再処理調査団報告(要旨)

 原子力委員会は、海外における使用済燃料再処理の開発状況と動向を調査するため、去る4月6日から約50日間にわたって再処理調査団を派遣したが、その調査結果がまとまり、この程原子力委員会に報告された。報告書は総論と各論から成り、アメリカ、イギリス、フランスおよびユーロケミクの再処理開発状況がまとめられている。本調査団の構成は、団長大山義年氏をはじめ、荒川康夫、井上啓次郎、今井美材、山本寛の5氏であった。

 以下は、総論を中心とした、その要旨である。

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1.使用済燃料再処理に関する各国の現状と動向

 現在使用済燃料の再処理を工業的に実施しているのは、アメリカ、イギリス、フランスの3国である(ソ連を除く)。ヨーロッパにおいては、ほかにOEEC傘下にユーロケミクができて、加盟国の使用済燃料を共同処理する計画が進行中であるが、建設はまだ緒についたばかりである。したがって当調査団の調査の主目的は、これら3国の現状と動向を通じて再処理の実態を知ることにおかれた。

〔アメリカ〕

 アメリカにおける再処理は、現在アイダホ、ハンホード、オークリッジ、サバンナリバーの4政府機関に集約されているが、再処理に対するAECの基本的な政策は、英、仏両国と異なり、民間再処理事業を認めて、これに移行することを方針としている。このことは、民営優先が伝統的な政策の基調であることからみても当然の発展過程と考えられる。

 しからば民間事業への移行は、期待のように円滑に進行しているかというと必ずしもそうとはいえない。

 いわゆるIRG(Industrial Reprocessing Group)と称する原子力発電関係5社とデビソン・ケミカル社との6社より成るグループが1960年に着手した。予備的調査によると1)使用済の低濃縮ウラン燃料1日1トンを処理する工場施設の建設費が2,285万ドルであること。

2)その操業費は、年間のか働率でかなり変動するが、年間運転日数を200日および300日とすれば、これに応じて1日当りの操業費は、21,000ドルから18,000ドルに変化すること。

 などの結論をえている。これは、AECの規定料金1日16,988ドル(1960年、8月現在)と比較してやや高いけれども、不合理に高いものとは思われない。しかし使用済燃料の輸送、供給不足等の問題のため、まだふみ切るまでにはいたっていない。

〔イギリス〕

 イギリスにおいては、か働中のウインズケールの施設は、AEAの所管するものであり、コールダーホールおよびチャペルクロスの原子炉からの燃料を対象にしたものである。中央発電庁(CEGB)所属の発電用炉が拡張されるに伴ない、その使用済燃料を生産的に処理する目的をもって、目下ウインズケールに新施設の拡張建設が進行中である。また一方、ドーンレイの高速炉および材料試験炉に対しては、別にきわめて完備した新施設が建設された。この施設は、イギリスにおけるプルトニウム利用と高速炉開発に関する総合的計画の一連であり、その開発の熱意には感銘の深いものがあった。

 総じてイギリスの開発方式は、完全にAEAの統轄の下にきわめて集約的に推進されつつあり、アメリカのあり方と根本的な相違がある。一方設計製作建設業務を実施させる民間事業体としては、ニュークレアケミカル・プラント社(Nuclear Chemical Plant Ltd.)とフレーザー社(W.J.Fraser & Co.)の2社を公認し、これに再処理を含む冶金化学部門の技術を提供し、かつ全面的援助を与えることを約束している。

〔フランス〕

 いまやフランスの再処理は、サクレーおよびホンテネオローズの研究期からマルクールの実用期に発展し、Gl、G2、G3の全使用済燃料が、ここで処理されている。しかもすでに、EDFの発電計画に対応して、別の新施設の建設を計画しているという実状で、ほぼイギリス、アメリカに対して見劣りするものはないといってよい。またその開発はイギリスと同じくCEAの所管する国の仕事ではあったが、イギリスが国の施設と人員とでこれを完成したのに対し、フランスの場合は、大化学工業会社であるサンゴバソ社が開発に寄与した割合が非常に大きく、実質的に技術を把握しているということは、特筆に値する。

〔ユーロケミク〕

 ユーロケミクはOEEC傘下の12ヵ国(オーストリヤ、ベルギー、デンマーク、フランス、西ドイツ、イタリー、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スエーデン、スイス、トルコ)とスペインが自国で発生する使用済燃料を共同で再処理するという目的のため設立され、傘下各国の協力により再処理プラントの建設と運営とが行なわれようという特異の存在である。その建設計画によれば、1日350kg処理能力を有するパイロットプラントを早期に建設して、とりあえず再処理を開始し、次の拡張期に本プラントを建設するが、その際最初のパイロットプラントは濃縮燃料の処理用に転用する予定であるという。

