京都大学の原子炉設置に関する委員会の答申

 原子力委員会では、昭和36年9月20日付で諮問を受けた京都大学の原子炉設置について審議を行なっていたが、3月14日の委員会で結論を得たので次のとおり内閣総理大臣あて答申を行なった。

37原委第18号
昭和37年3月15日

内閣総理大臣殿

原子力委員会委員長

京都大学の原子炉の設置について(答申)

 昭和36年8月20日付36原第3169号をもって諮問のあった京都大学の原子炉の設置について審議した結果、下記のとおり答申する。


 京都大学が学術研究用および教育訓練用の目的をもって、大阪府泉南郡熊取町大字野田に設置する濃縮ウラン軽水減速冷却不均質型(水泳プール系タンク型)熱出力1,000kWの原子炉1基の設置承認申請は、核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する承認の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適用に関する意見は別紙のとおりである。

(別紙)
○ 核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する承認基準の適用に関する意見。

(平和利用)
1.この原子炉は、京都大学が中心となり全国の大学が共同利用して学術研究および教育訓棟用の目的をもって、使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)
2.(1)この原子炉の使用目的は原子力開発利用長期計画において定めた基礎研究の推進の方針に合致するものである。

(2)原子炉の型式、性能はその使用目的に合致している。

(3)原子炉利用に関する組織および技術的能力は十分であり、その利用効果を挙げることができる。従って、この原子炉の設置、運転はわが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)
3.原子炉の設置に要する資金は、関係附帯経費を含め総額約26億円であるが、これは全額国費をもって調達されることになっている。このうち、土地購入費約9千万円は昭和35年度予算によって支払われ、残額約25億1千万円は、昭和36年度より4年間にわたって予算に計上されることになっている。また原子炉施設の経常費予算は年間約2億3千万円計上することになっている。従って原子炉を設置し、運転利用するために必要な経理的基礎はあるものと認める。

(技術的能力)
4.別添の原子炉安全専門審査会の、この原子炉の安全性に関する審査結果のとおり、この原子炉を設置し、その運転を適確に遂行するに必要な技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5.別添の原子炉安全専門審査会の、この原子炉の安全性に関する審査結果のとおり、原子炉施設の位置、構造および設備には、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物、または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

昭和37年3月12日

原子力委員会委員長

   三木 武夫 殿

原子炉安全専門審査会会長
矢木 栄

京都大学誠子炉設置の安全性について

 当専門審査会は、昭和36年9月22日付36原委第77号をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

I 審査結果

 全国大学共同利用を目的として、大阪府泉南郡熊取町大字野田に設置しようとする学術研究用および教育訓練用の濃縮ウラン軽水減速冷却不均質型(水泳プール系タンク型)熱出力1MWの原子炉の安全性について、京都大学が提出した原子炉設置承認申請書(昭和36年9月4日付)にもとづいて審査した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうると認める。

II 審査内容

1.立地条件

(1)一般環境
 京都大学研究用原子炉の設置場所は大阪府泉南郡熊取町大字野田で大阪市中心部から西南西約35km、泉佐野市から南東約4.5km、佐野川上流に位する。

 この地域は和泉山脈と大阪湾海岸線の間にある標高50〜80mの丘陵地帯である。

 丘陵は洪積層よりなりほぼ南北につらなり南端は和泉山脈に接する。

 地区の北東を流れる雨山川は雨山に源を発する小河川で地区の北西にて上記佐野川に合流する。

 地区の特色としては灌漑用の小溜地が多いことで敷地近傍にも南側と西側に水面積それぞれ52,000m2、38,000m2の弘法池および坊主池があるがその流域は非常に狭少である。

 付近は農業を主体とし綿織物の中小工場が点在する。

 ただ敷地の南南東炉室予定点から約460mに町立の保育所があるが距離的に見て問題はない。

 また最も近い人家までの距離は300mである。

 また原子炉に最も近い敷地境界までの距離は約60mであるが、同境界坊主池に接し、原子炉からその対岸までの距離は約180mである。この坊主池および対岸の山林は現在のところ原子炉敷地には入っていないが、京都大学では同地区を購入することになっている。

 以上要するに原子炉の周辺の環境はこの種の原子炉の設置に対し支障はないものと考える。

(2)地盤
 原子炉棟其他本施設の主要棟は、砂質土および粘土質土の互層より成る洪積層地盤の上に建設される。

 ボーリングその他の調査結果によれば、この地盤は十分の耐力を持っているし、またその成層状況も殆んど水平に近く地すべりその他の危険はないと考える。なお傾斜地を整地して施設を建設するので、地崩れ等に対する保護はもちろん必要とするが、全般的に見て比較的容易に十分原子炉の安全性を確保し得るに足る地盤であると考える。

