第2章 高速中性子増殖炉

2.1 展   望

 高速中性子増殖炉は燃料としてプルトニウムまたは濃縮ウランを、冷却材としてナトリウムのような液体金属を使用した非減速の原子炉型式で、その高い増殖性のゆえに、資源的見地から発電炉の最終的形態とみられる型式である。
 各国においてこれまでに設計または建設の行なわれた高速中性子増殖炉を一覧表として付表2-1および2-2に示す。米国においては1946年研究用プルトニウム高速中性子炉クレメンタインが運転された。1951年12月には世界最初の原子力発電所としてEBR-Iが運転に入り、その後4年間実験研究に使用されてきたが、1955年11月炉心溶融事故を起こした。これは特殊な実験の際に起きたものであるが、この事故はかえって高速中性子炉開発上貴重な経験となった。次いで熱出力20MWのEBR-Iを建設中で、1960年完成予定である。このプラントは燃料再処理および成型加工プラントを併置している。一方実用規模とみられるAPDAの10万kWのエンリコフェルミ発電所も1960年完成の予定である。なお、設計研究では同じAPDAグループでプルトニウム燃料を用いたPFFPBR(Plutonium FueledFast Breeder Reator)の資料が発表されている。
 英国では研究用高速中性子炉ZEPHYRが1954年2月、ZEUSが1955年に運転に入り高速炉の基礎的試験研究が行なわれた。熱出力60MWのドンレー発電所は1959年11月臨界に入った。
 他方ソ連では1955年プルトニウム高速中性子炉BR-1が運転に入ってから、BR-2、BR-3、BR-5 と1958年まで1基ずつのプルトニウム高速中性子炉が建設されている。次いで50MWeのBN-50、250MWeのBN-250が計画されている。
 高速中性子炉燃料としては核的特性からプルトニウム燃料が最適であることはいうまでもない。米英ソいずれの国においても研究炉はプルトニウム燃料で出発しているが、その後、米英においては高速中性子増殖炉の原型ともいうべきEBR-I、II、ドンレーはいずれも初期燃料としては濃縮ウラン燃料を使用している。これはプルトニウム燃料に関する技術が実用という点ではまだウラン燃料に比べて立ち遅れているためである。しかし、EBR、ドンレーにしても将来はプルトニウム燃料炉心に変更される計画である。一方ソ連は高速炉については一貫してプルトニウム燃料で開発を進めているが、詳細は明らかでない。
 高速中性子炉のおもな基本的な特性ならびにそれに由来する動力炉としての特徴等を挙げれば次のとおりである。

(1)ウラン、プルトニウムその他構成要素の高速中性子に対する核的特性は2-1表に示すごとくであって、高速中性子に対する吸収断面積は熱中性子の場合に比べて数百分の1であるが、実効中性子放出ηが大きく、加えて238Uの高速分裂の寄与が大きいこと等により、実用的な動力炉においても十分に1以上の増殖率が得られる。特にPu燃料においては高い増殖率の得られる余地が多く、高速中性子増殖炉の燃料としてはプルトニウムが最もすぐれていることが明らかである。

2-1表 233U,235U,239Puの核特性

(2)高速中性子による核分裂を利用しているので減速効果のある材料の使用は高速中性子炉としての特質を害するので極力避けなければならない。しかしその他の材料ならば、高速中性子に対する吸収はきわめて少ないので燃料を構成する材料に広い選択の自由度がある。

(3)冷却材としては減速効果の小さい、冷却能力の良いナトリウム等の液体金属が使用される。ナトリウム冷却材を用いた場合の圧力、温度に関する利点ならびに化学反応、誘導放射能、系統予熱等の問題についてはSGRの場合とほぼ同様である。

(4)高速中性子増殖炉の増殖率は使用する燃料の種類によって大幅に変化し、金属燃料を用いた場合では235Uで1.35、プルトニウムで1.9程度が得られるが酸化ウラン等を用いた場合にはこれらの値よりも低下する。酸化物を用いた時のO2は、その減速効果よりもむしろ炉心体積の中で燃料の占める部分を少なくするという効果によって、増殖率を下げる。しかしPuO2は長期燃焼の立場から発電炉全体としての経済性を高めるのに有利であるので、その使用が考えられている。サーメット燃料はセラミック燃料よりも高い増殖率が得られる。

