3.1展   望

 3.1.1. 概   要
 233U-232Th燃料サイクルによってトリウムを核エネルギー資源として利用しようとする熱中性子増殖炉の考えは、これまでにしばしば論議されてきた。現在においては効果的な熱中性子増殖は少なくとも炉物理的には可能とされている。しかしながら動力炉としての増殖炉の追求は限られた中性子余剰の範囲内で工学的な諸困難を克服しなければならないので転換炉に比してよりきびしい条件が課せられており、そのため技術的経済的両面からみて、その発達は現在では遺憾ながらかなり遅れている。しかしこの困難の克服は核燃料資源の有効利用のために追求する価値のあるものである。

 熱中性子増殖炉は233Uのηの値が増殖を達成しうるか否かの限界に近い程度の低い値でしかないので、中性子の寄生捕獲を極力減少させなければならない。このために組み合わされるべき減速材・冷却材などが非常に限られてくる。すなわち減速材として考えられるものは重水、黒鉛、ベリリウムなどであり、冷却材としては重水、He、CO2、ビスマスなどを用いるかまたは燃料自身を外部に循環、冷却しなければならない。また構造材に関しても相当厳しい制限を生じ、中性子の寄生捕獲を極力へらすため燃料を被覆しないか、または中性子吸収の小さい特殊な燃料被覆材を考慮するなどの手段が必要となる。

 上記のような観点から余計な構造材を含まぬ型の炉が有利であり、また増殖炉として望ましい核分裂生成物の連続除去が可能であること、燃料および親物質の簡単かつ連続的な化学処理が可能であること、ならびに熱除去の容易なことなどのために、これまで開発されてきた熱中性子増殖炉はいずれも液体燃料型のものであった。すなわち、重水を減速材とし、重水溶液およびスラリーの形の燃料を用いた水性均質炉(AHR)、リチウムおよびベリリウムの弗化物の混合溶融塩の中にウランおよびトリウムの弗化物を溶解した溶融塩炉(MSR)、黒鉛を減速材とし、ウラン、トリウムを溶融ビスマス中に溶解またはスラリーとした液体金属燃料炉(LMFR)の3型式である。なお溶融塩炉は黒鉛を主減速材として用いる場合が多いが、溶融塩燃料自身も減速能力をもち、熱中性子増殖炉として数少ない可能性のうちでおもしろい材料の組合わせを図ったものといえる。これらの液体燃料炉はいずれも1領域炉では大型にしないと増殖しないが、2領域炉では程度の差はあってもいずれも増殖が可能であり、特に水性均質炉は増殖という観点からのみみれば最もすぐれている。溶融塩炉と液体金属燃料炉は増殖の点からみれば水性均質炉より劣るが高温運転ができることで経済的にこの不利を補おうとするもので、いわゆる Hold Own Breederとしてその生命を有するのではないかと考えられている。

 従来固体燃料型の熱中性子増殖炉はあまり考えられてこなかったが、程度の差はあってもやはり増殖の可能性はあると考えられ、最近その検討がようやく活発になろうとしている。この場合、減速材としては黒鉛またはベリリウム、冷却材としてはガスあるいはビスマスが考えられる。燃料としては現在でほ減速材中に酸化ウランまたは炭化ウランの微粉末を均一に分散させた固体均質型、被覆材としては不浸透性黒鉛が考えられる。この型の炉はベリリウムを用いる場合は(n、2n)反応による中性子経済の改善、黒鉛を用いる場合は高温運転などを特長とするものである。炉概念として新しい型であり、詳しいことはまだほとんどわかっていない。

 本報告書では、液体燃料の3型式水性均質炉、溶融塩炉、液体金属燃料炉と固体燃料型のSHRの4型式を対象とするが、おのおのの炉型式はその開発段階に相当差があり、いずれの炉型式が最終的に有利であるか現状では比較検討できる段階に達していない。

3.1.2 水性均質炉
 水性均質炉ほ燃料ウランと減速材兼冷却材である水とを均一に混合した体系であって、通常外部循環冷却方式をとる液体燃料型のものである。したがって原理的には

