養成訓練専門部会の答申

 当専門部会は昭和34年1月原子力関係科学者技術者の養成訓練に関する当面の対策を検討するため設置され、その審議事項として次の4点をあげられた。

(1)原子力関係科学者技術者養成訓練に関するアンケートによる調査結果の検討
(2)原子力科学者技術者の養成訓練計画の検討
(3)大学における原子力利用に関する教授研究に対する要望事項の検討
(4)その他原子力関係科学者技術者の養成に関する事項の調査ならびに検討

 当専門部会は設置以来13回に及ぶ会合を開き、上記審議事項を検討するとともに、34年1月28日付をもって諮問のあった諮問事項に答申するため次のごとき調査、検討を行なった。

 a)将来の原子力関係科学者技術者需要数を把握するための原子力産業における主要民間企業数社の聴取調査
 b)主要大学における原子力利用についての教授研究の現状ならびに将来の計画についての調査、検討
 c)海外諸国における原子力関係科学者技術者の現況ならびにその養成訓練方法についての調査、検討

 以上の諸項目についての審議、検討の結果4月13日付で原子力委員長あて答申を行なった。

 なお、本答申に盛られた養成訓練の対象とする原子力関係科学者技術者は一応大学卒程度以上の学歴を有するものに限り、これら科学者技術者の研究補助者、業務補助者としての職能をもつべき高校卒程度の学歴を有するものの養成訓練については部会として十分その必要性を認めつつも本答申からは除外した。その概要は次のとおりである。

1.緒   言

 新しいエネルギー源としての原子力の平和利用を国家的な規模で推進して、予見されるエネルギー需給の逼迫に備えるとともに、国民の福利を全面的に向上させるため国として取るべき措置は数多くあるが、その中でも新しいエネルギー源の開発に直接たずさわる科学者技術者を確保することは最も重要な措置の一つである。何となれば原子力の利用開発のためにどれほど多くの資金、資材を注入しても、もしこれにたずさわる科学者技術者が量的にもまた質的にも不十分であると、期待された成果を挙げえられないからである。

 わが国が昭和29年から原子力の平和利用を国の政策として取り上げ、その推進を図って以来現在にいたるまでの期間においては、既存の科学者技術者の中から海外留学その他の方法で原子力に専心する者を養成し、原子力の研究開発に従事せしめてきたが、現在なお必要な科学者技術者は量的にも質的にも確保されていないといわれている。したがって原子力利用の長期計画も必要な人員の養成計画を伴うことが要望されるのである。

 しかしながら、原子力の研究開発のように新しく急速に発達する分野で将来を見越した人員計画を作ることは本質的に困難であることと、原子力全体の長期計画自身も研究開発の進展に応じてしばしば改訂しながら進んでいく必要があることとのためにわれわれに委嘱されている原子力関係科学者技術者の養成計画を精細に作ることは非常に困難である。このためにわれわれの審議は現状でできる範囲の大まかな考え方とそれに準拠した人員計画の大綱を作ることに止まざるをえなかった。

 ただ、この際ここで述べておきたいことは、世上しばしば人員養成計画というようなことをしないで、自然発生にまかせてよいではないか、大学その他の学校教育では、当分の間既存の学部学科での教育にとどめて、大学院で原子力関係の教育研究を行なうことでよいのではないかというような意見もあるが、これらの意見に対しては、われわれも十分考慮を払いつつ、これから原子力の分野で大いに働いてみたいと念願する若い人達に対してだいたいの目標を与える意味から精細なことはともかくとしても、大学の学部に適当な学科を設けることは必要であろうという結論に達したことである。