(5)高速中性子炉の出力密度は、きわめて高くとられ、それによって核的ならびに熱的に経済性を保つことが要求される。たとえばエンリコェルミ発電所では出力密度が800kW/lというように熱中性子炉に比べてはるかに大きな値をもっている。このため炉心の熱除去、燃料体の設計とその機能遂行上の確実性等は、高速中性子炉について重要な問題となってくる。

(6)高速中性子炉としての特質をもたせるためにはある程度以上の高濃燃料を必要とする。たともばエンリコフェルミ発電所では25.6%(235U)、PFFBRでは26%(Puセラミック)となってる。サーメット燃料体ではさらに高い濃縮度が必要である。

(7)核分裂性物質の分裂断面積が前述のように熱中性子の場合に比べて数百分の1であることは、同一出力に対しては多量の核分裂性物質が必要であることを意味している。そのため比出力を上げて核燃料経済の向上をはかる必要があるが、冷却の面から比出力は極端に上げることはできない。また炉外のインベントリーに炉内燃料の燃焼度と、炉外サイクルタイムに依存するが、現状では炉内に対する炉外インベントリーの割合は大きい。しかし後述するように将来の燃焼度の向上、再処理技術の開発とともに長期的な燃料サイクルシステムを考慮した場合には相当軽減されうる可能性がある。

(8)反応度という点では核分裂生成物の吸収断面が低く、新たに2次核分裂性物質が生成されるので燃焼に伴う反応度の低下の割合は少ない。また反応度の温度係数も小さいので原子炉の余剰反応度は熱中性子炉の場合ほど大きい必要はない。

(9)高速中性子炉における中性子の寿命は10-7秒程度であり、熱中性子炉の場合の10-3〜10-4秒に比べはるかに小さいので、即発臨界以上の反応度になるような場合には安全性の見地から不利である。またプルトニウム燃料の場合には遅発中性子の割合がU235の0.007に比べて0.003で小さいことも制御上考慮を要する点である。しかしこの場合238Uの遅発中性子によって幾分かはカパーされる。

2.2 技術的問題点
 高速中性子炉の技術的問題点はまだ工業規模での経験の乏しい技術に対し、理論実験的検討を経た後、これから実用規模での実証段階に入り、さらに経済的高速中性子増殖炉の開発に入ろうとする現状である。ここでは高速中性子炉の技術的問題点として、
(1)高熱出力密度に伴う燃料、炉心設計上の問題点
(2)冷却材としてNa使用のために起こる問題点
(3)Pu燃料炉開発のための問題点
の3点に集約して考察する。

