動力炉調査専門部会の答申

 本部会は33年10月設置され、その目的とするところは、動力炉関係の資料を収集し、技術的、経済的に各動力炉の評価を行ない、問題点を集約するところにある。対象とする炉は軽水型、重水型、有機材型、高温ガス冷却型、増殖動力炉等である。

 第1回部会を33年11月に開き、検討の結果技術進歩の大きな軽水型およびナトリウム冷却型も合わせて検討することとした。以後13回の部会を開いて調査検討を行ない、35年3月26日付で第1次報告書として原子力委員長に答申した。その概要は次のとおりである。

 なお今回の報告書の対象とならなかった増殖炉、ナトリウム冷却炉については引き続き第2次報告書としてまとめることとなっている。

 第1章 原子炉型式の展望

 現在世界で運転、建設、計画中の原子炉には多くの型があるが本部会ではまず次の4型式の炉を第1次報告書として取りまとめることとした。

(1)軽水型原子炉
 加圧水型および沸騰水型を対象とする。
(2)有機材減速冷却型
 有機材を冷却材として用いる原子炉の減速材としては有機材のほかBe、黒鉛、重水、軽水等が考えられるが、本報告書では現在開発の中心となっている有機材減速型を対象とする。
(3)重水減速型
 重水は冷却材としてよりも減速材としての性能に注目すべきものがあるので減速材によって分類した。冷却材としては、重水のほか、ガス(CO2、He等)、液体金属(Na、NaK)等が考えられるが、本報告書では現在開発の中心となっている重水冷却型を主として対象とした。
(4)高温ガス冷却型
 黒鉛減速型を対象とし、冷却材温度の高いものに限定する。したがってコールダーホール改良型以前のものは対象としない。

 1・1軽水型

 軽水炉は大別して加圧水炉PWRと沸騰水炉BWRに分類されている。開発の初期においては沸騰現象に対する核的、熱的特性が不明なためまず加圧水型が採用された。

 この炉型式は技術的な問題が少なく早くから開発が進められ、1953年3月には潜水艦用原子炉の原型であるSTR-1が運転を開始し、現在では艦艇用として30基以上の推進用原子炉が稼働中または建設中であり、商船としてはソ連のレーニン号が稼働中であり、米国のサパンナ号が進水し、舶用炉としてすでに十分の運転実績をもっている。発電用としては1957年12月にシッピングポート発電所が運転に入り、この他運転中のものには米国のSM-1、SPERT-IIIがあり建設中のものには米国のSM-1A、Yankee、Indian point、Saxton-Hook-on、ベルギーのBR-3、ソ連のボロネック地区、東独のラインパーグ等がある。

 一方沸騰水型は開発の初期には出力の不安定性、負荷追従性の出ることが問題であったが、BORAX系炉によって次々と問題が解決され、1956年にはEBWRが実験動力炉として運転を開始した。この他運転中のものには米国のVBWR、Dresdenがあり、建設中のもの、には米国のElk River、Humboldt bay、Big Rockpoint、Path finder、西独のRWE、イタリアのSENN、ソ連のVolga center等がある。

 1・2 有機材減速冷却型

 この型の炉は1957年に運転を開始したOMREと現在建設中のピクアOMRの2基のみであるが、これまでの設計研究の結果、次のような動力炉としての特長をもっていることがわかった。

(1)1次冷却系の圧力が低く高価な圧力容器、配管を必要としない。
(2)炉心は比較的小型で中性子経済も良い。
(3)有機材と水、燃料間に危険な反応を起こさない。
(4)構造材料の腐食率が小さい。
(5)従来の安価な標準の材料、構造部品を使える。
(6)誘導放射能が低い。
(7)負の反応度の温度係数を確保できる。

 一方次のような問題がある。
(1)有機材が熱と放射線によって分解重合するので浄化系と補給系が必要となる。
(2)熱伝達率が水や液体金属に比して小さい。
(3)有機材温度の制限から発電効率がおさえられる。
(4)有機材は一般に常温で固体であるので、1次系の保温予熱が必要である。

