放射線障害防止の技術的基準について

 

 人事院規則10-4(職員及び安全保持)(32.5.1施行)の改正にあたり、人事院総裁から放射線審議会長あてに35年1月14日付で「放射線障害防止の技術的基準」について諮問があり(別紙)、これについて審議した結果以下のように条件を付し、答申を決定した。

35放審議第3号
昭和35年3月10日

人事院総裁 殿

放射線審議会会長

放射線障害防止の基準について(答申)

 昭和35年1月14日付で当審議会に諮問のあった「放射線障害防止の技術的基準」については、昭和35年2月5日に開催された第6回放射線審議会において審議したところ、その結論を得たので下記のとおり答申する。

 なお、この答申は昭和34年8月28日および昭和35年2月5日に内閣総理大臣に提出した「放射線障害防止の基準について」と題する意見とはその基準が異なるので、この意見に沿って他の関係法令が改正される場合には、人事院規則等についても可及的すみやかに改正を図られたく、この点について特に留意ありたい。


1 諮問に係る放射線業務の定義中に「放射性物質の取扱い(原子炉の運転を含む。)」とある点は、「放射性物質の取扱い」とするのが適当である。

2 その他の点については貴案のとおりとすることが適当である。

(別 紙)

職厚−9
昭和35年1月14日

放射線審議会会長 殿

人 事 院 総 裁

放射線障害防止の技術的基準について

 放射線障害の防止について、下記基準により人事院規則等を改正いたしたいので、放射線障害防止の技術的基準に関する法律(昭和33年5月21日公布法律第162号)第6条の規定に基づき諮問いたします。

放射線障害防止に関する技術的基準

1 定 義
(1)「放射線」とは、次に掲げる粒子線または電磁波をいう。
 (ア)アルファ線、重陽子線および陽子線
 (イ)ベータ線および電子線
 (ウ)中性子線
 (エ)ガンマ線およびエックス線

(2)「放射性同位元素」とはリン32、コバルト60、ラジウム226等放射線を放出する同位元素(カリウム40を除く。)をいう。

(3)「放射性物質」とは、放射性同位元素およびその化合物、これらの含有物ならびにこれらの集合したものであって、次の一に該当するものをいう。ただし、その放射性物質濃度が0.002マイクロキュリー毎グラム未満の固体のものを除く。
  (ア)放射性同位元素が1種類のものにあっては、次の表の左欄に掲げる種類に応じて、それぞれ同表の右欄に掲げる数量をこえるもの

 (イ)放射性同位元素が2種類以上のものにあっては、(ア)の表の左欄に掲げる放射性同位元素のそれぞれの数量の同表の右欄に掲げる数量に対する和が1をこえるもの

(4)「放射線業務」とは、次に掲げるものをいう。
 (ア)エックス線装置の、使用またはエックス線の発生を伴う険査
 (イ)サイクロトロン、ベータトロンその他の荷電粒子を加速する装置の、使用または放射線の発生を伴う検査
 (ウ)エックス線管またはケノトロンの、ガス抜きまたはエックス線の発生を伴う検査
 (エ)ガンマ線照射装置その他の放射性物質を装備している機器の取扱い
 (オ)放射性物質の取扱い(原子炉の運転を含む。)

2 放射線障害防止の基本原則
 職員が放射線をできるだけうけないようにすること。

3 放射線防護の基本的措置
 放射線業務従事者の1週間にうける放射線量は、次の措置を講ずることにより、最大許容週線量(1週間300ミリレムとする。ただし、手、前ばく、足または足関節のみについては1,500ミリレムとする。)をこえないようにすること。
(ア)しゃへい壁その他のしゃへい物を用いることにより放射線のしゃへいを行なうこと。
(イ)遠隔操作装置、鉗子等を用いることにより放射性物質、放射性物質を装備している機器、エックス線装置または荷電粒子を加速する装置と職員との間に適当な距離を設け、または職員が放射線をうける時間を短くすること。

4 エックス線装置の防護装置
 エックス線管回路最大電圧(波高値による。)40キロボルト以上400キロボルト以下のエックス線装置(エックス線またはエックス線装置の研究または教育のため使用のつど組み立てるものを除く。)は、次に掲げる防護措置を講じて使用すること。