2.2.1 高熱出力密度に伴う燃料、炉心設計
 高速中性子炉の現在の重要な問題点としては、高熱出力密度、熱除去の工学的設計、低燃料サイクル費の三つの問題を燃料、炉心設計の上でいかに調節して経済性と増殖性を求めるかという問題があげられる。
 高速中性子炉においては一般に熱中性子炉に比較して1桁以上高い熱出力密度となりエンリコフェルミの場合熱出力密度815kW/lでU-10w/oMo合金燃料棒は、外径0.148"(3.76mm)被覆材共で0.158"(4.01mm)という針状のものになった。さらにこの144本が2.646"(67.2mm)角の中に収められ1燃料体を形作っているが、これが550〜800゜F、(288〜427℃)のNa流れの中で配列をくずさないよう支持する設計がむずしく、しかも熱流束が最大1,167,000Btu/ft2h(3,168,000kcal/m2h)と大きく、燃料中心温度が最高で1.134下(612℃)、熱水路係数を考慮すると1.325゜F(668℃)となり、これが可能燃焼度を抑える結果となっている。高速中性子炉では燃焼度の制限は核的限界でなく燃料の冶金的限界であって、U-10w/oMo合金で燃料中心温度が1,1000平(593℃)付近で4%の半径増加を許した場合約1a/o(U、Moの全原子数を基準とし、これは約12,000MWd/tに相当する)の燃焼が可能である。燃料温度が上昇すると可能燃焼度は急激に減少する傾向(注1)があり、その例を付図2-1に示す。これは低濃縮Uを使ったPWRやBWRのセラミック燃料と25%濃縮Uのエンリコフェルミの燃料の可能燃焼度が等しいということであり核燃料物質の年間炉内通過量が年間消費量に対して非常に大きくなることであり(注2)、針状燃料棒の成型加工、高濃縮燃料の再処理の費用を非常に高くする結果となった。高温条件の下で燃焼度をあげるためには燃料として金属の代りに照射強度の大きいセラミックやサーメットを用いることが考えられる。PFFBR の設計が金属燃料を捨ててセラミック燃料を取ったことは増殖率および熱出力密度(460kW/l)を下げても高燃焼度13a/o(239Pu、240Pu、241Pu、238Uの原子数を基準とし、約115,000MWd/tに相当する)を達成して燃料サイクル費を切り下げたい点にあった。PFFBRのPuO2-3UO2 燃料の高燃焼度達成の制限となるものは核分裂生成ガスによる燃料のスウェリングと、燃料から漏出するガスに対する被覆材の耐圧性が考えられるこれに対してはセラミックの理論密度比を89%として13a/oの燃焼度に対して過大なスウェリング(4%直径)はないという設計条件を取った。また炉心燃料と低理論密度比のセラミックブランケットの上部にガスだめを設けている。ガスの漏出率は燃料の温度に支配され、5〜50%の範囲であるが、燃焼度13a/o50%漏出に耐えうる被覆の設計が取られた。セラミック燃料の溶融やスランピングに対しては現在高燃焼度燃料の中心温度は内部のガス泡、クラック、溶融によって熱伝導率の算定に疑問が多く燃料棒の単位長さあたりの最高熱出力を0.5kW/inchと抑えた。セラミック燃料の高照射実験についてはBAPL、KAPLの資料があるが、さらに現在AECにより高速中性子炉用PuO2燃料の開発計画が進行中でGE社による照射実験(注3)に大きな期待が寄せられている。またサーメット燃料については非核原料金属(ステンレス鋼)をペースと したPuO2-UO2サーメットの実験では25a/o(金属原子基準)が達せられた結果があり、この種の燃料の将来性は大きいが増殖率が1.0といった値でしかないので将来の開発のためには1,400゜F(757℃)程度の燃料温度条件の下で増殖率1.4〜1.5を目指す核原料金属をベートとしたPuO2-U-15w/oMoサーメットの開発がAFBR の開発計画として目指されている。以上のほかにして燃料やペースト燃料も考えられている。

 2.2.2 Na技 術
 高速中性子炉の冷却材としては熱伝導特性がすぐれ減速効果の小さい液体金属が要請されNa、NaK、Pb、Bi、Hg等が考えられたが今日ではNa(またはNaK)を実用化することに努力が集中されている。
 Na技術は一般にSGRと共通であるのでここには述べない。ただし高速中性子炉においては特に反応度事故の見地からも水が炉心に流入することを完全に防がなければならないのでこのため2次冷却系を中間に設けるか、熱交換器を2重壁型にする等の対策がとられている。

 2.2.3 Pu燃料炉
 Pu燃料は高速中性子炉の設計にとってはクローズド燃料サイクルを実現し、U燃料に比較して小さな臨界質量、大きな増殖率を有するものとして経済的開発に期待が寄せられ、EBR-IIのPu_Fissium合金燃料、PFFBRのPuO2セラミック燃料等の開発に努力が向けられている。PFFBRの設計を通じて摘出されたPu燃料炉開発のための問題点は、
(1)Pu燃料炉の有効遅発中性子割合がU燃料炉の0.7%に対して0.3%と下がり、高速中性子炉の特徴である中性子寿命が短いこと。負の温度係数が小さいことに加えて、制御棒の誤操作、燃料棒の湾曲および炉心の熱膨張による不安定性に対する注意がより必要である。
(2)高速領域におけるPuの核断面積特にPuの吸収と分裂の比率、遅発中性子等の割合が明確でないので、温度係数および増殖率の計算精度ならびに炉心設計の最適化をはかるために、これらの物理定数の解明が必要であるので、Puの臨界実験炉が必要である。
(3)再循環240Pu、241Puを蓄積しているためα線、γ線、中性子を放出し放射性である。そのため燃料サイクル費を最低にするような燃焼度、再処理方法、成型加工方法の検討が必要である。