 1・3 重水減速型

 重水は核的性質はすぐれているが高価であるため動力炉の開発は遅れた。動力炉としては昨年末運転開始したノルウェーのパルプ工場用の蒸気を発生するのを目的とLたHaldenがあるのみで建設中のものもスウェーデンのR-II/Adam、カナダのNPD-IIの2基にすぎない。重水型は今後圧力導管型に向うものと思われるが、現在設計されているものには米国の炭酸ガス冷却式GNEC、重水冷却式CVNPA、ナトリウム冷却式SDR、カナダの有機材冷却式GE-OR、スイスの有機材冷却式Swiss-OR、チェコスロパキアの炭酸ガス冷却式CZECHおよびソ連の炭酸ガス冷却式がある。

 1・4 高温ガス冷却型

 ガス冷却型原子炉は1956年夏の英国コールダ炉の運転開始以来すでにかなりの運転建設経験を有しているが、これらの炉では次のような問題が生じてきた。
(1)燃料として天然ウランを使用しているため設計の自由度が低い。
(2)炭酸ガスは500℃以上で黒鉛との反応がはげしくなる。
(3)出力を増大するには圧力容器が大型になる。

 このような不利な点を解決するため濃縮燃料を用い冷却材をさらに高温化した高温ガス冷却型の開発が進められている。すなわち英国ではAGRが建設中であり、HTGCが設計中である。また米国でもHTGRが建設中である。

第2章 動力炉の経済性

 2・1考 え 方

 各国において研究、設計されている動力炉の発電コストをみるとき、製作、建設の費用根拠が必ずしも一様でなくそれぞれ異なった前提条件によって試算されていることが多いので、本部会では先方のデータをそのまま使用して、統一した独自のグラウンドルールによって日本流に引きなおすことにした。

 2・2 コスト試算の前提条件

(1)各型の相違している点はその特長がでるようにし反面共通している点は大幅に計算を簡略化した。
(2)各型の実用化の年代には相違はあるがこれを考慮しない。
(3)初期の発電原価を試算する。
(4)500〜1,000MWeのプラントを対象とする。
(5)機器はすべて輸入した場合の価格とする。
(6)インベントリー費は初期価格、取替燃料費は明確な場合以外年間取替量を対象とする。
なお予備燃料として初期装荷量の10%を見込む。
(7)金利は年間6%、8%とする。
(8)設備利用率は80%とする。

 なお本部会の作成したグラウンドルールは次のとおりである。

 動力炉の発電コスト試算の費目の分類と条件

(1)資本費
 a 機器代金(Y1
 特に不都合のない場合国産してもすべて輸入と同額と仮定し、提示価格を採用する。ただしY2〜Y6に含まれる部分を除く、また輸入税金は考えない。
 b 用地費(Y2
  3×106円/MWとする。
 c 輸送、保険料(Y3
  機器代金の5%とする。
 d 土建費(Y4
  構築物、水路、建物および据付等の費用としてY1〜Y3の費用の25%とする。
 e 予備、関連費(Y5
  予備費、総経費、分担関連費等の費用として、同じくY1〜Y3の費用の20%をとる。
 f 付帯変電所費(Y6
  送電用変電所のように発電所の電気系統以外の費用として10×106円/MWをとる。
 g 建設利息(Yr
 (Y1〜Y6の合計)×(金利)×(建設期間)×0.4とする。
 ただし建設期間は各型とも4年にとるものとし、したがって金利6%の場合(Y1〜Y6の合計)の9.6%、金利8%の場合12.8%となる。
 h 資本費(率)
 金利、償却、固定資産税、保険料等の年経費は、金利6%、8%に対応して、総建設費(すなわちY1〜Yrの合計)のそれぞれ12%、14%とする。

(2)燃料費
  a インベントリー費
 ウランに対しては炉内装荷量、予備燃料および炉外燃料を対象とする。予備燃料は装荷量の10%とし、炉外燃料は年間取替分に加工、輸送、冷却、化学処理などの炉外期間を考慮する。金利について米国から輸入するものについては輸出入銀行の金利4%を、その他は先方の提示した金利あるいは6%、8%を適用する。成型加工費の対象額は装荷量、予備燃料および新燃料の輸送期間ならびに旧燃料の冷却、輸送の期間を考慮したものとする。なお金利はその調達金利となるので資本費の金利と同じものと考える。ウランおよび成型加工費の償却はその対象額が燃料プログラムや残存価格によって異なってくるので、ここでは考慮しないことにする。また金利対象額も同じく考え方により異なるが、ここでは一応、初期価格について考えるものとする。なお、金額的には金利対象額を多目にしているので、償却とある程度相殺しているものと考えられる。

