IAEA、ユネスコ共催アイソトープ利用国際会議の開催

 コペンハーゲンにおいて本年9月6日から17日まで開催された国際アイトープ会議はIAEA(国際原子力機関)とユネスコとの共催で、デンマーク政府後援のもとに開かれた。このアイソトープ会議は、正確には「物理学および産業におけるアイソトープ利用国際会議」であって、3年前にユネスコ主催でパリーにおいて開催された国際アイソトープ会議を継承したもので、今回は前回の物理学、工学、医学および生物農業を含んだ全般の利用会議に比し、理工学分野のみが取り上げられた。したがって、明年は生物学分野の会議が開催されることになっている。

 この会議にわが国から提出された論文は23編であって、そのうち3編が口頭発表された。提出論文は次のとおりである。

提 出 論 文 課 題

陰イオンを吸着させたイオン交換体の中性子照射によるホットアトムの濃縮
斎藤 信房(東 大 理)
ベータトロンの内部照射による放射性同位元素の製造法について
森永 晴彦(東北大理)
大気中の14Cの最近の濃度変化および大気海水間の14Cの移動の問題
大越 那彦(学習院大理)
リン酸アルキル―塩酸硝酸系における諸元素の行動
石森富太郎(原子力研)
核分裂反跳による短寿命核分裂生成物の分離製造
中井 敏夫(原子力研)
同位体稀釈法による安息香酸水溶液の放射線分解に関する研究
団野 皓文(原子力研)
核分裂放射性稀ガスによる結晶構造の変化の研究
矢島 聖使(原子力研)
32Pの製造研究
木村健二郎(原子力研)
クロム含有染料による高比放射能クロム51の製造研究
木村健二郎(原子力研)
オキシン塩のホットアトム効果による高比放射能のラジオアイソトープの製造
木村健二郎(原子力研)
二酸化イオン中コパルト60線源からのガンマ線照射による
ポリオリフィン繊維の染色性改良
津田  覚(広島大工)
メタアクリルニトリルの放射線重合
祖父江 寛(東 大 工)
L-スレオ-1-(P-ニトロフェニル)-2アミノ-1.3-プロパンジオールの
ベンズアルデヒドシック塩基とジクロロ酢酸メチルからのクロラムフェニコールの
合成反応の機作について
千谷 利三(都立大理)
ラドンによる1,000t溶鉱炉ガス通過時間の測定
芹沢 正雄(富士鉄広畑製鉄所)
食塩電解の研究におけるラジオアイソトープの応用
水野  滋(東京工大資源化学研)
固体硝酸アンモニウムの放射線分解
白井 俊明(東大教養)
放射線による高分子の電気的性質の変化
篠原 卯吉(名古屋大工)
低温交換法による同位体分離
中根 良平(理化学研)
放射性セシウムおよびストロンチウムの共沈法による同時分離
高谷  通(日立製作所中 央研)
ラジオアイソトープ利用による打抜工具の磨耗の研究
佐田登志夫(理化学研)
マンガンクロロフィルのジラルドチャルマー反応によるマンガン56の製造
村上悠紀雄(原子力研)
放射化学のケイ素の高純度化への応用
一宮 虎雄(電電公社電通研)
鉛の不働態に関する研究
前田 正雄(電電公社電通研)
 
 
備考
  は会議において口頭発表された論文

 開会式は9月6日午前9時45分からコペンハーゲン市のOdd Fellow Palaisで開かれ、IAEA事務総長スターリングコール氏の挨拶で議事が進められた。

 日本代表としては、木村健二郎博士(日本原子力研究所理事)が出席したが、その他政府代表として、出席したのは木村氏のほか次の7名である。

 武田 智則  (日本原子力研究所)
 望月  勉  (   〃    )
 森永 晴彦  (東京大学助教授)
 佐田登志夫  (理化学研究所)
 鈴木 嘉一  (原子力局アイソトープ課長)
 長谷川 賢  (原研嘱託、第一化学株式会社)
 大友 哲宏  (電気試験所)

 第1日目(9月6日)の午後から開始された論文発表は、最初に地球物理関係へのアイソトープの応用であり、第2日目は金属学と固体物理への応用が取り上げられた。第3日目から3日間はアイソトープの工業利用に関する発表であり、船舟自のディーゼルエンジンへの wear test、金属の鋳造技術への応用、砂糖工場での工程解析への利用、クリプトン85、トリチウムによる漏洩試験、石油資源の調査および石油精製の分析に利用する等の報告がなされ、産業への経済的貢献の大きいことが確認された。また人文科学の関係では、ある古代貨幣の放射化分析や古代建築物の非破壊検査にも有効である等の報告があった。第2週からは分析化学、有機化学、物理化学への利用、アイソトープの製造、標識化合物の製造について活発な発表討論があった。

 今回の参加国は42ヵ国で、出席者約530名、論文発表国は21ヵ国、発表論文数148であった。主要参加国、出席者数および発表論文数は表のとおりである。

 なお、アジア諸国からはフィリッピン、インド、タイ等の各国からも参加したが、日本以外は論文発表がなかった。会議の出席者の内訳をみると、試験研究機関から212名、大学から123名、会社関係から76名、行政機関から53名、その他の各種団体は68名であった。しかしこの参加者を各国別にみると、後進国と思われる国からはわずかに行政官の出席のみがみられ、やや進歩した国は大学、研究機関、行政機関からの参加者のパランスがとれており、先進国においては、さらに民間会社からの参加者も多く見受けられた。このことは、アイソトープ利用が前段階においては行政方面の啓蒙普及に始まり、次いで大学、研究機関に広まり、さらに産業利用に拡大していく姿を物語っている。日本の場合は第2段階から第3段階に進む過程にあると考えられ、今後工業利用をいっそう進展せしめなければならない。