリサイクルすることは経済的に引き合わないという結果が出た。

 以上のことから新しい問題点として、米国原子力委員会発表の濃縮ウランの価格が政策価格ではないかという疑問を生じ、かたがたわが国でウラン濃縮を実施した場合に、その経済性はどうなるかを検討する必要のあることなどが問題とされた。また同時に再処理についてもその経済性について検討を加える必要があると考えられた。

 よって当専門部会としては、燃料サイクルの経済的効果を分析するに必要な基礎的数値を検討するための小委員会を組織することとなり、燃料サイクルを構成するプロセスのうち、ウラン濃縮および再処理をとりあげた。

 ウラン濃縮小委員会は昭和34年3月末に組織され、種々の濃縮法に関する技術的ならびに経済的問題を検討したが、特に近い将来わが国においても技術的に可能と考えられる濃縮法のうち、ガス拡散法と遠心分離法をわが国で採用した場合を想定して濃縮コストを試算した。その結果、ガス拡散法によれば米国価格の約50〜90%高、遠心分離法によれば同じく約70%高となった。

 ウラン濃縮小員会は合計10回の小委員会を開催したのち、その検討結果を核燃料専門部会に報告し、当専門部会はさらに専門部会として、わが国の将来の原子力発電との関連における濃縮ウランの国産化の意義ないしは影響と、今後わが国でウラン濃縮を開発する場合に必要な考え方についての意見をこれに加え、第2次中間報告書とし昭和35年4月11日原子力委員会に提出した。

 ウラン濃縮小委員会の構成は次のとおりである。

  小委員会委員長   大山 義年
  小委員会委員   浅田 弥平
   同  上   佐々木重雄
   同  上   高橋  実
   同  上   武田 栄一
   同  上   千谷 利三
   同  上   山本  寛

 次いで昭和35年7月中旬に組織された再処理経済小委員会は、技術的に最も確立されていると考えられる

 溶媒抽出法によって再処理を行なうことを仮定した場合の技術的経済的問題を検討し、再処理費の試算を行なった。それによれば1トン/日の再処理工場の建設所要資金は76〜87億円、また再処理費は1トンあたり580〜870万円となり、米国政府の設定した1トン/日の再処理場の1日の使用料610万円(1960年)とくらべて、若干高い程度で大差のないことがわかった。

 再処理経済小委員会は合計11回におよぶ検討の結果を核燃料経済専門部会に報告した。同専門部会はこれをとりまとめたうえ、昭和36年9月27日、第3次中間報告書として原子力委員会に捏出した。再処理経済小委員会の構成は次のとおりである。

  小委員会委員長   今井 美材
  小委員会委員   大山 義年
   同  上   荒川 康夫
   同  上   山本  寛

 当専門部会としては以上のごとき調査検討を行なったのち、今後の運営について協議した。その結果さらに検討を加えるべき問題点は幾多残されているが、これらの問題点は技術的にも進歩改良の途上にあり、今直ちに数値的に論ずることは困難であるため、燃料サイクルを総合的に検討し、早急に最終的結論を出すことはできないので、この機会にこれまでの作業の結果をとりまとめて原子力委員会に答申することとした。

 原子力委員会においては、新しい長期計画の基盤の上に総合的な燃料サイクルならびに本答申第5章に指摘し、諸問題について新たな観点から改めて検討を加えられるよう希望する。