 b 成型加工費
 これにはUF6−UO2あるいはUF6→Uの変換費、成型加工費、スクラップ回収、加工中の損失などの項目が含まれるがこれは先方の提示価格による。

 c 化学処理費
 特に明確な場合以外、年1回だけAECの化学処理工場を利用するものと仮定する。このプラントは処理能力1トン/日で、この運転維持費1日15,300ドルであるが8日間の準備期問を必要とし、この期間の経費をも負担する。

 d 損耗費
 ウランの価格は、米国AEC発表のものによる。なお235Uの存在比が、天然ウラン以下のものは、上記価格をextrapolation して計算する。平均燃料度は設計値をとる。

 e 残存U転換費
 米国AECの公表価格あるいは先方の提示価格による。

 f Puクレジット
 Puの単価は12ドル/gとするが、処理中の損失1%とPu金属への転換費15ドル/gをさし引く必要がある。

 g 輸送、保険料
 特に使用者燃料の輸送料、保険料が大部分を占めることになろうが、新規燃料の分を占め、陸上、海上とも合計して10銭/kWhと仮定する。

(3)重水、有機材補給費
 補給用として多額の費用が必要な重水、有機材等については、提示価格と、要すれば輸送費等を考慮する。なお、重水のインベントリー費は補給費に繰り入れることとした。

(4)運転費、その他
 修繕費、人件費、諸費等の運転費ならびに本社費、事業税等の関連費は合計40銭/kWhとする。

第3章 技術的問題点と発展の動向

 3・1軽水型

 3・1・1設計上の問題
(1)出力密度の増大
 制御棒等の中性子吸収材の挿入、可燃毒物の使用、多領域炉心の採用等によって出力を平坦化し、出力密度を増大する。一方PWRでは炉内沸騰を許すこと、BWRでは燃料要素を細くすることにより熱的特性を改善し出力密度を増大する。

(2)過熱蒸気の使用
 現在は化石燃料による過熱が具体化しているのみであるが、将来は原子炉による過熱を採用する。これによって大幅に発電コストが低下するものと思われる。

(3)設計の簡素化
 PWRでは加圧器を炉に内蔵すること、BWRでは単一サイクル炉の大型化をはかること等によって設計を簡素化する。

 また従来大きく取りすぎていた安全係数も機器の開発進歩による信頼度の増加によって小さくする。

 3・1・2 燃料に対する問題
(1)燃焼度の増加
 炉の過剰反応度の増加、多領域炉心の採用および炉心燃料の配置替によって燃焼度を増加する。このためには可燃毒物の利用、初期の大きな過剰反応度を抑える材料の一時的挿入、Chemical skim の使用およびfuel follower controlrodの採用をはかる。

(2)燃料の改良
 熱伝導率の良いサーメット系の燃料を開発する。またPuリサイクルによる燃料費の低下をはかるためPuに関する技術を開発する。

 3・2 有機材減速冷却型

(1)有機材の重合
 有機材は熱と放射線によって分解し、タール分を生じ、熱伝達特性が劣化するのでその浄化系の研究を行なう。

(2)有機材温度
 有機材のタール分は460℃以上では急激に増加するので温度の制限がある。

(3)燃料
 形状的安定度の高い10w/oMo合金燃料およびUO2ペレット燃料の使用をはかる。

(4)燃料被覆
 高温における強度と敵性の大きいSAP(Sintered Aluminium powder)というAl2O36〜8%のAlサーメットを使用する。しかしSAPには溶接技術の開発が必要である。

(5)出力密度
 炉内核沸騰の採用による熱伝達特性の改良と炉内出力分布の平坦化をはかる。

 3・3 重水減速型

 3・3・1 耐圧方式
(1)圧力容器型
 重水減速炉は軽水炉に比べて圧力容器が大型化する傾向にあるので圧力容器製作の制約は軽水炉より深刻であり大容量炉開発の大きな障害となっている。