 地盤からみて建崖設計上とくに留意すべき点は次の通りである。

(i)ボーリング調査の結果によれば、原子炉棟の地下部分の周囲地盤は大部分細砂または中砂層となっている。従って、原子炉棟の地下部分の構造体に亀裂があれば汚染水の地下浸出があり得るので、原子炉棟基礎盤の剛性配筋等には申請書にもあるように十分の配慮を要するが、とくに使用済燃料の輸送溝ならびにプールと原子炉建家の取合部の設計には亀裂を発生しないよう注意を要する。

 万一、汚染水の漏洩がある場合を考え原子炉付近のボーリング孔を利用して、常時地下汚染水のモニターを行なう計画であるが、これは万全の策と考える。

(ii)原子炉棟付近の地表的約10m厚の砂層はほぼ水平に坊主池にまで連続していると推定され、また坊主池の満水面は原子炉横地下室床面より数m上りとなっている。坊主池は原子炉は水平距離的60mを距てているが、坊主池満水時には原子炉の地下室下部はある程度地下水面以下になるものと考えるのが安全であろう。この点、申請書に記載のごとく、今後実施設計までに地下水位の継続観測を続け防水設計の参考とすることが望ましい。

(3)用水
 全用水量2,000m3/日は実験所ならびにその周辺に深井戸を掘さくして、取水する計画であり、緊急時には付近の灌漑用貯水池の水も利用することになっている。

(4)排水
 実験所構内の雨水ならびに弘法池の溢流水は排水管で今池に導かれ、今池下流において非放射性排水および放射性廃液の処理水と合流され、敷地の東側を東南から西北に流れる雨山川に放流される。雨山川の川床は沿岸の耕地より低くなっている。雨山川は実験所排水放流地点から約2km下流で佐野川に合流し、約28km流れて泉佐野市の東北部で大阪湾に注いでいる。

 佐野川中下流部における水道普及率は約50%であり、浅井戸による地下水の利用も行なわれている。調査された範囲では井戸の水位が佐野川の水位よりも高いから、川水が浅井戸に流入することはないと考える。泉佐野市の水通は全使用水量の約70%を大阪府営水道から供給されているが、佐野川沿岸の深井戸からも揚水している。しかし取水している帯水層の上に不透水層があるから、川水が深井戸に流入して放射性廃液が飲料水を汚染するおそれはないと考える。

2.原子炉施設

(1)原子炉本体
 この原子炉はタンク型であるが、代表的な水泳プール型原子炉であって、他の同種の原子炉がもっと同程度の負の温度係数および負のボイド係数が期待され、2%以下の反応度が誤って加えられた場合にも本質的に固有の安全性をもつものと考える。

 炉心タンクは厚さ10mmのアルミニウム板で作られ直径200cm、深さ820cmの円筒形をなしており、原子炉の炉心は炉心タンクの底部に固定されている。原子炉タンクはシールドコンクリートで囲まれているが原子炉タンクのアルミニウムはシールドコンクリートとの接触部において腐蝕の危険があるので、申請書にも記載されているように防蝕に対して十分の研究と措置を講ずることが望ましい。

 炉心タンク上面には遮蔽体を兼ねたふたがあって、簡易気密になっており、タンク内圧力は室内の圧力より低く保たれる。

 炉心部は、MTR型燃料要素の集合によって作られ燃料要素を固定するための格子板には6行9列の孔が用意されている。これらの孔のうち4行5列程度の燃料要素の装荷で原子炉は臨界に到達できると考えられ、また1MW運転時の規準装荷量は28本程度と予想される。

 これら燃料要素の集合によって作られる炉心部の周囲には燃料要素と同型の黒鉛またはベリリウムの反射体要素を上記格子板の孔を利用して適宜挿入できるように作られている。また格子板の長辺に接して、黒鉛熱中性子設備と、重水熱中性子設備とが設けられ、それぞれ炉心部に対して反射体として働らくように作られている。

 実際の運転に当っては、燃料要素および反射体要素の配置を一種類に限定しているのは妥当と考える。炉心変更を伴う実験については、運転経験、および核的データを蓄積の上、改めて検討することが望ましい。

