原子力船運航者の責任に関する条約会議

1.1961年海事法外交会議は、53カ国の参加のもとに、1961年4月17日午前10時から4月29日午後6時まで、ブラッセルのエダモン宮殿において行なわれた。ベルギー代表アルバート・リラーが議長をつとめ、日本を含む11カ国の代表が副議長に選出された。この会議においては二つの条約案が検討されたが、このうち、原子力船運航者の責任に関する条約案は、18日午後から、委員会において審議がなされ、28日午後および29日の総会において委員会作成案の検討が行なわれた。

2.各参加国代表のうちでは、アメリカが条約の成立に最も積極的であり、西欧諸国はおおむねこれに同調した。イギリスおよびスカンジナビヤ諸国は、原子力軍艦の問題を始めとし、他の多くの点において、在来海運業の利益を強く主張した。ソ連圏諸国は発言が少なく、あまり積極性がみられなかった。

3.審議は約2週間にわたって行なわれたが、結局、この会議において署名のために開放される条約案を採択することは困難であり、かつ、時期尚早であるとする結論が出され、一応条約草案の確認に止まった。さらにその中でも、裁判管轄および最終条項については討議することも困難であるとして、問題を白紙の状態で残した。

4.そこで、できるだけ早い機会において次の外交会議を開催すべきことが確認され、また、その準備として、少数国でStanding Committeeを設置すべきことが採択され、わが国を含む13ヵ国がその構成国として指名された。今後の実質的作業はこの委員会が行なうものと考えられ、最初の作業は本年秋頃と予想される。

5.以上のように、この会議では、原子力船運航者の責任問題についての最終的結論は出されなかったのであるが、一応多数をもって確認された内容のうち、主なものは次のとおりである。

(1)軍艦にもこの条約を適用する
(2)原子力船の積荷に対する損害をも原子力損害に含める。
(3)求償権の範囲は、故意および特約のある場合に限る。
(4)運航者の責任は、1億ドルを限度とする。ただし、許可を受けていない原子力船についてはこの限りではない。
(5)損害賠償措置の内容は許可国が定めるものとし、許可国は賠償措置額をこえ責任限度額までの部分について補償を行なう。許可を受けていない原子力船については、船籍国が補償の義務を負う。
(6)時効は10年および3年とする。ただし国が補償すれば、10年を延長することができる。
(7)裁判管轄権は単一国に集中するようにする。