材料試験炉専門部会審議状況と報告書の提出 1.部会設置に至る経緯 材料試験炉設置の構想は、すでに、昭和32年策定の第1次長期開発計画にとりあげられているものの、具体的な内容には全くふれられていなかった。その後、材料試験炉の建設計画を促進するため、昭和34年8月、日本電機工業会より「材料試験専用原子炉設置に関する要望書」が提出され、同年末には、日本原子力産業会議から「材料試験炉に関する調査報告書」が、公表された。 下って、昭和35年6月8日に開催された、原子力委員会第5回核燃料、金属材料合同専門部会において、日本原子力産業会議の報告書が審議され.材料試験炉設置の問題に関し、原子力委員会で早々にとり上げるよう強い意見が出された。これらの情況に対処して、原子力委員会は、昭和35年8月31日の定例会議で、材料試験炉専門部会を設置することを決定し、材料試験炉開発方針を諮問することとした。 この部会は第1表にあげられた15氏で構成し、担当事務局としては原子力局研究振興課があたることとなった。 第1表 原子力委員会材料試験炉専門部会構成 材料試験炉専門部会審議経過 2.現在までの審議状況 第1回専門部会は、昭和35年10月4日開催され、部会長に三島徳七委員を選出し、直ちに審議に入った。その後、大体一月に一回の割合で会議−材料試験専門部会−が開かれ、現在までに第2表に示すように諮問事項を審議検討するため11回の会議が持たれている。 すなわち、この間、部会は従来からの調査研究に加えて、日本原子力研究所、民間関係会社および学識経験者から提出された資料をもとにして、主として材料試験炉設置の必要性、照射試験の需要推定、材料試験炉の規模、建設の時期等について審議を続けてきた。また、昭和36年春、日本生産性本部によって編成された材料試験炉専門視察団と意見の交換を行なった。 ここに以上の審議結果を一応整理して今後の検討の基礎とし、あわせて材料試験炉についての一般の認識をより一層適確なものとすることを目的として、36年9月29日の第11回部会では以上を「材料試験炉専門部会中間報告」としてとりまとめ、この報告書は、10月2日付で三島部会長から三木原子力委員会委員長に提出されるところとなったが、その全文は別項に掲げる。 3.今後の審議予定 本中間報告書において、材料試験炉建設についての基本的大綱があきらかにされたので、部会としては、今後昭和36年度末までには答申書を提出することを目途として、昭和37年2月中には諮問にこたえる成案を得るべく: i 運営方法 ii 照射料金 iii 設置個所 iv 運転管理体勢 v 要員充足 vi 技術者養成 vii 発注方法 viii 6インチ径炉心ループの必要性 等の残された諸問題に関し順次より一層具体的に審議検討を進める予定である。 昭和36年10月2日 原子力委員会委員長 三木 武夫 殿 材料試験炉専門部会部会長 三島 徳七 材料試験炉専門部会は、わが国における材料試験炉の設置に関する基本方針の検討を目的として、昭和35年10月以降その開発方針に関し審議を重ねてきましたが、ここに現在にいたるまでの調査検討を取りまとめたので、中間報告をいたします。 材料試験炉専門部会中間報告書 まえがき 材料試験炉専門部会においては、わが国における材料試験炉の開発方針を固める前提として、これまで先進諸国における開発の状況ならびにその動向の調査を進めるとともに、材料試験炉をわが国に設置するうえに必要な基本的事項について検討を行なってきたが、ここに中間報告することとした。今後さらに関係資料の収集および海外調査等を通じて調査検討を加え、当部会としての答申を行なう予定である。 第1章 材料試験炉設置の必要性 1-1 照射試験の概要 (1)照射試験一般 原子炉の燃料要素および炉心部に使用される構造材料は、比較的高温で、長い間強い放射線に照射される。 