 制御棒は粗制御棒4本、微調整棒各1本よりなり、制御できる反応度は14%である。

 一方原子炉に保有される反応度は最大4.5%であり、その内訳は次のごとくである。

 燃料燃焼 Xe の蓄積によるもの   3.0%
 温度上昇によるもの   0.5%
 制御に必要とするもの   0.2%
 実験に必要とするもの   0.8%
 合   計   4.5%

 炉心部の冷却は熱出力100kW以上の運転にさいして強制循環が行なわれる。炉心タンク内の一次冷却水の循環量は38m3/minであって、1MW運転の場合炉心タンク入口と出口の温度差は5℃ていどに保たる。

 以上要するにこの原子炉本体は、この型式の他の原子炉と大同小異であって、安全性の観点から特に問題はないと考える。

(2)燃料要素
 燃料要素は90%濃縮ウラン-アルミニウム合金をアルミニウムで被覆した最も曲型的なMTR型のものである。普通の燃料要素1本につき含まれるU−235の重量は約165gである。

 この種の燃料要素については、国内および国外において多くの経験があるから安全上特殊な問題はないものと考える。

(3)実験用設備
 この原子炉には多数の実験用設備が設けられ、主として炉心部の外側に配置されている。

この原子炉において最も大きな特徴と見られる設備は重水熱中性子設備である。この設備は炉心側よりビスマス層、重水槽、重水基板ならびに遮蔽扉からなっており、垂水槽内の重水は炉地下室内の重水貯留槽からヘリウム圧力によって出し入れすることができる。

 重水槽から万一重水が漏れた場合を考えると、炉室内の高速中性子およびγ線による線量率が増加することになる。炉が停止されれば、遅発γ線による線量だけが問題となり、これは遮蔽扉の外側で1mr/hrていどのものとなり問題はないこととなる。

(4)耐震設計
 原子炉ならびにこれに付属する配管類に対して、0.6また原子炉格納建家ならびに付属施設に対して0.3の水平震度を採用し、その1/2の垂直震度をも考慮に入れて設計することとなっている。この設計方針は、この原子炉の立地、地盤条件、構造形式から見て十分安全側の処置と見られる。なお申請書に記載されているように、振動性状の複雑な配管類等に対して完成後実験等により設計の妥当性の検査を行なうことは必要な措置と考える。

 シールディング・コンクリートは分厚い断面を持っており、その下底が堅固な基礎盤に固定され、中間が原子炉室床板で支持されているので耐震的に安全に設計しうると思われるが、乾燥収縮、開口部による応力集中、温度分布の不均一等を予想して、亀裂防止のためにも十分な鉄筋補強を考慮する必要がある。

3.平常時の安全対策

(1)生体遮蔽の設計等
 生体遮蔽の設計の方針はこれを分けて次の二つとしている。すなわち第1の場合は原子炉本体の主要部分などのように、その近くに作業員が立入る可能性が比較的多い場所についてであって、この場合には遮蔽設計の目標を0.1mrem/hrとしているので、実際に原子炉を運転した場合に線量率をこれに近い値におさえることは十分可能なものと認める。

 第2の場合は特殊な作業目的のために、限られた時間しか作業員が近づくことばないような場所であってそこの線量率を第1の場合ほどに低くすることは、はなはだしく困難と認められるような場所である。

 その場所、線量率、および作業内容は表の通り計画されている上に、このような場所での作業では作業時間、作業頻度等を調整して従事者に対する被ばく線量を科学技術庁告示第21号の許容線量をこえないようにしているのは妥当である。

  作業場所   作業内容
  線量率
  一次冷却系統周辺   点  検   20mrem/hr
〃  〃
  イオン交換
  樹脂再生
  66 〃
  原子戸タンク上部   点  検   10 〃
  燃料取扱    5 〃
  使用済燃料輸送溝上面     〃   50 〃

(2)放射線管理
 放射線管理は個人管理についても屋内管理についても十分な設備と管理機構を備えているので、前にも述べたように生体遮蔽が国際放射線防護委員会の勧告の基準値を下まわって設計されていることおよび放射線の内部被ばくはほとんど無視しうることを考え合せると、原子炉従事者に対する被ばく線量を科学技術庁告示第21号に定める許容線量を十分下まわるように管理しうると認める。この原子炉の本来の目的である放射孔を用いる研究実験を行なう場合には、研究者は機器調整などのために短時間ではあるが、高線量率で被ばくする可能性があり、適切な放射線管理と作業時間の制限により、最大の場合を想定しても同一研究者が2週間に200mremを越えることはありそうもない。またこのような作業に同一人が数ヶ月にわたって従事することは容易に避けるものである。これらより研究者がうける被ばく線量を科学技術庁告示第21号に定める許容線量を十分下まわるよう管理しうるものと認める。

