第1回IAEA安全基準パネルの開催

 1.はしがき
 国際原子力機関(IAEA)は、1960年3月31日の理事会で、同機関の一定の援助計画、その他の計画に適用する健康安全措置(The Agency's Health and SafetyMeasures)を承認したが、この健康安全措置には、(a)機関の放射線安全に関する基本的基準(The Agency's Basic Safety Standards)と、(b)機関の運用基準細則(The Agency's Detailed Operational Standards)が含まれるべきことを定めている。(a)は放射線に対する最大許容量および運用の原則についての基準であり、(b)は(a)を補足する基準で、特殊な分野の運用に関する安全規則(Specialized Regulations)と安全実施の手引き(Codes of Practice)とからなる。このうち、
 まず(a)を制定するため、1960年10月31日〜11月5日IAEAの本部(ウィーン)に専門家を集めて、放射線安全に関する基本的基準パネル(Panel on Basic SafetyStandards)の第1回会合が開かれた。

 2.参加者
 パネルメンバーとして12名、オブザーバーとして6名の下記の者が出席した。

 パネルメンバー

  L.Bugnard  フランス(座長)
  D.Beninson  アルゼンチン
  G.C.Butler  カナダ
  H.J.Dunster  イギリス
  A.Hedgran  スウェーデン
  E.Kowalski  ポーランド
  L.E.Larsson  I.C.R.P.(スウェーデン)
  A.A.Letavet  ソ 連
  A.S.Rao  インド
  L.S.Taylor  アメリカ
  S.Watari  日 本
  A.R.Wilson  オーストラリア

 オブザーバー

  R.L.Dobson  W.H.O.
  E.Hellen  I.L.O.
  H.Jammet  サクレー原子力研究所(フランス)
  P.Recht  Euratom
  E.Wallauschek  O.E.E.C.
  G.Wortley  F.A.O.

 3.第1次案の内容
 まずこのパネルの事務局を担当したH.T.Daw(IAEAの健康安全廃棄物処理部の部員)の作成した事務局案をもととして議論を進めたが、事務局案は相当大幅に修正された結果、内容として本文に納めた項目は、はしがき、1.定義、2.範囲、3.最大許容量、4.放射線の被ばく線量の実際的管理、5.運用の根本原則、6.検査と調停で、このほか付録として、1.外部放射線に対する被ばくレベル、2.内部汚染に対する被ばくレベルが取り扱われている。

 はしがきには、この安全基準制定の根拠がIAEA憲章第3条A.6であること、安全基準は原則と細則の2種類から成り立つこと、以下の原則(Basic Safety St-andards)は、できうるかぎりICRP勧告に基づき、かつできうるかぎりその他の国際機関の公表した基準と一致するものとすることをうたっている。

 1.定義では、このテキストで使われる主要な用語について、(1)物理学と放射線学上の用語、(2)その他の用語、(3)単位、(4)線量について定義しているが、放射能、比放射能については、国際放射線単位委員会(ICRU)がごく最近採択した新しい定義を採用することとなりL.S.Taylor氏が事務局へそれを送付することを約束した。事務局はそれを取り入れ、1961年2月ごろまでに、第1次案を完成し、パネルメンバーやパネルオブザーバーに送付するほか、IAEAの加盟各国政府へ送付することとなった。

 2.範囲は、この基本的基準の適用する範囲として天然および人工の放射性物質の生産、加工、取扱い、使用、貯蔵、輸送、処理ならびに電離放射線の被ばくを伴うその他の作業に適用すること、健康と安全保持を目的とすること、直接ならびに間接に放射線業務に従事する労働者、公衆中の個人、国民全体について適用すること、本基準中でいう線量には、自然放射線と医寮用放射線は含まれないものとすることをうたっている。

 3.最大許容量はICRP1958-1959年勧告とほとんど同じであるが、ごくわずか表現その他で異なる点があるがその詳細は省略する。

 4.放射線の被ばく線量の実際的管理は、管理の対象を(1)放射線業務直接従事者、(2)放射線業務間接従業者と公衆中の個人、(3)国民全体の3群に分け、(1)と(2)については外部線量、内部線量、両者の三つの場合について、いろいろ被ばく線量の管理方式をICRP勧告とほとんど同様に規定し、(3)については、3.最大許容量のところでICRP勧告どおり規定した線量を超えないように管理すべきであるとしている。

 5.運用の根本原則は、(1)登録と許可、(2)事業所内における障害防止の管理、(3)事業所外における障害防止の管理について、いろいろ原則を規定している。

 6.検査と調停では責任ある当局が事業所の内外における関係者の健康管理を監督するほか、もし必要な場合は、調停も行なうような方式を確立すること、基本的安全基準に合致しない場合、これを合致させるような調停権をもつこと、事故時の行動についても、あらかじめ計画し、規定しておくこと、被ばく線量が、安全基準以上になった場合、当局へ報告することなどを規定している。

 4.その他
 次回のパネルは1961年5月末か6月上旬に開かれ、それまでに事務局でまとめた各国政府の第1次案に対する修正案を盛り込んで、第2次案が作成される。おそらく第2次案で最終的にまとまるのではないかと考えられる。