3.4 発展と可能性

 現在、熱中性子増殖炉が在来型式の転換炉に比してその開発が一段と遅れている理由は、工学的困難もさることながら核燃料の需給状態が増殖炉の経済性に影響しているためと考えられる。したがって今日における熱中性子増殖炉の発展の動向は自然2通りの考え方に分かれざるをえない。すなわち、現在およびごく近い将来における経済条件の下で化石燃料または転換炉に競合しうるような炉型式を狙うか、あるいは比較的長期目標に増殖機械としての効率を追求するかである。この考え方の差異によって発展の方向も可能性もおのずから違ってくることになる。この二つの考え方の合理的融合は従来とは違って少なくとも現在の時点においては簡単には望みがたいことである。

 ここでは前節における技術的問題点の究明に引き続いて上記の観点に注意しながら燃料経済、経済性の考察を通じて各炉型式についてその発展の可能性を論ずるが、在来型式の転換炉に比して使用経験に乏しく、また増殖炉の宿命として可能な炉型式の範囲は狭くかつ最初に理想像が掲げられてしまう結果、現実の動きは経済上または工学上は発展であっても、理想に対しては妥協あるということになりかねず、発展の可能性という言葉も複雑な内容を含んでいるといえる。ここでは便宜上比較的まとめて考えやすい液体燃料炉と固体燃料炉とに分けて記述することとする。

3.4.1 液体燃料炉
(1)燃料経済
 液体燃料炉の燃料サイクルの特長として次の点があげられる。

i 燃料および親物質の連続的処理によって中性子経済の向上と燃料サイクルの最適化をはかることができる。

ii 燃焼度に対する機械的、冶金的因子からの制限がなく、燃料配置換えなどの問題もない。

 この結果液体燃料炉は増殖炉として好適であり、特に水性均質炉は減速材として重水を使用している上にインベントリーが小さいので燃料利用率が高く、熱中性子増殖炉としては最大の増殖率と最短の倍加時間とを実現しうるものと考えられる。しかしながら発電コストを考慮した最適化設計の下では増殖機械としての特性を十分に発揮しえないのが普通である。

 経済性を考慮した増殖炉の最適化設計は現在では多くの仮定の下でしかできず、確定的なものではないが液体燃料炉特別委員会の報告書によれば正味電気出力315MW程度の発電プラントを考えた際次のごとくとなる。

 まず水性均質炉について380MWt の溶液炉心スラリーブランケット2領域炉3基を1組とし1基あたりの平衡時の全インベントリーが233U、233Pa、235Uの総計で250kg、Thが42トンである。これにより増殖率1.08となり、毎年135kgのトリウムを転換して倍加時間は約18年となる。燃料サイクルにおける最も重要な変量はブランケットの再処理率であるが、この最適化設計では炉1基あたり毎日トリウム100kgをTborex法で再処理するサイクルを考えている。このように水性均質炉においてはともかく増殖炉としてのサイクルを実現することができる。

 溶融塩炉については760MWtの1領域黒鉛減速型の転換炉で初期インベントリー 235U 829kg、Th384トンと7Liを用いる。この炉では再処理も行なうが燃焼にしたがい燃料液の追加が必要でウランの濃度を臨界に保つように調節する。Thと7Liは回収されない。平均転換率は0.67で毎年180kgのThと92.5kgの285Uとを追加せねばならない。

 液体金属燃料炉については825MWtの1領域ビスマススラリー炉で初期インベントリー235U 770kg、Th23トンを用い燃料の再処理を行なわずに235UとThの追加だけを行なう。平均転換率は溶融塩炉とほど同じである。同報告書ではこの炉に年間5%の再処理を行なわせるよう示唆したがBiのThorexプロセスは未開発でかなりコスト高になるようである。またBiとThの回収は行なわない。