 野外管理に関しては、敷地外に4ヶ所のモータリング・ステーションを設置し、空間線量率塵埃放射能等を監視するほか、定期的ならびに必要に応じて河川水、農作物、土壌等を採取して分析することになっているが、これは妥当なものと認める。

(3)廃棄物処理

(i)気体廃棄物処理
 気体廃棄物は鉄筋コンクリート造、高さ35mのスタックから放出されるが、スタックの出口における排気中の放射性物質濃度をモニターし、必要に応じてフィルター、スクラバーを通すことになっているから気体廃棄物の処理は適当と考える。

(ii)液体廃棄物処理
 原子炉の一次冷却水および使用済燃料輸送溝、使用済燃料貯蔵プールの水は浄化回路で循環使用することになっており、これ等が著しく汚染された場合は貯留槽に導かれる。また二次冷却水が汚染された場合も貯留槽に導かれる。貯留槽の汚染水は実験所内の廃棄物処理場で処理される。

 液体廃棄物は高レベル放射性廃液(1μc/cc以上)中レベル放射性廃液(1〜10-5μc/cc)および低レベル放射性廃液(10-5μc/cc以下)に区分して処理される。高レベル放射性廃液と中レベル放射性廃液は容器に収集し、低レベル放射性廃液は排水管で実験所内の廃棄物処理場に送られる。高レベル放射性廃液はそのまま保管して中央廃棄物機関に引渡される。中レベル放射性廃液は蒸発し、低レベル放射性廃液は凝集沈澱、濾過するが必要に応じて両者ともイオン交換を行なえるようになっている。処理した廃液はモニターして廃液中の放射性物質濃度が科学技術庁告示第21号に定める許容濃度の1/10以下であることを確認した後、今池下流の水路に放出されることになっている。この水路に放出された廃水は非放射性排水とともに雨山川に流入する。

 雨山川、佐野川の川水は実験所排水の放流地点下流においても付近の水田の灌漑に利用されているがこれ等の水田から収穫される米を常食とする場合に人体が受ける年間放射線量はかなり大きめに計算しても0.17mremであるから、一般公衆に対して安全であると考える。

 以上により液体廃棄物の処理方法ならびに設備容量は適当と考える。

(iii)固体廃棄物処理
 固体廃棄物は可燃性と不燃性に区分して容器に入れこれを実験所内の廃棄物処理場において減容して貯蔵設備に保管し、中央廃棄物処理機関に引渡されることになっているから、固体廃棄物処理も適当と考える。

4.事故時の安全対策

(1)安全保護設備
 各種の原因による事故に対して、原子炉を安全に停止し、燃料の溶融を防ぐよう冷却するため、事故の程度、種類に応じてインターロック、警報、制御棒一せい挿入、スクラム、緊急冷却系統設備等の安全保護設備が計画されている。

(i)スクラム
 この原子炉においてはスクラム条件として次のものを選定しているが、これらは妥当なものと認める。

 出力異常上昇、炉周期異常減少、地震、停電、一次冷却水流量低下、プール水位低下従って原子炉停止には十分な計画がなされていると認める。

(ii)緊急冷却
 停電に際しては、炉はスクラムされるが、更に一次冷却系統の流路に水圧駆動弁が設けてあり、循環ポンプの停止による出口圧力の極端な低下にともない自動的に一次循環系を閉じ炉心直下のフラッパーバルブを開いて自然循環を行なわせるようになっている。これによって、1MWで運転中スクラムが働いて炉が停止されれば約10秒後には炉内の熱発生は100kW以下に落ちるので自然循環で十分に冷却させることができる。

 また配管系、原子炉タンクなどの破損によって急速な水の漏洩が起る場合のために、100m3以上の緊急冷却装置を備えてある。

 これらは原子炉停止後の崩壊熱による燃料の溶融も確実に防止することを目的とするものであって、安全確保の上に万全の考慮が払われていると認める。

(2)事故の種類
 この原子炉の考え得る事故の種類を分類整理すれば次のとおりである。

(i)反応度事故
(ii)冷却系事故
(iii)燃料要素の破損

 以上について検討する。

(i)反応度事故
 原子炉に急激な反応度が加わる事故としては、炉心に近接した照射孔先端で試料または容器が爆発し、照射孔壁が大きく破れて急速に一次冷却水が浸入する場合が最大事放であり、解析の結果によれば約0.7%の反応度が階段的に加わることになる。更に試料の反応度吸収が0.2〜0.3%あったとして、これが爆発により四散したとすると合計約1%の反応度が階段的に加わることになる。

