IAEA基本的安全基準パネル第2回会議の報告

 IAEAの基本的安全基準については、昨年10月に開催されたIAEAのパネルで第1次草案が検討され、その検討結果をとりまとめた案が本年2月、各加盟国に送付されたが、わが国においてもこれに対する意見を具申した。

 その後、5月29日から第2回パネルが開催され、最終案を検討したが、ここで採択された最終案と安全措置に関する国内法令との関係およびその意義などについて、パネルに参加した亘理放射線安全課長から次のような報告があった。

1.本基準の意義および安全措置国内法令等との関係

 IAEAは、IAEA憲章第3条A6項の規定に基づいて、健康の保護ならびに人命および財産に対する危険の防止のために安全上の基準を策定し、同機関自身の活動および同機関が提供した物質等を利用する活動に対してこの安全上の基準が適用されるよう措置することとなっている。この安全上の基準は、要請があれば、国家間の取極めまたは一国の活動に対しても適用され得るものであり、従って、保健および安全に関する国内法規が未整備の段階にある加盟国に対する指標の役割をも果すものである。

 安全上の基準は、基本的安全基準(The Agencys Basic Safety Standards)およびこれを補足する作業基準細則(The Agencys Health and Safety Measures)とから成り、これらの基準の実効を期するための行為、手続等については、安全措置〔The Agencys Healthand Safety Measures)で規定されている。

 なお、安全措置については、さきに1960年3月31日のIAEA理事会の承認を得て、すでに設定されており、また作業基準細則については、基本的安全基準が設定された後に新たなパネルにおいて検討が開始される予定である。

 この安全上の基準は、加盟国がIAEA自身から、またはIAEAの仲介によって物質、役務、設備または施設の提供を受ける場合に、国際原子力機関憲章第11条Fに規定する当該加盟国とIAEA間の協定に基づいて、これら物質等を利用する活動に適用されるが、安全措置第11項または第20項の規定に基づいて、当該協定により、IAEAの安全基準の代りに、これと同程度の効力を有する加盟国の安全基準を適用する(必要がある場合には修正を行なって)ことも可能である。従って、わが国のように物質等の提供を受ける加盟国が自国の安全基準を有する場合には、IAEAが当該国の安全基準が、IAEAの安全基準を充足するか否かを検討し、修正する必要があると判断すれば修正を要請して、当該国の安全基準を適用することとなるものと考えられる。

2.本基準とICRP勧告との関係

 本基準作成の前提としてICRP1958年および同59年勧告を全面的にとり入れることにパネルメンバー全員が賛成している。しかし、本基準は、IAEAの設定する根本基準として、以下に設定される作業基準細則の基本ともなるものであり、また、IAEA事務局の要請もあってICRP勧告の範囲を越えて、行政的見地からの規定をも含めている。

3.本基準とILO1960年放射線防護条約および同勧告との関係

 本基準の審議に当っては、ILO1960年放射線防護条約および同勧告の趣旨は十分考慮された。ちなみに、ILO条約および勧告は、ICRP勧告を全面的にとり入れたものである。一例をあげれは、放射線業務直接従業労働者に対する線量というILO1960年条約の術語を採用し、ICRP勧告のそれに対応した術語Occupatio-nal expouseは採用されていない。

4.本基準と原子炉等規制法、放射線障害防止法等との関係

 本基準に関する限り、日本の現行関係法令との間に、大きな相異はない。ごく些細な点で若干の相違はあるが多くの項目において、日本の法令の方がより厳格であるといえよう。

5.本基準の適用範囲

1)自然的ならびに人工的に作られた放射性物質の製造、加工、取扱、使用、貯蔵、輸送、処理、ならびに電離放射線に被曝することを含むその他のいかなる作業に対しても、この基準を適用する。

 ただし、本基準5-1-1-3でいう登録と許可から適用除外される作業に対しては本基準を適用しない。

2)本基準の目的は、下記の人々に対し、その健康を保護し、安全を保持することにある。

a)放射線業務に直接従事する労働者
b)放射線業務に直接は従事しないが、その職務上少しは放射線の被曝をうけるかもしれない労働者
c)一般公衆の個人
d)集団全体

3)本基準でいう線量は、外部放射線と内部放射線からうける被曝線量であって、医療による被曝線量ならびに天然放射線は含まない。

6.本基準の項目

はしがき

1.用語の定義

2.適用範囲

3.最大許容線量

3.1放射線業務直接従事労働者
3.2放射線業務間接従事労働者
3.3一般公衆中の個人
3.4集団全体

4.被曝線量管理の実際

4.1放射線業務直接従事労働者
4.2放射線業務間接従事労働者ならびに一般公衆中の個人
4.3集団全体

5.作業に関する基本的原則

5.1一般的要請
5.2検査と規制

付録

第I表 最大許容線量を定義するのに使用したRBE値

第IA表 線量と中性子線束密度の関係

第II表 最大許容濃度

第IIIa表 連続放射線業務直接従事労働者に対する核種不明の場合の最大許容水中濃度

第IIIb表 連続放射線業務直接従事労働者に対する核種不明の場合の最大許容空中濃度

第1図 電離放射線の標識

7.放射線安全基準に関する比較表

8.第2回パネルにおける主要な改正点

1)定義をつける用語の数が大幅に減少した。

2)適用範囲で対象外とする限界を明かにした。

3)集団全体については第1次案には、身体的影響についての最大許容線量を設定していたが、これを削除した。

4)作業に関する基本的原則中、一般的要請として一次案には登録と許可が規定されていたが登録を削除して通報(Notification)と許可とにした。

5)有資格専門家(Qualified Expert)の定義として、第1次案では“電離放射線を被曝する人の健康を有効に保護するために、防護措置や作業手順について助言できる知識をもち、訓練を積んだ者で、かつ当局が承認した資格をもっている者”となっていたが、最終案では−の部分を削除した。

6)医学的傷害サービスの規定が追加された。

7)放射線施設外の放射線防護のやり方について、第1次案では、実行可能な限り施設外における放射線防護のための監視は「施設経営者の任務であり、また同時に国当局の任務でもあるべきである」としていたが、最終案では「当局は施設外で十分放射線防護のための監視が行なわれることを確認すべきである。施設の経営者側は、施設外で放射線が確認されるために当局が要求するところに応える責任があるものとする。」と修正された。

8)付録・第I表最大許容濃度は可溶、不溶の2欄を設けることになった。

9)付録・第II表ラドンのMPCについては、注付で1954年ICRP勧告値を採用した。

9.日本政府の意見とIAEAパネル最終案との比較対照表