金属材料専門部会報告書の答申について

1.本部会の設置目的および審議経過

 金属材料専門部会は、次の諮問事項の審議を目的として、昭和33年5月2日設置されたものである。

(1)原子燃料被覆材の製造ならびに原子炉および付属装置に使用する金属造材料の製造または加工に関する研究計画の調査および検討。

(2)これら金属材料の各種分析法、試験法、検査法に関する調査検討。

 昭和33年7月16日に第1回の部会が開かれ、以後昭和36年10月13日の答申案審議までに核燃料専門部会との合同会議を含めて合計10回の会議をもった(審議経過表参照)。この間原子炉用金属材料の内外における試験研究の現状を調査するとともに促進すべき試験研究について検討を行ない、その成果を報告書としてとりまとめ、昭和36年10月31日原子力委員長あて正式に答申した。

2.部会の構成メンバー

 部会の構成メンバーは下記のとおりであるが、この他に学識経験者の参加を得て資料のしゅう集、整理を行なった。

原子力委員会金属材料専門部会構成

部会長   三島 徳七  東京大学名誉教授
専門委員   阿部 信男  住友金属工業(株)技術開発部長兼工事部長
  石田 四郎  明治大学教授
  伊藤 伍郎  金属材料技術研究所第5部長
  大日方一司  東北大学金属材料研究所長
  川崎 正之  日本原子力研究所主任研究員
  木原  博  東京大学教授日本溶接協会会長
  栗村 竜象  三井金属鉱業(株)常務取締役
  志賀 知英  古河電気工業(株)常務取締役
  高尾善一郎  (株)神戸製鋼所取締役研究部長
  新見 計三  三菱原子力工業(株)研究所長付
  橋口 隆吉  東京大学教授
  橋本 宇一  金属材料技術研究所長
  長谷川正義  早稲田大学教授
  三島 良績  東京大学助教授
(幹事)   本永 秀彦  科学技術庁原子力局研究振興課長
  一文字正三  科学技術庁原子力局
  林   弘  科学技術庁原子力局
  松原 伸一  科学技術庁原子力局
(参加者)   荒木  峻  東京都立大学教授
  飯塚 富雄  (株)日立製作所日立研究所
  小野 健二  (株)日立製作所日立研究所第5部長
  片山 三郎  古河電気工業(株)技術部原子力課
  木村 勝美  金属材料技術研究所第4部非破壊検査研究室長
  木村丈太郎  三菱原子力工業(株)研究所材料第2研究室長
  栗原韓次郎  三井金属鉱業(株)生産第1部副部長
  黒田 和夫  原子力金属懇話会事務局長
  小崎 正秀  住友金属工業(株)原子力部長
  鈴木 春義  金属材料技術研究所第6部長
  宗宮 尚行  東京大学名誉教授
  高木  昇  東京大学教授
  多田 愛信  古河電気工業(株)技術部原子力課長
  武内 次夫  名古屋大学教授
  多田 格三  東京芝浦電気(株)中央研究所主任研究員
  田中 義朗  (株)神戸製鋼所原子力室
  津谷 和男  金属材料技術研究所第5部原子炉構造材料研究室長
  中井 敏夫  日本原子力研究所主任研究員
  平野 四蔵  東京大学教授
  法貴 四郎  住友電気工業(株)取締役研究部長
  細井 吉一  古河電気工業(株)日光電気製銅所 技術部
  水池  敦  東京大学助教授
  三好 栄次  住友金属工業(株)中央研究所主任研究員
  本島 健次  日本原子力研究所分析化学研究室長

金属材料専門部会審議経過

3.報告書の内容

 原子炉用金属材料は、原子炉の規模・型式あるいは使用部分によってその種類は広範多岐にわたるものであるが、本部会はこれらのうち最も重要と考えられるアルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、鉄鋼、ニッケル、ニオブ、ベリリウム、ナトリウム、ビスマス、カドミウム、ホウ素、ハフニウム、希土類等の諸金属を対象にとりあげた(核燃料は核燃料専門部会において検討されているので、これに関連ある事項は審議の対象に含めなかった)。