 次に各炉型式を増殖炉として運転する場合は次のようになる。

 水性均質炉については最適化設計においてすでに増殖系であるから単に化学処理率を増して倍加時間の短縮をはかればよい。処理率を1基あたり100kgTh/dayから175kgTh/day、440kgTh/dayと増加させると増殖率はそれぞれ1.09、1.10と向上し、倍加時間も14年、10年と短縮される。さらにThorex法にかける前の冷却時間を短縮し、全処理期間を180日から60日とすれば系のインベントリーが減るので440kgTh/dayの処理率の場合、倍加時間6.5年を実現できる。しかしこの両方の手段とも再処理コストの増大を招き、たとえば倍加時間6.5年の場合は18年の場合に比して再処理コストが約2.5倍、全燃料費は約2倍となり発電コストに約3ミル/kWhの上昇をもたらす。現在においては再処理費が高いので増殖の妙味は薄いといわねばならない。

 溶融塩炉については、増殖率を上げるためには2領域黒鉛減速型とすることが必要である。この炉の燃料組成は転換炉と同じで炉心中の燃料体積比は15%である。厚さ2インチ(約5cm)の黒鉛の容器の外にウランを含まない溶融塩がブランケット液として循環する。炉心液は月に1回核分裂生成物を除去され、ブランケット液も月に1回帯化物揮発法による処理を受けウランが除去される。こうして約20年でだいたい平衡に達し、増殖率は1.05、倍加時間は44年となる。235Uでスタートした場合増殖炉としての初期インベントリーは3年半で得られる。

 液体金属燃料炉の場合も2領域型が必要で炉心はU-Bi溶液、ブランケットは10w/oのThBi2スラリーである。炉心、ブランケットとも70日内外のサイクルで連続的化学処理を行ない、毒作用を3%程度に抑えると増殖率が1.03となる。このとき炉内インベントリーは233U417kgであるがこれを増加して増殖率を1.05まで上げることは可能である。 このように溶融塩炉と液体金属燃料炉は内部冷却方式が開発されないかぎり、Doubler とすることは困難であろう。溶融塩炉と液体金属燃料炉とを比較すると中性子吸収は後者のほうが少ないが、前者でも溶融塩への燃料物質の溶解度が大きいのを利用して燃料の濃度を増して増殖率を若干増すことができる。もし水性均質炉、溶融塩炉、液体金属燃料炉のいずれでもHold own breederとするならば2領炉を作らなくても大型の1領域炉で核分裂生成物の連続除去によってその目的が達せられる。ただし235Uからスタートする場合増殖系として必要なだけの233Uを生産しようとすれば相当注意した設計をせねばならない。また2領域均質型溶融塩炉、スラリー炉心2領域水性均質炉の両者は燃料経済の面では大型1領域炉とDoublerとの中間に位置するものと考えられる。この場合は設計によっては増殖率の点ではかなりよいものができるのであるが、炉心内外両インベントリー共溶液炉心に比して増大するもので倍加時間の点で不利である。ことに炉心における核分裂生成物、腐食生成物がいずれも粒子の表面に吸着してくるものと考えられるのでその処理がブランケットスラリー同様の取扱いとなり、この点が溶液炉心における連続処理に比して非常に不利である。このため系の倍加時間も20年以上と考えられる。

(2)経済性
 液体燃料炉の経済性を検討する際の根本的問題は大規模な炉の運転経験のないことである。わずかに水性均質炉についてHRE-1、HRE-2、溶融塩炉にノついてAREの運転経験があるだけである。これらの炉は技術的可能性の検討のためのものであるので、経済性の検討にはもっと多くの経験を積む必要がある。したがって、ここでは経済性について一般的な傾向をみることに主眼をおく。1959年2月に提出された液体燃料炉特別委員会の報告書による液体金属燃料炉、溶融塩炉および水性均質炉の発電コストの比較を3-2表に掲げる。

3−2表 発電コスト (円/kWh)
 

 ここで、採用したものはそれぞれの炉型で経済的に最も有利なものである。液体金属燃料炉は1領域黒鉛減速でUO2-TbO2-Biスラリーを燃料に使用した転換炉、溶融塩炉には1領域黒鉛減速でUF4-ThF4-BeF2-7LiF を燃料に使用した転換炉であり、また水性均質炉としては炉心にUO2SO4-D2O溶液、ブランケット部にThO2-D2Oスラリーを使用した倍加時間18年の増殖炉である。ここで、プラントの操業率は80%とし、電気出力はいずれも 333MWeである。