(2)圧力導管型
 圧力導管の採用は上記の障壁を打開するのに有効な方法であるだけでなく、高温高圧の他の冷却材の使用を許すことになり、また減速材を低温に保つことも可能である。

 しかし天然ウランを燃料とする場合には導管材料としてステンレス鋼を使用できずジルコニウム合金やアルミニウム合金などに限られる。このためこれら合金と鋼材との溶接が問題となる。また多数の導管と熱絶縁層に対する圧力シールや熱膨張の補償が問題となる。また減速材の温度係数が利用できないので燃焼度が高くなると正の温度係数になる可能性がある。

(3)重水の漏洩
 重水漏洩は重水コストの点から軽水冷却材の場合より特に重大である。漏洩は通常量水系の弁、純化装置系、ポンプ等のシール不完全から生ずる場合が考えられ、その検出は技術的にも数量的にも面倒であるからむしろ完全なるシールを持つことと漏洩重水を回収する事に重点をおくべきである。

 3・4 高温ガス冷却型

 3・4・1燃料
(1)出力密度
 濃縮ウランUO2を使用して耐高温性をもたせるが、UO2は熱伝導率が小さいので中心部の過熱を考慮せねばならない。またコールダーホール型の太い棒状燃料の代りに薄い板状燃料、細い丸棒の集合燃料、さらにすすんでは半均質型の燃料を採用することによって燃料表面熱流束を増加させて熱除去を良くする。

 これらによって出力密度はコールダーホールの約0.4kW/lからAGRおよびGCR-2の約2kW/l、GCR-2の改良型HGCR-1で約8kW/l、米国のHTGRで10〜15kW/lとBWRの約半分まで増加している。

(2)燃焼度
 黒鉛被覆の場合および被覆を全然行なわない場合、1次冷却材中に直接分裂生成物が放出する。したがって燃焼度を増加するにはトラップを設けて分裂生成物を回収せねばならない。回収をしない場合には1次回路高放射能レベルと遮蔽の問題、プラントの補修上の問題を生ずる。

(3)高温化の問題
 耐高温性燃料としてUO2が現在一般に考慮されているが、UCおよびThCについても研究開発が盛んに行なわれている。

 被覆材は燃料および冷却ガスとの適合性、高温強度、加工性を考慮せねばならない。ステンレス鋼では中性子経済の面から、Beでは加工性と高温強度の面から制約を受ける。さらに高温が要求される場合には黒鉛が適しているがこの場合は分裂生成物の放出が問題となる。

 3・4・2 冷却ガス
 熱伝達係数、ポンプ動力の点からは水素がすぐれており、炭酸ガス、ヘリウムがこれについでいる。化学的には水素は金属の脆化、炭酸ガスは高温で黒鉛と反応すること、窒素はステンレス鋼の窒化の問題がある。ヘリウムは熱的性質も良く、化学的に安定であり、冷却材として現在最もすぐれているが米国を除いては非常に高価であることが問題となる。

 第4章 動力炉のわが国への適応性

 4・1 炉の国産化(製作、建設)

 4・1・1 軽水型
 初めは輸入するとしても、その国産化はさして困難ではなく製作、建設できるものと思われる。材料については圧力容器等に多少問題はあるが、その他に特別の難点は考えられない。

 4・1・2 有機材減速冷却型
 原子炉容器およびその系の設計は軽水型より容易であり、炉心構造についてもフィン付燃料棒を除けば別に複雑ではない。有機材の浄化系も多少複雑さはあっても製作は可能である。以上の点から見て製作、建設は他の型に比較して容易である。

 4・1・3 重水減速型
 構造上種々異なった設計が考えられており、一般的には今後の開発によって国産も不可能ではないと思われるが、現在としては圧力導管の管材料等について輸入の必要もあるであろう。

 4・1・4 高温ガス冷却型
 他の型に比して大型となる可能性があるが、特に製作、建設に問題となるようなことはないと考える。耐高温材料の開発が最も重要な問題となろう。

 4・2 燃料および炉材料の国産化

 4・2・1燃料
(1)濃縮ウランの国産に関する問題
 ガス拡散法によって濃縮ウランを国産した場合には使用電力価格を2円50銭/kWhとすると米国AECの価格表に比べて50〜90%のコスト増加となるが、わが国でも特定の地点で安価な電力が使用できることがあればこの差も改善されるものと思われる。