(1)燃料要素の成型加工が不要である。

(2)余計な構造材が少ないのと核分裂生成物の連続除去が可能のため中性子経済が良く、熱中性子増殖の可能性がある。

(3)燃料についての機械的、冶金的因子からくる燃焼度の制限がない。

(4)すぐれた自己制御性を有する。

(5)燃料の出し入れが簡単で運転中にもでき、配置換えなどの問題がない。

などの多くの長所を有する。

 水性均質炉の概念は早くからあり1944年ごろロスアラモスでウォーターボイラー型原子炉の実験が行なわれ、研究炉としてはこの型は比較的早期に完成された。動力炉ないし増殖炉としての興味は1949年オークリッジにおける均質炉委員会の成立、翌1950年におけるそのプロジェクトへの移行によって具体化した。当時の考え方としては水性均質炉によって低コストの電力生産が可能であろうという期待が大きく増殖炉としての評価は幾分第二義的なものであった。しかし当時の核燃料需給の見通しでは安価な核燃料の安定した供給には疑問があったから増殖と低コスト発電とは同意義的なものと考えられ、その両立は問題なく受け入れられた。

 こうして1952年にまず軽水減速、重水反射材による熱出力1MWのHRE-1が建設され、その主要目的である循環燃料炉の運転可能性を成功裡に実証した。これにより当時主要問題と考えられていた炉心における気泡の発生に伴う炉の不安定性、燃料循環に伴う遅発中性子実効収率の減少、装置における腐食等について比較的問題がなかった。次いで高出力密度の下における工学的諸問題を研究することを主目的に最大熱出力5MW重水減速のHRE-2が建設され、種々の困難をへて後1957年に運転を開始した。この炉は当初重水反射材で運転を行なったが炉心燃料溶液の不安定性とそれに伴って起こる炉心タンクの損傷およびスラリー技術が未解決であるため現在では本来の目的であるスラリーブランケットでの運転を行なうに至っていない。

 またオークリッジではブランケットにスラリーを用いて増殖することを主目的とする熱出力60MWの2領域炉HRE-3の建設計画を立て、すでに予備的設計は一応完成した模様であるが、現在までのところAECから建設許可は下りていない。さらにスラリー炉心炉の運転可能性をしらべるために小型の1領域炉 HRE-4をも設計したが、これもその後具体化していない。以上オークリッジでの12年にわたる水性均質炉研究には約9,000万ドルの資金と延2,000人年を超える労力とが注ぎこまれてきた。

 一方ロスアラモスではリソ酸ウラニル溶液を用いた1領域燃料炉の研究を1955年から1957年にわたって行ない、LAPRE-1およびLAPRE-2を建設した。これらの炉の特長は水をほとんど含まないので比較的低蒸気圧(800psi,56kg/cm2)で高温運転(450℃)ができることである。しかしながら、これらの炉は燃料溶液の腐食性が著しく、炉心タンクに金の内張りをするなどの対策を研究したが相当困難なようである。現在では実験を終了したのでこれらの炉はともにとりこわされた。そのほか沸騰型のものとして1952年にほオークリッジで硫酸ウラニル水溶液を用いたものが、また最近アルゴンヌでスラリー炉心のものがそれぞれ計画されたがいずれも具体化していない。

 商業用発電所としての計画では、硫酸ウラニル水溶液を用いるホスター・ホイラーおよびウォルバーソン・エレクトリック両社の燃焼炉計画が立ち消えとなったあと、1957年にニュークリア・パワー・グループがバブコック・アンド・ウィルコックス社の協力を得て2領域型単1溶液均質炉の概念的設計とその可能性の研究を行なった。