2.3 経済性
 高速中性子増殖炉の経済性については、今直ちに高速中性子炉をつくるとしても、発電コストがどれくらいになるかという観点から見ることももちろん必要であるが、将来高速中性子炉について現在未開発の技術が完成された後に、どんな建設費になり、また、いくらの発電コストになるかという観点から、将来における本質的な問題点ないし性格といったものを検討しておくことも、よりいっそう重要である。
 高速中性子炉にとって当然採用すべきであると思われる技術もそれが現実に未開発であるがために採用しえない場合もある。たとえばエンリコフェルミ発電所における金属燃料要素のごときも、UO2燃料にするほうがはるかに良いと思われる理由は数多くあるにもかかわらず、当時まだUO2燃料が開発されていなかったために金属燃料にせざるをえなかった。その結果、コストの面でも燃料サイクル費が1.70円/kWh程度になるという不利が生じているが、これをもって高速中性子炉の経済性の全般を推測することはできない。高速中性子炉の最終形態はもちろんPu燃料の増殖炉となるものであるから、その本質的性格はこの最終形態のものについて見ておかなければならない。
 Pu高速中性子炉については、現在はPuO2燃料の場合の研究が比較的に進んでおり、米国の各種の設計例を参考とし1965〜1970年に運転を開始する可能性のある約300MWeの高速中性子増殖炉についてみれば経済的にも2.80〜3.20円/kWhで発電する計算が行なわれる程度の採算見通しが得られている。酸化物燃料の研究は軽水炉の開発に伴って相当に進行しているので、PuO2高速中性子炉の燃料サイクルには、机上計画に過ぎないとはいえ、確実性は相当にあるとみてよいが、燃料要素の機能については、特に直径の細いピン型の場合、果たして計画通りいくか否かが、最後に経験によって確かめられなければならない。PuO2燃料よりもさらに核的に性能もよく、板状等の成型加工しやすい燃料の製作が可能なサーメット型の研究も進められている。PuO2燃料の場合も、その経済性はサーメット型に比し決して悪くはないが、増殖性能において幾分サーメット型のほうがすぐれ、かつ経済性も良いので、増殖性が追求されるようになれば、将来はこの方向に向うものと思われる。

(1)建設費
 建設費に関し、高速中性子炉に特有のものは Na冷却に関連のあるもの、すなわち炉容器、循環系、特に第1次、2次熱交換器、その他のNa関係設備である。これらの費用が明らかになれば、他の部分は従来の経験を適用または応用しうるので、建設費の評価は一応可能で、現在行なわれている試算では直接建設費で 9.5〜11.5万円/kW 程度となっている。

 商業規模での建設経費は世界を通じて少なく、エンリコフェルミ発電所がほとんど唯一の貴重な経験となっている。そのkWあたり建設費はかなり高く、直接建設費のみで12.7万円/kW となっているが、最初につくられたものとして改善の余地は相当多く、その見通しは悪くない。たとえば、このエンリコフェルミ発電所の経験を基礎として、PFFBRのごとき300MWe級の建設費が見積られているが、この両者は電気出力に3倍の相違があるにもかかわらず炉の寸法はほとんど違わない。したがって、その見積りは大きな外挿的誤差が少ないとみられると同時に、kWあたりの建設費も経済水準に近く、現在行なわれている見積りには相当の根拠があるとみてよい。建設費中の主要な要素をとくに経験の多い軽水炉等と比較した観点からみれば、一方には圧力タンクがあり、一方にはNaに関する一切の関連部分がある。この相違が建設費の上に現われるにしても発電所全体の中での原子炉部分のみに関することであるから、さほど大きな影響はないといえる。

 しかして、高速中性子炉の場合には、圧力に制限なく、また冷却能力にも余裕がある点からして、もし燃料の開発および冷却技術に関する全般的な改善さえ進めば高速中性子炉の建設費はさらに安くなる可能性を残しているものといえよう。

(2)燃料費
 高速中性子炉の場合の燃料費として全般的に注意しておくべき点は、235UとPuとの相違、特にPuの取扱いに関連しての再処理、成型加工等に要する費用およびピン型燃料要素の加工費、寿命等の実際上の経験の乏しい部分が果たして実施面においてどうなるかという点である。

 Pu燃料の高速中性子炉においては、前述の点においてなお経験にまつべき点があるにしても高速中性子に対するPuの核的性能がすぐれているということの影響はやはり大きく、Puのコストを12ドル/g とすれば、これを高速中性子炉に使うことは相当有利である。たとえばインベントリーが相当に多くても引き合う余地があるとか、またその年経費率も4%の低率でなく10%前後で計算することも採算上可能である。