 3-2表からみると、発電コストの点では三つの炉型の間で差は少なく、コスト見積りの精度からみてほぼ同じである。ただし内訳を見ると水性均質炉は1次系における高圧、低温と熱効率が低いことのため動力プラント資本費が高く、また増殖のため燃料再処理の回数を多くしたことと再処理施設を大きくしたためこの関係の費用が幾分高くなっている。しかし燃料費は生産された233Uを差引きして安くなっている。次に倍加時間18年をさらに短く、14年、10年、6.5年とすれば、燃料費は0.97円/kWhから1.12円/kWh、1.48円/kWh、2.02円/kWhと増加する。

 液体金属燃料炉、溶融塩炉を増殖炉として用いる場合は技術的に不確定な問題が多くよくわからないが、Hold own breeder とした場合は1mill/kWh(36銭/kWh)程度高くなると考えられている。

 1960年3月にいわゆる“ピットマン資料”が発表された。この資料によるコスト評価を3-3表に掲げる。

3−3表 発電コスト (円/kWh)

 質炉の経済性に関する位置づけが評価できる。水性均質炉は他の炉型に比し資本費が著しく高くなっている。そして1970年完成として4.08円/kWhとなっているが、もっとも将来を見通すとさらに安くなる可能性がある。たとえば液体燃料として数々の長所をもつ水性均質炉の開発を行なっているオークリッジのコスト見積りを3-4表に示す。

3-4表 発電コスト (円/kWh)

 上記は熱出力500MW、電気出力125MW、負荷率80%、温度280℃で運転させる溶液炉心、スラリーブランケットの2領域型水性均質炉について試算したものである。以上の評価から水性均質炉の発電コストは現在または近い将来は相当に高いものであることがわかる。しかし一方オークリッジの試算をみれば将来コストを十分引き下げることが可能であるともいえよう。このことは現在の段階においてはまだ技術的に未確定な部分が相当に多く、水性均質炉については技術的な可能性を検討することが問題で経済性の検討は2義的な問題であろう。このことはその他の液体燃料炉についてもいえるであろう。

(3)将来性
 熱中性子増殖炉のように技術的に未確定な要素の多いものについてその将来を判断することば非常に危険なことである。技術面で格段の進歩があったり、逆に経験をつむにつれて困難な問題に遭遇したりすれば、炉型式の評価は大幅に変らざるをえないであろう。

 まず炉型別に考えると水性均質炉においてはいろいろの変型も示唆されているが、やはり溶液炉心、スラリーブランケットの2領域炉が中心と考えられる。これは液体燃料型の本質的利点を最高度に具備するものであり、経済条件に応じた再処理を行なうことによって転換炉Hold own breeder, Doublerのいずれとしても運転できる特長がある。しかしながら現在HRE-2において直面している燃料溶液の不安定性による出力密度限界がもし容易に打破できないものであることが判明するならば、スラリー炉心を考慮せねばならず、この場合はスラリー技術とともに再処理技術の進歩をはからねばならない。またスラリーブランケットはこれまでに実績がないので試験炉を運転した際どんな困難に遭遇せぬともかぎらず、この点からPellet bedのブランケット(付表3-1参照)にも注目しておかねばならない。Fixed pelletbedのブランケットは現在水性均質炉の中で技術的可能性があるもので、液体燃料炉の本質的利点の一部を喪失する代りに現実的利益を得ようとする立場のものであるが、ペレットの移動と化学処理の技術が発達すれば、スラリーにとって代る可能性もある。なお現在では炉心タンクの寿命の問題が著しく悲観的にならないかぎり、大型1領域水性均質炉は比較的特長がないものと考えられる。

 溶融塩炉について考えると、1領域黒鉛減速転換炉は技術的な面からのみ判断すれば、液体燃料炉各型式中最も可能性が大きく、一応試験炉の運転経験もあり、注目しておかねばならない。2領域炉の技術的困難性は主として炉心容器の点で黒鉛減速型にしろ均質型にしろ、いずれも2領域水性均質炉以上であろうと考えられる。また、内部冷却型の増殖炉もまだアイディアが存在するのみで具体的な見通しは得られていない。