したがって、このようなきびしい条件におかれる核燃料や原子炉用材料は、普通一般の材料の場合に行なうような機械的性質の試験やその他の物理的、化学的性質を検討するだけでは不十分であるので、放射線照射下における特性や、その挙動を、熱的諸条件をも含め、あらかじめ十分に見きわめておく必要がある。またこのことは、原子炉の安全性を確保する見地から、きわめて重要なことである。 一般に材料は、熱中性子の影響よりも、主として高速中性子によって損傷を受ける。これに対して燃料は、高速中性子による損傷よりも、熱中性子を吸収して核分裂を起こし、生成する分裂破片による損傷が大きい。このように中性子でも、高速中性子と熱中性子とでは、照射による効果がかなり違って現われる。また、ガンマ線については、それ自体は、材料にあまり影響を与えないが、水のような冷却材に対しては、ガソマ線が水を分解するために、冷却材による腐食の挙動に影響を及ぼす。核燃料や構造材料は、原子炉における高エネルギー放射線により、その性質がいちじるしく変化する。したがって、燃料については、主として燃料心材の照射効果による特性試験、燃料要素の確性試験等が必要であり、構造材料については、照射効果による特性試験・腐食試験等が必要である。 これらの照射試験こついて、基礎研究から実用化までの段階に区分すると、次のような一連の過程が考えられる。 i 照射特性の解析 ii 燃料・材料の選別 iii 原型の開発 iv 確性試験 v 破損燃料要素試験 要するに、これらの照射試験は、燃料・材料の研究開発あるいは実用に際して、欠くことのできない重要な試験といえる。 (2)照射試験の方法 照射試験の方法は、カプセル試験とループ試験の二つに大別される。カプセル試験は、照射すべき試料を特定の容器(カプセル)の中に入れ、これを炉内の適当な位置に挿入し、放射線照射を行なう方法であり、カプセルの冷却は、炉内の冷却材で行なうことになる。したがって、カプセル試験では、採択しうる試験条件に制限があるが、比較的簡便な方法なので、燃料・材料の小試料を用いての照射特性の解析や選別試験等に広く用いられる。 ループ試験は、炉内の冷却材とは隔離された、炉内から炉外に通ずる閉ループを形成し、実際条件に近似させた温度・流動条件で循環している冷却材の中で、照射試験を行なう方法である。ループ試験はより広い範囲で試験条件を任意に選択することができるから、照射試験法として一層重要性の有するものであり、腐食試験・原型の開発・確性試験等には欠くことのできないものである。また、ループ試験では、炉内の冷却材と隔離されて試験を行なうので、燃料試料が破損しても、試験炉そのものには汚染が及ばないから、苛酷な条件下における試験やあらかじめ既知の欠陥が与えられた試料についても、その影響等に関し、試験することができる。 照射試験に当って、とくに重要なことは、加速試験である。実際の炉で使用される中性子束で試験を行なう場合は、その材料の耐用年数以上の試験期間を必要とするので、一般には、専用の材料試験炉を用い、高い中性子束による加速試験を行なうのが普通である。 加速試験で問題になることは、放射線損傷等の照射下の挙動に対する線量率の影響と、試料に対する熱的条件の影響である。線量率の影響については、現状の照射試験の精度では十分確認されていない。また、一般に中性子束を高めると、試料内の発熱が増大し、熱的条件がいちじるしく実際の条件と外れてくる。これに対する対策としては、試料の寸法を小さくするとか、冷却条件を調整するとかいった方法がある。日本生産性本部によって編成された材料試験炉専門視察団の報告によれば、構造材料で10倍、燃料では2〜3倍程度の加速試験が可能であるといわれている。 燃料・材料を本格的に開発するための照射試験については、専用に計画された材料試験炉と、それと有機的に付帯する設備が、有効に利用されねばならない。 照射試験専用の材料試験炉としては、照射試験に必要な高い中性子束と、カプセルおよびループ試験装置を挿入しうる必要な実験孔を、備えていなければならないことはもちろんであるが、カプセル試験やループ試験が、核的にも、機械的にも、やり易い炉でなければならない。