西ドイツおよびポルトガルのウラン鉱床の研究


 本稿は昭和33年度原子力留学生として西ドイツおよびポルトガルを中心としてスウェーデンのウラン鉱床の研究内容と技術的情報に関する工業技術院地質調査所関根良弘民の報告書であり、編集の都合上若干手を加えたものである。

I 西 ド イ ツ

 西ドイツは現在8州と2ハソザ都市からなり、連邦政府内に原子力水力経済省があり、原子力の全国的研究開発の諸問題を担当しているのと同時に国内ウラン資源の開発に関する政策を取り扱っている。しかしながら実施面についてみると各州政府に原子力委員会が設けられ、大学研究所、学識経験者、民間団体、会社ともに原子力平和利用の研究の促進にあたっている。国内ウラン資源の調査・開発に関しても最高政策は連邦原子力省により定められるが、各州の状況に応じて実際の調査探鉱は各州の地質・地下資源調査所がその実施にあたっており、また同時に各種民間会社もウラン鉱床の探鉱に参加しており、このための経費は連邦および州政府の両方から支出されている。現在発見されているウラン鉱の産出状況は次のとおりである。

(1)中熱水性Co-Ni-Ag・Bi-U鉱脈(中部Sclewarzwald地区)
(2) Fluorite-bavite-pitchblende鉱脈(BayernのWoelsendorf地区)
(3)錫-タングステン-グライゼソ鉱床(BayernのWeissenstadt地区)
(4)含ウラン褐炭鉱床(BayernのSchwandorf地区)
(5)含ウラン石英斑岩(Rheinland-PfalzのBirkenfeld地区)
(6)黄鉄鉱・方鉛鉱・石英脈(中南部Schwarzwald各地)
(7)鉄-二酸化マソガン鉱脈(BadenのEisenbach地区)
(8)ペグマタイト(Bayernの東部BayerischerWald地方一帯)
(9) Pfahl石英脈(Bayerischer Wald地方)
(10)陸成砂岩および苦灰質砂岩層(Bayern, Niedersachsen, Hessenなど)
(11)含ウラン燐酸塩鉱物(緑鉛鉱など) (Sclewarzwald一帯)
(12)Koppit大理石(Kaiserstuhl)
(13)響岩(Hegauなど)
(14)その他黒色頁岩など

 これらの鉱床の生成時代をみると(1)-(3)、(5)-(9)は古生代末のヴアリスカン造山運動期の貫入にかかる花崗岩類および浅所送入岩に由来するもので、特に(1)ならびに(2)(3)は世界的に著名なErzgebirgeのウラン鉱床群と同型のものである。

 これらの鉱床は各州の地質調査所、民間会社、大学などの密接な連絡のもとに調査・探鉱されている。調査・探査の方法・技術およびその確実度は現にわが国で行なわれているものとほぼ同様、同程度であるが、ドイツのほうが地形がゆるやかであるために調査密度ならびに速度は高いようである。かつて一部の州においてair-borne放射能調査も行なわれたことがあるが、car-borneならびに地表地質調査を主とする放射能異常調査から漸次綿密な組織的探鉱を行なっている。しかし各州ごとにその方式はやや異なっている。

 前記鉱床産状の中で、(1)は往時のコバルト鉱山で,坑内深部にウラン鉱石がなお残存し、(2)は現に螢石について採掘中でPitchblendeを含む鉱石部分は貯鉱され、(3)は数年前に一部ウランとして探鉱出鉱されたが現在放棄されており、(4)は褐炭を露天掘しており、その鉱床周縁部に採鉱可能品位のウランを含有する部分があり、(5)は現在探鉱中で今夏、小規模な選鉱場が設けられる予定である。これらはなお今後とも、さらに詳しい探鉱の結果によってはウラン鉱の資源として一応の価値を有するものであろう。しかし採掘出鉱品位0.1%U3O8の鉱石を継続的に多量に採掘することはむずかしいようである。(6)以降の産状のものは、いずれも顕著な放射能異常を示し、ウランまたはその鉱物も検出あるいは同定されているが資源的価値は全く存しないといっても過言ではない。上記(1)-(5)の採掘可能性のある全鉱床における全鉱量を合算しても、含有ウラン金属量は300トンに達しないものと推定されている。現在ウラン資源の探鉱は連邦政府ならびに州政府の方針に基づいて支出される経費によって州地質調査所および民間会社により実施されているが、ウラン鉱発見・出鉱のための報賞金制度などの財政的援助による積極的開発の政策が決定されていないために西独全般のウラン探鉱は十分には活発とはいえない状況である。将来のエネルギー資源としてはなおルール石炭の莫大な埋蔵量があるために、そして国内資源(ウラン)の乏しさのために、必要なウランは国外から輸入してまかなうといった傾向が強い。原子力開発の基礎的研究、研究用原子炉の構築、放射能測定機器などの研究などはきわめて積極的に進められており、かつ技術輸出の方針も認められた。

