核融合専門部会報告書を提出

 核融合専門部会は、33年5月から本年7月までに15回にわたる部会を開催し、核融合反応の研究方針ならびに研究体制につき審議を行なった。その過程において、B計画の実施、プラズマ研究所の設立等について特に熱心な検討を続け、当面の研究の進め方について結論が得られたので10月5日付で原子力委員会委員長あてに下記の報告書を提出した。
 なお、専門部会は所期の審議事項を終了したので、10月19日の原子力委員会において解散することに決定した。

昭和35年10月5日

 原子力委員会委員長
荒木万寿夫殿

核融合専門部会部会長
   湯 川 秀 樹

核融合反応の研究の進め方について

 本専門部会は33年5月から核融合反応の研究の進め方について審議検討を続けた。その間国内における各方面の研究の進展状況および第2回原子力平和利用国際会議の報告等にあらわれた各国の研究の趨勢を考慮して、34年3月、次に述べるA計画およびB計画の実施を提案する報告書を提出した。その後も引き続き内外の情勢の変化を考慮し、当面の研究の進め方を検討した結果を以下により報告する。

1.現在までの審議の経過
 34年3月に提案したA計画およびB計画は次の内容のものである。

 A計画は、30年ごろから大学、国立試験研究機関等で行なわれてきた研究をさらに進め、特にプラズマに関する物理的諸現象を解明することに重点を置く、そのために研究設備を充実し、大学にプラズマ科学に関する学科講座を新設し、基准研究を進めるとともに研究者の養成を行なう。

 B計画は諸外国で開発されてきた、いろいろな型の高温プラズマ発生装置を参考として、中型装置を建設し、わが国の核融合研究の水準を一段と高めるとともに関連技術の開発をはかろうとする。

 この報告書に基づき、B計画の実験装置の型式、規模を検討するため、日本原子力研究所に核融合研究委員会が組織され、34年4月に発足した。

 ところが、これと前後して日本学術会議においても核融合特別委員会が設置され、核融合の研究の進め方が検討されることになった。

 さらに34年5月には、日本学術会議の主催で核融合研究の方針に関するシンポジウムが開催されたが、そこでは上記B計画および研究体制の問題が討論のおもな対象となった。さらに、また研究者の自主的組織である核融合懇談会でも、これらの問題がたびたび議論された。

 これら、いろいろな場での討論を通じて、プラズマの基磯的研究を重視する研究者と、基礎研究の促進とともに高温プラズマの発生実験および技術開発をも重視し、B計画の促進を要望する研究者の間の意見の対立が明瞭となってきた。

 このような情勢の中で、専門部会はB計画を35年度原子力予算に組み入れるべきか否かを検討したが、専門部会の中でも、これについての意見調整が困難であったばかりでなく、核融合特別委員会との間にも意見分布に開きがあることがわかったので、結局最後の判断は専門部会長に一任ということになった。部会長は菊池原子力委員、嵯峨根原子力研究所副理事長および伏見核融合特別委員会委員長と相談した結果、わが国の核融合研究の将来の発展に禍根を残さないためには、B計画を35年度予算に組み入れることを見合わしたほうがよいと判断した。

 以下に述べるごとくそれ以後現在に至るまでのわが国の核融合研究は、34年3月の報告書とは、やや違った方向に進むことになった。

 しかし、核融合研究委員会は、このような情勢の変化にもかかわらず、山本委員長を中心として、わが国のこの分野の多数の研究者の緊密な協力の下に、数回にわたって熱心な学術的討論を続け、34年11月に研究報告書(日本原子力研究調査No.15)を完成した。B計画そのものは実現しなかったが、この研究委員会は、中型のプラズマ発生装置に関する計画を中心として各方面の研究者の意見の交換のために貴重な場を提供し、その成果は今後の核融合研究の進展に重要な寄与をするものと考えられる。

 一方、学術会議の核融合特別委員会は、プラズマに関する諸現象を体系的に研究するための中核体として、プラズマ研究所(仮称)の設立を提案し、34年秋の日本学術会議総会は、この研究所の設立を政府に勧告することを決議した。(注)

(注)プラズマ研究所の設立に関して文部大臣から諮問を受けた国立大学研究所協議会は35年7月16日その設置の必要を認めた報告書を提出した。

 その後もプラズマ研究所設立のための組織において、同研究所の内容についての熱心な検討が続けられている。

2.研究の現状および今後の方針
 現在わが国には大学、国立試験研究機関、民間企業体を含めて、約10の比較的大きな研究グループが実験装置を持ち、高温プラズマに関する物理現象の解明の第一段階にあると認められる。(核融合研究委員会報告書資料3参照)

 35年度までに文部省予算により約1億4千6百万円、原子力予算により約2億1千5百万円が核融合の研究に支出され、また東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学に核融合関係の講座が設けられた。これにより、34年度3月の報告書で述べたA計画はある程度まで推進されたと考えてよいであろう。

 しかしながら、これらの研究グループが所期の成果をあげるためには、なお、今後も引き続き研究設備の充実拡張および要員の養成確保を促進することが必要でありそのための予算措置を講ずる必要がある。

 その際高温プラズマ発生装置そのものだけでなく、測定装置の整備やそれらの開発試作、超高真空叔術の開発等に対する配慮が望まれる。また核融合研究の現段階においては、プラズマの加熱および保持に関する新い、着想を理論的に検討し、これを小規模の実験によって検証する活動が奨励されなければならない。

 以上は各大学、電気試験所、日本原子力研究所、理化学研究所、民間企業等の各研究機関において実施されるものであって、その規模目標には、おのずから限界がある。プラズマに関する現象は複雑多岐であるばかりでなく、それらのすべてを解明するための一貫した理論体系はまだできていない。このような状態の下ではプラズマ科学を総合的、体系的に研究するための中心となる研究機関の設置が有効適切であると考えられる。日本学術会議が提案したプラズマ研究所はこの趣旨に従ったものとして、その実現が望ましい。前節で述べたような経過で、34年3月の報告書中のB計画収そのままの形では実現されないことになったが、プラズマ研究所の計画の中に、違った形で生かされていくことが期待される。なおプラズマ研究所は、大学付置の共同利用研究所という形になると思われるが、核融合の研究は大学関係以外でも盛んに行なわれているのであるから、それらとの協力のための配慮が望まれる。さらにまた各研究機関における研究の推進は今後もますます必要であって、プラズマ研究所のごとき中心機関の機能を十分に発揮するためには、その足となる個々の研究グループの活動がいっそう盛んになるよう積極的な措置が望まれる。