2.第1次中間報告書

 核燃料経済専門部会は昭和33年1月に設置されて以来、第1次中間報告書をとりまとめるまで11回の審議を行なっている。「わが国に最も適する核燃料経済のあり方」を検討するに当ってまずとり上げられたのはどのような角度から燃料サイクルの問題をとらえるかであり、燃料サイクルの問題に包括される種々の問題すなわち対象とする炉型式、燃料の特性、コストに関する問題等が検討された。最も解決が困難と思われたのは使用済燃料からとり出されたプルトニウム239を再び炉内で使用した場合の核的価値であって、電子計算機を使用して計算を試みたが、いかなる濃度のウランとブレンドすると考えるかによって結果が異なり、プルトニウムの評価に困難が生じた。同時に、燃料サイクルの問題を細部にわたって検討を進めるにつれ、考慮すべき範囲が広くかつ長期的な見方を要求されることが、当然のことながら、明らかとなった。上記のプルトニウムの評価に関する問題ばかりでなく、多くの不確定要因があげられるが、これらの要因は一朝一夕に明らかとなるものではないので、現在としては、無理でない程度の前提を設け比較的近い将来のわが国の燃料サイクルに視野を限って検討を進める方針を取ることに各委員の意見が一致した。こうして1第次中間報告書の第2部に示されるようにプルトニウムのリサイクルによって最初の14年間に期待される核燃料の節約効果を試算する方法が決定された。この際、プルトニウムの評価については、プルトニウムはそのなかに含まれるプルトニウム239と同一重量のウラン235に匹敵するものと仮定した。つぎに、このようにして得られた物量的な試算数値にコスト要因を適用して燃料サイクルの経済面を検討し結果を得ようとする道をたどるべきであったが、物量的試算にはプルトニウムの等価性を始めそれ自体に問題を含んでおり、さらに経済的要因を持ちこむならば得られる結果の信頼性は疑わしいこととなるので、現在においてはむしろ物量的試算に止めるべきであるという考え方に帰着した。

 こうして第1次中間報告書をまとめるまでの段階に至ったわけであり、この間11回にわたった審議内容を大きくわけるならば

(1)燃料サイクルの問題の考え方
(2)燃料サイクルの効果を示す計算方法
(3)燃料サイクルの効果を具体的に計算するにあたって前提となる諸数値のとり方
に分けられる。

 以上の審議の内容をとりまとめた第1次中間報告書は燃料サイクルの問題を一般的に考察した1第部と、近い将来にわが国に建設される可能性のある天然ウラン黒鉛減速型、低濃縮ウラン軽水型の動力炉を前線として当初14年間の核燃料の所要量を具体的に試算した第2部とからなっている。問題の検討を比較的早期に限った結果、重水炉、増殖炉あるいはトリウム炉についてはほとんど取扱わなかった。

 第1部では原子炉の発電への利用に伴って必然的に起ってくるものとしての燃料サイクルの概念と意義、ならびに燃料サイクルを構成する各因子における問題点等を述べており、燃料サイクルを一般的に種々な角度から検討した結果を示している。

 第1部において注目されることとしては、第一に核燃料の成型加工工程における問題点を述べ、特にプルトニウム系燃料に関しては海外の研究状況に触れるとともにプルトニウムに関する研究の重要性を強調した点がある。

 第二に、再処理、ウラン濃縮等燃料サイクルに特に関連の深い分野に関する技術の開発方針に触れたことがあげられる。すなわち、「発電用原子炉に関する技術にも世界的に開発の余地が多く残されているが、燃料サイクルに関する技術の広範な分野はいまだ開発の初期にすぎず多くの未解決の問題を包含している。」がこのような現状から考えられる方針として、再処理については、「将来わが国に再処理工場が必要となる時期との関連において最も経済的な再処理法が採用されると思われるので、今日では各方法の技術的問題の解決および特色の比較検討を行なって将来に備えるべきである。」とした。また、ウラン濃縮については、「将来わが国にウラン濃縮施設を建設することの可否および可とすればその時期等を予測することは困難であるが、濃縮施設を将来必要とする可能性が考えられるので、今日においては各種濃縮法の経済性を検討し、濃縮プラント含んだリサイクル系の採用の適否を探求することが必要である。」と述べた。