II ポルトガル

 ポルトガルにおいては今世紀初めのラジウムラッシュ当時から英国系資本のポルトガルラジウム会社(Companhia Portuguesa de Radium Lda-)がUrgeirigaおよびその他数ヵ所の鉱山の含ウラン鉱石を採掘しラジウムの抽出に努めていた。戦後原子力委員会(Junta Energia Nuclear)が設置され、国内ならびに海外植民地のウラン鉱の調査・探鉱が原子力委員会の探鉱部門(Servicos de Prospeccao JEN)によって始められた同委員会の探鉱部門は国内ウラン鉱の組織的調査・探鉱のために、数ヵ年にわたる綿密な計画をたて、十分な準備体制をととのえた後に、1955年から実質的な調査採掘が行なわれてきた。国土面積の約2/3を占める鉱床学的にみて賦存可能および有望地域のうち約80%が調査開始後約3ヵ年間に一応の放射能異常測定調査が終り、本年中に100%完了予定で、さらに今後は中生代の堆積岩地域に対し、調査を実施する予定である。

 現在ポルトガルのウラン鉱床の中で稼行中または採掘終了した鉱沫は14鉱山に上り、これは前記CPRによって経営されている。

 原子力委員会直属の探鉱鉱山としてはさらに5鉱山があり、また、120余の鉱床が現に研究されており、これらのほかに百数十ヵ所の地点に放射能異常が知られている。

 ボルトガルの主要なウラン鉱床は次の二つの型に大別される。(1)古生代末期-ルシニアン期の造山運動に伴い貫入した花崗岩質岩石中の披砕帯に鉱脈または鉱染をなすPitchblendeおよび2次ウラン鉱物の鉱床。現に採掘または探鉱出鉱中の鉱床はこれに属す。(2)花崗岩類の貫入接触部に近く接触変成作用を受けた古生代(前シルリア紀の)4枚岩中の2次ウラン鉱物の鉱染鉱床。上記(1)の鉱床は共生鉱物と分布地域によってさらに4型に分けられるが、いずれも鉱床下部ではPitchblendeを主とする鉱石を産し、上部では地表近くの酸化作用により2次ウラン鉱物を主とする鉱石からなる。

 ポルトガルウラン鉱床の組織的調査探鉱の作用順序は次のとおりである。基礎調査ならびに鉱床発見に至るまでの段階は、(a)航空写真地質図作成、構造要素図作成、(b)一般地質調査、(c)放射能異常調査、(d)地域的放射能探査、(e)地区放射能探査、(f)局部放射能探鉱に分けられ、この順に調査精度および密度が詳しくなる(b)-(c)の段階に並行してエアーポーンならびにカーボーン調査が併用されているが、現在エアーポーン調査はほとんど行なわれていない。以上の段階を経て確認されたウラン鉱床は次いでトレンチ、簡易試錐、ダイアモンド試錐ならびに竪坑、坑道探鉱を経て、鉱床規模の確認、鉱量の推定が行なわれ、採掘計画がたてられる。探鉱出鉱ならびに採掘鉱石で0.2%U3O8以上の鉱石はUrgeiricaへ運ばれ、CPRの化学抽出工場で処理される。この工場ではウラン鉱を粉細後、酸化剤としてMnO2を加え67%solidのpulpとして、これに93-98%の硫酸を加えてcyclonでsandを分離し、thicknerを経てマグネシアミルクで中和し、沈殿物を濾過して含水ウラン酸マグネシウムの形で精鉱を得る実収率は91%である。0.2%U3O8以下0.05%U3O8以上の品位の鉱石は産出現場においてnatural leachingによりウランが抽出され、上記に類似の化学処理過程を経て精鉱とする。0.5%U3O8以下の品位の鉱石は捨てられている。natural leachingとは野外に約500トン程度の堆積場を設け、粗砕鉱石に適量の硫化鉄鉱を加えて積み上げ、上部から天水を撒布して硫化鉄鉱の自然酸化によって生ずる硫酸が鉱石中のウランを溶かす作用を利用したもので、この溶出液を集めて中和し精鉱を得ている。CPR会社の事業は原子力委員会の管理を受け、産出精鉱は現在すべて英国へ送られてさらに化学処理を受けている。