 ガス拡散工場を建設するにあたっては、隔膜の製造をはじめ技術的経済的になお検討を要する点が多い。また遠心分離法は電力の消費が少なくローターの高回転速度の問題を解決しうれば相当有望と思われるのでノズル分離法等今後発展を予想される他の濃縮法とともに研究を進めて国産によるウラン濃縮費の低下をはかるべきであろう。

(2)成型加工工程に関する問題
 燃料要素は原子炉の開発とともに改良されつつあり製造上今後に残されている問題も多いが、近い将来にはわが国でも製造が可能になるであろう。しかし今後国産する場合には生産方式の検討、品質の均一化および量産による価格の引下げ等が考慮されるべきでありこれに伴う検査技術の確立および照射試験の実施によって燃料要素の性能と安全性を確保する必要がある。

 なお近い将来に発展が予想される発電炉型式についてそれぞれ採用される可能性のある燃料の形態は次のごとくである。

軽水型:
UO2ジルカロイまたはステンレス鋼被覆U合金ジルカロイ被覆
有機材冷却型:
UO2SAP被覆、U合金Al被覆
重水減速型:
UO2ジルカロイ被覆、UO2Al被覆、UO2Be被覆、
金属U Zr合金被覆、金属UMg被覆
高温ガス冷却型:
UO2Th02黒鉛の均質混合材、UO2Be被覆、
UO2ステンレス鋼被覆、UC、ThC

 4・2・2 有機材
 米国における有機材の価格は147,500円/tと推定され、一方日本におけるジフェニール、ターフェニールの価格は160,000円/t程度と想定されるので国際的に価格の開きは少ない。しかしながら、国産有機材の純度が明確でないので、原子炉用の高純度の有機材をどの程度の価格で国産しうるかはさらに検討する必要がある。

 4・2・3 重水
 わが国においては交換反応法、水蒸留法、回収電解法の組合せによる重水製造技術はすでに完成しており直ちに製造設備の建設に着手しうる段階にある。しかしコストの点で米国AECの価格表にくらべてかなり割高となるようである。

 4・2・4 ヘリウム
 ヘリウムを国産できる可能性はほとんどなく、米国から輸入せざるをえないと考えられる。

 4・3 安全性

 4・3・1 安全性と立地条件
 わが国は諸外国にくらべて人口密度が高いため万一の場合にも分裂生成物の周囲への飛散を防ぐための対策としてコンテナーがあり、あるいは地下式、半地下式構造も考えられている。たとえばヤンキー発電所においては用地半径1,522m、制限区域半径305mとしているが、これを2/3地下式にすれば半径はそれぞれ762m、152mで、完全地下式にすれば半径はそれぞれ76m、15mで足りるといわれている。

 4・3・2 耐震性
(1)軽水型
 比較的全1次系統の温度が低く、かつ各部のサイズが小さく使用材料も強靭なステンレス鋼が主として用いられているので耐震構造にすることば容易である。

(2)有機材減速冷却型
 浄化系や脱ガス系のごとき付属系統は配管が複雑で長い点から考慮が必要であるが、全般的にいって1次系圧力が低いゆえ耐震的に配置することば容易である。

(3)重水減速型
 圧力導管型では管のフランジとか接合部分などが機械的弱点となる。圧力容器型は軽水型と同様と考えて良い。

(4)高温ガス冷却型
 ガス冷却型は他の炉型式に比較して不利であるが高温ガス冷却型の開発が進むにつれて炉心が小型になり耐震性は改善されると思われる。またPebble-Bed型のものはさらに耐震性の問題が少なくなる可能性がある。

 4・4 電力系続との関連性

 4・4・1 負荷応答性
(a)加圧水型
 蒸気流が変化すれば、これは冷却材温度の変化をもたらし、反応度係数が負であるために炉は自動的に新しい負荷に対応した出力になって、平均温度をもとに戻そうとする。冷却材循環速度が早い事と温度係数が大きいため応答はすみやかである。特に低負荷の場合または負荷変動が急速な場合以外は負荷調整のために制御棒を動かす必要はなく、燃料の燃焼、クセノンの消長等の反応度変化を補償するために動かすだけでよい。火力以上の負荷追従性を期待できる。