 報告書は第1章「原子炉用金属材料の概要」、第2章「原子炉用金属材料の製造加工に関する試験研究の現状」、第3章「原子炉用金属材料の分析法、試験法、検査法に関する試験研究の現状」、第4章「研究開発の促進」の4章からなっている。第1章においては燃料被覆材、構造材減速材および反射材、冷却材、制御材および遮蔽材に5分類して、原子炉用金属材料について用途別にその概要を述べ、第2章および第3章においてそれぞれ諮問第1項および第2項に対する調査の要点を集約し、第4章においては原子炉用金属材料の重要研究の開発を促進するため必要と考えられる施策についての要望をとりまとめている。

 報告書はかなり長文のものであるが第4章の要約および結論によって、その内容を略々察知しうると考えるので、紙面の都合上、第4章のみを掲載することとする。

金属材料専門部会報告書

第4章研究開発の促進

 原子炉用金属材料の研究開発については、昭和36年2月決定された原子力開発利用長期計画に沿って進めることになるが、本書においては、原子炉用金属材料の研究開発をより効果的に促進する見地から、重要な研究事項ならびに関係研究機関の役割を要約し、あわせて積極的に実施すべき適切な方策を、明らかにすることにした。

1.重要な研究事項

 原子炉用金属材料に関する研究課題については、各金属材料ごとに前述したが、ここでは横観的に重要な事項について特掲する。

1.1 新金属の製錬法

 ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、イットリウム、ベリリウム等のいわゆる新金属の製錬法に共通した問題として、次の諸点について研究を必要とする。

1)酸もしくはアルカリによる高温高圧下での浸出およびハロゲンガスによる揮発分離等の技術。

2)イオン交換樹脂法、有機溶媒抽出法等の新しい精製技術、たとえば、ニオブとタンタルの分離、イットリウムおよび稀土類相互の分類。

3)マグネシウム、カルシウム、ナトリウム等の活性の強い金属による還元技術。とくに、この場合加工法・耐食性の向上のためガス不純物の高度除去。

1.2 材料の性質

(a)機械的性質

(1)高温特性

 鉄鋼材料の高温特性については、すでによく研究されているが、各種燃料被覆材についても高温特性を研究する必要がある。発電用原子炉がより高温運転される傾向にあり、かつ、安全性の向上を要求されていることから、従来から高性能の試験機による試験を必要とする。

(2)切欠脆性

 大型構造物で溶接して用いられる材料は、とくに溶接部の安全性がより大きくなければならない。たとえば、動力炉の圧力容器に用いられる鋼材は、切欠脆性に対するきびしい要件が要求される。

 わが国においては、この問題に関する経験は比較的乏しいので、鋼材の組成・溶接部と切欠脆性との関係、照射による鋼材の脆化の関係等について研究を行なう必要がある。これと同時に、低温で十分な延性を有し、常温および高温での強度の高い高張力鋼の開発研究が必要である。

(3)耐熱衝撃性、熱応力疲労等

 金属材料の耐熱衝撃性、熱応力、疲労等は具体的な設計が進むにつれて、問題の所在が明確となるものであるが、これにはあらかじめ問題を設定して研究を進める必要がある。たとえば、圧力容器を製作する段階で、これらの問題を解明するためには、模型を試作して、残留応力・熱応力の解析等の試験研究を行なう必要がある。

(b)耐食性

 金属材料の化学的性質のうちで最も重要なのは耐食性である。研究の対象となるのは、構成金属材料に対し、熱、流速等のいろいろな条件下における腐食であるが、原子炉の型式によりその内容が変わるので、それぞれに応じて腐食の研究計画をたてて進めることが必要である。研究の内容としては、すでに開発された材料の耐食性試験以外に、腐食についての基礎的研究、耐食性改善のための新しい金属材料の研究が重要である。

(c)放射線照射効果一般構造材料の放射線照射効果は、国産材料の実用性の確認、原子炉材料として必要な基準の確立および新材料の開発試験等の点から是非試験を行なう必要がある。前述した切欠脆性、腐食試験についても、放射線照射効果と関連づけて研究することが必要である。

