動力試験炉の購入契約について

 日本原子力研究所は、32年以降の懸案であった動力試験炉導入のための契約をさる8月30日に日本ゼネラルエレクトリック株式会社との間に締結した。

 これはさる33年2月の調査団派遣以来、慎重な調査と検討を重ね、その結果34年3月にIGEグループのBWR型を第1候補と決定したので、以後同グループを相手に数次にわたる契約交渉が続けられ、同年10月までには、大半の問題は妥結を見ていたものである。

 これが、今般の契約完了まで遅延した主要な原因は原子力損害賠償責任問題であった。すなわち、米国内におけると同様に日本政府による免責を主張するGE側と、原研による免責で解決をはかろうとする原研との見解が平行線をたどったまま、昨年10月以降進展を見せなかったのであるが、「原子力損害賠償に関する法律案」が国会に提出されたのを機に後述のとおり、一応妥結を見たものである。

 この動力試験炉(JPDR:Japan Power Demonstra-tion Reactor)は、自然循環直接サイクル沸騰水型原子炉系を蒸気供給系統とし、表面復水器を持つタービン発電機およびその補助系統で形成され、原子炉熱出力は46,000kW、プラントの発電端電気出力は12,500kWで正味電気出力11,700kWである。

 燃料としては、2.4%(第1次装荷燃料は2.6%)の低濃縮ウランを酸化ウラン(UO2)ペレットの形をとり、ジルカロイー2を被覆材として使用される。これらは、燃料要素集合体72本(予備7本)として形成され、第1次炉心のウラン装荷量は、4,260kg(予備分430kg)で235Uでは、111kg(予備分11kg)である。

 今日の契約対象となったものは、この動力試験炉施設のための機器、資材、原子炉格納容器、土木工事および関連役務1式の購入と、第1次装荷燃料(予備を含む)の製作であって、以上は全体として契約書記載どおりの諸要件を証明されてのち、据付現場で引き渡されることになっている。ただこの契約においては、原研はGEJに対する買手であると同時に、GEJの全体設計に基づいて用地、タービン建家、付属建家、冷却水路工事案をその費用負担と責任において施工し、供給することになっており、これらは契約書上明確な業務分担の立前をとっている。したがってこれらの工事は契約とは別口に原研が実施することになる。

 以下契約の概要を述べると、契約の相手は、GEが先般日本法人として設立したその子会社日本ゼネラルエレクトリック株式会社(GEJ)であるが、その契約義務の履行にあたってはIGE社がこれを保証し、不履行の場合代替履行する形をとっている。

 価格は、6,844,900ドルのドル支払分と932,557,000円の円支払分からなり合計約34億05百万円である。支払は工事の進捗状況から決められた期日にしたがって6回払いとなっている。

 この契約では、施設全体が据付渡しの方式をとっていることとも関連して、契約書上次に述べるような保証をGEJ一元的に責任をもって行なうことになっておりなたそれぞれの補償方法もそれに応じて規定してある。性能保証としては、電気出力、全サイクル熱消費率、格納容器ガンマ線漏洩率、格納容器耐圧性能、また機器の組立据付と土木工事、溶接工事をも保証し、同時に輸送事故や製造上の無欠陥の保証を明記している。燃料要素についても同様で、製造上の無欠損と機械的故障のないことおよび輸送事故による無欠損と合わせて、熱出力および燃焼率(各燃料要素あたり8,800MWD/T)を保証している。これらは全体としてその補償の費用が契約価格と同額に達するまではGEJが完全補償する義務を負っている。

 最終段階までこの契約を難航させた原子力損害賠償責任条項は結局次のような形で妥結を見ている。すなわち、米国内での業務に関連した原子力事故についてはGEJが原研を保護する。一方原研は、原研の資産と従業員に対する原子力損害と公海輸送中の原子力損害についてGEJを保護し免責する。さらに、原研は国内措置として契約書に記載した条件を満足するような原子力損害賠償措置(これは現在の法案の実施とそれに伴う保険措置、補償契約措置等を指す)を、GEJが燃料要素をアメリカから出荷しうる状態になった時点までに講ずる。(これは契約書の工程計画によると契約の発効した34年9月1日から24ヵ月である。すなわち36年8月31日までに、上記の措置を講ずる責任を負っている。)万一、このような満足すべき措置が講ぜられない場合はGEJは燃料出荷と、その時点以降に係る業務を停止し、これによる2年以上にわたる場合には解約する事態にも立ち至ることになる。

 また工期は契約発効後30ヵ月となっているが、最終試験としての100時間定格連続運転が完了した日をもって完工したものと見なされる。現在の工程が、原研、GEJ両者の契約条件遵守によって順調に消化されると、昭和38年2月28日には、日本の最初の原子力発電が開始される運びとなる。以上の契約に基づきJPDRが竣工した暁には、試う炉の目的に沿って運転され、十分な成果が期されよ験すなわち、第1段階としての1年ないし2年間は定格出力近辺で運転され、日本最初の動力炉として、その建設から運転に至る一貫した実際経験と合わせて保守上の諸問題の解決に貢献することになろう。ただしこの期間にも簡単な動特性試験、各パラメーターの測定等は無論実施される。それに続く数年間は第2段階であり動力用原子炉系の諸特性を理解し、問題点を把握するため広範な基礎的また一部の開発的研究試験が行なわれよう。この期間には発電炉としての運転は二義的となり、実験計画に合わせた運転が行なわれることになる。その後の第3段階においては各種の開発研究に大幅に重点が置かれよう。この中には、運転様式の変更(強制循環方式の試験、2重サイクル方式の試験〕や出力増加試験が当然含まれる。これらの試験のための永久施設部分は本契約の際の設計条件としてすでに採り入れられているので、設備済みのところである。また、このほかにも国産部品の性能、寿命試験、国産燃料要素の試験を含めた燃料要素の性能試験等が考えられよう。また、舶用実験としては、舶用負荷を模疑した実験等が計画され、運転の第2、第3段階で行なわれることになろう。これらを通じて、JPDRは軽水型動力炉の国産化に貢献することが期待される。