(b)沸騰水型
 二重サイクル型ではサブクールの度合を変えることによってPWRと同様出力は自動的に制御される。

 単一サイクルの場合は蒸気圧力の変化を信号として放り出し、これによって制御棒を駆動して出力を負荷に追随させうる。

 この型も火力なみあるいはそれ以上の負荷追従性が得られる。

(2)有機材減速冷却型
 炉出力は蒸気流量、炉出口温度および蒸気圧力の三つの信号によって制御され、火力以上の負荷応答性がある。

(3)重水減速型
 圧力導管型では減速材は低温に保たれているので負の温度係数が得られない。燃焼が進むにつれてかえって正の温度係数となる可能性もあり、軽水型にくらべると不利な点をもっているので制御方式と装置についての検討開発が望まれる。

(4)高温ガス冷却型
 燃料として低濃縮ウランを使用すれば反応度の温度係数を負にすることは可能と考えられるが、この値は軽水型ないしは有機材減速冷却型の場合のようには大きくなりえない。したがって出力に応じて冷却ガス流量を変化し他方制御棒を出口ガス温度に変動させる方式がとられており、負荷応答は全面的にこれにたよることになっている。

 4・4・2 設備利用率
(1)原子炉部分における停止要因
(a)PWR型
 ヤンキー原子力発電所では負荷率80%として約1.4年ごとに燃料取替のために200時間の運転停止が必要であり、可能設備利用率は約98.5%となる。2領域リサイクル方式をとれば設備利用率は97%となる。

(b)BWR型
 ドレスデン発電所の計画では、燃料は6ヵ月ごとに全体の20%ずつを取り替えることになっており、所要時間は55時間とされているから可能設備利用率は99%に近い。

(c)有機材減速冷却型
 NAA社の設計した150MWe原子力発電所では炉心を5区分して燃料の配置替を行なうものとしている。各領域の燃料は54日ごとに取り出し、または再配置される。1領域の燃料交換に要する時間は36時間である。したがって可能設備利用率は97%となる。

(d)重水減速型
 圧力導管型では運転中に燃料取替が可能であり設備利用率を高くすることが期待される。設備利用率を低下させる因子としては、天然ウランを燃料とする場合には過剰反応度が低いので、クセノンの overrideが大きな問題となる。これを解決するためにブースター制御棒の使用も考えられているが、その効果と用法にはなお検討を加える必要がある。

(e)高温ガス冷却型
 GCR-2では年に1回20%の燃料を交換するのに要する時間は、1日24時間作業としても2週間となる。このほかに他の部分の定期点検が行なわれるものとすれば最大可能設備利用率は96%となる。

(2)在来部分における停止要因
 蒸気発生器およびタービンの点検を従来の火力発電所と同様に毎年行なうものとすれば在来部分の可能設備利用率は80〜85%程度と思われる。

 以上総合すれば原子炉部分の可能設備利用率はおおむね95%以上で、在来部のそれとあわせ考えると発電所全体の可能設備利用率は80〜85%が予想される。

  む  す  び

 現在の動力炉の開発段階はまさに試用段階から実用段階への過渡期にあるといえる。すなわち軽水型(PWR、BWR)や炭酸ガス冷却型(コールダーホール型)は次々と運転を開始し貴重な資料を提供している。また有機材減速冷却型、重水減速型についても実験炉または研究炉により貴重なデータが得られ問題点がかなり具体的になってきている。この間に確かめられた重要なことは未知の要素が非常に多かったため、試用段階での設計がひかえめであったということがわかったことであろう。また新しい原子炉材料や工作方法が次々と開発されている。したがって、このような進歩にさらに新しい着想をも加えた近い将来の動力炉が第2章で概算したようにすぐれた経済性を持つであろうことは確実と思われる。

 この報告書はこのような観点から将来の動力炉を対象として諸外国における設計例を検討した。

 このような動力炉が指向する方向は次のようなものであると思われる。

(1)出力密度の向上
 原子力発電のコストは資本費の占める割合が非常に大きい。したがって経済性を増すためには建設費の低下をはからねばならないが、このため炉心の出力密度を向上させる必要がある。これには出力分布を平坦化し熱伝達特性等を改良しなければならない。