 第1部で注目される第三の点は、燃料サイクルという考え方を採用する意義は結局経済的な検討をあわせ行なって判定されるべきであることを明らかにした点である。原子炉内で生成された新しい燃料物資をリサイクルすれば当然物量的な節約効果が期待され、長期的なエネルギー需要の観点からこの効果な重要な意義をもつこととなるが、具体的にリサイクル系を採用する場合には経済的見地をも無視することはできず、核分裂性物質をリサイクルすることがリサイクルしない場合に比して経済的に有利であるかどうかを検討することが重要となる。したがって核燃料をリサイクルすることによって期待される効果としては、核分裂性物質と親物質との有効なエネルギー的利用に基づく資源的効果とリサイクルに伴う経済的効果があげられる。この際、リサイクルの経済的効果は単に燃料費や発電原価ばかりでなく、関連産業をも含めた全体の資金所要量、産業構造の変動および外貨バランスの変化による経済的な影響をも考慮して国民経済的立場から判断されねばならない。

 燃料サイクルの問題は本質的にこのように高い観点から検討されねばならないが、同時にこれらの問題を長期的かつ総合的な観点から考慮して、使用する核燃料の種類、原子炉型式、リサイクル系に参加する濃縮施設や再処理施設等各種の施設の取捨選択を決定して具体的なリサイクルのパターンを描かねばならない。

 したがって考察の範囲が広がると共に前提となる諸条件は、原子力関連技術が発展の途上にある今日においては極めて不確定なものになってくる。他方、燃料サイクルの問題がわが国の原子力開発上の多くの分野に関連をもつことを考慮すれば、発電炉の開発がその緒につこうとする現在において検討の結果を示し、開発方針策定上に参考となるデータを提出することは、意義があることと考えられる。

 これらの点を考慮して、第2部においては許容されるような仮定を置いて考察の範囲を限定することによって燃料サイクルの問題に伴う困難を減じ、比較的近い将来に関する燃料サイクルの資源的意義を考察することとした。すなわち、実用化の時期が比較的早いと考えられる天然ウラン黒鉛型(A型)と低濃縮ウラン軽水型(B型)とを開発するものとし、使用済燃料からのプルトニウムと減損ウランのリサイクル方法として7種類のリサイクル系をとりあげ、それぞれの系について核燃料の所要量、したがってまたサイクル前と比較した節約量を試算した。

 試算の前提条件のうち主要なものはつぎのごとくである。

(1)発電炉の要目
 A型炉とB型炉に関する一基当りの出力、熱効率、装荷燃料の量、濃縮度等の要目として、近い将来実際に建設されるものにあてはまることを予想しつつ、比較的固まった設計に対応する数値をとった。

(2)原子力発電の開発規模
 昭和32年末に原子力委員会が決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」における開発テンポをそのままとり、当初14年間の核燃料所要量を試算した。

(3)プルトニウムのリサイクルに関する仮定
 プルトニウムは使用済燃料から取り出した時点において、ウランとブレンドして発電炉に再使用することが技術的経済的に可能であると仮定する。その際プルトニウムはそのなかに含まれる同位元素プルトニウム239と同一重量のウラン235に匹敵するという仮定を置く。

(4)リサイクル系の種類
 天然ウラン黒鉛型のみを開発する場合、低濃縮ウラン軽水型のみを開発する場合、両型式を半々に開発する場合を考え、表1のようにA、B、B´、C1、C2、C′1、C′2という7種類のリサイクル系を考察の対象とした。

(5)燃料サイクルの所要期間、燃料の平均燃焼度等の想定は前提とする開発規模が相当早いテンポでの開発となっているので、初期装荷燃料の量が材料の消耗を補なうための補給燃料の量に比して相対的により大きな部分を占めている。同時に燃料の成型加工、再処理、輸送等、サイクルに要する期間の長短も早い開発規模の下では燃料所要量に割合影響を及ぼすことになる。また、燃料の平均燃焼度、プルトニウム生成量、使用済燃料の減損ウラン濃度等の考え方も燃料所要量に影響する。これらの数値としては、これまでに発表されあるいは発電コストの計算等に使用されて多くのデータを集め、そのなかから妥当と思われるものを選んだ。