核的にやり易い炉とは、実験孔に挿入する設備や試料等の反応度や炉内の中性子束に及ぼす影響が少なく、隣接する他の実験孔との干渉が少ない炉である。また、実験孔内の中性子束の分布が、照射期間中なるべく一様で、均一の照射のできること、高速中性子束や熱中性子束の強さが、照射試験に適当であることも、重要な因子である。このためには、炉心内の燃料要素・制御棒・実験孔等の配列について、特別の考慮が必要である。 機械的にやり易い炉どは、カプセルやループ試験設備の炉内取付が容易で、試料の出し入れに便利である炉のことである。これらのものが相互に干渉し合ったり、炉内の他の設備、たとえば制御棒・駆動機構とぶつかったりしないように、試験炉設計の当初から総合的に計画しておくことが必要である。 なお、材料試験炉に付帯する設備としては、これと密接な関連を有する臨界実験装置等照射前試験設備および反応度測定装置・ホットセル等照射後試験設備を必要とする。 1−2原子炉開発に伴う照射試験 わが国における原子炉開発に伴い、材料試験炉で行なう必要のある燃料・材料の照射試験について概説すると、次のとおりである。 (1)実用動力炉の開発に伴う照射試験 現在外国で実用規模にある軽水型・コールダーホール型の動力炉の国産化にあたっては、次の照射試験が必要と考えられる。 (A)燃 料 (a)低濃縮二酸化ウラン燃料 (b)金属ウラン燃料 (c)被覆材 (d)燃料要素 なお、燃料要素集合体の確性試験を必要とする場合は、実用炉もしくは動力試験炉で行なうことが適当と考えられる。 (B)構造材料 照射試験を必要とするのは、炉内構造物・圧力容器等、炉内において比較的高い中性子束にさらされる諸材料である。圧力容器には、普通鋼材またはステンレス鋼を内張りした鋼材が用いられており、一方炉内構造物には、軽水冷却炉の場合はステンレス鋼・ジルカロイが、またガス冷却炉の場合はステンレス鋼・ボロン鋼−軟鋼合せ板(遮蔽材)・黒鉛(減速材・構造材)が用いられている。これらの材料の照射による特性変化や照射下における冷却材による腐食について、照射試験を行なう必要がある。とくに、圧力容器等の溶接部については、力学的特性のほか、腐食特性にも影響があり、これは溶接技術と関連して照射試験を実施する必要がある。 (C)制御材その他 ボロン鋼・インジウム−カドミウム合金・ハフニウム等については、構造材料と同様に、照射下における特性の変化に関する試験・腐食に関する試験を行なう必要がある。 (D)機器部品および計測要素 炉内に設置される熱電対・検出器等の計測要素の照射下における寿命特性の変化をたしかめる試験を必要とする。 なお、実用動力炉の開発に当っては、外国よりの技術情報が十分得られるのであろうが、次の理由により、国内においても、照射試験を行なう必要が生ずるものと考える。 i 技術情報を消化し、技術的確証を得る必要がある。 ii 燃料の成型・加工・溶接のように、多くのパラメーターを持つものにあっては、技術情報を基にして、最適条件をさらに確認する必要がある。 iii 燃料の損傷およびこれに伴う現象の研究が、安全性の確保の見地から必要である。 iv 改良を含む新技術の開発のための試験が必要である。 (2)将来の原子炉の開発研究に伴う照射試験 日本原子力研究所における水均質炉・高速中性子炉・半均質炉の開発に伴い、次の各種の照射試験が必要と考えられる。 (A)水均質炉の開発に必要な照射試験 照射下におけるウラニル系燃料溶液の不安定性と腐食・トリアのスラリーによる侵食の問題を究明するため、照射試験が必要である。 (B)高速中性子炉の開発に必要な照射試験 照射試験をとくに必要とするのは、高中性子束照射下における各種型態のプルトニウム燃料・被覆材・構造材の特性の変化、燃料と被覆材、および冷却材としてのナトリウムと被覆材・構造材との両立性等の諸問題の解明である。これらはいずれも、とくに高速中性子束による照射試験を必要とする。 (C)半均質炉の開発に必要な照射試験 半均質炉の燃料は、二酸化ウラン・二酸化トリウムまたは炭化ウラン・炭化トリウムと黒鉛とを混合して、成型したものを使用するが、照射下における諸性質の変化・反跳分裂生成物の挙動等について、照射試験を行なうことが必要である。また冷却材としては、ビスマス・炭酸ガス等が考えられているが、ビスマス冷却の場合は低クロム鋼等構造材の腐食について、またガス冷却の場合は炭酸ガスと黒鉛のコーティングとの両立性等について、照射試験を行なうことが必要である。 (3)その他の照射試験 (A)将来の燃料・材料の開発に必要な照射試験 ジルカロイ被覆の二酸化ウラン燃料およびステンレス鋼被覆の二酸化ウラン燃料は、すでに実用されているが、最近はさらに種々の改良が試みられているほか、核過熱用燃料に関心が持たれ、二酸化ウランおよび被覆材について、広範な研究が行なわれている。原子力開発の発展に伴って、燃料・材料の製造加工の改善は、今後ますます促進されることが予想されるが、この種の研究には、照射特性の解析から始まり確性試験に至る一連の照射試験を必要とする。 また、ウランカーバイトを中心とする新燃料・プルトニウム系燃料や、被覆材としてのベリリウム・ニオブ合金・鉄−アルミニウム合金等について、一連の照射試験を必要とする。 (B)有機材の開発等に必要な照射試験 有機材減速冷却型原子炉については、発電用・船舶用の原子炉として、将来有望視されている。 この種の原子炉については、海外における開発の進展とにらみ合わせつつ、基礎的研究を促進するが、放射線および熱による重合率の小さい有機材の開発、本型式に適した燃料・材料の開発等について、照射試験を行なう必要がある。 1-3 材料試験炉設置の必要性 前述したように、照射試験は、わが国で原子炉を開発するためには必要欠くべからざるものである。 わが国において、燃料・材料の照射試験を行ないうる炉としては、目下JRR-2・JRR-3が考えられるが、JRR-2は、材料試験炉として重視すべきインパイルループ試験が、有効に行ないえないうらみがあり、また、JRR-3は、中性子束が低く、この点で、燃料・材料の照射試験の範囲も限られたものとなる。したがって、これらの炉のみでは、今後必要とする燃料・材料の照射試験の実施は、実質的に期待できない。一面、この種の照射試験を外国の機関に依頼することも考えられるが、わが国における照射試験の質的・量的要請にかんがみて、これを外国に照射委託して、目的を達成せんとすることは、はなはだ困難である。 以上のような見地から、わが国で原子炉用燃料・材料の研究開発を促進するためには、高い中性子束のもとで、短期間に有効に照射試験を行ないうる、適正規模の専用の材料試験炉の設置が、是非とも必要であ.る。 第2章照射試験の需要推定 材料試験炉の設置に関連して、照射試験の需要量推定は重要な要素となる。科学技術庁原子力局は、昭和36年3月一定の所式により、日本原子力研究所および原子力関係会社が計画する照射試験を調査したが、この調査集計によると、材料試験炉による照射試験の需要は非常に大きな量にのぼった。材料試験炉の規模をきめるにあたっては、将来の需要見通しに基づいて、十分な配慮がなされなければならないことはもちろんであるが、ここでは、今回の需要量調査に調整を加え、現段階において具体的にその必要性を認めうる試験だけを一応考慮して、炉規模を検討するための手がかりとした。すなわち、第1表は、わが国で必要と考えられる最小限度のインパイルループ試験を摘出したものである。 第1表のインパルループ試験の需要は、各種型式の原子炉を開発するために、重要な内容を持つものばかりである。したがって、これらを併行して実施する体勢が理想的ではあるが、ここではさらに原子力開発利用長期計画の線に沿って、実施時期に順序を付して考えることとした。 第1表 インパイルループ試験の需要 すなわち、次に述べるように、原子力開発利用長期計画に対応させて、第2表に示すように、インパイルループ試験の需要を調整した。 