原子力委員会参与会

第 3 回

〔日 時〕 昭和35年3月17日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕 千代田区永田町2の1 総理官邸

〔出席者〕 稲生、井上、岡野、菊池(代理森田)、倉田(代理柴田)、久留島、瀬藤、高橋、松根、三島、安川(代理福田)、山県各参与
中曽根委員長、石川、有沢、兼重各委員
横山政務次官、佐々木局長、島村、法貴各次長、井上(政策)、太田、井上(燃料)、藤波各課長、ほか担当官

〔配布資料〕
1.原子力災害補償制度について(当日回収)
2.放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案提案理由
3.放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案要綱
4.放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案
5.原子力委員会各専門部会の審議状況
6.日本原子力研究所第3号炉の安全性について
7.昭和35年度原子力平和利用研究委託費および研究費補助金の要望課題(案)
8.昭和35年度原子力平和利用研究委託費および研究費補助金の交付方針(案)

1.原子力災害補償制度について

 佐々木原子力局長から災害補償制度の問題に関する原子力委員会での検討状況と大蔵省との折衝状況について説明し、井上政策課長から資料1によって原子力局試案の骨子を説明した。

 稲生参与;「故意または過失によって……」という文句がある。たとえば、機器の製作にあたって当時の知識としては万善をつくしてやったが事故が起こり、あとで調べたら当時の知識が間違っていたというようなときは「過失」と判断するのか。

 井上(政策)課長;まず無過失と考えてよい。

 瀬藤参与;以前の案では、50億円を超える損害が発生した場合には国家が補償料のようなものを事前にとっておいて補償するという考え方があったが。

 有沢委員;その考えは今日の案では取られていない。それと同時に事業者の責任額に限界があるということになっている。英国方式に似ており、50億円を超える損害の場合には国会の議決を経て政府が必要な援助等を行なうことになっている。

 中曽根委員長;国会を持ち出したのは、伊勢湾台風の例のように、政府だけにまかしておくよりも手厚くなることを期待している。

 宮本参事官(松尾参与代理);50億円をわずかに超える損害のあった場合に損害賠償に必要な援助等を国会で決めるというのは、原子力事業者に手落ちがあったならばある程度求償権的な意味を持ってくることを意味しているのか。50億円以下の損害に対しては原子力事業者の手落ちは免除されている。

 有沢委員;この案では国会の意見を反映してきめるということになっている。起こりもしないことを細かく決めようとすると問題が生じてなかなか決められないというマイナスの結果になるかもしれない。

 松根参与;原子力災害補償制度の目的は第3者に安心感を与えると同時に民間と政府が協力して原子力事業をもりたてていこうということである。ところが最初考えられていたところと違ってこの案では原子力というもうけ仕事をやらす代りにもし間違えば厳罰に処するという感がある。

 大蔵省との事務折衝をやると折れねばならない点も出てくるであろうが、技術の振興という大筋の考えから固めてもらわねばならない。

 この意味で政府の最高首脳とか科学技術会議あたりの高いレベルで意見を固める方法はないかと思う。

 中曽根委員長;御意見はごもっともで、適当な時期がくればそうすることを考えている。

 久留島参与;この案のようなところまで固めるのは相当大変だったと思う。原子力の事故は実際には起こりそうもないことで、この程度のものならば内容としてよくできている。

 有沢委員;最初の考え方から実質的に大きな違いはない。この案の特色は50億円以上の事故があれば必ず国会にまでもっていくということで、全体的にいって後退ともいえない。

 松根参与;燃料の国有問題も事故の場合を考えてきめられたと記憶している。その問題は今度は出てきていないが……。

 中曽根委員長;50億円以上の災害について国家から出された補償の金額について事業者が保険料的なものを払うとすれば相当の金額になることも考えられる。そのような配慮もしている。

 原電福田常務(安川参与代理);考え方としては各国で考えられている線よりも後退した感がある。英国では500万ポンド以上の災害はnational catastropheと考え国家が補償することになっている。米国や西独では5億ドルおよび5億マルクを国家が補償することを建前としている。すなわち国家が関与しなければならないという考え方だが、日本では援助はするがそこまでやる必要はないということで原則と例外とがひっくりかえっている。従来の専門部会や産業会議で出した線とこの点で後退していると感じる次第である。国家として原子力事業に対する熱の入れ方が少ないが、このようなことでよろしいのかと考える。また、偶発損を考えて保険で処理すると電気料金が上がるという問題をどう考えたらよいかと思う。

 松根参与;政治の後進性によるものだ。

 有沢委員;どう直したらよいか。

 福田常務(安川参与代理);国家が出すのが建前だという線にしてほしい。

 有沢委員;英国方式のほうがよいか。

 福田常務(安川参与代理);英国、スイスでは公営の事業だからああいう考え方になっている。米国、西独、ユーラトムではおのずから違った考え方をしているが、米国や西独のように個人の財産権を尊重するところでもあのような考え方をとっている。日本がなぜそれより後退しなければならないか。