III スウェーデン

 スウェーデンにおいては今次大戦中における石油輸入困難に伴い、国内エネルギー資源の開発のために水力発電に努力するとともに国産油母頁岩からその中に4-6%含まれる石油の抽出が実用化されていた。この油母頁岩中に少量のウランの含まれていることは以前から知られていたが、戦後これのウラン資源としての重要性が認められてきて、原子力委員会および原子力会社(AB Atomenergi)の設立とともに、この含ウラン油母頁岩のウラン鉱としての利用が始まり, Naer-ke地区Kvarntorpに化学抽出工場が建設され、現にウラン精鉱が製造されている。含ウラン頁岩層は古生代カンブリア紀に属する海成層でKvarutorp地区以外にもVaestergoetland地区、Oeland島にも産出し、現在Vastergoetland地区のBillingenにもKvarntorp地区の抽出工場にまさる大規模な工場を建設準備中である現に採掘中のKvarntorpの鉱床は、スウェーデソ頁岩油会社(AB Svenska Skifferoelje)の抽出工場に隣接してあり、前カンブリア紀の基盤岩上に、頁岩、砂岩を下盤とし、石灰岩を上盤として堆積した含ウラン油母頁岩層で、きわめてゆるい傾斜を有し、厚さ平均17m、この最上部の特にウランが含まれる部分は厚さ4.5〜5mである。ウラン含有量は平均200〜300gU/tであるが、炭化水素の特に多い団塊(kolm)では2,000〜3,000gU/tに達する。現在露天掘によって年間粗鉱採掘量15万トン、このうち11万トンが物理的化学的処理を受け、約70%Uの精鉱約15トンが産出されている。粗鉱はgyratory crusherにより粗砕され、重液により石灰岩団塊を除き、浮鉱はcone crusherで粉砕され、70℃に加熱後硫酸によってleachされる。炉液は石灰粉により中和され、真空炉過後、硝酸を加えて後にイオン交換法(Zerolithe使用)によって処理し、アンモニアを加えてウランをammonium diuranate (NH4)2U2O7の形で沈殿させウラン精鉱を得る。この抽出過程によって精鉱中のウラン含有量は約70%で原鉱の平均品位0.0235%Uに比べると、約3,000倍の濃集度となる。精鉱はStockholmへ送られAB Atomenergiの精製工場で酸化物および金属に精製される。

 スウェーデンのウラン探鉱に関しては上記原子力会社の探鉱部門が主体となり、スウェーデン地質調査所および15の民間会社とによって実施されている。調査はおもに地表坑内地質鉱床・放射能調査で、一部にエアーボーン、カーボーン調査も行なわれたこともあるが、国土面積広大にして技術者の少ないため調査は不十分である。現在までに判明しているウラン鉱床の産状で、前記、含ウラン油母頁岩以外には中央部・西部スウェーデンの片麻岩・花崗岩中のペグマタイト鉱床(U・Th・Be)および中央部のスカルン式鉄鉱床中にpitchblende が鉱染産出しており、また少数の熱水性pitchblende-chlorite鉱脈や変成珪岩中のThucolite鉱染鉱床が知られているが、いずれも現状では資源的価値に乏しい。しかし上記油母頁岩中のウラン鉱床はNaerkeおよびVaestergoetland両地区のみで最少限47億トンの鉱量を有し、抽出されるべきウラン量は15万トンに達し、今後数千年のエネルギー源を充足するに十分といわれている。

 今回の留学によって欧州各国のウラン探鉱状況を詳しく見学することができ、過去4年間にわが地質調査所において実施してきたウラン鉱調査の方法をそれら各国のそれに比較してみると、技術面では全く遜色なく、十分な自信を得た。しかし1、2の国におけるウラン調査開始前の綿密な計画性・組織性や、わが国の鉱探と類似または異なった各型のウラン鉱床の性質を詳しく知ることができたこと、基礎的な研究の面においてきわめて参考になる点が多かった。

 なお語学の不十分さによって研修・研究の際にしばしば積極性を失ないがちになるので、努めて積極性を出すよう留意することが今後の留学生に望みたい。