 液体金属燃料炉は溶融塩炉の場合と類似しており燃料がスラリーである点と再処理技術が未発達である点でやや不利であることはまぬがれない。

 次に燃料政策および経済性の面から考えるとDoublerを目標とする場合はやはり2領域水性均質炉が本命であり、内部冷却型溶融塩炉、液体金属燃料炉はこれに比べて困難な問題が多く、もし実現するとしても時期的にはかなり遅れるものと予想される。これに対して、現在および近い将来における経済的発電を追求する立場をとるならば、液体燃料炉特別委員会の指摘するとおり1領域黒鉛減速溶融塩炉に注目せねばならない。特に高温運転を可能とする点が特長であり、低価格の核燃料の供給が豊富である間は経済性の改善は熱効率の向上と資本費の低減に求めねばならないので、溶融塩炉は優位にあるといわねばならない。1領域液体金属燃料炉は腐食や質量移行があまり問題ないならば長時間再処理なしで運転する炉を作りうる点が注目される。

(4)わが国への適応性と今後のプログラム
 前述のごとく液体燃料炉はその開発が在来の動力炉に比して遅れており、各型式の現状および将来性についての技術的資料や経済性に関する資料もまだ不足している。一方燃料政策上の指導原理も含めて適応性の判定基準が明らかになってはいない。したがってかかる時点において液体燃料炉のうちいずれの型式がわが国に適したものであるかを議論することは困難である。

 米国においては三つの液体燃料型の熱中性子増殖炉を並列的に開発することは避け、当初は水性均質炉を重点的に取り上げる方針になっている。したがってわが国においても現在の時点においてどれか一つを開発するとすれば技術的問題がかなりはっきりしてきた水性均質炉を取り上げ、重点的にこれらの問題点と取り組むほうがわが国のみならず世界の熱中性子増殖炉の開発に役だつ有効な道であると思われる。

 次に水性均質炉をわが国で建設する場合に必要な材料と工業的技術水準を検討してみよう。

i 重水
 重水製造に関する技術はわが国でも確立されており、すでに少量ではあるが国産されている。したがって大規模な設備投資を行なって現在の生産規模を拡大すれば大量に原子炉級の重水を国産することは可能である。ただし、日本で重水を生産した場合、重水の生産費の大部分を占める電力費が外国に比べて相当割高であるため、価格の点で外国品と競争することは困難であろう。

ii 燃料
 233U〜232Th系を考える場合、239Puから出発する技術的可能性は現在のところまだよくわかっていないので、燃料として235U、233U、Thの3者を考えると、最初に装荷する235Uを濃縮する技術はわが国では開発されておらず、現在のところ輸入によらざるをえない。233Uを分離する技術は別に特殊な技術ではなくわが国で十分行ないうるものである。

 酸化トリウムを製造する技術はすでに確立されており、少量ではあるが国産酸化トリウムが生産されている。

iii 構造材料
 水性均質炉の構造材料のおもなものはジルカロイ、チタン、ステンレス鋼の3種である。ジルカロイに関しては米国にジルコニウムインゴットの形で輸出しており、ジルカロイ-2もその品質は米国AECの規格に合格しているといわれている。加工法は板および管製造についてはすでに実績がある。炉心タンクのごとき比較的大きいものの加工技術は米国でもHRE-2の炉心タンク製作に際して急速に開発されたもので、その溶接に関しても従来の技術と大差なく、ヘリアーク法を基調に若干の改良を加えたものにすぎず、わが国においても十分短期間にこれらの技術を習得することは可能である。

