第6回放射線審議会総会

ICRP新勧告につき建議書を提出

 昭和35年2月5日(金)に東京会館で第6回放射線審議会総会が開催された。その概要は次のとおりである。

1 ICRP新勧告について
(1)第5回放射線審議会総会(34.8.28)以降、引き続きICRP勧告特別部会で審議された結果について同部会長塚本憲甫から報告があった。なお、その間における同部会の審議経過は次のとおりである。

 第4回ICRP勧告特別部会(34.9.29)ではICRP勧告のうち、主として放射線管理に関係の深い部分を引き続き審議するため、まず、線量、周辺群小委員会および放射性同位元素濃度等小委員会を編成した。線量、周辺群小委員会(青木敏男委員長)は1回(34.10.13)、放射性同位元素濃度等小委員会(広瀬孝六郎委員長)は1回(34.10.17)開催され、それぞれの審議結果は部会に報告された。その後、部会は6回開催されて上記両小委員会の報告等についての審議がなされたが、昭和34年12月15日に部会の意見がまとめられた。

(2)審議会は部会報告について審議した結果、(a)放射線作業従事者について集積線量を算出するために適した記録をとり、かつ、保存することを原則とするがこれらのことがらを直ちにすべての職業的放射線作業従事者に対し義務づけることに困難な点があるのでこれは実施可能の管囲で採用していくこととする。(b)放射線作業従事者以外の者に対しては、被ばく線量の測定等を個々の人に義務づけることが困難であるので、管理区域の周辺で働く非放射線作業従事者(B(a))に対しては作業時間中に一定の被ばく線量をこえないよう、施設等について考慮すること。その他の人々(B(C)および(C)については、一定の区域(放射線源の付近であって年間0.5レムから1.5レム被ばくする可能性を生ずる区域)内に立ち入らないようにすること。(C)排気、排水中の放射性同位元素については、管理しうる区域の境界において平均濃度が、Critical organが全身となる放射性同位元素についてはMPCの1/10以下、その他の放射性同位元素についてはMPCの1/30以下であることを基準とする。

 上記(a)、(b)、(C)その他について放射線審議会は意見の一致を見たので、その結果に基づき、その意見の大網を内閣総理大臣あてに意見書を提出することに決定した。(別紙1)

2 一般人の緊急被ばくに関する基本的考え方について(総理大臣諮問)
 昭和35年2月4日付で上記について総理大臣から放射線審議会に諮問があったことが佐々木原子力局長から説明があり(別紙2)、続いてこれに関する質疑応答があった後、新しく部会(緊急被ばく特別部会)を設けてこの問題を検討することとなった。

 緊急被ばく特別部会の構成については次のとおりである。

  緊急被ばく特別部会構成員名簿(五十音順)
委 員
 青木 敏男  日本原子力研究所保健物理部長
 田島 英三  立教大学理学部教授
 山崎 文男  理化学研究所主任研究員
専門委員(発令手続中のものを含む)
 江藤 秀雄  放医研障害基礎研究部長
 岡本十二郎  東京医科大学教授
 寛  弘毅  千葉大学医学部教授
 西脇  安  前大阪市立大学助教授
 山下 久雄  癌研究所放射線科部長
 吉岡 俊男  日本原子力発電(株)技術部長
 脇坂 清一  東京電力(株)原子力発電課長

3 放射能測定部会所属専門委員の変更
 放射能測定部会所属の専門委員を次のとおりとすることについて了承を得た。

 放射能測定部会所属専門委員の名簿(五十音順)
伊沢 正美   放医研
池田 長生   教育大
石原 豊秀   原研
河端 俊治   予研
木越 邦彦   東京都立大
久保 彰治   食糧研
小平  潔   農技研
島田 利夫   気象研
島野 次夫   水路部
長沢 佳熊   衛試
浜田 達二   理研
半谷 高久   東京都立大
深井麟之助   東海区水研
前田浩五郎   電試
村上悠紀雄   原研
山県  登   公衆衛生院
米村 寿男   家畜衛試
渡辺 博信   放医研


 昭和34年8月28日の第5回放射線審議会総会の決定に基づき、都築会長から総理大臣に提出した「放射線障害防止の基準について」と題する意見中に述べられている調査の提案に対する行政当局の予算ならびに実行計画案の概要説明があり、続いて「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」改正案の説明があった。