表1 リ サ イ ク ル 方 式


 以上のような仮定を設けて試算を行なったのであるが本試算のねらいとするところを述べるならば、わが国のように比較的急速に原子力発電を開発せんとする場合には初期装荷燃料のウエイトが大きくなり、燃料所要量の算定が経済計算を離れて一つの重大な意義をもつこととなる。さらに、急速な原子力発電の成長を前提としているからには、この燃料所要量の算定に当っては期間の考慮が必要になる。このような観点からサイクルの所要期間を加味した物量計算の意義を認めたわけである。さらに、この試算ではプルトニウムの等価性が大きな仮定となっているが、原子力発電の急速な開発期に得られるプルトニウムは同位元素の比率が比較的安定していると考えられる。

 試算の結果は表2に示されており、仮定した7種のリサイクル方式について、昭和50年度までに可能な燃料の節約量と節約の比率を試算したものである。この結果を要約すればつぎのように述べられる。

表2 各方式によるリサイクルの効果

 使用済燃料中の生成プルトニウムと減損ウランをリサイクルすることによって期待しうる補給燃料の節約量は天然ウランベースで昭和50年までに累計約4,000〜6,000トン(リサイクル方式で差がある)という大きな量になり、リサイクルしない場合に比較して40〜50%を節約できる。さらにこれをリサイクルの方式別に比較すれば、A方式(天然ウラン黒鉛型のみを開発する方式)が他のいずれの方式よりも節約効果が大で約54%に及び、他のリサイクル方式ではいずれも40%前後になっている。

 また、この節約率を補給燃料と初期装荷燃料との合計でみれば、やはりA方式において最も大であるが各方式間の開きは最大8%にすぎない。このことは開発速度が急速な場合には、初期装荷燃料の影響が大きいことを示している。

 つぎにA型炉とB型炉とを組合せ併用するリサイクル方式は、その意図するところが、A型炉の高い転換率を利用して物量節約的効果をあげると同時に、B型炉に期待されている発電原価低減の可能性を有効化しようとする点にある。そのような見地から2表の試算結果を眺めて注目されるのは、補給燃料における2.5%濃縮ウランの節約化が最大87%に及んでいることである。もしも炉型の組合せ(試算の場合は1対1)とリサイクル方式とを適当に選ぶならば、補給燃料のためのウラン濃縮プラントを省略してB型炉を運転することもあるいは可能であろうことが示唆される。すなわち、この場合の開発パターンとしては、最初天然ウラン黒鉛型のみで出発し、将来低濃縮ウラン炉を導入してC方式のリサイクル系を確立する行き方が考えられるのである。

 以上の試算ではプルトニウム燃料の等価性をはじめとして多くの大胆な仮定と議論の余地のある推定データが用いられているのであるから、結果の数字は大体の傾向を示すという程度において解釈さるべきであり、またこのような核燃料の物量的な節約額の多寡のみから各種リサイクル方式の優劣比較やその最終的な選択を速断すべきではない。それぞれのリサイクル方式によって燃料サイクルの費用が異なるのであるから、さらにリサイクルの経済的効果が判断の基準として取り入れられなければならない。

 この場合低濃縮ウランを使用するB型炉のリサイクル系への導入については、ウラン濃縮プラントに関係する費用についての考慮が特に重要である。一般にB型炉については将来における発電原価低減の可能性がさらに期待されているが、一方においては、系に導入されるB型炉が毎年必要とする補給濃縮燃料を供給しうる程度の規模の濃縮プラントを併置する必要があるとすれば、その固定費負担や運転費中に含まれる電力費をマイナス要因として考慮せねばならない。この意味からもウラン濃縮に関する技術的および経済的調査研究がなされることがわが国の核燃料経済を検討する立場からしても望まれる。

3.第2次中間報告書

   (ウラン濃縮に関する報告)

 第1次中間報告書においては、燃料サイクルという考え方を採用する意義は、長期的な観点からは資源的効果を期待する事にあるが、具体的にサイクル系を採用する場合には、リサイクルしない場合に比して経済的に有利であるかどうかの点が重要な問題となっていることが指摘された。

 この問題を解明するためには、リサイクルに伴う費用の検討を、リサイクル系を構成している各因子について行なう必要があるとし、さしあたって濃縮ウランを使用する原子炉を含むリサイクル系の経済性検討に必要なウラン濃縮の問題について、専門部会の下にウラン濃縮小委員会を設けて、わが国でウラン濃縮を実施する場合の問題の検討を行なうこととなった。