 チタンに関してはわが国は数年来から米国に輸出している実績から見て問題はない。またステンレス鋼に関しても現在の技術で十分である。

iv 各種機器
 水性均質炉の各種機器は化学プラントのそれに非常に類似しており、製作上の問題点はほとんどなく、現在米国で考えられている程度の機器の製作はわが国においてもそれほど困難なく行なえるものと思われる。ただし、水性均質炉の各種機器は相当苛酷な条件のもとで使用されるため、その耐用年数に問題がある。

v 安全性
 水性均質炉は事故を起こす潜在性はかなり大きいとみられており、そのおもな埋由としては高圧であること、水の分解ガスの発生すること、燃料溶液の不安定性等があげられる。しかし、このような困難な条件にもかかわらず、HRE-2が相当長期にわたって、さしたる事故もなく運転された実績は注目されるべきである。これは水性均質炉のすぐれた自己制御性を示すものであって、わが国に建設するにあたっても安全の面での問題はないと考えられる。

 さて一般に商業用発電所を開発するには、基礎研究をすませて後、実験炉等による技術的可能性の検討、原型炉による経済性の検討を経て、商業用炉の研究に進まねばならない。水性均質炉は米国において現在この第1段階のなかばに達しているとみられる。この段階を完結して、原型炉に進むために解決されるべきおもな問題は次のごとくである。

(イ)燃料溶液の不安定性の問題が解決されること。
(ロ)大型動力炉に必要な出力密度が得られる可能性が確かめられること。
(ハ)スラリー技術が進歩し、その実用性が証明されること。
(ニ)スラリー以外のブランケット、たとえばPellet bedの可能性が実証されること。

 (イ)に関してはHRE-2の改造後の運転結果が待 たれるがHRE-1では現在までのHRE-2の2倍の出力密度が達成されており、炉心における流れの問題が重大である。しかし、炉心における流体力学的な改善のみで燃料溶液の不安定性の問題が大きい出力密度の下でも解決されるか否かは、一に溶液炉心炉の将来を左右することであり、この方面の研究を進めることがきわめて重要な課題である。(ハ)については、スラリーをブランケットに使用した炉がまだ存在しないことが大きい弱点であって、放射線照射下でのスラリーの振舞いの研究、スラリーの乱流による熱除去の研究ならびにスラリー用各種機器の改善等多くの問題がある。もし溶液炉心における出力密度の限界が案外低いものであるか、スラリーに伴う困難が克服しがたいものであれば、変型炉に進まねばならないであろう。

 これらのことから10年後に原型炉を建設するということが一応の目標と考えられよう。わが国における水性均質炉の研究開発は米国における開発状況に注目するとともに、それに独自の創意を加えて行なうべきであると考えられる。さらに商業用炉の建設段階に進むにあたって検討されるべきおもな問題点は次のごとくであろう。

(イ)出力密度の増大あるいは蒸気条件の向上による建設単価の減少
(ロ)保守の簡略化
(ハ)再処理方式の改善による倍加時間と燃料費の減少

3.4.2 固体燃料炉

(1)経済性
 世界的にこの型の炉はまだ実験炉も建設されておらず、わが国でも臨界実験装置が完成したばかりで燃料再処理までで含めた増殖率も明確でなく、現在増殖炉としての十分な評価を下す段階になく技術的可能性を研究する段階にある。

 ガス冷却の場合は増殖炉ではないが、米国のHGCR-1でなされた評価によれば負荷率80%、金利8%、資本費14%とすれば、発電コストは3円07銭/kWhになるものと予想されており、これによれば、発電ココストは将来安くなる可能性を十分に持っていると思われる。

 ビスマス冷却の場合、ガス冷却に比べ出力密度を大きくすることができ、また冷却材の漏洩もなくなるので、安全かつ運転が容易になる。したがって発電コストも安くなる可能性があると思われるので、これを目標に研究が進められている。いずれにしても高温、高出力密度が得られること、再処理が容易なこと、中性子経済が良好なこと等の理由から経済性の良い原子炉になると考えられる。

(2)将来性
 固体燃料炉にはわが国の半均質炉、英国のドラゴン計画のHTGC、米国ではオークリッジのHGCR-1、フィラデルフィヤ電力の HTGR、サンダーソンポーター社のペブルベッド炉、西ドイツのペブルベッド炉等がある。