 過去においてわれわれ人類がたとえば新しいエネルギー形態である電気エネルギーを発見したり、あるいは新しい技術である航空技術を開拓して現在に到達した歴史と現代の原子力利用の進み方とを比較すると、原子力利用の技術が20世紀の後半に発達したものであるために、その発展のテンポが著しく大きいことが注目される。これはそれぞれの学術を発展させるために大きな貢献をしている関連学術の発展過程との関係によるものであって、たとえば機械、電気、物理、化学、冶金等の各専門分野の発展が原子力利用のあらゆる部門において、大きな役割を果たしていることはいうまでもない。しかし新しいエネルギー源としての原子力が、核分裂または核融合という新しい現象を基礎とするものであるため、これら既存学術の専門家として養成された人達に原子力関係の学術を補修させただけで、その人達にわが国の原子力利用の各分野を担当させていたのでは到底所期の目的を達成できない。いままではそのような方法による以外なかったが、これから先は原子力の専門家として教育され訓練された人達が相当数あってこそ原子力においてわが国が先進国に追いつき、追い越すことが可能になるのではなかろうか。

 なお特にここで注意を喚起しておきたいことは、原子力の特異性として在来の諸学と比較して実験のための設備費および年経費が多くかかることである。将来種々の進歩がもたらされた結果、小規模の設備で研究と教育との目的を達しえられることがあろうが、少なくとも現状では教育訓練用の原子炉の最小型でも各大学に設けることは困難であろう。それゆえに地域別に各大学の共用として原子炉をもつこととしても、国立大学の各原子力関係の講座に最小限必要な実験設備は、現在の政府予算としての基準額では到底ととのえられないと思われるのである。これらの事情を考慮して効果的な予算処置を講ずることを要望したい。

 われわれは上に述べたような構想をもって審議を重ねてきた結果をここにまとめることとしたのであるが、それぞれの分野で働く人達の受けるべき教育訓練の内容については、そのほうの専門の人達の良識によって計画されることを希望したい。また所要数についてはきわめて大まかな見当を示しうるに止まっているし、近く改訂増補される予定の原子力の開発長期計画に準拠して改訂を加えるべき部分が生ずるものであることを付言する。

2.養成訓練の対象とする原子力関係科学者技術者の範囲

 原子力平和利用を進めるにあたっては、その研究開発のための諸施設、資材等の整備のみでなく、その担い手である原子力関係諸分野についての高度の知識、技術を有する科学者技術者を多数必要とすることはあらためて指適するまでもない。

 昭和33年夏、原子力委員会において実施した「原子力関係科学者技術者に関するアンケート」の集計結果によれば、昭和33年3月末現在において「原子力の研究開発ならびに利用(アイソトープの利用を含む)の業務およびこれら業務に必要な機器材料等(ただし、たとえば顕微鏡、化学天秤等一般的共通なものを除く)に関する業務」に従事している科学者技術者(原則として旧制専門学校卒以上の学歴を有するもの)の数は、民間企業において2,478人、国立試験研究機関(日本原子力研究所、原子燃料公社を含む、以下同じ)において1,138人、大学において2,705人、合計6,321人であった。

 これら人員のうちには、他に専門の業務分野をもちながら、いわばパートタイマーとして原子力関係業務に従事しているものもかなり含まれているが、今後原子力関係業務に従事する科学者技術者は急速に増加するものと予想されており、上記アンケートによっても、昭和37年度までに民間企業および国立試験研究機関においてはそれぞれ現在人員の約2倍、大学においても約1.3倍の人員を必要とすると回答している。

 かように急増を予想される原子力関係科学者技術者を確保するためには、今後これら科学者技術者を計画的に養成訓練することが必要なことはあらためていうまでもない。ただし、上記アンケートの集計に現われている原子力関係科学者技術者は単に原子力関係業務に従事している科学者技術者というきわめて幅広い範囲に属するもので、またその内訳も理学関係、工学関係、医学関係およびその他に分類されているにすぎないので、計画的な養成訓練に関する対策を立案するためには、養成訓練の対象とする原子力関係科学者技術者の範囲を期定することが必要である。