 ウラン濃縮小委員会はまず今日考えられる限りのウラン濃縮法を、現在の段階における実用化の可能性の有無について検討するとともに、各濃縮法の経済性試算を行なうために必要なカスケード構成の理論、ウラン濃縮費の計算式を示し、またウラン濃縮に使われる可能性の大きい六フッ化ウランについて取扱上の問題の指摘を行なった。

 次いで上記検討の結果から実用性ある方法としてあげられたガス拡散法、遠心分離法およびノズル分離法の3つの方法によって、わが国でこれら濃縮法による濃縮プラントを建設する場合を想定してさらに詳細な技術的経済的検討を行なった。

 その換討結果の要約は次のようなものである。

(1)ガス拡散法
 ガス拡散法は、米、英、仏、ソの各国で実際に建設、運転の経験が得られている。その技術的問題点は、拡散隔膜や特殊の圧縮機の製造および六フッ化ウランに対するプラントの保守にあるが、技術的には一応確立された段階にあるので、プラントとしての性能に関しては最も信頼がおけるということができる。

 しかしながら、軍事目的にも使用されるという濃縮ウランの特殊性に基づいて、これまで各国においてガス拡散法に関して得られた知識の詳細はいまだ発表されていないので、この方法によってわが国にウラン濃縮工場を建設する場合のプラントの内容およびそれによる濃縮コストを試算するにはなおいくつかの問題がある。技術的な面では、隔膜に期待される性能の限界、隔膜両側における圧力の最高値、圧縮機効率の推定等の問題が残されており、経済性に関しては隔膜、圧縮機等の主要器を含めての総建設費、プラントの耐用年数、維持費等について不明な点が多い。

 これらの点について比較的妥当と考えられる数値を前提として試算した結果は次のごとくである。すなわち、2.5%の濃縮ウランを年間40トン製造するガス拡散工場において資本費率を年20%とし、1kWHあたり、2円50銭の電力を使用した場合の生産原価は2.5%濃縮ウラン(形状は六フッ化ウラン)1kg当り460〜560ドルと試算されて米国原子力委員会の公表価格の297ドル(改訂前価格)に比較すれば、約50〜90%割高となる。ガス拡散法においては生産原価中に占める使用電力費の割合は大きく、ほぼ25〜35%に相当しており、上記試算値と米国原子力委員会価格との差は、使用電力料金の水準、プラントの建設費および資本費率における相違を大きな原因として含んでいると思われる。

(2)遠心分離法
 遠心分離法による同位体の分離は、すでに戦前から研究が行なわれており、その歴史は必ずしも新しいものではない。しかしウラン濃縮にこの方法を適用してすぐれた結果を期待するにはさらに高度の技術が要求される。現在向流型遠心分離方式が主として西独で開発されている言遠心分離法が有する利点は、すぐれたエネルギー効率を期待できることで、ガス拡散法における場合の数倍以上の効率となる可能性もある。

 遠心分離法が経済的にすぐれた濃縮法として完成されるためには、大きな回転周辺速度を可能とする回転円筒の材料や、高速回転に関連するその他の技術的問題の解決が最も大きな問題としてあげられるほか、遠心分離機の建設費が合理的な範囲に納まることも望まれる。遠心分離法によって濃縮ウランを大量に生産した経験はいまだにえられていないので、この方法に関しては、なお研究開発をまって明らかにされるべき問題が多く、またわが国でプラントを建設した場合の経済性の検討を試みるには多くの仮説のもとで試算を行なわなければならない。本報告書で行なったプラント建設例と濃縮ウランの生産原価の試算に際して使用した仮定の主要なものは、遠心分離機1基あたりの分離能力、遠心分離機の価格、駆動動力等である。

