原子力委員会参与会

第4回

〔日 時〕昭和35年6月2日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕東京都千代田区丸の内 東京会館

〔出席者〕中曽根委員長、石川、有沢、兼重各委員
稲生(代理前原)、井上、大屋、大山、岡野、菊池、駒形、嵯峨根、瀬藤、高橋、成富、藤岡、正井、松根、三島、三宅、吉沢、我妻、脇村各参与
篠原事務次官、佐々木局長、島村、法貴各次長、井上(亮)、太田、井上(啓)、藤波、鈴木、中島各課長、村田調査官
通産省宮本原子力産業参事官、大蔵省笠川調査官、阿部原研企画室長、渡辺原電調査室長

〔配布資料〕
 1.原子力損害の賠償に関する法律案
 2.原子力損害の賠償に関する法律案要綱
 3.昭和35年度原子力開発利用基本計画
 4.昭和35年度核原料物質探鉱計画
 5.昭和35年度日本原子力研究所事業計画
 6.昭和35年度原子燃料公社事業計画
 7.原子力平和利用研究費補助金交付申請一覧表
 8.原子力平和利用研究委託費交付申請一覧表
 9.原子力委員会各専門部会の審議状況
 10.養成訓練専門部会答申
 11.核燃料経済専門部会第2次中間報告書
 12.動力炉調査専門部会第1次報告書
 13.再処理専門部会中間報告書
 14.(株)日立製作所の原子炉の設置について
 15.(株)日立製作所原子炉の安全性について
 16.東京芝浦電気(株)の原子炉の設置について
 17.東京芝浦電気(株)原子炉の安全性について
 18.放射線化学専門部会の設置について
 19.原子力委員会参与名簿
 20.原子炉製作等に関する甲種技術援助契約について
 21.日米細目協定(第3次〜第5次)

1.新任参与の紹介
 中曽根委員長から開会の挨拶があり、新任の参与を紹介した。

 島村次長が参与に関する規定等を説明した。

 島村次長:参与の任務は原子力委員会設置法施行令第2条に示されており、「原子力委員会に、参与25人以内を置き、会務に参与させる。」となっている。参与としての実際の仕事としては、
 1.毎月1回会合を開き原子力委員会における審議事項等を報告し御意見を示していただく。
 2.原子力委員会から個々に御意見を伺う。
 3.専門委員とともに専門部会を構成してそれぞれ専門の事項を検討していただく。
という3とおりがある。

2.原子力行政について
 今後の原子力政策等に関し各参与の御意見を伺うという主旨で、フリートーキングを行なった。

 石川委員:長期計画の作成にあたり専門部会間の連絡や調整が必要である。部会長や参与の懇談を行なうことを考えている。

 大屋参与:長期計画の問題は通産省、産業会議でも検討している。原子力委員会と連絡を取って違った結論にならぬようにしたい。

 嵯峨根参与:長期計画の作成スケジュールは。

 島村次長:長期計画の作成に関し各方面の意見を3〜4月末の見当で寄せてもらうように連絡した。特別の意見はないという回答が多かったが、実際には各機関ではそれぞれ考えており、委員会から長期計画について考えが示されれば批判しようというつもりだと思われる。

 原子力委員会としては6月末に基礎となる考え方をとりまとめ12月末までに長期計画を完成したい。現在は基本方針を内部でねっている段階である。

3.原子力損害の賠償に関する法律案について
 井上政策課長が資料1を説明

 井上政策課長:4月末に原案を作成し5月初めに国会に提出し審議中である。

 有沢委員:災害補償専門部会の答申の線からは多少後退したような法案となったが、英国方式を日本の状況にあわせたものである。

 嵯峨根参与:若干後退した線できまったというが、もう原子力委員会の手を放れて修正できないのか。

 有沢委員:法案としてすでに国会に提出したので修正は別途考えねばならない。

 中曽根委員長:後退といっても外国にみられないような点もある。すなわち、損害の生じた場合、政府は国会に報告し、原子力委員会の意見書を国会に提出しなければならないとしているのは日本だけである。また、「援助」という言葉には補助のほか金融措置も入るので広い含みがあると考えている。

 大屋参与:大蔵省と科学技術庁との間でやっと妥結したものである。実際にこの法案のようでよいかどうかは原子炉ができ上ってからはじめてわかる問題である。それまでに海外の情勢の変化によっては修正が必要となる場合も考えられるが、今日としてはこの程度までつめてあれば個人としては賛成である。今国会を通過することを熱望している。

 藤岡参与:専門部会の答申に比較して後退した線になっているといわれるが、我妻先生の御感想を伺いたい。

 我妻参与:嵯峨根先生のお考えで、後退と感じられる点をまず指摘していただきたい。

 嵯峨根参与:例としては1.「原子力損害」の定義が科学者の立場からみれば明確な表現になっていないので、実際に事故があったとき、はたして原子力損害であるかどうか問題となる可能性が考えられること、2.第16条の書き方がやはり明確でないこと、がまずあげられる。