(1)エックス線管は、そのエックス線管から一定の距離における利用線錐以外のエックス線の照射率が次に掲げる鉛当量のものを透過した利用線錐のその距離における照射線量率以下になるようにしゃへいすること。
  (ア)医療用以外の用途に使用のつどすえ付けて使用するエックス線装置については、別表第1に掲げる鉛当量
  (イ)(ア)のエックス線装置以外のものについては、別表第2に掲げる鉛当量

(2)使用の目的が妨げられない限り照射筒を取り付けること。

(3)軟線を利用しないときは、ろ過板を取り付けること。ただし、警戒区域内において職員を作業させない場合はさしつかえないこととする。

(4)間接撮影を行なう場合には、利用線錐の底面がけい光板の有効面をこえないようにすること。

(5)直接撮影を行なう場合には、次の措置を講ずること。
  (ア)直接透視の作業に従事する職員が作業位置でエックス線の発生を止め、または利用線錐をしゃへいすることができる設備を設けること。
  (イ)医療用のものについては10ミリアンペア以上の電流が、その他のものについては連続定格の2倍以上の電流がエックス線管に通じたときに、直ちにエックス線管回路を開放位にする自動装置を設けること。
  (ウ)しぼりを設けること。
  (エ)けい光板に別表第3に掲げる鉛当量以上の鉛ガラスを付すること。
  (オ)けい光板のわくに散乱線しゃへいを設けること。

5 装置等の標識
 次に掲げる装置または機器については、それぞれ右に掲げるものを明記した標識を、当該装置もしくは機器またはその付近の箇所に掲げること。
  (ア)エックス線装置 エックス線回路最大電圧
  (イ)荷電粒子を加速する装置 その種類および最大エネルギー
  (ウ)ガンマ線照射装置その他の放射性物質を装備している機器 その種類ならびに装備された放射性物質に含まれた放射性同位元素の種類および数量

6 警戒区域の設定等
(1)次に掲げる放射線業務を行なう場合には、装置または放射性物質の上方、下方または周囲において職員が最大許容週線量をこえて放射線をうけるおそれがあるときは、その装置または物質の上方、下方または周囲をしゃへい壁等のしゃへい物、さく等の区画物または境界線で区画し、その区画した区域を「警戒区域」とする。警戒区域の入口に警報装置または標識(この場合エックス線装置、荷電粒子を加速する装置に電力が供給されている場合、ガンマ線照射装置で照射している場合、または放射性物質を取り扱っている場合には、その旨を明示することができるものであること。)を設けること。
(ア)エックス線装置の、使用またはエックス線の発生を伴う検査を行なう場合
(イ)サイクロトロン、ベータトロンその他の荷電粒子を加速する装置の、使用または放射線の発生を伴う検査を行なう場合
(ウ)エックス線管またはケノトロンについて、ガス抜きまたはエックス線の発生を伴う検査を行なう場合
(エ)ガンマ線照射装置を使用する場合
(オ)10ミリキュリー以上の放射性物質を取り扱う場合(貯蔵し、保管し、運搬し、および廃棄する場合を除く。)

(2)警戒区域には職員を立ち入らせないこと。
 ただし、作業の性質上やむをえずその区域において作業に従事することを要する職員については、その者がうける放射線量が最大許容週線量をこえないための措置を講じた場合はさしつかえないものとする。

7 管理区域の明示と被ばく線量測定用具の装着等
(1)作業場で職員の1週間にうける放射線量が30ミリレムをこえるおそれのある区域を管理区域とし、標識によって明示すること。

(2)管理区域内において作業に従事する職員(1週間においてうける放射線量が30ミリレムをこえないことが明らかなものを除く。)がうける放射線量を測定するために、その者の放射線に最も多くさらされるおそれのある部位に測定用具を装着させること。

(3)管理区域には、放射線業務従事者以外の者をみだりに立ち入らせないようにすること。

8 汚染の防止
 放射性物質の取扱いにあたっては、放射性同位元素による汚染(以下「汚染」という。)の防止または除去のために、次の措置を講ずること。

(1)放射性物質を取り扱うこと等により、放射性物質のガス、蒸気または粉じんが屋内で発散するおそれのある場合には、局所排出装置または発散源を密閉する装置を設けて、職員が常時作業に従事する場所における空気中の放射性物質濃度を別表第4に掲げる限度以下にすること。