 プラントの規模をガス拡散法と同様に2.5%の濃縮ウランを年間40トン生産するものとし、資本比率を年20%、使用電力を1kWH当り2円50銭とすれば、濃縮ウランの生産原価は、回転周辺速度が毎秒350メートルの場合に2.5%濃縮ウラン(形状は六フッ化ウラン)1kg500ドルと試算され、米国原子力委員会公表原価の約70%高となる。遠心分離法の経済性は、今後の研究開発により回転周辺速度の向上、建設費の低下、所要動力の減少等を通じてさらに改善されることが期待されている。一例として回転周辺速度が毎秒400メートルに上昇した場合について試算すれば、濃縮ウラン生産原価は2.5%濃縮ウラン1kgあたり380ドルとなる。

(3)ノズル分離法
 ノズル分離法は、装置が簡単になるという利点があり、西独、イタリア、米国において理論的、実験的な研究がすすめられている段階である。実験室的にも六フッ化ウランを分離したデータはきわめて少なく、したがって分離ノズルの性能をある程度明らかにし、本法の経済性の帰趨を明白にしうるような試算を試みることは不可能であった。

 以上のごとくガス拡散法、遠心分離法およびノズル分離法についてそれぞれ検討を加えたが濃縮コストの試算にあたっては、それぞれの技術的発展段階の差によって前提とした数値の信頼性も異なるので、これら試算結果を並列してその間に優劣をつけることは必ずしも当を得ない。これら3方法の将来性に関する結論としては次の諸点があげられるであろう。

(1)ガス拡散法による濃縮コストの試算結果には比較的信頼がおける。米国原子力委員会価格に匹敵するコストを期待するには、安価な電力を使用しうる環境に建設することのほか、経済上の優遇措置を講ずる必要があるかも知れない。なお検討を重ねればこの方法の経済性の向上に関して、いっそう信頼のおける予想を下すことも可能と思われる。

(2)遠心分離法による濃縮コストの計算数値には問題が多い。しかしながら遠心分離法によって、米国原子力委員会価格に近いコストで濃縮ウランを生産しうる可能性が示され、その際の問題点も具体的に指摘される。今後の検討および研究開発によって残された問題を処理してゆくことはきわめて意義があると考えられる。

(3)ノズル分離法の将来性を推定するに足るようなコスト試算を行なうことは不可能であったが、今後の発展を期待して、海外における研究の動向をも参考としつつ研究を続ける必要がある。註)コスト試算に当って、原料天然ウランの価格は米国原子力委員会発表の改訂前価格39.27ドル/kgを用いて行なった。従って改訂後の価格23.56ドル/kgを用いて試算すれば、試算値は濃縮ウランの米国原子力委員会発表改訂価格に見合う低下割合を示すことになるであろう。

4.第3次中間報告書

   (再処理経済に関する報告)

 核燃料経済専門部会は、燃料サイクルの経済性を検討するに当り、再処理が重要な位置を占めるので、ウラン濃縮に引き続き再処理をその経済の面から検討する必要があると考え、再処理経済小委員会を同部会の下に設置してこの審議を行なうこととした。

 再処理経済小委員会はその審議にあたり、核燃料再処理の方式と規模をいかに仮定するかが根本的に重要な問題であるとしてこれを慎重に検討したうえ、まず再処理方式については再処理専門部会が現状における最適の方法として取り上げた溶媒抽出法を想定し、海外から得られた技術的資料を参照しつつ仮想処理工場の基本設計を行ない、それに基づいてその建設費を試算し、さらに再処理の検討を行なうこととした。

 またその規模に関しては、将来建設すべき実用規模再処理工場の経済性を推定できる範囲であり、しかもパイロットプラントへこの試算データを利用すること等も可能であるという要請を念頭におくという方針から、天然ウランないし低濃縮ウランの使用燃料済の処理量が1日1トンの規模のものとした。

 試算の概要は次のようなものである。

(1)建設費の試算
 建設費を試算するにあたって溶媒抽出工程については、溶媒抽出を1回行なう1サイクル方式と2回行なう2サイクル方式とを考えるとともに、間接建設費および技術費の相違によって次の4つの場合について計算した。ここで技術費とは、設計、監督、検査、特許等に要する費用をいう。

