動力炉調査専門部会の答申 本部会は33年10月設置され、その目的とするところは、動力炉関係の資料を収集し、技術的、経済的に各動力炉の評価を行ない、問題点を集約するところにある。対象とする炉は軽水型、重水型、有機材型、高温ガス冷却型、増殖動力炉等である。 第1回部会を33年11月に開き、検討の結果技術進歩の大きな軽水型およびナトリウム冷却型も合わせて検討することとした。以後13回の部会を開いて調査検討を行ない、35年3月26日付で第1次報告書として原子力委員長に答申した。その概要は次のとおりである。 なお今回の報告書の対象とならなかった増殖炉、ナトリウム冷却炉については引き続き第2次報告書としてまとめることとなっている。 第1章 原子炉型式の展望 現在世界で運転、建設、計画中の原子炉には多くの型があるが本部会ではまず次の4型式の炉を第1次報告書として取りまとめることとした。
(1)軽水型原子炉 1・1軽水型 軽水炉は大別して加圧水炉PWRと沸騰水炉BWRに分類されている。開発の初期においては沸騰現象に対する核的、熱的特性が不明なためまず加圧水型が採用された。 この炉型式は技術的な問題が少なく早くから開発が進められ、1953年3月には潜水艦用原子炉の原型であるSTR-1が運転を開始し、現在では艦艇用として30基以上の推進用原子炉が稼働中または建設中であり、商船としてはソ連のレーニン号が稼働中であり、米国のサパンナ号が進水し、舶用炉としてすでに十分の運転実績をもっている。発電用としては1957年12月にシッピングポート発電所が運転に入り、この他運転中のものには米国のSM-1、SPERT-IIIがあり建設中のものには米国のSM-1A、Yankee、Indian point、Saxton-Hook-on、ベルギーのBR-3、ソ連のボロネック地区、東独のラインパーグ等がある。 一方沸騰水型は開発の初期には出力の不安定性、負荷追従性の出ることが問題であったが、BORAX系炉によって次々と問題が解決され、1956年にはEBWRが実験動力炉として運転を開始した。この他運転中のものには米国のVBWR、Dresdenがあり、建設中のもの、には米国のElk
River、Humboldt bay、Big Rockpoint、Path finder、西独のRWE、イタリアのSENN、ソ連のVolga
center等がある。 1・2 有機材減速冷却型 この型の炉は1957年に運転を開始したOMREと現在建設中のピクアOMRの2基のみであるが、これまでの設計研究の結果、次のような動力炉としての特長をもっていることがわかった。
(1)1次冷却系の圧力が低く高価な圧力容器、配管を必要としない。 一方次のような問題がある。 1・3 重水減速型 重水は核的性質はすぐれているが高価であるため動力炉の開発は遅れた。動力炉としては昨年末運転開始したノルウェーのパルプ工場用の蒸気を発生するのを目的とLたHaldenがあるのみで建設中のものもスウェーデンのR-II/Adam、カナダのNPD-IIの2基にすぎない。重水型は今後圧力導管型に向うものと思われるが、現在設計されているものには米国の炭酸ガス冷却式GNEC、重水冷却式CVNPA、ナトリウム冷却式SDR、カナダの有機材冷却式GE-OR、スイスの有機材冷却式Swiss-OR、チェコスロパキアの炭酸ガス冷却式CZECHおよびソ連の炭酸ガス冷却式がある。 1・4 高温ガス冷却型 ガス冷却型原子炉は1956年夏の英国コールダ炉の運転開始以来すでにかなりの運転建設経験を有しているが、これらの炉では次のような問題が生じてきた。 このような不利な点を解決するため濃縮燃料を用い冷却材をさらに高温化した高温ガス冷却型の開発が進められている。すなわち英国ではAGRが建設中であり、HTGCが設計中である。また米国でもHTGRが建設中である。 第2章 動力炉の経済性 2・1考 え 方 各国において研究、設計されている動力炉の発電コストをみるとき、製作、建設の費用根拠が必ずしも一様でなくそれぞれ異なった前提条件によって試算されていることが多いので、本部会では先方のデータをそのまま使用して、統一した独自のグラウンドルールによって日本流に引きなおすことにした。 2・2 コスト試算の前提条件