 (i)インベントリー費
 高速中性子炉のインベントリー費を決める要素は(1)ほぼ3トン/1,000MWeの炉内インベントリー、(2)炉内燃料寿命と炉外燃料サイクルタイムで決定される炉外インベントリー、(3)年経費率(%)、(4)Pu のコスト等であるが、これらの諸要素は将来の燃焼方式、開発規模等により相当大幅に動くであろう。Puのコストは12ドル/grとみる試算が多く行なわれており、年経費率にも種々考え方があり、6%または8%という値も取りうるが、10%前後という値を米国では試算上用いた例もある。

 炉内の燃料寿命についてはPuO2燃料等により3年前後が可能になるものとすれば、再処理は湿式を用いるとしても、また開発初期を考えて、その炉外サイクルの所要時間が15年程度になるものとしても、全インベントリーはさほど不経済なほどには大きくはならない。(付表2-3参照)

 (ii)成型加工費
 一応、成型加工費の見積り例は2、3あるが、やはり未経験の領域である。ただピン型燃料要素で、かつPuを扱う場合、当然軽水炉等の場合よりも相当に割高になる。PFFBRの例では、金属燃料1kgあたり約1,500ドル(239Puあたり1,600円/g程度)の成型加工費が見積られている。これを軽水炉の場合の100ドル/kg程度という値と比較すると、燃料の燃焼だけから考えるとき、前者はほぼ100,000MWd/t を考えており、後者は10,000〜15,000MWd/tを考えているのであるから、1,500ドル/kgという値は50%がた以上軽水炉の場合よりも割高になっている。上記の割高になっている部分は、核燃料の損耗費(転換率<1の場合)などで補いがつく。将来の発展の方向としては、ピン型またはその他の型の燃料要素の量産的工程の可能性、ならびにPuに対する遮蔽をおいてこの遠隔自動操作的工程の可能性等が将来の問題として残されるであろう。

 (iii)再処理費
 コストの面からは、比較的問題は少ないが、個々の処理過程については技術的に未開発の部分が多く、現在では235Uの再処理を参考にして、その類推としての考案がなされている。おもな問題は核燃料の臨界量および放射能(Puの場合α線、γ線、中性子線がある)問題、湿式化学処理かあるいはその他(たとえば高温冶金)の方法を選ぶか等であるが、酸化物燃料の場合等には燃焼度がのびるので、湿式でもさしつかえない。湿式でよいというのであれば、再処理費の見積りはだいたい現在の235U燃料の再処理費の延長、類推で考えてさしつかえなく、kWhあたり0.10〜0.35円程度のものと思われる。

 (iv)核燃料の損粍費
 高速中性子炉においては、核燃料の破壊と生成との結果は正の増殖利得となる。この点、軽水炉等において起こる損耗費と比較すると相当に有利である。

 1gの核燃料の破壊に対応して0.3gの正増殖利得がある場合と、0.5gの実行的(Pu を適当に235Uに換算しえたと仮定して)損耗がある場合とでは、合計0.8gの差があり、かりに1gを12ドル(4,320円)とすればgあたり8,000kWhの電力を発生すると仮定して、この差は0.54円/kWhという大きなものになり、成型加工費やインベントリー費が比較的に高くなる可能性のあるところを十分に補っている。

2.4 燃料サイクル
 高速中性子炉の燃料サイクルは大別して三つの観点からみておくべきである。

 (1)炉内および炉外の燃焼と再処理の過程を直結した、いわゆる燃料サイクルの構成とその技術的方式の問題

 (2)長期の核燃料の需給ならびに核燃料経済等の観点からみた長期的燃料サイクルに関する問題

 (3)235U高速中性子増殖炉の長期的燃料サイクルにおける地位をどのようにみておくべきかの問題このうち(1)は直接に発電原価に対して、いわゆる燃料サイクルコストとしての影響のある問題で、コストに関してはすでに前節において述べたので、本節では、方式上の問題に若干ふれておくに止める。(2)は発電原価には直接の関係はないが、エネルギーの長期需給との関連においての核燃料問題として増殖炉の役割を決定する最も重要な項目であり、高速中性子炉の比出力、増殖率、倍加時間等が基本的な要素であり、高速中性子炉の経済性と増殖機能とのかみ合せが問題となる。(3)はまだ今日の段階では検討が深くは進んでいないが、235U高速中性子炉をその経済性と増殖性とに対してどのようにみておくべきかにつき問題となる点をあげておく。