 原子力研究開発の現状ならびに将来の発展方向からみて、養成訓練の対象とする原子力関係科学者技術者の範囲は次の四つの範疇に属する科学者技術者とすることが適当と認められる。なお大学において原子力関係分野の教授研究に従事するものについては、原子力関係科学者技術者の養成訓練にあたって、その中核となるべきものであり、当面最も早急に高度の教授陣を整備する必要があるが、その規模、内容に関しては下記諸範疇に属する科学者技術者の養成訓練計画ならびに大学における他の分野の教授研究等に左右されると考えられるので、文部省その他関係諸機関において原子力研究開発、科学技術の振興の進展を勘案しつつ立案、整備されることが望ましい。

 〔範疇−A〕原子力物理、原子力工学等原子力関係専門分野について高度の知識、技術を有する科学者技術者(以上原子力専門科学者技術者という)。

 この範疇に属する科学者技術者は、原子力関係専門の知識、技術をもって研究機関において原子力利用の基礎および応用研究に従事する者および民間企業においてたとえば原子炉の核設計に重点をおいた設計、燃料要素の設計等原子力固有の知識、技術を要する業務に従事する者をいう。

 〔範疇−B〕機械、電気、物理、化学、冶金等の専門分野についてそれぞれの知識、技術を有し、あわせて原子力関係専門の知識、技術を要する科学者技術者(以下原子力関連科学者技術者という)。

 たとえば原子力発電設備の設計、製造ならびに運転、核燃料の製錬加工、使用済燃料の再処理等に従事する科学者技術者は、機械、電気、物理、化学、冶金等の専門知識、技術のほかに、原子力関係専門の知識、技術を必要とする者が多いと思われる。これらの科学者技術者をこの範疇に属する科学者技術者とする。ただし上記のごとき各部門に従事する科学者技術者の中には、単に在来からの機械、電気、物理、化学、冶金の専門分野についての知識、技術を有するのみで足りる科学者技術者も含まれると予想されるが、その比率を明らかにすることは困難なので、便宜上一括して原子力関連科学者技術者とすることとした。

 〔範疇−C〕放射線利用関係科学者技術者
 この範疇に属する科学者技術者は、さらに放射性同位元素を利用する取扱者と、各種粒子加速器等を利用し、放射線化学等の分野に従事する科学者技術者とに分類される。前者についてはその従事する分野は、理学、工学、農学、医学等の研究から実際の利用面にまでわたり、しかもこれら科学者技術者に要求される知識、技術の水準は、単なる放射性同位元素の取扱技術から放射線自体の諸性質、その影響等についての知識にいたるまで、きわめて広範囲に及ぶが、ここでは放射性同位元素取扱技術者については「放射線取扱主任者」に要求される程度以上の知識、技術をもつべきものを養成訓練の対象とすることとした。

 〔範疇−D〕放射線安全管理者(Health Physicist)
 この範疇に属する科学者技術者の概念はなお業務内容の上からも法制の上からも確立されるものではないが、今後原子力研究開発の進展するにしたがい、原子力発電所、原子力船、核燃料関係施設および大規模な放射線取扱施設(粒子加速器、大線源等を使用する施設)等において、放射線防護安全設計への参画、職場および周辺環境の放射線測定、放射線危険度の評価、廃棄物の管理および処理、緊急時の対策および措置等を行ない、つねに安全作業の確立と作業管理を指示する立場にある放射線安全管理者が制度上必要となろう。