1.3 加 工

(a)溶 解

 ジルコニウムの融解のように、在来のチタンの融解技術の改善によって行なえる場合もあるが、ハフニウム、ニオブ、ベリリウム等の融解に関しては、消耗電極アーク融解注、電子線融解法等の新しい融解法を適用することが望まれている。このほか従来から使用されている材料についても、原子炉用としてとくに品質の向上が望まれるために、鋼材の真空脱ガス処理、マグネシウム合金の不活性ガス中での融解等のような融解法の適用を必要とする場合がある。

 これらの問題については、従来から研究が行なわれ、若干の成果を収めているが、なお多くの研究すべき問題が残されている。また、ジルコニウム等のように融解技術の相当進んだものについては、スクラップ利用等の生産技術的な研究も取り上げる必要がある。

(b)成型加工

 原子炉用新金属材料には、一般に改良された加工技術を必要とする場合が多いが、シースに入れて行なう熱間加工(ジルコニウムの押出し、ベリリウムの押出し、圧延等)、特殊雰囲気中での熱処理(ハフニウム、ニオブの真空中での焼鈍等)等の新材料の成型加工について、今後さらに研究開発を強化する必要がある。

 また、原子炉用金属材料として、特殊な型状あるいは、寸法精度が要求される場合、新しい加工技術の開発を必要とする。たとえば、燃料被覆材は、原子炉の型式・熱伝達の特性等により、今までにない複雑で特殊な型状の管材を押出、抽伸等により製造することが多い。アルミニウム、マグノックス、ジルカロイ、ステンレス鋼等については、すでに若干の成果が収められているが、なお技術的、経済的に難点もあるので、改良すべき課題である。特殊な加工法として衝撃押出法に関する研究や寸法、形状で特殊な超極厚クラッド鋼の加工技術の開発も必要である。

 原子炉用金属材料のうち、ベリリウム、酸化ベリリウム、ニオブ、SAP等については、粉末冶金法による成型加工が行なわれているが、経済的に実用するためには、なお研究を高度に展開する必要がある。

(c)溶 接

 原子炉用金属材料の溶接は、とくに留意すべき問題であり、溶接部の健全性がより強く要求される。圧力容器用超極厚鋼板、クラッド鋼板、燃料被覆材、燃料破損検出管の溶接、熱交換器用の管と管板との溶接等特殊形状寸法ものの溶接およびクスパンションジョイント部等異種金属の溶接には、今まであまり経験しなかった技術の研究開発が必要である。このような溶接に関する要求に対処して、(1)活性金属の電子線溶接(2)活性金属とくに、ベリリウムの接着(特殊ロウ付、ガス圧着)、(3)薄板の異種金属の超音波溶接、(4)超極厚板の特殊溶接(エレクトロスラグ溶接等)、(5)特殊な自動溶接方法、(6)プラズマジェット切断と溶接、(7)特殊な抵抗溶接および高周波溶接等これらの新しい溶接法の研究開発が必要である。

1.4試験法・検査法

(a)分析法

 原子炉用金属材料の極微量不純物元素の分析および迅速な日常分析の開発にあたっては、安定で感度の高い機器分析法の開発を促進するほか、標準分析法の確立について、今後研究を進める必要がある。

(b)非破壊検査

 原子炉用金属材料に対する非破壊検査法は、いまだ完成されたものは少なく、諸外国においても検査結果の判定基準に関しては暫定的なもので、可能なかぎり欠陥とみられるものを検出しようとしているのが現状である。当面問題となる重要なことは、燃料心材と被覆材との密着性、溶接部の健全性等について、非破壊試験方式を確立するための研究を行なうことである。

(c)腐食試験

 原子炉用金属材料に対する腐食試験を行なうにあたって、まず問題となる点は、種々の腐食環境に即応し、かつ、安全で再現性のよい完備したループ試験装置を開発しなければならないことである。この種の試験装置は、大規模、かつ、高価であり、環境によってそれぞれの特殊の構造および計装を必要とするので、早急に実際に使用しうる適当な装置を開発する必発がある。

(d)照射試験

 各種の金属材料に対する照射試験は、わが国において十分に行なえない状態にあるが、原子炉用としての材料を確定するためには、欠くことのできない試験である。したがって、専用の材料試験炉を設置し、照射試験を行なう必要があるが、初期段階としては、炉内試験と炉外試験との関連性あるいはカプセル試験とループ試験との関連性等、基礎的問題について調査研究する必要がある。