2.4.1 高速中性子増殖炉における燃料サイクルの構成
 高速中性子炉においては、増殖性(ただし、ここでは倍加時間問題が主要問題である)を高めようとすると、比出力を相当高くとらねばならず、同時に全インベントリーをできるだけ小さくしなければならない。ウラン金属燃料要素の場合その燃焼度限界を10,000〜30,000MWd/t とすると、比出力が高いため、炉内滞溜時間は数ヵ月というみじかいものになる。したがって、再処理方式として湿式化学処理を採用すると、炉外所要時間は著しく長い(炉内との相対関係)ものとなり、したがって全インベントリーも著しく大きくなりコストの面からも核燃料経済の面からも多くの不利な事態が生じる。

 酸化物燃料等によりきわめて長時間の燃焼度を達成しうるような実験があるので、実施面ではおそらく炉内での燃焼度を高め、炉内時間を数ヵ月の桁から、数年にまで伸ばすことが最初の目標になると思われる。

2.4.2 長期的燃料サイクルに関する問題
 増殖炉の長期エネルギー需給に関する最大の利点はその核燃料の増殖性にあり、最終的には増殖炉の倍加時間とエネルギー需給の倍加時間とが適切な均衡を保っていなければならない。理想としては少なくもその倍加時間が、エネルギー需給の倍加時間と等しい程度になることである。酸化物燃料等が用いられ、増殖率が1.3〜1.4程度になるものとした場合、倍加時間についてはだいたい次のような目安が得られる。

   増殖率1.3
 の場合
 増殖率1.4
 の場合
     
 比出力の逆数  3トンPu/  3トンPu/
 1,000MW  1,000MW
     
 炉外インベントリーの
 炉内インベントリーに  0.333  0.333
 対する比(仮定)
     
 全インペントリー  1,000MW  1,000MW
 4トンPu/  4トンPu/
     
 年負荷率  80%  80%
     
 年増殖利得(概算)  〜203kg  〜350kg
 (熱効率=0.333)
     
 倍 加 時 間  〜15年  〜11.5年

 上記の試算では、炉外インベントリーをかなり少なくみてある。開発初期には炉外インベントリーは上記よりもおそらく多くなる可能性が大であるから、倍加時間はさらにふえると思ってよい。しかし、上記の数値は単一の炉についてこの倍加時間であり、多数の炉を集めた系全体としての倍加時間はさらに短縮しうる。したがって、炉心に種々の稀釈材が用いられ増殖率が低下するようなことがあるとしても、なお倍加時間10年前後のエネルギー需要増には十分均衡を保ちうると考えられる。

2.4.1 235U 高速中性子増殖炉の長期燃料サイクルからみた考え方
 ウラン濃縮プラントから直接高速中性子増殖炉をスタートさせようとすれば必然的に235U高速中性子炉が現われるが、その場合における235U高速中性子炉を独立したものとみるか、それとも Pu炉の単なる過渡状態とみるかは発電所経営上の問題かまたは核燃料運用上の問題としてみるべきである。実効的には235U高速中性子炉は次の試算にみるごとく、4〜5年でPuに移りうるとみられる。

 比出力の逆数(Puの場合の1.5  4.5トン235U/1,000MW
 倍と仮定)  
   
 全インベントリー(同上)  6トン235U/1,000MW
   
転換率(235Uの破壊とPuの生成  1
との比率)(仮定)
   
 年 負 荷 率  80%
   
 年間Pu生産量(概算)  〜876kg
   
 1,000MWのPu高速中性子炉を
 1基つくりうるまでの年数(Pu  〜46年
 炉の全インベントリー=4トン
 /1,000MW)

 経済的観点からは235U高速中性子炉は、金属燃料でなく、可能燃焼度の長いUO2燃料等にすべきであり、その際、増殖率等には固執すべきではないと思われる。235U高速中性子炉では、稀釈材を入れた場合には1以上の増殖率はあまり期待しえない。

2.5 安全性
 高速中性子増殖炉は2次ナトリウム冷却系を有し、誘導放射能を持つ1次系のナトリウムと蒸気発生器の水との反応および炉心内へ水素等の減速材の混入を防止しており、また冷却系の圧力が低くその内蔵エネルギーが小さいという安全上の特長がある。しかしながら、高速中性子増殖炉の即発中性子寿命は10-7秒程度で熱中性子の10-3秒、10-5秒に比して小さくさらにプルトニウム燃料では遅発中性子の実効割合も少ないので安全確保のための設計が重要となる。