3.将来の原子力関係科学者技術者需要数

 養成訓練に対象とする原子力関係科学者技術者の将来における需要数を把握することは、計画的な養成訓練に関する対策を立案するために必要不可欠であるが、原子力平和利用全般にわたる研究開発計画が策定されておらず、将来の原子力産業の発展規模も明らかに見通しえない現在、各種研究機関、民間企業等における需要数を推定することは不可能に近い。ここでは主要民間企業数社についての聴取調査、国立試験研究機関における計画等を基礎とし、海外諸国における動向を参考として、民間企業、国立試験研究機関について昭和45年度における原子力関係科学者技術者の需要数をきわめて概括的に推定した。推定にあたってはできうるかぎり業務規模等と関連せしめつつ具体的に原子力関係科学者技術者の需要数を推定するよう努力し、このため、たとえば150MW級の原子力発電設備の製作、建設を受注した場合において必要な科学者技術者数を推定し、これに「発電用原子炉開発のための長期計画」等による昭和45年度の建設中発電所基数を掛けて全体の需要数を導き出すという作業を行なったが、なにぶんにもまだ経験のない分野が多く、業務単位あたりの必要科学者技術者数も明確になっておらず、原子力平和利用全般にわたる研究開発計画の策定されていないことと相まって、推定値にはきわめて多くの不確定な仮定が含まれていることは注意されねばならない。したがって以下に掲げる推定値については今後原子力研究開発計画が策定される等、原子力関係科学者技術者需要数が明らかにされるにしたがい改訂すべき性質のものである。

(1)原子力専門科学者技術者および原子力関連科学者技術者需要数

 原子力専門科学者技術者および原子力関連科学者技術者は、放射線利用を除くあらゆる分野の原子力研究開発の業務に従事する科学者技術者であるが、便宜上次の4部門に分けて需要数を推定する。

(a)原子力関係研究部門(ただし民間企業に属するものを除く)
 昭和45年度における日本原子力研究所を中心とする国立試験研究機関において原子力関係の基礎および応用研究に従事する全体の科学者技術者は2,000人に達するものと見込まれ、その内訳は原子力専門科学者技術者500人、原子力関連科学者技術者1,500人と想定した。

(b)原子力発電部門
 電力会社が電気出力150MW級の原子力発電設備を建設、運転する場合、企画、発注、工事監督に必要な原子力専門科学者技術者は8〜10人、原子力関連科学者技術者は50〜70人と見込まれ、運転に必要な原子力専門科学者技術者は10人、原子力関連科学者技術者は15〜40人と見込まれる。「発電用原子炉開発のための長期計画」によれば、昭和45年度における原子力発電の規模は、運転中のもの3,000MW(20基)、建設中のもの2,250MW(15基)となっている。このため同年度の電力会社において必要とする原子力専門科学者技術者は320〜350人、原子力関連科学者技術者は1,000〜2,000人程度と推定される。ただし将来における原子力発電設備のユニットキャパシティーの増大運転技術の合理化等を考慮に入れれば上記需要数はかなり実際よりも大きい数字になっているとみるべきであろう。

(c)原子力関係機器製造部門
 この部門は、民間企業において原子力発電設備のほか、研究炉、粒子加速器、放射線測定機器、放射線照射機器等の設計、製作にあたる部門であるが、このうち原子力発電設備については前記長期計画に盛られた原子力発電開発を行なうためには、昭和45年度において原子力専門科学者技術者300〜350人、原子力関連科学者技術者3,000〜3,200人を必要とするものと推定される。発電設備以外の原子力関係機器の設計、製作に従事する科学者技術者数を推定することは困難であるが、後述の放射線利用の進展状況からみて原子力専門科学者技術者100人程度、原子力関連科学者技術者500人程度を必要とするものとみられ、さらに民間企業内の研究部門に従事する原子力専門科学者技術者150人程度、原子力関連科学者技術者150人程度を必要とすると推定される。

(d)核燃料関係部門
 核燃料資源の探鉱、採鉱、核燃料の製錬、成型加工ならびに再処理の各分野にわたる原子力関係科学者技術者の需要数は、前記長期計画による核燃料の所要量、製錬、加工設備の能力等からみて昭和45年度において原子力専門科学者技術者80人程度、原子力関連科学者技術者400〜600人程度と推定される。