 英国のHTGCはUCとThCを黒鉛と混合した燃料を使用し、黒鉛被覆した燃料要素を使用している。米国のHTGRはUCとThCを黒鉛と混合した燃料を用い、被覆を行なっていない。HGCR-1の設計研究においては低濃縮のUO2を黒鉛と混合して被覆を行なっていない。サンダーソンポーター社のペルブベッド炉は直径1.5″(4cm)の黒鉛球中にUCおよびThCを封入した燃料を用いている。西ドイツのペブルベッド炉はUCおよびThCを黒鉛中に混合し、直径6cmの球とし、これを燃料とするもので被覆材がない。

 これらのものは高温ガス冷却炉として高温をうることを目標とすると同時に熱中性子増殖をねらっている。ただしHGCR-1は増殖を考慮せず、主として経済性の検討が行なわれた。高温をうるためには、酸化燃料または炭化燃料を黒鉛と混合した固体燃料(このような燃料を半均質燃料という)あるいはそれに類似した形体のものを用い、被覆は黒鉛であるかあるいは被覆なしとしている。このように金属被覆を用いないことは中性子経済を良好にする。同時にこのような燃料を使用するときは核分裂生成ガスが1次冷却材中に漏洩する可能性があるが、これを逆に利用して、核分裂生成ガスを除去する機構を考え、これを継続的に抽出し中性子経済をさらに良くすることが研究されている。このことから熱性子増殖を行なう可能性が生れ、熱中性子増殖系の一つの発展方向として各国とも研究を続けている。しかしながら増殖炉としての研究はまだ初歩の段階で十分なデータがない。わが国の半均質炉もこの系統の一つである。

 このような半均質炉では燃料に酸化ウランと炭化ウランを使用する場合があり、冷却材には溶融ビスマスとヘリウム、炭酸ガス、窒素などのガスが考えられ、また減速材としては黒鉛だけでなく酸化ベリリウムを使用することも考えられる。そしてこれらの組合せによりいろいろの型式のものができる。酸化ベリリウムは価格が高く、これを利用する研究も進んでいないので、当分黒鉛を利用する方針で進むものと考えられる。黒鉛は一般に製造、精製、成型技術なども工業的に確立しているが、ただ高温放射線下の性質がまだよく知られていない。燃料として酸化ウランを黒鉛中に均一に分散した場合酸化ウランは炭素を反応して約1,500℃で炭化ウランになる。冷却材出口温度をできるだけ高くするためには燃料の温度も高くなる。その場合には、炭化ウランを使用する方向へ向うであろう。冷却材としてはビスマス、ガス、それぞれ一長一短あるが、わが国でビスマス取扱技術が確立されればビスマスを使用することが考えられる。しかし現在のところ材料の面からみれば、ヘリウムを冷却材として使うほうがより高温を得ることができる。

(3)わが国への適応性
 濃縮ウランは当分米国から輸入に仰ぐほかないが、これは濃縮ウランを必要とする原子炉については全く同じである。酸化物燃料および炭化物燃料の製造については、現在原研および2、3の民間企業で研究が進められており、その製造技術は、ここ1、2年のうちに十分確立されるものと思われる。また、これを黒鉛中に均一に分散した半均質系の燃料体を製造することも解決されるであろう。ただ半均質系の燃料要素は高温になることが予想され、かつ高燃焼度を目標としているので高温、強放射線に耐えるものの開発にはまだ相当研究をしなければならない。

 ビスマスはわが国では工業的に生産されており、生産規模をすこし拡大すれば量的には問題はないと考えられる。わが国では純度99.995%程度のものが工業的に生産されているが、原子炉用にはB、Cd、Cl、 稀土類等の少ないものが必要である。しかし原子炉級ビスマスも1、2年あれば、だいたい問題なく生産しうるようになると思われる。ビスマスを冷却材として使用する場合、多量の溶融ビスマスの取扱技術は日本では未経験であるが、この技術はたいした問題ではないであろう。たとえば、ビスマスの取扱技術はNaやNakと比べると、水と反応しないし酸素ともあまり反応しないから危険性は少ない。ただ問題になるのは耐ビスマス材料である。これは液体金属燃料炉の経験によって最高550℃、温度差75℃までは低クロム合金鋼が安全に使える事はわかっているが、これ以上の温度あるいは温度差を要求される場合にはさらに研究開発を行なう必要がある。