(2)放射性物質を取り扱うことにより放射性物質の飛沫または粉末が飛来するおそれのある場合には、その飛沫または粉末が職長の身体または衣服に付着しないように職員とその放射性物質との間に飛来防止用の板または幕を設けること。

(3)放射性物質の取扱いに用いる鉗子、ピンセット等の用具を他の用途に用いるものと区別し、これらの用具を用いないときは、これを汚染を容易に除去することができる構造および材質の用具掛または置台に格納すること。

(4)粉末状または液体状の放射性物質をこぼす等により汚染が生じた場合には、その汚染が広がらない措置を講じ、かつ、別表第5に掲げる限度以下になるまでその汚染を除去すること。

(5)屋内で放射性物質を取り扱うことにより汚染されるおそれのある天井、床、周壁および固定設備が別表第5に掲げる限度をこえて汚染されているかどうかを、1月をこえない期間ごとに検査し、これらの物が別表第5に掲げる限度をこえて汚染されているときは、(4)の例により汚染を除去すること。また、これらの天井、床、周壁および固定設備の清掃を行なう場合には、じんあいの飛散しない方法で行なうこと。

(6)(5)により汚染の除去または清掃を行なった場合には、そのつど汚染の除去または清掃に用いた用具が汚染されているかどうかを検査し、その用具が汚染されているときは、その汚染が別表第5に掲げる限度以下になるまでは、これを使用しないこと。

9 汚染区域の明示
 放射性物質を取り扱うことにより床、周壁、固定設備その他の物が別表第5に掲げる限度をこえて汚染されるおそれのある場合には、その物に職員が触れるおそれのある区域を汚染区域とし、標識によって明示すること。

10 汚染の検査
(1)汚染の区域内において作業に従事させた職員が汚染区域から退去する場合には、その出口等汚染の検査に最も適した特定の場所(以下「検査場所」という。)において、その身体および衣服、はき物、作業衣、保護具等身体に装着していた物(以下「装具」という。)の汚染の状態を検査すること。

(2)(1)の検査により、手にあっては0.0002マイクロキュリーを、その他身体の部分にあっては別表第5に掲げる限度の10分の1を、装具にあっては別表第5に掲げる限度をこえて汚染されていることが判明した場合には、次に掲げる措置を講ずること。
  (ア)身体が汚染されている場合には、検査場所に隣接した場所で洗身させること。
  (イ)装具が汚染されている場合には、検査場所でその装具を脱がせ、または取りはずさせること。

(3)汚染区域から持ち出す物品については、持ち出しの際に検査場所において、その物品の汚染の状態を検査すること。また、この検査により、当該物品が別表第5に掲げる限度をこえて汚染されていることが判明した場合には、汚染を除去した後でなければ、その物品を持ち出させないこと。ただし、汚染が他のものに及ばない措置を講じて、汚染を除去するための施設、廃棄施設または他の汚染区域まで運搬する場合は、この限りでない。

11廃 棄
(1)液体状の放射性物質または汚染された物を流す場合には、排水設備において排水し、またはろ過、き釈等の方法により浄化を行ない排水口における排液中の放射性物質の濃度を別表第6に掲げる限度(以下「最大許容水中濃度」という。)の10分の1以下とすること。

(2)汚染された物を焼却する場合には、焼却炉において行ない、その際、排出口における排気中の放射性物質の濃度が別表第4に掲げる限度(以下「最大許容空気中濃度」という。)の10分の1をこえるおそれのある場合には換気設備を用いて排気または浄化を行ない、排気中の放射性物質の濃度を最大許容空気中濃度の10分の1以下とすること。

(3)液体状または固体状の放射性物質または汚染された物を(1)(2)以外の方法で廃棄する場合には廃棄の旨およびその内容を表示した容器を用いて廃棄施設において保管すること。

12 貯蔵、保管または運搬容器
 放射性物質または別表第5に掲げる限度をこえて汚染された物を貯蔵し、保管し、または運搬する場合には、使用目的および内容を表示した容器を用いること。ただし、汚染が他のものに及ばない措置を講じて、汚染を除去するための施設、廃棄施設もしくは他の汚染区域まで運搬する場合または管理区域内もしくは汚染区域内において運搬する場合は、この限りでない。