 なお、このほか新型燃料の研究開発、製錬技術の研究等に従事する原子力専門科学者技術者80人程度、原子力関連科学者技術者80〜160人程度を見込むべきである。

(2)放射線利用関係科学者技術者需要数

 放射線利用関係科学者技術者の範疇には、放射線取扱主任者に要求される程度以上の知識、技術を有する放射性同位元素取扱科学者技術者と放射線化学の分野に従事する科学者技術者が含まれる。

 まず前者については放射性同位元素を使用中ないし使用許可申請中の事業所数は、昭和34年10月現在715事業所(うち大学および大学付属病院200事業所)となっており、これに対して放射線取扱主任者の資格を有するものは838人となっている。昭和45年度における放射性同位元素使用事業所は1,200事業所(うち大学および大学付属病院209事業所)に達すると見込まれ、放射線取扱主任者の資格を有するもののみで最小限度1,200は必要であり、実際には放射線取扱主任者に要求される程度以上の知識、技術を有する科学者技術者は上記数字の約3倍、3,600人程度に達するものと推定される。

 放射線化学の分野に従事する放射線利用関係科学者技術者については、現在大学関係を除き約200人が研究に従事しているが、昭和45年度までには、現在人員の約3倍、約600人程度は必要になるものと考えられる。

 なお、このほか放射線利用を支援する分野に従事する科学者技術者としては、放射性同位元素の生産、放射能調査等に従事するもの等があるが、一応(1)に述べた日本原子力研究所を中心とする国立試験研究機関における原子力関係科学者技術者のうちに含ましめるものと考え、特に推定は行なわなかった。

(3)放射線安全管理者需要数

 放射線安全管理者については、その業務内容が必ずしも明確でなく、また制度上も確定していないので、その需要数を推定することは不可能である。しかしながら、原子力発電所、核燃料関係施設および大規模な放射線取扱施設等に配属せしめることが望ましいので、昭和45年度には大略300人程度の放射線安全管理者を必要とするものと推定される。

 以上きわめて概括的ながら養成訓練の対象とする原子力関係科学者技術者の範疇別の需要数を推定したが、その結果は大略次のとおりである。
 A 原子力専門科学者技術者  1,500〜1,600人
 B 原子力関連科学者技術者  6,500〜8,000
 C 放射線利用関係科学者技術者    4,200
 D 放射線安全管理者          300

 これら各範疇に属する原子力関係科学者技術者の需要数のうち、現在すでに一部は原子力関係科学者技術者として原子力関係業務に従事しており、したがって昭和45年度までに養成訓練の対象とする人員数は、前記需要数から現在人員をさし引いたものとなる。ただし、原子力関係科学者技術者の需要数は昭和45年度における一時点の人員を推定しているため、この時点にいたる間の退職、配置転換等を含んでいないので、養成訓練の対象とする人員は需要数から現在人員をさし引いたものよりも若干大きくなるはずであるが、ここでは無視することとした。

 なお、以上各部門に従事する原子力関係科学者技術者のほか、原子力船の開発、放射性同位元素の製造、原子力関係機器材料等の商業活動、原子力施設の監督行政等に従事する科学者技術者を必要とするであろうが、その需要数についてはここでは除外することとした。

4.原子力関係科学者技術者養成訓練に関する当面の対策

(1)機関別養成訓練対策

(a)大   学
 大学における原子力関係科学者技術者の教育は、まず原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目、場合によっては両者を設置し原子力専門科学者技術者および原子力関連科学者技術者、さらに放射線化学の専門科学者技術者の養成にあたる。なお原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の設置されない大学においても原子力関係専門の講座を設け、原子力関係科学者技術者等の養成訓練にあたる。

 この場合、設置さるべき原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の数および学生定員等については、今後の原子力研究開発の進展と関連せしめつつ慎重に検討するとともに文部省その他関係機関において、科学技術の振興、大学教育制度の整備等と照応せしめつつ総合的な設置計画を立案する必要がある。しかし当面すでに設置ずみの国立大学における原子力関係専門学部学科および大学院専攻科目を充実し、教授内容、研究設備等を早急に整備することが必要である。また原子力関係科学者技術者の教育を計画している私立大学に対しても必要に応じ、なんらかの助成措置をとることが望ましい。