 Heは熱伝達が良く、材料あるいは燃料と全く反応しないので理想的な冷却材であるが、国産の見込はなく米国からの輸入によらねばならない。容易に入手することができるならば、Heを用いる事が考えられる。

 炭酸ガスは高温で黒鉛燃料鞘との反応が促進され質量移行が起こる。これを防ぐ優秀なコーティング方法が開発されればガス冷却材料中では炭酸ガスを使うことが望ましいと考えられる。

 N2は鋼を窒化し脆化させる欠点があるが、これを防止する方法が開発されれば窒素を使用することも考えられる。

 ガス冷却の場合は黒鉛の燃料鞘を使用しているため、冷却系に核分裂生成物の一部が漏出することが予想され、ビスマス冷却の場合は放射性ポロニウムが発生するが、その汚染度は軽水炉と液体燃料炉の中間程度になると思われる。しかし不滲透性黒鉛の使用、コンテナーの設置、適当な敷地を選ぶこと等により軽水炉とあまり変らない程度に安全を確保しうるものと考えられる。

 増殖炉を考える場合、再処理は非常に重要な要素となるが、半均質系燃料の再処理については、わが国では比較的研究が進められている。すなわちUO2と黒鉛の機械的分離による方法、硝酸溶解法等について原研で研究が進められている。硝酸溶解法によるときは既成の溶媒油出法の技術を利用でき、この技術は原研において国産1号炉の燃料の再処理を目標に研究が進められている。

 以上を総合して考えると、半均質炉はHeを使う場合以外は国産の材料技術でよく、実験炉の建設、運転によって技術的可能性を確かめる必要があるが本質的には良好な中性子経済と高温、高出力密度の達成により、経済性のある動力炉となる可能性を十分持っていると考えられる。したがってわが国で十分適応性を持った原子炉と考えてよいであろう。

3.4.3 む す び
 233U―232Th サイクルによってトリウム資源を原子エネルギー源として活用することを目標とした熱中性子増殖炉の開発は当初予期したよりも進展がはかばかしくない現状にある。そのおもな理由は世界的にみてウラン資源の探査、開発が予想以上の成功を収めた結果、相当長期にわたり比較的安価なウラン燃料の供給が保証されるようになり、トリウム資源の活用がさほどさし迫った要請でなくなったことと、現状においては、この部類に属するいずれの炉型式もかなりの技術的困難に遭遇していることによる。

 すなわち、液体燃料のうち比較的開発研究の進んでいる水性均質炉は熱中性子増殖炉としては最も短かい倍加時間を期待されながらも、まだ多くの未解決の技術的問題をかかえており、かつ、現在の技術を基にして推定される発電コストは従来の転換炉や高速中性子増殖炉に比較して割高になっている。また、半均質炉は高温炉として発展する可能性から割安な発電コストを期待されながらもまだ開発の初期の段階にあるため、経済性にも今後の検討を要する問題が多い。

 しかしながら、長期的な観点に立てば世界的にも安価なウラン燃料は漸減してくるであろうし、ことにわが国のように国産核燃料の供給力が不足している国にとっては、いずれにしろ核燃料を海外からの輸入に相当仰がざるをえないが、1次装荷量が少なくて倍加時間の短い熱中佳子増殖炉が開発されればウラン資源の代替としてトリウム資源の活用の道も開かれることになり、わが国の燃料供給事情はより好転するものと思われる。

 したがって、現在の時点においても技術の画期的な進展とそれに基づく経済性の改善を期待し、かつトリウム資源の活用という当初の目標を維持しつつ長期の原子力開発の1テーマとして水性均質炉および半均質炉の開発を取り上げることは、わが国にとって意義あるものといえよう。