(2)蒸気条件の向上
 これまで原子炉から得られる蒸気は新鋭火力発電プラントが使用している蒸気にくらべて蒸気条件が悪くこのため蒸気タービンが大型になり、また発電所の熱効率が低くなる。この点を解決するため、冷却材温度を上昇させ、また蒸気の過熱を行なうようにする。

(3)燃料の改良
 高い燃焼度が得られ高温において安全に使用できる燃料要素を開発することおよび加工費を切り下げることによって燃料費を低下させる。

 以上のためには各炉型式ごとにそれぞれ問題点があるがこれらは決定的な欠点ではなくやがて解決され、すぐれた動力炉が実現するものと考えられる。以下各炉型式ごとにその発展の経過と見通しについて述べることにする。

1.軽水型

 軽水型動力炉は炉内での沸騰を押える加圧水型(PWR)と沸騰を許す沸騰水型(BWR)とに分類される。これらの炉は主として米国において早くから開発が始められ、すでにかなりの運転実績をもっている。

 しかし、軽水炉がその経済性においてさらに進歩するためにはたとえばPWRでは漸次炉内の体沸騰を許すような方向に、BWRでは炉心での蒸気含有量を高くするような方向にそれぞれ進むものと思われる。これらの問題点は現在の技術水準からみてその解決がさして困難とも思われないのでこの型によって比較的早期に第2章で試算したような低廉な発電コストが得られるものと思われる。

 軽水型炉は、これがさらに発展していくためには蒸気条件の画期的改良が必須条件であるので究極的には核過熱の方向に進むものと思われる。しかし、このためには核設計、材料の腐食等に大きな困難が予想され現状ではその実現の時期を予測することは困難である。

2.有機材減速冷却型

 この型は1次冷却系の圧力が低いことが大きな特長であるが、他方、有機材は熱と放射線によって分解を起こすのが欠点である。1957年に実験炉OMREが運転を開始し、有機材および炉の特性の試験がなされ、多くの貴重な資料を提供している。また現在建設中のものは、電気出力11.4MWeのもの1基であり、運転建設経験は少ない。本報告書で一例として取り上げた設計では炉心の高出力領域における核沸騰の採用、燃料要素のSAP被覆等の新技術が採用されている。したがって技術的になお研究開発分野を多く残しているがこ以上のような技術的問題が解決されるならば経済性のすぐれた炉型式となる可能性が認められており、今後の開発の成果が期待される。

3.重水減速型

 重水は核的性質がすぐれているので天然ウランが使用できる等の利点があり、研究炉には早くから用いられたが、重水が高価であるためこれを用いた動力炉の開発はおくれている。動力炉としては小規模のものが建設中であるにすぎず、その運転、建設経験は少ない。重水型の設計としては圧力容器型および圧力導管型が考えられ圧力容器型は大型化に伴って容器の製作限界があり、高価な重水のインベントリーが大きくなるため、技術的、経済的に問題が大きいので今後は圧力導l管型に進む方向をとるものと思われる。ただし圧力導管型には複雑な構造、正の温度係数等の問題があり、さらに冷却材の選択をめぐって最適な系が探求されている現状であるから将来の実用化の時期を判断することは困難である。しかし冷却材として蒸気を用いる圧力導管型による核過熱の可能性も考えられている。

4.高温ガス冷却型

 高温ガス冷却型は比較的低温のガス冷却黒鉛減速型から出発しているものと考えられる。ガス冷却黒鉛減速型は主として英国において開発が進められ、動力炉としてもっとも早くから運転が開始された型の一つである。すなわち、1956年にコールダーホール原子炉が運転を開始して以来、現在までに運転を開始したものは2地点、8基、現在建設中のものは相当に及んでおり、すでに実用段階に入っているものと考えられる。

 この種原子炉において画期的に経済性を向上させるためには高温ガスを使用すること、燃料を金属系からtセラミック系にすること、耐高温材料を使用することを解決する必要性が生じてきた。

 英国では高温ガス冷却型AGRの原型炉を建設中であり、さらにそれより進んだHTGCを計画中である。また米国においてもHTGCとよく似たHTGRを計画中である。

 これらについては、詳細な資料が得られないので、実用化の時期を判断することはむずかしいが、一応のコスト試算では経済性のすぐれた原子炉となる可能性を示している。