 次に、これら大学に設置される原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目において行なわれる教課課程については、第一に、原子力専門科学者技術者の教育を目標に各大学の特色を生かした形において編成されることが望ましい。同時にこれら原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目は、原子力関連科学者技術者の教育をも行なうことを目標とすべきであるので、一般的共通的な課程については、他の専門分野の学生に対しても聴講しうるよう道を開き、これら学生が、それぞれの専門分野の知識、技術を生かしつつ原子力関係専門分野の知識、技術をもあわせ履修しうるよう教課課程が編成されることが望ましい。また放射線化学関係の科学者技術者についても原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目において教育しうるよう体制を整備すべきであろう。なお、これら専門学部学科または大学院専攻科目の設置されない大学にも必要に応じ、理学関係学部または大学院に放射線化学の講座を設けることも考慮すべきであろう。以上のごとき原子力関係科学者技術者の基礎的な教育にあたる大学の原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目に設置されるべき研究諸設備は、これら大学における研究計画とも関連せしめつつ、教授研究を遂行するに十分なものでなければならないことはいうまでもない。このため教育訓練用原子炉あるいは研究用原子炉、臨界または臨界未満集合体等も必要に応じ設置すべきであり、少なくとも教課課程を履修するには必要な放射線測定機器照射設備等の装置、設備は早急に整備すべきであろう。

 しかしながらこれら原子力関係教育、研究設備は、他の分野の設備と異なり、設備自体に多額の資金を要するのみならず、維持、運転のための費用、実験研究のための費用も多額にのぼるものが多い。このため大学における原子力関係科学者技術者の教育に対しては、高度の教育を遂行するに十分な予算措置を講じうるよう関係各方面の協力を求めるとともに、原子炉のごとく特に多額の資金を要する設備については、各大学が共同利用しうるような体制を整備することも必要であると考えられる。これら教育、研究設備の設置計画は、原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の設置計画とともに文部省その他関係機関においで慎重に立案すべきであろう。

 なお、特に放射性同位元素の取扱いに関連の深い学部学生に放射性同位元素取扱いの初級技術を訓練するため、自然科学系各大学学部に低レベルの放射性同位元素を取り扱いうる実験設備を設置することが望ましい。

(b)日本原子力研究所原子炉研修所
 上記大学における原子力関係専門学部学科または大学院専攻科目の整備されるまでの過程において、日本原子力研究所原子炉研修所は、当面原子力専門科学者技術者および原子力関連科学者技術者の養成訓練上重要な役割を果たすべきである。さらに大学における体制の整備された後においてもすでに大学卒業後職業に従事しているものの再教育の場、あるいはより高度の研究の場として原子炉研修所は引き続き原子力関係科学者技術者の養成訓練機関として重要な位置を占めるべきである。

 昭和34年度以来開設されている原子炉研修所の養成訓練コースは一般課程、高級課程に分かれ、前者は基礎物理、原子炉工学、原子炉材料、化学および化学工学等について一般的研修を行なうもので、後者は研修者が研究テーマについて研究所各部において研究を行なわせるものであるが、原子炉等日本原子力研究所以外に利用しうる設備のない現在、その果たすべき役割は大きい。今後日本原子力研究所における原子炉の設置状況、研究所本来の研究開発の進展状況等を勘案しつつ、収容人員の増大、教課課程ならびに研究施設の充実等、研修所の整備拡充が行なわることが望ましい。特に一般課程についてはさしせまった当面の原子力関連科学者技術者に対する需要に応ずるため早急に収容人員の拡大、教課課程の拡充に努力すべきである。また高級課程については、日本原子力研究所以外では利用しえない設備を使用しなければ研究しえないような研究テーマについて研修を行ない、大学における教育とあいまって、高度の知識、技術をもつ原子力関係科学者技術者の養成訓練に努力すべきである。なお、同研修所の教課課程の編成にあたっては大学における教課課程と異なり、実際の原子力研究開発に即応しうるような知識、技術を教育しうるよう留意すべきであろう。