2.研究機関に期待する研究分野

 各種原子炉用金属材料の開発研究は、非常に広範囲であり、かつ、長い期間にわたる知見の集積を必要とするものが多い。

 したがって、その研究開発の分野を画一的に区分することは困難であるが、研究開発を効率的に進め、技術水準を飛躍的に向上せしめるためには、これらの目的に沿うよう関係研究機関がそれぞれの特長を生かし、研究対象を明確にして研究を進めることが望ましい。この意味において、関係研究機関に期待する役割の一端を概括することとする。

1)大 学

 特定の開発目的にかかわりなく、原子炉用金属材料に関する基礎的研究を中心として行なうことを期待する。

2)国立研究機関

 国立研究機関においては、原子炉用新金属の開発はもちろん民間企業において設置し難いような施設による。腐食試験、溶接試験を行なうことが適当であると考える。もちろん、溶接、腐食等の試験は、民間企業においても広く実施されるであろうが、ことに上記の目的に沿う腐食試験や新しい溶接技術の開発については、金属材料技術研究所が、関係研究機関の中心的役割を果たすことを期待する。

3)日本原子力研究所

 日本原子力研究所においては、関係研究機関と協力して、原子炉用材料の照射試験を推進するほか、炉材料の核的性質、放射線損傷機構の研究を行なうことを期待する。

4)原子燃料公社

 現在原子燃料公社においては、関係研究機関の協力を得て、核燃料検査技術の研究開発に力を注いでいるが、今後、主要なる燃料被覆材の非破壊試験に関する技術開発およびその検査基準の確立を期待する。

5)民間研究機関

 原子炉国産化の発展に伴い、民間企業においては、原子炉用金属材料の研究開発に力を注ぐであろうが、材料の製造加工について、それぞれ特色のある技術の開発を推進するとともに、新材料の研究開発を積極的に行なうことを期待する。

3.共同研究の推進

 前にも述べたように、原子炉用金属材料の研究開発は、広範囲であり、多岐にわたっているが、研究が深化するに従って、縦横のつながりにおいて、関係機関の協力を強化することが望まれる。

 今までも特定の研究課題、たとえば、溶接については、関係機関の協力はとられていたが、溶接、腐食、非破壊検査等の総合的問題については、さらに強力な連係のもとに共同研究を実施することが適当であると考える。

 燃料被覆材、構造材などに対する溶接技術については、従来共同研究的組織により、研究を進めてきたが、なお多くの未解決の問題が残されており、かつまた、新溶接技術の開発が要請されているので、今後は共同研究として計画的に研究を促進し、技術水準の向上を図ることが望ましい。

 非破壊検査技術については、被覆管、圧力容器用厚鋼板、クラッド鋼板などの溶接部等の非破壊検査法を確立し、検査結果と材料の実用性との関係を明らかにし、さらに進んで検査結果の判定基準を設定する必要があるので、その分野において、共同研究態勢を確立し、研究を広く系統的に行なうよう促進することが望ましい。また、腐食の問題を解決するためには、腐食機構の解明などの基礎的研究から、耐食性改善のための合金の開発に至る試験研究を有機的、効率的に促進しなければならない。この腐食試験は、照射試験とも関連づけて研究することが必要であるので、金属材料技術研究所と日本原子力研究所が中心となり、関係研究機関が協力して共同研究として効果的に促進することを期待する。

4.民間研究機関に対する助成

 民間研究機関では、原子炉用金属材料の研究や改良が行なわれてきたが、材料の国産化を促進するためには、なお多くの研究を実施する必要がある。一方、新しい加工技術の確立あるいは新材料の開発には、さらに多くの努力を払わねばならない。これらの研究開発を進めるに当っては、民間企業がもつ技術によって推進することが重要である。したがって、国が重要と認める研究を、効果的に促進し、技術水準を向上せしめるためには、民間において開発することが適当であるもの、あるいは新規な着想でその成果が有望なものについては、国の助成金等を交付して、これを強力に助成することが必要と認められる。