 制御系が完全に作動しておれば制御棒の動作によって反応度増加を打消すことができるので、出力上昇は抑制されて、燃料の溶融には至らない。

 従って問題になるのは反応度の増加と制御系の故障が偶然一致した場合であるが、この場合も1%の反応度の階段的追加に対し燃料棒の最大到達温度は百数十度でアルミの溶融よりはるかに低く、核分裂生成物を多量に放出するような燃料溶融事故は起らない。

 以上、反応度事故に対しては十分安全が保てるものと認める。

(ii)冷却系事故
 冷却系の事故により冷却能力が急激こ減少すれば、原子炉は確実に停止され、かつ崩壊熱除去に必要な最低量の冷却水は確保される計画となっている。

 すなわち配管、原子炉タンクなどに破損が起ると急速な水の漏洩が起るが配管系統の場合には原子炉への出入口のバルブを閉じることによって漏水を少なくすることができる。一方炉心またはそれ以下の高さにある各部の破損についてはその構造上約20m3/hr程度の流出を見込んでおけば十分であるので、炉心タンクの緊急補給系統を設け、その流量を最大20m3/hrとし、更にこの系統は揚水装置の故障を考慮して約100m3以上の貯水槽に連絡してあるので緊急冷却としては十分の措置がほどこしてあると認める。

 なお冷却系事故に反応度事故が重なった場合、すなわち実験孔内の爆発が原因で実験孔が破損し、かつこれがタンクの大きな漏水となる場合を想定すると、この原因で出力の異常上昇が起っている時間はわずかに200msecであって、この時間を経過すれば出力はほとんど元の値に近くまで低下するので、この時間内ではほとんど冷却能力の低下もないと考えてよいので(i)、(ii)が別々に起った場合とほぼ同じと考えてよい。

(iii)燃料要素の破損
 燃料体に破損が生じた場合には燃料破損検出器で発見され、直ちに警報が発せられて炉は停止される。これは一次冷却水浄化設備のイオン交接樹脂塔につけられたγ線検出器で、核分裂生成物が一次冷却水に数10mcも出れば検出できるようになっている。

 この程度の感度があればかなり小さな燃料体の破損でも検出でき、必要な措置が論ぜられると考える。

(3)災害評価
 考えられる放射性物質の多量放出としては最大出力で運転中に燃料が相当程度破損して、これから核分裂性物質が空気中に放出された場合である。

 申請書に添付の安全対策書においては最悪事故として、実験孔における爆発事故等により燃料板の一枚の半面にわたって被覆はく離がおこる場合を解析しているが、この場合に放出される放射性物質の濃度を試算してみると、最悪気象条件下における敷地外の空気中の放射性物質の最大濃度は、6×10-12μc/cc程度となり、この吸入による年間の集積線量は、最も問題となるI-131の場合で約1×10-5remで、これを現在国際的に考えられている最も低い値である英国医学会(MRC)の許容値と比較すると106程度下廻るので、周辺の一般公衆に対して放射線障害のおそれはないと考える。

 以上の考慮から判断すると、この原子炉の安全性は十分確保されるものと認める。

5.技術的能力

 本原子炉の設置については、京都大学、大阪大学および関西方面の専門家より構成される関西研究用原子炉設置準備委員会および建設委員会、ならびに京都大学内の原子炉建設本部が、その計画の作成検討を行ない、原子炉の建設の運営管理は建設本部(昭和37年度より京都大学原子力実験所に移行の予定)が行なうことになっている。

 この原子炉の設計は米国インターニュークレアー社、建設は主として日立製作所が当ることになっているが、インターニュークレアー社はこの種の原子炉の設計に十分の経験を有し、日立製作所はJRR−3トリガ型原子炉、スイミングプール型原子炉の建設の経験を有しているので、この原子炉の設計、建設に要する技術的能力は確保されるものと認める。

 原子炉の運転の利用の運営管理は原子力実験所が行なう。原子力実験所は教授6名、助教授13名、その他180名、合計200名程度の人員が配置されることになっている。

 これらの原子炉の設置、運転のための組織、人員ならびにその経験から見て、この原子炉を適確に運転する技術的能力を有するものと認める。

III 審査経過