〔再処理、プルトニウムの考え方〕

 再処理がもともとプルトニウム生産という軍需を主柱として発展したのは、いずれの国にも共通であったが、現状では、核燃料の総合的な有効利用という、むしろより本質的な問題が重要となっている。

 従来、使用済燃料中のプルトニウムおよびウラン−235はそれぞれの場合に応じて評価し、プルトニウムクレジットが設定されている。プルトニウムを原子炉用燃料として経済的に使用しうる見通しが困難な現段階において、プルトニウムクレジットおよび残存ウラン−235の価値づけの道がひらかれているということは非常に大きな意義がある。このような観点から調査したところ、内容的には従来の慣行と期待に反する回答に接したことは、特記の要がある。すなわち、当方からの次の3項目の質問に対し、アメリカ、イギリスから大要次のごとき回答をえた。

  (1)海外から供給された燃料を自国で再処理することを認めるか。

  (2)その再処理を委託できるか。

  (3)それらの場合プルトニウムの買戻し(クレジットの供与)を期待してよいか。

 アメリカの回答要旨:(1)は認める。(2)はできる。(3)に関してはユーラトムとの協約にその先例があるけれども、この先例は拡張したくない方針であるから期待できぬものと承知されたい。

 イギリスの回答要旨:(1)は認める。(2)は現にできることになっているから問題から除かれる。(3)に関しては原電との既規約は果すけれども、プルトニウムの国内供給が十分である。今日、日本が自国で再処理した場合まで買戻しはしたくない。

 この、プルトニウムの買戻しには原則的に応ぜられないという米英の方針は、わが国の再処理計画にも大きな影響を与えるものである。

〔技術援助〕

 技術援助に関しては、イギリス、アメリカとも相当硬い壁を感じた。たとえば、技術者の受入訓練においてprodudion Siteでの実地訓練はできない(AEC)。

 研究員の受入において、訓練学校以外ではgive and takeの援助でやってほしい(AEC)。もっと商業的に契約後に協議しよう(AEA)。という類である。

2.技術上、経済上の重要問題

 湿式法再処理技術の場合の主工程は、いわゆるビュレックス法であって、燃料を溶解した酸性溶液から、TBPを含む溶媒を使用して、ウランとプルトニウムを抽出し、核分裂生成物を除去して次にウラン溶液とプルトニウム溶液を分離する。これに使用する溶媒抽出装置として、ミキサセトラとパルスカラムという両方式が開発されているが、本質的な優劣はないと判断しえよう。分離したウラン溶液とプルトニウム溶液とは、後の直接加工に差支えないように更に精製されるが、これにはTBP溶媒抽出法、シリカゲル吸着法およびイオン交換樹脂法等が適用される。以上の主工程は、最も早く開発が進んで、今ではもはやほとんど定型化している。

 これに反して使用済燃料要素から被覆や、付属物を除く方法と、不要部を除いた燃料体を溶解する方法とに関しては、いまだ技術開発が続けられている。これは燃料型式がますます多様化するためである。開発の初期においては、被覆材は主として化学的に溶解する方法に努力が注がれた。この化学的脱被覆の最大の不利は、被覆材の溶解液が液状廃棄物に加わって、その処理量を増大させる点にある。

 そこでこれにかわって機械的に被覆材をはく離あるいは切断して、燃料本体の溶解前あらかじめ分離しておく方法が検討され、その開発は近年に至って成果をあげるようになった。今回はマグノックス燃料を機械的脱被覆する実際作業を観察する機会をえて、その信頼性を確認することができた。いずれにせよ機械的処理には、廃棄液量を減少しうるという本質的な利点があるので、将来の動向はますますこの方向に進展するものと思われる。

 イギリスの再処理に関する開発は、マグノックス型燃料に集約しているだけに、それには一日の長を認められるのに対し、アメリカの開発は多岐広範でその経験の幅が広いといえる。

 イギリスのウインズケール工場では、200フィートの高層から処理溶液を流下するという方式をとり、バルブやポンプ等の故障原因を排除したことは、イギリス的な設計の一端を示すものといえよう。

〔再処理費〕

 再処理の経済性というものの全貌は、かなり複雑で再処理コストそのもののほか、使用済燃料の輸送費、燃料の賃貸借料あるいは金利、プルトニウムおよびウラン−235のクレジットならびに転換等の総合的損得をもって比較すべきものである。

 建設費の一例として1日処理量1トンの再処理工場の試算値をとりあげると、IRGでは2,285万ドル、リズレーのClelland氏は約2,500万ドルと出しているのに対しサバンナリバーでは4,300万ドルと出している。AECの1957年設定当初の再処理手数料は、1日当り15,300ドルであったが、エスカレーション方式により、1960年8月以降はすでに16,988ドルと改訂され、またかりにこの変更の傾向を1967年度に外挿すると、21,200ドルになるという。ただしこれら料金は、民営再処理等が誕生するとしても、その再処理コストを規定するものではない。