 また冷却材に使用されるナトリウムは空気、水と反応し、ナトリウムを含んだ蒸気が皮膚、粘膜を侵す性質を持っているので高速中性子増殖炉の安全性は以下に述べる主要な安全対策によって確保されねばならない。これらの安全対策はTREAT、EBR、その他の炉における、実験等によって逐次確かめられつつあるが、特に燃料溶融事故の問題は TREAT で研究されている。

(1)反応度の温度および出力係数
 高速中性子増殖炉は燃料のドップラー効果、燃料およびナトリウムの膨張等による反応度の温度係数が負であって、しかも炉の安全性をそこなわない値となるよう設計される。また出力係数も負の値となるよう設計するが、このうち燃料の弯曲によるものは正の値をとるおそれがあるので特に燃料ピン支持構造、燃料要素およびブランケットの支持と配置等を考慮して負の反応度係数を持つようにする。エンリコフェルミ炉の燃料ピンは燃料集合体内のカートリッジによって燃料の彎曲を防止する設計となっており、またPFFBRでは炉心とブランケット間および各燃料集合体間に隙間を設け燃料集合体底部のみを支持して自由な彎曲を行なわせる設計を採用している。これらの設計は安全上特に重要なので実験研究等によりその妥当性を十分確かめておかなければならない。

(2)燃料溶融の際の再臨界
 なんらかの原因で燃料の溶融が起こった際燃料が密集して臨界となり反応度の著しい増加を起こす可能性がある。このため事故時に燃料の溶融を防止することはもちろんであるが、万一燃料溶融が起こった際にも軸方向ブランケットの穴による溶融燃料の自由落下、炉心下部の燃料再集合防止装置等により溶融燃料が再臨界となることを防止する。エンリコフェルミ炉、ドーンレイ炉、PFFBRはいずれも原子炉容器内底部に円錐状導流中心を持つ円環皿状の溶融鍋を設けており溶融燃料の再臨界を防止する設計となっている。

(3)反応度の挿入
 高速中性子増殖炉は中性子寿命が小さく特にプルトニウム燃料炉では遅発中性子の実効割合いも少ないので、制御棒の引抜き等による反応度の挿入で炉が即発臨界とならないよう特に注意する必要がある。このため制御棒の反応度効果および挿入の値が十分制限内にあるよう設計し、また新燃料の挿入または落下により上述した制限以上の反応度増加が起こらないよう燃料取扱機構等の設計および運転に留意しなければならない。

 エンリコフェルミ炉ではこのほか安全棒が炉の停止中不用意に抜けないようインタロックを設けている。なお、設備保護用の停止装置について今後の研究開発が望まれる。

(4)ナトリウムの反応
 1次系ナトリウムが事故時に格納容器内で空気と化学反応を起こす可能性がある。このため格納容器は1次冷却系ナトリウムが内部の空気と完全に反応した場合の温度、圧力に耐える設計になっている。2次冷却系のナトリウムは放射能を帯びずこれが事故時に空気、水と反応することは原子力発電所の特有の問題ではない。しかしナトリウムと水の反応で生じた水素がさらに空気と混合して爆鳴気となるおそれがある。このため蒸気発生器の設計には細心の注意が必要である。

(5)冷却能力の喪失
 前述のように事故時の燃料の溶融は再臨界の問題をもたらすので事故時の冷却能力を十分に確保して燃料の溶融を防止しなければならない。高速中性子増殖炉における苛酷な冷却能力喪失事故としては次に述べるものがあげられる。

(i)1次冷却系循環能力の喪失
 エンリコフェルミ発電所の事故解析によれば3台の冷却材ポンプが同時に故障し、8本の安全棒が駆動しなかった場合燃料は4秒後に溶融点に達し8秒後にはナトリウムの沸騰点に達する。ナトリウムの沸騰による蒸気圧力の上昇のサージ容量により十分安全に低く保つことができ、しかもナトリウムの沸騰が反応度、冷却能力の点でむしろ有利と考えられるが、なお、詳細な解析と検討を必要とする。