 また、原子炉運転技術者の養成のため短期運転講習が開かれているが、今後の原子炉運転技術者の需要を勘案しつつ同講習の内容、規模等を検討すべきであろう。

(c)日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所
 日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所においては、昭和32年度以来放射性同位元素取扱技術について研修を行なっているが、現在年間8回研修人員300人(うち1回約30人は海外留学生)の養成訓練を行なっている。今後とも同研修所は急増する放射性同位元素利用に応じて増加する放射性同位元素取扱技術者に対する需要に備えて、放射性同位元素取扱主任者に要求される程度以上の知識、技術を有する科学者技術者の養成訓練を目標に養成訓練内容の拡充、訓練施設の充実に努力すべきである。特に大学における初級程度の取扱技術の教育と関連せしめつつ、ラジオアイソトープ研修所における養成訓練の内容を高度化し、放射性同位元素取扱科学者技術者の質を向上せしめるよう体制を整備することが必要である。

 なお、今後中級程度の放射性同位元素取扱技術者の養成訓練を目標に地方の国公立試験研究機関に設置される放射性同位元素取扱技術研修機関に対して日本原子力研究所ラジオアイソトープ研修所は、講師の派遣または養成テキストの頒布等指導的役割を果たしうるよう努力すべきである。

(d)放射線医学総合研究所養成訓練部
 放射線安全管理者の養成訓練を目的とする放射線医学総合研究所養成訓練部の行なう研修は、放射線安全管理者の法律上の制度化とそれに伴う業務内容等を勘案して研修内容、規模等を明確に策定すべきである。

 すでに開設されている同研究所養成訓練部の短期コースについては、当面増大しつつある放射線安全管理者に対する需要に応ずるため、実地の放射線安全管理の業務に従事しているものの研修を目標に収容人員の拡大、研修内容の高度化に努力すべきである。

 将来、大学に放射線安全管理者の教育のため設置される大学院専攻科目が整備された後においても、同研究所養成訓練部の行なう研修は、すでに大学卒業後職業に従事しているものの補習あるいは実地訓練の場として引き続き放射線安全管理者の養成訓練機関として重要な位置を占めるべきである。

(e)海外留学制度
 原子力関係の海外留学は昭和29年度以来行なわれ、現在既留学者数は263人(うち公務員96人)に達している。今後とも海外留学は原子力関係科学者技術者の養成訓練上重要な役割を果たすものと思われる。

 海外留学は、当面国内における各養成訓練機関が整備されるまでの間は従来と同様原子力関係専門分野について一般的基礎的な養成訓練についての補充的役割を荷負うものであり、原子力関係科学者技術者に対するさしせまった需要に応ずるべきである。この場合派遣される科学者技術者の専門分野は原子力研究開発の進展に応じて計画的に配分することが必要で、派遣人員の規模の拡大をめざすとともに派遣人員内の専門別内訳を合理化し、最大限の効果をあげるよう慎重に計画を立案すべきである。

 さらに将来は国内養成訓練機関の整備されるにつれて国内で養成しうるものの養成訓練は逐次国内機関にゆだね、海外先進国においてでなければ養成訓練の不可能な高度の専門的分野の研究開発に従事するものの派遣に重点を移すべきである。

 なお、海外留学の規模については、今後の原子力研究開発の進展状況、国内養成訓練機関の整備状況を勘案しつつ弾力的に決定することが必要であるが、当面従来程度の年間80人程度の派遣を行なうべきである。このため科学技術庁原子力局において推薦を行なっている原子力関係海外留学生派遣制度のほか、国際原子力機関フェローシップ計画、原子力平和利用基金留学生制度、米国国際協力局の援助計画等を有効に利用すべきであろう。