 これはブランケットがFired Pellet Betで炉心溶液がここを通って循環、冷却する型式のものである。しかしながら電力コストを試算した結果保守のための費用などが過大となり経済的に成り立たぬことがわかってそれ以上の研究は中止された。またこの間1955年にはペンシルバニア電力会社がウェスティングハウス社の協力を得て、初の増殖型商業用発電所として熱出力550MW電気出力150MWの大型1領域スラリー炉PARの建設を計画した。この計画ではスラリーのループによる研究と遠隔保守装置の研究とをある程度まで行なった。またオークリッジとの共同でスラリーの炉内試験を実施する予定で、HRE-2のスラリーを用いた運転経験と合わせてPARの設計に資するつもりであったがHRE-2の事故などに伴い予定は遅延し、やがてこの時点において大型商業用発電炉を建設するというプロジェクトには疑問を持たれるに至った。そこで大型炉を建設する前に50〜60MWtの中型炉を作ることに計画を変更しようとし、AECの援助方を要請したが財政的な理由から却下され、1958年末遂にPAR計画そのものが中止されるに至った。

 次に米国以外の諸国の例をみると、英国で重水均質炉HAZELを運転しており、若干の設計研究が硝酸トリウム溶液のブランケットへの使用可能性などについて行なわれているが大きな進展はみせていない。オランダではウランスラリーをもちいた1領域均質炉を、またフランスではプルトニウム均質炉をそれぞれ研究しているが、いずれも増殖を目的としたものではない。またソ連においては沸騰型のものを計画しているようであるが詳しいことはわかっていない。

 水性均質炉の歴史は以上のような経過をたどってきた。こうして最近に至り同型炉の開発計画は一つの転機を迎えるに至った。1958年米国AECは原子炉政策臨時調査委員会を組織して民間原子動力計画の再検討を行ない、同調査委員会はその報告の一つとして液体燃料炉の3型式、すなわち水性均質炉、液体金属燃料炉、溶融塩炉についての詳細なる比較検討とそれに基づく開発努力のいずれか1型式への集中化とを行なうべく勧告した。これに基づいて作られた液体燃料炉特別委員会は1959年2月報告書を発表し、液体燃料炉の発電コストは在来の発電炉に比して現在では高価であること、現状においては技術的可能性が実証されるまでは大型炉を建設すべきではないことを答申した。ここにおいて現在の時点における低コスト発電と燃料増殖との非両立性がようやく明瞭に認識されるに至り、1959年8月AECは熱中性子増殖炉開発計画を発表し、ここに液体燃料炉はその主要目標を現在あるいは近い将来における低コスト発電より熱中性子増殖によるトリウム資源の有効利用へと切り換え開発計画は長期的なプログラムに変更されることとなった。この結果炉型式選択の問題では液体金属燃料炉と開発研究が中止され、溶融塩炉の計画も相当に削られ、研究努力の大半は水性均質炉に向けられるようになる模様であるが、正式には本年秋ごろAECから発表される予定の熱中性子増殖炉長期計画において、増殖を必要とする年代の調査の報告とともに明らかにされるものとみられている。

 こうして水性均質炉は当初の低コスト発電の実現という目標からトリウム資源の利用という長期目標のための炉型式と変って再発足することとなった。

 3.1.3 溶融塩炉
 溶融塩炉はリチウムおよびベリリウムの弗化物の混合溶融塩にウランおよびトリウムの弗化物を溶解したものを燃料として用いる炉である。この弗化塩の混合物白身が黒鉛の半分程度の減速能力を有するので、均質熱外中性子炉として設計することも、黒鉛を主減速材として熱中性子炉とすることもでき、さらに232U、235U、239Pu、232Th、238U のいずれをも溶解することができるので、いろいろな核分裂性物質と親物質との組合わせを実現しうる妙味がある。もっとも普通に考えられるのはLiF-BeF2-235UF4の燃焼炉、またはLiF-BeF2-233UF4-ThF4 による増殖炉である。溶融塩炉のおもな特長は