付表3−1 2領域型水性均質炉設計例

 む す び
 SGRは冷却材にNaを使用することによって蒸気条件の向上、ひいては発電コストの低下を目指すものであり、高速中性子増殖炉および熱中性子増殖炉は低廉な発電コストのほか増殖を行なうことによって将来の燃料サイクルの中心的役割を果たすことが期待されている。Na技術の開発を要することや増殖炉では転換炉以上に工学的な要求が厳しくなること等によって以上の3種の炉型式は他の熱中性子炉に比して開発が遅れた段階にあり、いずれも大規模な炉としての運転経験は得られていない。

 SGRは米国およびソ連において開発が進められており、SRE(出力6MWe)の運転経験も得られた結果、当初問題とされたNa技術は現在でもなお多くの問題を残しているがその解決の見通しが得られており、今後の最大の問題は燃料の開発にある。すなわち、UC燃料を使用すれば出力密度の向上と平均燃焼度の増加によって資本費、燃料費がともに低下するものと期待されており、今日の段階では将来SGRが経済的にすぐれた炉型式となるか否かはUC燃料の開発の成果が鍵であるということができる。SGRが経済性を有するに至る時期または他の炉型式と比較して究極的にどの程度の経済性を実現しうるかという見通しを立てることは今日ではきわめて困難である。大規模な炉の建設等の手段によって開発を急ぐ必要は現在では考えられないので、わが国としては海外における発展に留意しつつUC燃料ならびにNa技術の開発の基磯的研究を進めるのが適当であろう。

 増殖炉は長期的には燃料サイクルの中心になるべき性質のものであり、賦存する核燃料資源のうち235Uはわずかな割合を占めるに過ぎないことを思えば将来増殖炉を建設する必要が生ずるばかりでなくその経済性の面でも期待できるので増殖炉の開発は重要な意義を有するものである。

 高速中性子増殖炉は主として米、英、ソにおいて研究が進められている。高速中性子増殖炉の燃料は本来Puであるべきであるが、Puの技術は世界的に見ても235Uのそれに比べて著しく遅れており今後の開発の余地を多く残している。Pu燃料としてはセラミック燃料、サーメット燃料等新らしい型式の燃料を使用することが考えられている。また、燃料、炉心設計上の問題、Na冷却に関連する問題等に関する研究開発によって経済性を向上させることが目指されている。現在としては近い将来に熱中性子炉を凌駕する経済性を高速中性子増殖炉に期待することは困難であり、また、増殖によって核燃料資源の有効利用を図らねばならない時期は間近には予想されない。したがって、現在のわが国としては基礎的研究を実施していずれ必要となる将来に備えることを当面心がけるべきであるが、その際、完成目標をある程度将来においてもよいから、できるかぎり理想的な燃焼方式を目標において、そのなかの重要な因子を解決していくようにするべきものと思われる。特に重要な基礎的研究としてPu燃料の取扱い処理、加工等の技術の開発、Na技術の開発、燃料要素の熱的特性の研究等が最初に考慮されねばならないであろう。

 熱中性子増殖炉は235U―Th系の増殖の実現を目指しており炉型式としては液体燃料型に属する水性均質炉(AHR)、音容融塩炉(MSR)および液体金属燃料炉(LMFR)さらに固体燃料型に属する半均質炉(SHR)が代表的なものとしてあげられる。熱中性子増殖炉は日本のほか米、英等においてそれぞれの特長に着目して開発が進められており、いずれの炉型式も増殖炉としての可能性を有しているが、233Uのηの値が寄生捕獲との関連によって増殖を達成しうるか否かの限界に近い値でしかないので、増殖と経済性とが両立するような設計を完成するにはそれだけに困難が予想され、今後開発すべき技術的な問題が多く残されている。今日までの知識から推定される発電コストは他の転換炉や高速中性子増殖炉にl比較して割高となっているが、U―Th系燃料サイクルの中心となる炉型式として嘱望される将来性は残されているので、今日の段階においては水性均質炉ならびに半均質炉を中心に研究を進めておくべきであろう。これらの研究としてはスラリーおよび燃料溶液に関する研究、半均質炉に使用すべき燃料、冷却材(特にBiの場合)、耐高温材料等に関する研究があげられる。