 次いで今年1月に開催された国連科学委員会の会議の状況について塚本委員から説明があった。

 別紙1

35放審議第2号
昭和35年2月5日
内閣総理大臣 岸  信介 殿
放射線審議会会長 都築 正男

放射線障害防止の基準について

 標記に関しては、先に昭和34年8月28日に開催された第5回放射線審議会総会における審議結果に基づき当審議会の総括的意見を申し述べたが、このうち、主としてIII放射線管理の部分についてその後引き続き審議を行なってきたところ今般下記のとおり結論を得たので申し述べます。


1.職業的被ばくに関する事項
(1)放射線作業従事者の許容被ばく線量については、原則的に国際放射線防護委員会の勧告と同意見である。
(2)国際放射線防護委員会の勧告に述べているD=5(N-18)式で示される集積線量を許容線量として採用するにあたっては、すべての放射線作業従事者について集積線量を算出するための記録をとり、かつ保存することを原則とする。ただし、これらを直ちに義務づけることに困難な点があるので実施可能の範囲で採用していくこととする。
(3)事故時の高度の被ばくについての考え方は国際放射線防護委員会の勧告の線に沿って考える。

2.周辺群に対する基準に関する事項
(1)放射線作業従事者以外の人々に対する許容被ばく線量については、国際放射線防護委員会の勧告と同意見である。
(2)同勧告を実施するにあたっては、職業的放射線作業従事者以外の者に対して被ばく線量の測定等の法的な規制を直接課することは困難であるので原則的には施設の管理を行う者に対して、次のような規制を行うことにより、間接的に管理が行われるように措置することが適当であると考える。
(a)管理区域の周辺で働く非放射線作業従事者
〔B(a)〕に対しては、作業時間中に一定の被ばく線量をこえないように施設等について考慮すること。
(b)職務上管理区域内に立ち入る非放射線作業従事者〔B(b)〕に対しては、一定の被ばく線量をこえないように、作業時間、立入時間等の制限を考慮すること。
(C)その他の人々〔B(c)およびC〕については、みだりに一定の区域(ここにいう一定の区域とは、放射線源等の付近でその人々が年間0.5レムから1.5レム被ばくする可能性を生ずる区域をいうものとする。)内に立ちいらないようにすること。

3.排気および排水中の許容濃度に関する事項
 排気および排水中の許容濃度については、原則として事業所の管理しうる区域の境界において次のとおりとする。
(1)全身または生殖腺に対する影響が問題となる放射性同位元素については、その平均濃度が国際放射線防護委員会第II小委員会の報告中の第1表の最大許容濃度の10分の1以下、その他の放射性同位元素については、その平均濃度が国際放射線防護委員会第II小委員会の報告中の第1表の最大許容濃度の30分の1以下。
(2)ただし、放射線防護委員会第II小委員会の報告中の第3表(放射性同位元素の種類が判明しない場合の水中の放射性同位元素の最大許容濃度)および第4表(放射性同位元素が判明しない場合の空気中の放射性同位元素の最大許容濃度)の値を用いる場合には、上記第3表または第4表の最大許容濃度の10分の1以下。
 なお排気または排水による影響以外に、外部放射線による影響を与える場合には、これらによる被ばく線量を複合して許容濃度を考慮すること。

4.2以上の事業所からの放射線の影響に関する事項
 一般人(C)および放射線取扱施設の周辺に居住する人々(B(C))に対して、2以上の事業所からの放射線による影響が重複する場合には、これらが重複して与える影響を考慮して、それに対する方策を詩ずる必要がある。

5.上記の意見は、個人の身体的障害の立場から述べられたものであるが、現在および比較的近い将来において、国民の受ける遺伝線量は、国際放射線防護委員会の勧告の遺伝線量以下となることは明らかなので、国民の遺伝的な立場から考えた場合にも上記の基準は適当であると思われる。しかしながら、将来わが国の原子力の研究、開発および利用の規模が著しく増大する場合には、上記の意見に再検討を加える必要が生ずるであろう。

 別紙 2

35 原 第276 号
昭和35年2月4日
放射線審議会会長 殿
内閣総理大臣

一般人の緊急時被ばくに関する基本的考え方について

 一般人の緊急時被ばくに関し、1959年11月6日付ICRPステートメントが発表されているが、この問題は原子炉の設置許可に関する審査上、重要な関連を有するので、この観点から同ステートメントに関する貴審議会の意見を求める。