(1)比較的低圧で高温運転ができる。

(2)トリウム、プルトニウムをスラリーでない形の流体として用いることができるなどがある。おもな欠点としては

(i)燃 料の融点が高いので予熱系が必要となる。

(ii)酸素、水、ナトリウムなどは燃料溶液からウランを沈殿せしめるので隔離せねばならず、通常燃料と類似の弗化塩による2次冷却系を設ける必要がある。

(iii)増殖炉とするには、7Liを用いてもなお増殖率、倍加時間ともに水性均質炉に劣る。などがあげられる。

 この炉はオークリッジで開発されたもので、主として軍事に応用する計画で、今日まで軍用研究に7,500万ドル、民間動力用研究に1,100万ドル程度の資金が投下された。これまでの試験炉の運転実績としては1954年にはARE(Aircraft Reactor Experiment)という航空機用炉が短期間稼動した。

 溶融塩炉は増殖炉としてよりもむしろ比較的短期間に簡易かつ経済的な発電を実現するという可能性があり、そうした面からかなり技術的検討が行なわれている。低コスト発電用の炉としては1領域黒鉛減速型の設計が典型的で、増殖炉としては2領域均質型、1領域黒鉛減速型、2領域黒鉛減速型等が考えられるが、中性子経済の最も良い2領域黒鉛減速型で増殖率は1.05程度で、系の倍加時間は約40年となる。

 ここで熱除去の方法を改良して、外部循環冷却方式を内部冷却方式に変えることができれば燃料のインベントリーが下がるので水性均質炉に近い倍加時間を達成できるが、その実現は水性均質炉より遠い将来になろうといわれている。

 1959年の液体燃料炉特別委員会の報告書によると液体燃料炉の3型式の中では溶融塩炉を最も技術的可能性があるものと論じているがDoublerとしては低い評価しか与えていない。高温で運転できる Hold own breeder として存在価値を有するものと考えられる。

 液体燃料炉では経済的にはいずれも大差なく、現状では在来型式の炉に比して有利でなく、こぅした観点から液体燃料炉開発計画の熱中性子増殖炉開発計画への切換えにあたって、これまでと比べて相当な予算削減を受けることとなったようである。しかしながらこれは計画の全面的中止を意味するのでなく、なんらかの研究プログラムは存続するものとみられている。

 3.1.4 液体金属燃料炉
 液体金属燃料炉の基本的な概念は、核分裂性物質(235U、233U)および親物質(232Th)を液体金属中に溶解または懸濁したものを燃料とするものである。

 液体金属としてはビスマスが用いられる。ビスマスは中性子吸収断面積が小さく、蒸気圧が低く、比較的溶融温度が低い。かつまた、適当なウランの溶解性を有している。ビスマスには、適量のマグネシウムおよびジルコニウムを加えることによって、使用材料の腐食または質量移行を抑制しまたスラリーの濡れ性を増加することができる。減速材は黒鉛であって、被覆なしに燃料と直接接触せしめて用いることができる。

 熱除去の方式としては、外部冷却型と内部冷却型が考えられる。外部冷却型では、原子炉で加熱された燃料は熱交換器に輸送されて熱を与えふたたび原子炉にもどされる。内部冷却型では、前述の液体金属燃料と別の冷却材、すなわちビスマスによって原子炉で発生した熱が取り出される。

 液体金属燃料炉の特長は、次に掲げる諸点である。

(1)比較的低圧で高温運転ができる。

(2)核分裂生成ガス以外に冷却材の分解によるガス発生はない。

(3)ビスマスのγ線遮蔽効果によって炉体のまわりの熱発生は小さい。

(4)ビスマスを用いることによって、低クロム鋼や被覆なしの黒鉛を使用することができる。これらの材料は従来から工業的に使用した経験があり、かつ廉価である。

 なお、欠点としては次の諸点があげられる。

(1)低クロム鋼には最高温度および温度差に限界があるが、さらに高温かつ大なる温度差を要求するためには、腐食または質量移行に耐えるよりよい材料を見つけねばならない。