13 緊急措置
(1)次の一に該当する場合には、著しく放射線にさらされ、または汚染されるおそれの生じた区域から、直ちに職員を退避させること。

 また、その区域を標識によって明示し、かつ、その区域において放射線量率が1週間に300ミリレム以下に、また放射性物質表面密度が別表第5に掲げる限度以下になるまでは、職員をその区域に立ち入らせないこと。ただし、作業の性質上やむをえずその区域に立ち入ることを要する職員について、その者のうける放射線量が最大許容週線量をこえない措置を講じた場合は、この限りでない。
  (ア)警戒区域として区画するために設定されたしゃへい壁等のしゃへい物が放射性物質の取扱い中に破損した場合または放射線の照射中に破損し、かつ、直ちにその照射を停止することが困難な場合
  (イ)放射性物質のガス、蒸気または粉じんが屋内で発散するおそれのある場合に設けられた局所排出装置または発散源を密閉する装置が故障、破損等によりその機能を失い空気が汚染された場合
  (ウ)放射性物質が多量に漏れ、こぼれ、または散逸した場合
  (エ)以上のほか著しく放射線にさらされ、または汚染される不測の事態が生じた場合
(2)次の一に該当する職員に医師の診療または処置をうけさせること。

  (ア)(1)の(ア)から(イ)的までの一に該当する場合において著しく放射線にさらされ、または汚染された者
  (イ)最大許容週線量をこえて放射線をうけた者
  (ウ)放射性物質を飲み込んだ者
  (エ)別表第4に掲げる限度をこえて汚染している空気を吸入した者
  (オ)容易に除去することができない程度に皮ふが汚染された者
  (カ)皮ふの創傷部が汚染された者

14 測 定
 次の一に該当する場合には、それぞれに掲げるものを測定すること。
  (ア)警戒区域を設定し、もしくは変更した場合または警戒区域の外側を測定した日から1月を経過した場合警戒区域の外側の放射線量率、粒子束密度および空気中の放射性物質濃度
  (イ)職員を警戒区域内において作業に従事させる場合その職員が作業に従事する場所の放射線量率、粒子束密度および空気中の放射性物質濃度
  (ウ)第13項(1)に該当する場合同項によって明示された区域内の放射線量率、粒子束密度、空気中の放射性物質濃度および放射性物質表面密度
上記の測定が不可能または著しく困難な場合には計算により算出することができることとする。

備 考
1 放射線による被ばくおよび空気中または水中に放射性同位元素がある場合に、それらを同時に被ばくし、および呼吸し、または飲用するおそれがあるときの許容週線量は、放射線の1週間についての線量または空気中もしくは水中の放射性同位元素の濃度のそれぞれの許容週線量またはその最大許容空気中濃度もしくは最大許容水中濃度に対する割合の和が1となるようなその線量および空気中または水中の濃度とする。

2 放射線が中性子線である場合には、許容週線量は粒子束密度によって算出することができるものとし、その際における最大許容週線量の算出は、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(昭和33年科学技術庁告示第4号)(以下「科学技術庁告示第4号」という。)第8条第2項に規定する方法によるものとする。

別表第1
 医療用以外の用途に使用のつどすえ付けて使用するエックス線装置に関する鉛当量
電離放射線障害防止規則(昭和33年労働省令第11号)
(以下「労働省令第11号」という。)別表第1と同じ。

別表第2
 医療用以外の用途に使用のつどすえ付けて使用するエックス線装置以外のエックス線装置に関する鉛当量
 労働省令第11号の別表第2と同じ。

別表第3
 けい光板の鉛ガラスの鉛当量
 労働省令第11号の別表第3と同じ。

別表第4
 空気中の放射性物質濃度に関する限度
 労働省令第11号の別表第4(甲、乙、丙)と同じ。

別表第5
 表面汚染に関する限度
 労働省令第44号の別表第5と同じ。

別表第6
 水中の放射性物質濃度に関する限度
 科学技術庁告示第4号の別表第1、第2に規定する水中の許容濃度の数値に2.5を乗じて得た数値とする。