〔輸送〕

 再処理を合理的に実施しようとすれば、輸送費と切離して論ずることはできない。というのは輸送費が非常に高いからであり、輸送距離が増大すれは、しばしば再処理コストと見合うけたのものとなるからである。アメリカ国内における陸上輸送の事例を平均すると燃料のキログラム当り10数ドルになるというが、再処理コストそのものが1キログラム当り数10ドルであるのと比較すればいかに大きな比率にあたるかがうかがわれる。

 さらに別個の角度においてなお1つの困難が予想される。それは輸送業者がはたしてこれを引受けるかどうかということである。

〔プルトニウム燃料の開発〕

 今回の調査において、はからずもプルトニウム燃料に関する研究開発の施設を多く見ることができたのは幸いであった。これらは、ドーンレイ、マルクール、アルゴンヌ等の諸施設であるが、とくにニューメック社が最近完成したプルトニウムの金属ならびに酸化物燃料の開発研究用新施設は、民間施設としては最初のものであり、参考となる点が多かった。これらを総じて、プルトニウムラボというものが急速に定型化してきた。作業の単位はグローブボックスであり、これを直線状なり魚骨状なりに配列するが、その際一旦外部に取出すことなく物の移動をできるようにしたというだけである。グローブボックスもプラスチック製が大勢となり、もはやレディメードになっている。いずれにせよプルトニウムの放射性毒を恐れるのあまり、不当に恐怖がもたれているのが現状であるならば一考を要するであろう。

3.わが国から見た再処理実施に関する問題

〔国内再処理実施上の具体的問題〕

 まず最初に、国内再処理実施に対立するオールタナティブとして使用済燃料の海外への委託再処理という道があることを指摘せねばならない。そのいずれの道を選ぶべきかは、遠距離海上輸送の技術的ならびに経済的可能性と、海外における委託再処理料金如何とに、密接に関係することはいうまでもない。

 次に問題となる具体的な点は、国内再処理実施の時期とその工場の規模であろう。処理量1日1トンという規模の付近を境として、それ以下に規模を縮小しても建設費の節約額はきわめて少なく、かつ操業費についても、その中の固定費分が多いため、工場の実か動率が低い場合には、かなり割高となることが判明した。

 今IRGの計画やAEAの示唆などを参考にして、1日1トンの処理能力で年間300トンの操業を仮想すると、これに見合う要再処理使用済燃料を発生する動力炉の規模はほぼ長期計画の後半にあたることになり、今後相当の年月を経た将来のことになる。しかしながら工場の建設には敷地選定その他の準備期間と数年の工事期間を必要とすること、スタートアップに十分の期間をかけるべきであること、さらに操業開始後も当分の間はフル運転を控えることが望ましいことなどをあわせ考えて、工場建設着手時期は諸外国のアプローチも参考として早期に決定すべきであろう。

 国内再処理実施の時期と規模の決定に関連して考えねばならぬ今一つの重要な点は、使用済燃料の未処理貯蔵の問題である。

 このように考えてくると、国内再処理実施の問題は、単に再処理工場内における再処理工程のサービス費用と、その企業採算だけの問題にとどまらず、使用済燃料中に含まれているウランおよびプルトニウムの組成とその価値とに関係し、結局は、わが国における核燃料サイクルのあり方に関連してくるのである。

〔国内再処理と核燃料サイクル〕

 最後に少しばかり根本にさかのぼって、わが国における核燃料サイクルのあり方を吟味し、国内再処理実施の当面の要請は何かということを考えて見たい。この場合わが国はアメリカとも、イギリスまたはフランスとも根本的に相違する重要な点がある。その一つはわが国はプルトニウムについて軍事用途をもたないということ、いま一つは現在国内に濃縮プラントの建設計画をもっていないということである。このような枠なかで考えると、次のようないくつかのケースが浮び上ってくるであろう。

(1)ウラン濃縮度を異にする2種類の動力炉を建設し、一方の使用済燃料を再処理してより低い濃縮度のウランを燃料とする動力炉に供給する、いわゆるカスケーデイングを行なう。

(2)高速中性子炉の実用化以前において、再処理からえられるプルトニウムを熱中性子炉のための代替濃縮燃料として利用する。

 しかしながら、このような核燃料サイクルを実現するとしても、各時点における使用済燃料の発生量とその処理場との間に均衡と調整をはかる必要がある。

 今回の調査によって、プルトニウムの買戻しは、アメリカにおいても、イギリスにおいても現在の情勢が続くかぎり、期待しえないということが明らかとなったのであるが、その結果プルトニウムクレジット喪失ということになると原子力発電原価へのはねかえりが動力炉計画にどのようにひびくか、さらにウラン−235もまたプルトニウムと同様に買戻しを期待しえないかどうか、これらの不確定要因についての賢明なる見通しと判断とを織込んで、あらためてわが国における核燃料サイクルのあり方を再検討することが、この際きわめて肝要である。