(2)燃料は、常温で固体であるから、原子炉系に燃料を充填する前に原子炉系を加熱せねばならない。

(3)減速材が必要である。

(4)ビスマスに対するトリウムの溶解性が低い、したがって増殖するためにはスラリーを用いる必要がある。

(5)ポロニウムが生成される。

 なお内部冷却型には、前述の特徴のほかに次の諸点をあげることができる。

(1)燃料のインベントリーが少ない。

(2)原子炉から熱交換器にいたる冷却材の流路に沿って核分裂生成物が含まれない。

(3)倍加時間を約10年程度にしうる可能性がある。

(4)燃料および冷却材を区画する材料もしくは構造が必要である。

 液体金属燃料炉に関する基礎的な研究は1950年以来ブルックヘブンにおいて続けられてきた。1957年にいたってバブコックアンドウィルコックス社が実験炉の設計に参画し、特に構造材料について、また各種機器および計装に関する知見をうるための研究開発を遂行した。しかしながら、液体金属燃料炉の実験炉をつくる計画は、1959年に至って諸種の事情によって中止された。

3.1.5 半均質炉
 半均質炉の基本的な概念は、核分裂性物質および親物質の酸化物または炭化物を、黒鉛減速材中に分散させた固体燃料(このような燃料を半均質燃料と呼ぶ)を使用したものである。このような固体燃料を使用する原子炉を本報告書では、半均質炉と呼ぶことにする。この燃料の被覆材としては、黒鉛が使用されるか、被覆材を全く使用しないことも考えられる。燃料母体または被覆材の黒鉛の代わりに酸化ベリリウムまたはベリリウムを使用することも考えられる。燃料要素自身が減速材を含んでいるために別に減速材は必ずしも必要ではない。冷却材としては、ビスマスまたはガスが考えられる。ガス冷却型のものは第1次報告書で高温ガス冷却炉として述べられているものと重複するものもあるが、中性子経済を良くすることにより増殖炉ともなりうるのでここでは熱中性子増殖炉としての観点から述べる。

 前述のような燃料要素を用いて構成された半均質炉は、黒鉛の耐熱性の点から見て、高出力密度の原子炉とすることが可能であるばかりでなく、液体金属燃料炉における内部冷却型に相当するものであって、良好な熱中性子増殖系となしうる可能性が大きい。また冷却材流路に核分裂に起因する放射性物質が存在しないようにすることができて、液体燃料炉にくらべて安全性が高い。さらに液体燃料炉における溶液燃料の不安定性に起因する問題およびスラリーの問題が除かれる。半均質炉の特長としては次の諸点があげられる。

(1)高温運転ができる。

(2)燃料のインベントリーが少ない。

(3)倍加時間を相当短かくしうる可能性がある。

(4)再処理が容易になる可能性が大きい。

(5)冷却材としてビスマスを使用するときは

i 比較的低圧で高温運転ができる。

ii ビスマスのγ線遮蔽効果によって炉体のまわりの熱の発生が少ない。

iii 低クロム鋼や、被覆なしの黒鉛を使用することができる。これらの材料は従来から工業的に使用した経験があり、かつ低廉である。

(6)冷却材としてガスを使用するときは、

i 高温ガスが得られて、コールダー型原子炉にくらべて、熱効率を改善することができる。さらにガスタービン系との組合せが考えられる。

ii 冷却材としてビスマスを使用するときより、さらに良好な中性子経済が期待できる。

iii 主要機器の設計製作は、現在までガス冷却型原子炉において開発された技術の基盤に立脚することができる。

 このように、半均質炉は高温を得ることができて、熱効率を高め、経済性を著しく改善し、加えて、熱中性子増殖をなすことのできる原子炉である。

 しかし半均質炉では次のような諸点を考慮せねばならぬ。

(1)減速材は必要でないとしても、燃料要素を炉内で配列または積層せねばならぬ。

(2)冷却材としてビスマスを使用するときは、

i 現状でほ原子炉容器材料として、腐食または質量移行の点で使用限界があるがよりよい材料の開発が望ましい。

ii ポロニウムが生成される

(3)冷却材としてガスを使用する場合には

i ヘリウム以外では、黒鉛および構造材料とガスとの反応を防止せねばならない。

ii 黒鉛被覆材を使用すると核分裂生成物の漏出する可能性がある。

 現在、世界各国で動力炉の開発に多くの努力が払われているが、現在の炉型式による動力炉の最終的な姿でないことは明らかである。

 将来有望な動力炉としては、高温で運転でき、かつ中性子経済の良好なことが望ましい。このような目的にそって、半均質炉の考えが高温ガス冷却型として1958年にほぼ時を同じゅうして、英、米、独、日により発表された。