 我妻参与:1の点については原子力委員会に表現をお任せしわれわれの考えでも十分な表現と思っていたが、科学者の考えからはこれでは不備だということなら至らなかったことを認めなければならない。
 2の点については、損害が50億円を超えたときあるいは50億円以内でも地震によって損害のおきたときが後退になるという意味と思う。この点では実際には16条に書かれた範囲で妥当な運営が可能であり、さほど後退したわけではないと考えている。政府が原子炉を設置すべきだというのなら国家が面倒を見なければならない。これに対して大蔵省は国家が私企業の面倒をみるのは前例がない。国家は後押しをするだけで第1の責任は私企業にあるという見解で、学問的には大蔵省が間違っていると思う。
 原子力委員会と大蔵省と種々折衝した結果実質的にはわれわれの考えている措置が可能であるような表現で妥協した。その点で思想的には後退した表現となった。

 有沢委員:この法案は委員会で決定する前に我妻先生の御了承を得てある。

 瀬藤参与:補償契約は別の法律できめることになっているが長くかかるか。

 有沢委員:法案の形に整えるだけだから3ヵ月ぐらいでよいと思う。

 中曽根委員長:12月の議会僻頭に出す予定である。

4.昭和35年度原子力開発利用基本計画について
 資料3、4、5、6を参考として菊池参与、島村次長から説明。

 中曽根委員長:山形県で発見されたという有望鉱床はどんな状況か。

 高橋参与:鉱床があることは確かだが、まだ新聞に大きく報道するほどはっきりしていない。人形峠に似て堆積型の鉱床で人形峠と違っているのは露頭部に豊富な鉱石が発見されたことである。下にいってどうなっているかが問題で、現在ポーリングをやっており、年内にはだいたいの様子がつかめると思う。

 瀬藤参与:放射性同位元素の廃棄物を放射性同位元素協会が集めている。国の予算で施設費は出るが経常費は出ないということで協会は困っている。

 島村次長:放射性同位元素の利用に伴って生ずる廃棄物をそれぞれ発生した所においては障害防止上からもよくないので1箇所に集めたはうがよいということで放射性同位元素協会がやっている。手数量を取って回収しているが、施設費は国が補助金でみている。協会と原子力局で打ち合わせ、発生回収の見込量を検討した結果、当面赤字だがやがて黒字になり将来は手数量も下げられるという結論で双方了解している。
 その際運営費は協会でもつということで協会が発足した。事業を続けてみてどうもうまくいかないようなら手段を講ずる必要が考えられるが、1年1年赤字の面倒をみるという考えはない。

5.原子炉製作等に関する甲種技術援助契約について
 資料20を島村次長が説明

 通産省宮本参事官:原子力関係の甲種技術導入が現在必要だということを大蔵省にやっと納得させた。富士電機-GECの技術導入も近いうちに許可されると思う。

 大屋参与:技術導入を許可する際の条件として対価が妥当であることという項があるが、高いか安いかの判断は導入する者が一番よく知っていることで、政府が判断するのは困難である。また、原子力産業の健全な発展を阻害し産業秩序の混乱を招くおそれのないこと、という条件があるが、原子力の場合には技術を入れたために混乱を起こすことは考えられない。積極的に外国から技術を導入する方針をとってほしい。

 岡野参与:技術を早く入れたためにかえって研究が束縛され世界競争に遅れるという原因にならぬよう注意が必要と思う。

 中曽根委員長:新聞等で、日本の原子力グループが多すぎないかという声もある。われわれのほうは規制を考えているわけではないが、このような考えもあるので各参与の感想を軽い気持で披露してほしい。

 大屋参与:原子力のような事業は最初二重三重になってもそう大きな負担になるものではない。合繊工業と違ってあまり実害はないと思う。

 藤岡参与:学界でも方々の大学で同じ研究をやるのはむだだという話のでたことがあるが、切磋琢磨してやるのはいいことである。しかし、大きな金額を要するときは共同利用の途を考えるべきである。技術導入でもMTRのようなものは共同利用とし、金額の大きくないものほとんどん導入してよいであろう。

 嵯峨根参与:原子炉の問題はそれでよい。燃料やその他の材料の成型加工等については問題がある。どのくらいの金額まではよいという線を原子力委員会で決めて発表されるべき時期だと思う。

 駒形参与:燃料に関しては別途検討するとなっている。なるべく早くきめてほしい。

 中曽根委員長:長期計画で炉の開発計画を考えるから、燃料のことも同時に思想統一し、年内に方針をきめるつもりである。

6.昭和35年度補助金、委託費の申請状況について
 資料7、8を中島研究振興課長が説明した。

 中曽根委員長:昨年に比べ補助金がふえ、委託費が減った理由は。

 中島課長:申請では補助金において、アイソトープ関係、原子炉、付帯装置関係がふえた。委託費についていえば、これまでは核融合、原子力船が大きな金額を占めていたが、この二つが今年度は相当減っている。委託費よりも補助金をふやしたほうが効率的だと思うが、この考えは大蔵省とも一致している。

7.日米細目協定の調印について
 資料21を調査課長が説明した。

8.原子力委員会各専門部会の活動状況について
 資料9〜13および18を法貴次長から、資料14〜17を藤波課長からそれぞれ説明した。