1)A工場−1サイクル方式で間接建設費を直接建設費の20%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を建設費の10%とする。

2)A′エ場−1サイクル方式で、間接施設費を40%とし、補助および一般管理施設の技術費を20%とする。

3)B工場−2サイクル方式で、間接建設費を20%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を10%とする。

4)B′工場−2サイクル方式で、間接建設費を40%とし、補助および一般管理施設を除く施設の技術費を20%とする。

 以上のごとくすると、各工場の建設費の試算結果およびその比較は第1表のとおりとなる。

第1表 A、A´、B、B′各工場の建設費とその比較

 第1表に示したように1トン/日規模の再処理工場の建設費は70〜80億円と見積られる。またその内訳を示せばセル建物の占める割合は20〜25%、セル建物内主要工程機器が17〜19%、廃液処理、燃料貯蔵、分析等の付属施設が25%、電気、水等の補助施設が7%である。

 設計料等の技術費は7〜14%である。

 また現在行なわれているのは2サイクル方式が標準であるが、この第2サイクルを省略することによる節約は3%程度になる。

 なお、建設資金総額は、以上の建設費および運転賃金を加えたものとなる。このため、これを加えて以上4工場に要する資金総額およびその比を示せば、第2表のようになる。

第2表  A、A´、B、B′各工場の建設資金総額とその比較

(2)年間操業費の試算
 年間操業費の算定は次の4例について行なった。

1)A工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.01で、資本金および運転資金に対する利子(あるいは利益)と保険料を考慮しない場合。

2)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.02で、利子および保険料は考慮しない場合。

3)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.02で、利率6%とし、保険料率を建設費の1%とする場合。

4)B′工場で保守材料費が(建設費−土地整地費)×0.02で、利率10%および保険料率1%の場合。

 以上4例について、操業費を試算すると第3表のようになる。

第3表 年間操業費

 以上の減価償却は、減債基金によるものとし、機器および試運転費については7年の償却とする。

 建物および土地については30年とした。

 *一般には土地の償却は行なわないが、この場合は土地の転用が困難であるので、償却するものとした。

 以上のように年間操業費は、17〜26億円と見積られ建設資金等に対する利子を見込むと、見込まない場合に比して2〜3割高となる。

 その内訳をみると直接操業費は年間操業費の30〜45%を占めるのに対し償却費は30〜40%にあたり、ほぼ直接操業費と同額になる。

 利子は利率が10%の時、年間操業費の22%に及び利率の再処理に及ぼす影響は少くない。

(3)試算結果の考察
 この仮想工場における使用済燃料1トン当りに要する再処理費は、年間300トンを処理したとすれば580〜870万円である。これを米国原子力委員会の設定した1トン/日処理の仮想再処理工場の1日の使用が610万円(1960年)であるのと比較すると、償却期間や資本に対する利率の点に問題はあるが再処理費はおおむね大差がないと思われる。

 再処理費に変動を生ぜしめる要因として工場の稼働率のほか使用済燃料の種類および回分量**に考慮を払う必要があるがこれは別種類の燃料を再処理する前後に工場の運転停止、除染および運転開始のための時間を空費することに起因する。

**つづけて一時に処理する同一の種類の使用済燃料の量

5.今後に残された問題点

 総論に述べたごとく、当専門部会は核燃料を最も効果的に使用するにあたり、わが国に最も適した燃料サイクルのあり方を検討するために設けられた。したがって広義のエネルギー経済の観点から、核燃料を他のエネルギー資源と比較検討することは、本部会の目的に含めておらず、また核燃料をリサイクルする立場から問題をとらえたため、いわゆるonce−throuqh方式の検討も留保された。また燃料サイクルを論ずるに際しては、これを資源的な面に重点をおき全体として扱う場合と、燃料サイクル構成上の個々の要因およびその組合せを、原子力発電原価との関連において見る場合とがある。