 英国においでは、ドラゴン計画として始められたものであって、現在では欧州原子力機関の参加国の共同計画となっている。この計画は、高温ガス冷却原子炉に関する各分野の研究発表を行ない、さらにこの型式の炉の実験原子炉の建設運転を行なうものである。ドラゴン計画では半均質燃料を不浸透性の黒鉛のさやに入れて燃料棒とし、冷却材としてはヘリウムを使用する予定である。それぞれの燃料棒から直接核分裂生成ガスが除去される。またこの型式の原子炉の炉物理の研究のため、ゼロ出力炉ZENITHが東成し、実験を始めている。

 米国ではフィラデルフィア計画のもとに、ドラゴン計画とほとんど同じ構想に基づいた高温ガス冷却炉がゼネラルアトミック社によって建設されようとしている。また、サンダーソンアンドポータ社では燃料の様式は少し異なるが、黒鉛球中に炭化ウランおよび炭化トリウムを封入した燃料体を用いて、ペブルベット型炉心としたガス冷却炉の構想が発表されている。さらにオークリッジにおいて黒鉛粒子と酸化ウラン粒子を混合して成型した被覆のない燃料板を用いて、ヘリウムを冷却材として使用する高温ガス冷却炉HGCR-1についての経済性の検討が進められた。HGCR-1では増殖は考慮していないが、黒鉛とセラミック燃料とを混合成型した燃料を用いるために高温運転が可能であり高出力密度と高い熱効率が得られるので、電力コストの低下が期待される。

 西独ではペブルベット型高温ガス冷却炉がクルップグループによって建設されようとしている。冷却材はヘリウムとネオンの混合ガスを使用することが考えられている。

 わが国では、日本原子力研究所において棒状の燃料棒を用いて炉心を構成する半均質炉が考えられた。ヘリウムの入手が困難である点から、炭酸ガスまたは窒素を冷却材として使用することが考えられ、黒鉛のコーティングについて、また、流動ガス中における材料の両立性についての研究が進められている。さらに1959年以来、日本原子力研究所において、ビスマスを冷却材とした半均質炉が考えられてきた。ビスマスを用いることによって、ガス冷却の場合よりさらに出力密度を高めることが容易であり、またガス状核分裂生成物の除去が容易になり、安全性を高めることができるであろう。この場合液体金属燃料炉に関してなされたビスマス中における黒鉛および構造材料の性質およびビスマスの流動に伴う問題に関する長年月かつ膨大な研究の成果はほとんどそのまま有効に利用できるものと考えられる。日本原子力研究所を中心として半均質燃料の製造、半均質燃料の諸性質および半均質燃料中の核分裂生成物の挙動、さらに半均質燃料の再処理法について研究が進められている。また、臨界実験装置によって、半均質系の炉物理の実験的研究が始められようとしている。

3.2 増殖の可能性
 熱中性子増殖炉はTh-233U燃料サイクルによって熱エネルギーを供給するばかりでなく、燃料資源の最大利用という目的をもっている。このために炉の中性子経済を良くすることが必要であり、実際の炉に対して実質的な増殖率がいかほどかまたは倍加時間が何年かという問題は炉物理の主要課題である。増殖率に大きく影響する因子は炉の平均のηの値であるが、これはη23、中性子のエネルギースペクトル、共鳴吸収、中性子利用率等によって定められる。熱エネルギーにおいてはη23の値は2.28という値が与えられているが、この値はひかえめな数字と考えられている。η23の値は熱外領域では減少するが、エネルギーが大きくなるとふたたび上昇する傾向を示している。共鳴領域での共鳴吸収および核分裂は炉の平均のηを大きく減少させるまでには至らない。