 また、事業者に無過失責任を集中しておいて無限責任だというのも納得がいかない。

 松根参与;外国のとおりにやれというわけではないが、外国の例もあるからなぜそれ以上に後退しなければならないかが問題である。原子力事業を振興するためにいったいこんなことでよいのか。大臣や原子力委員は十分考慮してほしい。

 兼重委員;日本はそれだけ背のびをする実力がないという考えもある。それが政治の後進性といえるかもしれないが、原子力事業者の主張が仕事をはじめる前からでてくればよかったと思う。

 有沢委員;業界は米、西独式になると思ってやってきたことと思う。

 瀬藤参与;この案の程度の考え方でよいと思う。大蔵省のなお反対するといわれる点はどこか。

 有沢委員;第3者に対する損害賠償を目的とするということ。また、51億円の損害でも国会にかけねばならないとしている点である。

 岡野参与;大蔵省的な考え方は排除してこの案の思想で進んでほしい。従来の予算的な観念で災害補償の問題を処理しようとするのはいけない。この点をまず爆破しておけば案外うまくいくのではないか。なお、放射能障害も手当が早いことが有効だと考えられるから、損害補償の方法をきめることに先だってまず緊急妥当な措置を行なうという旨を入れておいたほうがよい。

 有沢委員;特に電気事業者に御不満の向きがあるようだが、平均した意見としてはこの程度の案ならまあまあということだと思う。

 松根参与;法案が議会に提出されるのはいつごろか。

 佐々木局長;4月になると思う。この案の線で災害補償制度の考え方がきまるわけではなくまだ問題が多い。さしさわりがあるので今日の資料1は回収させてほしい。

2.障害防止法の一部改正について

  資料2、3、4によって佐々木局長から説明を行なった。

3.専門部会の審議状況について

  資料5により法貴次長が説明した。

 稲生参与;米国の産業会議からニコルズがきて講演を行なった。そのなかで、米国から低濃縮ウランを買うと輸送費がかかる。再処理の費用はあまりかからないから、高濃縮ウランを買っておいて日本で再処理した減損ウランにプレンドして使うほうがよいといっていた。燃料サイクルの問題として専門部会で考えるとよいと思う。

4.日本原子力研究所第3号炉の安全性について

 原研第3号炉(JRR-3)の安全性について原子炉安全審査専門部会で審査したが、その答申を得て原子力委員会で検討した結果、同原子炉の安全性は十分確保できるという結論に達し、原子力委員会委員長から内閣総理大臣あてに答申した。資料6によって以上の安全審査の結論を藤波課長が説明した。

5.昭和35年度原子力平和利用研究委託費および研究費補助金の要望課題案等について

 資料7、8を法貴次長が説明した。

 宮本参事官(松尾参与代理);試験研究の助成の仕方と技術導入の考え方との調整を大蔵省で問題にしている。原子力委員会としての考え方を示していただけるとよい。

 石川委員;具体的に考えていく必要がある。たとえば、原子炉設計に関する研究は助成していくべき性質の問題である。

 宮本参事官(松尾参与代理);うまくきめられるものもあるが、一般的な考え方をきめておいていただくと、通産省から大蔵省に説明する際に参考にできる。

 島村次長;その点気を付けてほしいという発言と思う。一昨年あたりまでは実質的に国産にもっていけるものでかつ技術導入を考えないものについて補助金、委託費を交付するようにしてきた。しかし、昨年から技術導入が予想されるものにも技術導入をしたあとに役だつような試験研究に金をつけるようにしている。ただし、従来は乙種の技術導入が多かったが今後は甲種が考えられるので、これまでの考え方でよいかどうか改めて考慮していかねばならないと思う。

6.そ の 他

 i)人事異動について
  次の件を島村次長から報告した。
 イ、文部省の人事異動に伴い、大学学術局長小林行雄氏を緒方信一氏にかわる参与として2月24日に発令した。
 ロ、木原均博士が原子力委員会委員として3月14日付で発令された。

 ii)原子力留学生に対する外貨割当について
 稲生参与;最近の為替自由化の動きにつれて渡航者に対する外貨の割当がふえ、一般留学生に対する割当もふえた。ところが、原子力留学生だけは前のとおりだという例外があるそうで、原子力委員会に相談してほしいということを聞いた。聞いたばかりで真偽の程は確かめられなかったが、本当にそうなら適当な措置をしてほしい。

 法貴次長;今までは原子力留学生は一般留学生よりも割当がよかった。今度は一般留学生の割当が追いついたということではないかと思う。その点確かめてお返事をしたい。