第2表 インパイルループ試験の年度別需要 (i)軽水冷却炉 (ii)ガス冷却炉 (iii)半均質炉 (iv)水均質炉・高速中性子炉 (v)新燃料新材料等 第2表を作成するに当って、第1表の「その他燃料関係」については、その実施時期を定める基準が明らかでないが、これらについては、その研究の進捗状況とも関連し、適時取上げる必要があるので、2本のループをこの種の試験に充当するよう考慮した。 第3章 わが国に建設する材料試験炉の基本的考え方 3-1 材料試験炉の規模 材料試験炉の規模については、わが国の将来の照射試験の需要から、必要なインパイルループの大きさと数とを推定しなければならないが、その指標を摘記すれば次のとおりである。 (1)必要な中性子束 照射試験にあたって、中性子束として、なるべく高い値が要求される場合が多いが、中性子束をあまり高くとると、熱的な制限から、試験片の寸法が制限される等かえって試験目的に合致しなくなる場合も考えられる。 また、材料試験炉で必要とする中性子束は、将来とも需要調査の結果といちじるしく相違しないものと考えられる。したがって、需要調査に基づいて、必要な平均中性子束としては、第3表の数値を対象とする。 第3表 材料試験炉の平均中性子束 (2)必要なインパイルループ試験用実験孔 第2表の需要に対応した材料試験炉のループ領域別・径別の本数を第4表に示す。 第4表 材料試験炉のループ試験用実験孔 以下第2表を基礎として、必要なインパイルループについて概説すれば、次のとおりである。 (A) 9インチループ 9インチループを必要とするのは、実用燃料要素の確性試験であるが、この種の試験を実用炉で行なうこととし、9インチループを必要とするほど大きな試料を照射する需要もないので、これを設備しない計画である。 (B) 6インチループ (a)燃料領域の6インチループ (b)反射体領域の6インチループ (C) 3インチループ (a)燃料領域の3インチループ (b)反射体領域の3インチループ (3)必要なカプセル試験用実験孔 以上、炉の構造に重要な影響を及ぼすループ用実験孔についてのみ述べたが、照射試験の需要のうち、カプセル試験の占める割合も大きいので、これらの需要についても十分考慮し、構造的・経済的に許される範囲で、可及的多数のカプセル試験用実験孔を設ける必要がある。 (4)炉の規模 前述のループ用・カプセル用実験孔を、効率よく配置し、実験相互の干渉が、物理的にも機械的にもなるべく少なくなるようにし、かつ、必要な中性子束が得られるように材料試験炉を設計することが必要であり、基本的には設計の段階で決定されるが、その出力は大略50MW程度になるものと考えられる。 3-2 主な付帯設備ループは材料試験炉本体と一本をなすものであるから、炉の設計にあたっては、ループおよび炉本体相互の関連性について、十分な検討がなされなければならない。またループの建設費は、炉本体の建設費と匹敵するほど高価のものであり、その設計建設にはかなりの長期間を要するので、材料試験炉と併行して建設に着手することが必要である。とくに、ループの種類・規模・型式は、実験内容に密接につながるものであり、これが選定に当っては、当面開発を急がねばならない。具体的な研究計画およびこれを実施する照射技術の開発についても、十分検討することが必要である。 このほか、臨界実験装置・ホットセル等の付帯設備についても、材料試験炉との関連性を十分考慮して、設計建設に当ることが必要である。 3-3 材料試験炉の設計建設 (1)炉の設置 外国における材料試験炉は、アメリカのGETR・WTRの2炉を除き、いずれも政府の設置したものである。これは国家目的に沿った研究開発を強力に促進するためと解されるが、それと同時に、建設費・運転費が巨額に達し、民間企業では建設され難い等の事情も大きな理由であると考えられる。わが国における原子炉の開発研究が進展するにしたがい、日本原子力研究所・原子燃料公社・国立研究機関・大学および民関原子力関係会社の材料試験炉に対する期待はきわめて大きく、可及的すみやかにこれを設置して、これら機関が共同使用し、原子力開発研究の促進に資することが要望されている。 