 平均のηを決定する主要な因子は熱領域と熱外領域で吸収される比であってこれは熱中性子のスペクトル、したがって減速材と233Uの原子比によって左右される。共鳴吸収の影響と中性子利用率を見込んで求めた炉の平均の可は結局2.28〜2.16の間を変動し、減速材と233Uの原子比が大きい時に最大値2.28から次第に減少し、原子比が減少するとふたたび上昇して2.20付近におちつく。重水、黒鉛、ベリリウム等を減速材とした場合の最大可能増殖率が与えられ、この値は3-1表に示すごとくである。ただし、ベリリウムに対しては(n2n)反応による高速分裂効果のため表中の値よりも数%程度の上昇が期待されるが、燃焼度が進むにつれて生成される6Liの毒作用があることを注意すべきである。

3−1表 減速材別可能増殖率

 これまで述べた最大の可能増殖率は理想的な値であり実際の炉に対しては233UとThを燃料として用いるかまたは炉心は233Uのみを燃料としThの適当なブランケットをつけるか、両者を併用することによって232Thから233Uへの転換をはからねばならない。また燃焼度の増大に伴って生ずる高次同位元素と分裂生成物の影響を考慮に入れて、中性子経済をよくしなければならない。実際の炉で増殖率を最大の値に近づけることはある程度可能である。しかしながら233Uへの中間生成物233Paの共鳴吸収、化学処理効率によって実際233Uの収量は減少する。この減少の度合は233Paの核断面積、Thブランケット部の化学処理周期および化学処理効率に依存する。

 高次同位元素については、液体燃料炉といえども対策がないと考えられる。これらは燃焼度の上昇に伴って炉の実質的な増殖率を引き下げる方向に働くが、高次同位元素の生成と消費が平衡に達した時期においては一定の値に達する。

 分裂生成物、腐食生成物は中性子経済の点からは好ましくないので常時除去することが望ましく、液体燃料炉においてはこれが可能である。Xeについては連続除去が三つの炉型式で、不揮発性分裂生成物は水性均質炉と溶融塩炉で行なわれており、液体金属燃料炉では研究段階である。固体燃料炉においても揮発性のものは連続除去が可能と思われるが未知の部分が多い。燃料組成の平衡時において十分な増殖率をもつためには分裂生成物、腐食生成物の量はその吸収が全吸収の7%程度までは許容される。液体燃料炉に対してこの程度の毒物吸収を想定した場合、次のような増殖率が予想される。

水 性 均 質 炉  1.07〜1.10
溶 融 塩 炉  1.05
液体金属燃料炉  1.05

 倍加時間はこれまで問題にしてきた増殖率、比出力、燃料インベントリー、再処理効率に依存する。水性均質炉に対しては10年程度の期間が期待され、溶融塩炉、液体金属燃料炉は外部冷却方式をとる現在の考え方からすると燃料インベントリーが大きすぎて、20年程度の倍加時間すら期待できない。ただし、燃料インベントリーの少ない内部冷却方式が工学的に可能となれば水性均質炉程度の倍加時間が期待できよう。固体燃料炉については再処理に関する因子が現状においては不明確であるため倍加時間を正しく読めることは困難であるが15年ないし25年と推定されている。以上述べたことは液体燃料および固体燃料炉での増殖の可能性であった。しかしながらこれらの炉がになう使命が増殖という未知の問題であり、そのために必要となる種々の工学的制約を考慮すると、η23の値が増殖の成否の限界に近いところにあるということは中性子経済、燃焼度長期変化の精密な計算を必要にする。実際の増殖率は燃料政策にまた炉の開発計画に大きく影響することがらでありこれらは増殖炉研究上の最大の命題であるといってよいであろう。これら精密計算を進める上での問題を列挙すると次のようなものである。

(1)炉物理理論の改善

(2)核常数および工学的データの整備

(3)大型計算機および原子炉コードの整備