(1)各型の相違している点はその特長がでるようにし反面共通している点は大幅に計算を簡略化した。 なお本部会の作成したグラウンドルールは次のとおりである。 動力炉の発電コスト試算の費目の分類と条件
(1)資本費
(2)燃料費 b 成型加工費 c 化学処理費 d 損耗費 e 残存U転換費 f Puクレジット g 輸送、保険料
(3)重水、有機材補給費
(4)運転費、その他 第3章 技術的問題点と発展の動向 3・1軽水型 3・1・1設計上の問題
(2)過熱蒸気の使用
(3)設計の簡素化 また従来大きく取りすぎていた安全係数も機器の開発進歩による信頼度の増加によって小さくする。 3・1・2 燃料に対する問題
(2)燃料の改良 3・2 有機材減速冷却型
(1)有機材の重合
(2)有機材温度
(3)燃料
(4)燃料被覆
(5)出力密度 3・3 重水減速型 3・3・1 耐圧方式
(2)圧力導管型 しかし天然ウランを燃料とする場合には導管材料としてステンレス鋼を使用できずジルコニウム合金やアルミニウム合金などに限られる。このためこれら合金と鋼材との溶接が問題となる。また多数の導管と熱絶縁層に対する圧力シールや熱膨張の補償が問題となる。また減速材の温度係数が利用できないので燃焼度が高くなると正の温度係数になる可能性がある。
(3)重水の漏洩 3・4 高温ガス冷却型 3・4・1燃料 これらによって出力密度はコールダーホールの約0.4kW/lからAGRおよびGCR-2の約2kW/l、GCR-2の改良型HGCR-1で約8kW/l、米国のHTGRで10〜15kW/lとBWRの約半分まで増加している。
(2)燃焼度
(3)高温化の問題 被覆材は燃料および冷却ガスとの適合性、高温強度、加工性を考慮せねばならない。ステンレス鋼では中性子経済の面から、Beでは加工性と高温強度の面から制約を受ける。さらに高温が要求される場合には黒鉛が適しているがこの場合は分裂生成物の放出が問題となる。 3・4・2 冷却ガス 第4章 動力炉のわが国への適応性 4・1 炉の国産化(製作、建設) 4・1・1 軽水型 4・1・2 有機材減速冷却型 4・1・3 重水減速型 4・1・4 高温ガス冷却型 4・2 燃料および炉材料の国産化 4・2・1燃料 ガス拡散工場を建設するにあたっては、隔膜の製造をはじめ技術的経済的になお検討を要する点が多い。また遠心分離法は電力の消費が少なくローターの高回転速度の問題を解決しうれば相当有望と思われるのでノズル分離法等今後発展を予想される他の濃縮法とともに研究を進めて国産によるウラン濃縮費の低下をはかるべきであろう。
(2)成型加工工程に関する問題 なお近い将来に発展が予想される発電炉型式についてそれぞれ採用される可能性のある燃料の形態は次のごとくである。
4・2・2 有機材 4・2・3 重水 4・2・4 ヘリウム 4・3 安全性 4・3・1 安全性と立地条件 4・3・2 耐震性
(2)有機材減速冷却型
(3)重水減速型
(4)高温ガス冷却型 4・4 電力系続との関連性 4・4・1 負荷応答性
(b)沸騰水型 単一サイクルの場合は蒸気圧力の変化を信号として放り出し、これによって制御棒を駆動して出力を負荷に追随させうる。 この型も火力なみあるいはそれ以上の負荷追従性が得られる。
(2)有機材減速冷却型
(3)重水減速型
(4)高温ガス冷却型 4・4・2 設備利用率
(b)BWR型
(c)有機材減速冷却型
(d)重水減速型
(e)高温ガス冷却型
(2)在来部分における停止要因 以上総合すれば原子炉部分の可能設備利用率はおおむね95%以上で、在来部のそれとあわせ考えると発電所全体の可能設備利用率は80〜85%が予想される。 む す び 現在の動力炉の開発段階はまさに試用段階から実用段階への過渡期にあるといえる。すなわち軽水型(PWR、BWR)や炭酸ガス冷却型(コールダーホール型)は次々と運転を開始し貴重な資料を提供している。また有機材減速冷却型、重水減速型についても実験炉または研究炉により貴重なデータが得られ問題点がかなり具体的になってきている。この間に確かめられた重要なことは未知の要素が非常に多かったため、試用段階での設計がひかえめであったということがわかったことであろう。また新しい原子炉材料や工作方法が次々と開発されている。したがって、このような進歩にさらに新しい着想をも加えた近い将来の動力炉が第2章で概算したようにすぐれた経済性を持つであろうことは確実と思われる。 この報告書はこのような観点から将来の動力炉を対象として諸外国における設計例を検討した。 このような動力炉が指向する方向は次のようなものであると思われる。