このようなわが国原子力開発の現状にかんがみ、材料試験炉は、日本原子力研究所に、国の資金をもって建設し、これを効率的に運営することが適当であると考える。 (2)建設の時期 原子力開発利用長期計画の線に沿って、原子炉を開発するに必要な燃料・材料を国産化するためには、総合的に、効果的に、照射試験を行なうことが必要である。わが国では、今までは、製造加工技術の試験研究のみを主として進めてきたが、今後実用化の段階に進むにつれて、専用の材料試験炉により、これらの成果について、系統的に照射試験を実施し、実用面への開発を促進して行かなければならない。 材料試験炉の建設運転までには、調査および仕様の検討に2年、建設に3〜4年、臨界から平常運転までに約1年位の期間を要するものと考えられる。したがって、実際に材料試験炉が役立つには、設置計画をスタートしてから6〜7年の後である。すなわち、1961年に計画樹立のための調査に着手し、その後順調に作業が進捗したとしても、1966年に運転を開始し、さらに1〜2年後に漸く本格的な試験を実施しうる体勢となる。原子力開発利用長期計画でも、このような観点から、1965〜1966年に運転を開始する目標のもとに、建設に着手することになっているが、燃料・材料の国産化を促進するためには、長期計画の線に沿って、材料試験炉を建設するよう、諸般の準備を進めるべきである。 (3)概念設計 日本原子力研究所は、諸外国で運転または建設されている材料試験炉をさらに調査研究し、炉の性能はもちろん安全性も考慮して、材料試験炉発注のための仕様書を作成するものとする。なお仕様書作成上必要な主要項目については、概念設計を行ない、必要に応じ外国のコンサルタントを使用し、その万全を期するべきである。 (4)建設用地 炉の規模・建設時期および運営管理と関連して、敷地を選定するものとして、その準備を行なうことが適当と考える。 3−4 材料試験炉の運営管理 (1)運営管理態勢 炉の運転管理および照射計画の決定には、総合的な運営組織を設けなければならない。したがって、日本原子力研究所・原子燃料公社・国立研究機関・大学および民間原子力関係会社の協力を緊密にし、炉を共同的に運営するため、日本原子力研究所に関係機関を含む適当な運営組織を設け、具体的な協力に関する事項を協議推進することが必要である。 (2)運転管理要員 材料試験炉は、とくに安全運転のため細心の注意を必要とし、ループ実験においては、その実験条件の調整に完壁を期さねばならない。そのために運転管理上必要とする人員も多く、訓練経験も高度のものが要求される。これらの高級要員を短期間に確保することは、困難であるので、日本原子力研究所においては、運転管理要員計画をたて、関係機関の協力を得て、専任職員を確保し、設計・建設の初期から計画に参画させることが必要である。さらに、材料試験炉の運転管理のため、職員を外国の適当な機関に派遣して、関係技術を修得させるよう可及的すみやかに措置する必要がある。 (3)照射料金 利用者の負担すべき照射料金については、詳細な調査のうえ、適正な算定方式のもとに料金を定めることが必要である。 3−5 建設費および運転費 材料試験炉の建設費については、その設計内容により大幅に異なるものであり、いまのところ細目にわたる積算のできる段階ではないが、今までに得られた資料を参考にして推算すると、熱出力50MWの炉の建設費は、炉関係、建屋関係、その他主要な付帯設備関係等を含め、少なくとも50億円程度と見積られる。この費用は敷地関係の経費を除いたきわめて概算的なものであり、かつまた、今後概念設計が固まるのに応じて、その総額も変動するものである。 このほか、ループの建設費については、ETR等の実例を参考とすれば、9本分として、約25億円が推算される。また、運転費については、建設費との関係もあるが、試算では、年間約十数億円を必要とするものと推定される。 |