(ii)1次冷却系破損
 原子炉容器または1次冷却系配管の破損事故の際、冷却材ナトリウムの喪失により炉心が露出しないように設計する必要がある。このためエンリコフェルミ発電所では原子炉のナトリウム出口より下の部分は2重構造の耐漏洩性配管となっている。この発電所では1次冷却系の流量がなくなり、ポンプ動力が失われた際、炉がスクラムされた時は冷却系の慣性により非常時の冷却が行なわれ、また崩壊熱も自然対流によって除去され燃料の溶融が起こらないように設計されている。しかしこの種の事故の詳細な検討および炉のスクラムの確実な遂行の可能性の検討が必要である。

2.6 むすび
 高速中性子増殖炉は世界的にみてその開発段階の現状およびそれが必要になると考えられる時期等を考え合わせ、今直ちに既存のものを輸入する等のことを考えるよりもむしろ海外での開発状況とあいまって、国内でどうしても経験を必要とする研究開発や、あるいは国内でも開発が可能でかつ海外からの輸入だけでは詳しいknow nowのわからないものおよび安全性等に直接関係のある部分で実験検証の必要な技術等を将来に備えて効率的に開発を進めることが必要である。またその際、完成目標をだいたい20年後として理想的な燃焼方式を目標において、そのうちの重要な因子を解決していくべきであると思われる。

 上記のような趣旨に沿って研究開発計画を考えると次のようになる。

(1)原子炉と分離するかまたはある程度原子炉と関連を持たせてのNa技術の開発

(2)Pu燃料の取扱い、処理、加工等の技術の開発(必ずしも燃料要素の設計にこだわらず、Puそのものに習熟することを第1段階とする。)

(3)燃料要素(ピン型その他の形状)の熱的特性の研究(特に安全性との関連)。(この研究の一部は、Puを必ずしも使わず、はじめは235Uを代用することができる)。

(4)高速領域を臨界未満とし、若干の熱中性子を混用した臨界装置による核的研究ならびに試験炉の建設

(5)パイロットプラントの建設ならびに燃料要素の設計(必ずしも最高性能を目指す必要はなく、動力炉としての総合的な組立てに成功することを目標とする。)

(6)燃料要素の工業的(経済的)観点からする改良の研究

 以上の過程に基づいて開発を進めることを仮定した場合、かりに20年後に経済採算にのる高速中性子増殖炉を完成するものとして逆算すれば、上記(1)〜(6)の諸段階のうち(1)、(2)および(3)の研究は直ちに着手する必要があると考えられる。

〔注II〕
(注1)
 エンリフェルミの U-10w/oMo合金の燃料棒の燃焼度、熱処理、被覆材厚さ、端蓋温度の影響を調査したMTRの照射実験から得られた燃料温度と燃焼度の関係から次のような最高燃焼度の限界が求められた。

温度範囲(℃)
 
最高可能燃焼度(a/o)
〜550(1,025゜F)
 
1.7
550〜600(1,025〜1,110゜F)
 
0.7
600〜630(1,110〜1,165゜F)
 
0.6
630〜720(1,165〜1,325゜F)
 
0.4
(Technical memo F-10. APDA June 11.1958)

(注2)
  エンリコフェルミとPFFBRの核燃料物質バランスの比較
 エンリコフェルミ(熱出力300MW、負荷率70%、燃焼中全原子の燃焼度1a/o)

燃料成型加工工場

 PFFBR(熱出力775MW、負荷率70%、燃料中金属原子の燃焼度13a/o)

燃料成型加工工場  原 子 炉

(注3)
 (GE San Jose工場では現在AECのFOB計画として0.15"φ、2〜4"L(3.8mmφ、50.8〜101.6mmL)の燃料棒40種が製作され照射実験が進められている。燃料棒は、スウェージングとシンタリングの2方法で製作され、それぞれ理論密度の65〜90%の密度、最大熱流束1,000,000Btu/ft2h(2,713,000kcal/m2h)、中心温度4,800゜F(2,646℃)を計画条件と考え、50,000MWd/t〜100,000MWd/tの燃焼度を目標として形状の変化、内部構造の変化、再処理に及ぼす燃焼度の効果等がこの実験対象として含まれている。


付図2-1 燃焼度と燃料棒の変形(直径の増加)の関係U-10w/oMo合金燃料
Technical memo F-10 recomendation For Improved Core Develoment program
“(APDA June 11.1958)

付表1-1 高速中性子増殖炉一覧表(米・英)






付表1-2 高速中性子増殖炉一覧表(ソ連)


付表1-3 高速中性子増殖炉発電炉のコスト試算