 当専門部会としては、核燃料供給の確保が重視された設置当時の情勢に基づき、まず全般的な核燃料の節約効果の検討を行ない、次いで燃料サイクルの構成要因のうちこれでにウラン濃縮と再処理についての検討を現段階において可能と考えられる範囲において、一応完了した。したがって今後燃料サイクルを検討する上になお残されているものとしては、燃料要素の成型加工、使用済燃料の輸送、燃料の変換等の問題があり、一方燃料サイクル全体から引き出される問題としてはプルトニウムの原子燃料としての価値、放射性廃棄物の処理等の問題、更にそれらの問題の根本として炉型式の選定などがある。

 燃料要素の成型加工は、燃料および被覆の種類、再処理工程における除染率、生産量等がその経済性に関係し、成型加工費が燃料サイクル費におよぼす影響は大きいと思われる。すなわち、これら燃料の変換や成型加工は、従来かなりの経験を経た。1次燃料についても今なお技術的改良の途上にあって、量産的高能率化に成功するならば、従来型式の燃料要素においても、近い将来そのコストを相当程度引下げうる可能性を有するものもある。新型の燃料体(例えばスエージング法などによる管状燃料体など)においては、さらに一属のコスト低減を期待しうるものと思われる。なお再処理産物からの2次燃料については、未だ経験も乏しく初期研究段階とみなされ、従って工業的コストを定めることは困難である。

 また燃料の輸送、殊に使用済燃料の輸送は、高い放射能を持った多量の放射性物質を含むため、放射線防護と臨界管理に重点をおいて、キャスクの設計と取扱い使用済燃料の積載方法等が問題となるほか、特に輸送規則や保険の問題が、国内的のみならず国際的にも解決されなくてはならないであろう。

 燃料の変換は、再処理産物または濃縮六フッ化ウランから燃料要素の成型加工素材への変換およびウラン再濃縮のための六フッ化ウランの製造を指すが、この場合、臨界管理、再処理工程における除染率に応じた防護設備等が変換費を左右することとなろう。

 次にプルトニウムの価値に関しては、それが高速中性子炉燃料として核的に最も適していることは、すでに確認されているが、実用的高速炉の開発にはなお相当の長期間を必要とすると考えられるので、それ以前に熱中性子炉へのプルトニウムの利用を考慮する必要がある。しかしながら現在のところその可能性と価値についても充分な解析が完了していない。この点に関する今後の検討は核燃料経済を論ずる上に重要な問題である。すなわち、プルトニウムが核燃料として実用的な価値を有するかどうかの問題は燃料サイクルの経済性に大きな影響を及ぼすのであって、たとえば使用済燃料を再処理する場合にそれが天然ウラン型の燃料であるかまた濃縮ウラン型の燃料であるかによって若干の差はあるにしても、その経済性は何れもプルトニウムの価値に大きく依存することとなっている。

 プルトニウムの価値が未だ不明確である今日、使用済燃料を再処理せずに永久処分してしまういわゆるonce−through方式あるいはプルトニウムの価値が判明するまでの間相当長期間貯蔵しておく考え方もあるが、この場合の技術的、経済的問題も未だ十分検討されていない。

 また放射性廃棄物の処理については、安全管理の面から見て貯蔵あるいは廃棄の方法の如何によっては、燃料サイクルの経済性に少なからぬ影響を及ぼすほか国際的な規制についても多くの問題を含んでいる。

 どのような型の炉を開発すべきかという問題は、結局は現在建設中のコールダーホール改良型炉からはじまってプルトニウムを燃料とする高速中性子炉を開発するまでの経路を、広く国民経済の立場から考えなくてはならないのであって、理想的には発電コスト、関連産業をも含めた全体の資金所要量、産業構造の変動および外貨バランスの変化による国民経済への影響等それぞれ質の異なった事柄を、正当に勘案した上で決定されなければならないものと考えられる。

 以上要するに、核燃料経済に関連し検討されねばならない問題はなお多く残されているが、原子力開発が全体的にまだ初期段階にあるため、既に一応取り上げた項目についても今後研究開発がすすむにともない技術的に新しい要素が加わることも考えられ、したがって開発の段階に応じ、すべての分野にわたりたえず調査検討をすすめる必要があると思われる。