(1)出力密度の向上
(2)蒸気条件の向上
(3)燃料の改良 以上のためには各炉型式ごとにそれぞれ問題点があるがこれらは決定的な欠点ではなくやがて解決され、すぐれた動力炉が実現するものと考えられる。以下各炉型式ごとにその発展の経過と見通しについて述べることにする。 1.軽水型 軽水型動力炉は炉内での沸騰を押える加圧水型(PWR)と沸騰を許す沸騰水型(BWR)とに分類される。これらの炉は主として米国において早くから開発が始められ、すでにかなりの運転実績をもっている。 しかし、軽水炉がその経済性においてさらに進歩するためにはたとえばPWRでは漸次炉内の体沸騰を許すような方向に、BWRでは炉心での蒸気含有量を高くするような方向にそれぞれ進むものと思われる。これらの問題点は現在の技術水準からみてその解決がさして困難とも思われないのでこの型によって比較的早期に第2章で試算したような低廉な発電コストが得られるものと思われる。 軽水型炉は、これがさらに発展していくためには蒸気条件の画期的改良が必須条件であるので究極的には核過熱の方向に進むものと思われる。しかし、このためには核設計、材料の腐食等に大きな困難が予想され現状ではその実現の時期を予測することは困難である。 2.有機材減速冷却型 この型は1次冷却系の圧力が低いことが大きな特長であるが、他方、有機材は熱と放射線によって分解を起こすのが欠点である。1957年に実験炉OMREが運転を開始し、有機材および炉の特性の試験がなされ、多くの貴重な資料を提供している。また現在建設中のものは、電気出力11.4MWeのもの1基であり、運転建設経験は少ない。本報告書で一例として取り上げた設計では炉心の高出力領域における核沸騰の採用、燃料要素のSAP被覆等の新技術が採用されている。したがって技術的になお研究開発分野を多く残しているがこ以上のような技術的問題が解決されるならば経済性のすぐれた炉型式となる可能性が認められており、今後の開発の成果が期待される。 3.重水減速型 重水は核的性質がすぐれているので天然ウランが使用できる等の利点があり、研究炉には早くから用いられたが、重水が高価であるためこれを用いた動力炉の開発はおくれている。動力炉としては小規模のものが建設中であるにすぎず、その運転、建設経験は少ない。重水型の設計としては圧力容器型および圧力導管型が考えられ圧力容器型は大型化に伴って容器の製作限界があり、高価な重水のインベントリーが大きくなるため、技術的、経済的に問題が大きいので今後は圧力導l管型に進む方向をとるものと思われる。ただし圧力導管型には複雑な構造、正の温度係数等の問題があり、さらに冷却材の選択をめぐって最適な系が探求されている現状であるから将来の実用化の時期を判断することは困難である。しかし冷却材として蒸気を用いる圧力導管型による核過熱の可能性も考えられている。 4.高温ガス冷却型 高温ガス冷却型は比較的低温のガス冷却黒鉛減速型から出発しているものと考えられる。ガス冷却黒鉛減速型は主として英国において開発が進められ、動力炉としてもっとも早くから運転が開始された型の一つである。すなわち、1956年にコールダーホール原子炉が運転を開始して以来、現在までに運転を開始したものは2地点、8基、現在建設中のものは相当に及んでおり、すでに実用段階に入っているものと考えられる。 この種原子炉において画期的に経済性を向上させるためには高温ガスを使用すること、燃料を金属系からtセラミック系にすること、耐高温材料を使用することを解決する必要性が生じてきた。 英国では高温ガス冷却型AGRの原型炉を建設中であり、さらにそれより進んだHTGCを計画中である。また米国においてもHTGCとよく似たHTGRを計画中である。 これらについては、詳細な資料が得られないので、実用化の時期を判断することはむずかしいが、一応のコスト試算では経済性のすぐれた原子炉となる可能性を示している。 |