第3回国際原子力機関総会の概要


 国際原子力機関は1957年9月に創立総会を開いて以来2年を経て、本年9月22日から10月2日まで第3回の総会を開催した。第1年度は事務局の整備に忙しく十分な活動は行なえなかったが、第2年度にあたる1959年度には500名をこえる陣容をととのえた機関が各分野にわたって積極的な活動を開始した。毎年開かれる総会は前年度の業績をかえりみつつ、翌年度の事業計画と予算を審議し承認する役割を果すものである。

 総会の代表団 本年に至って加盟国は70ヵ国に達し、総会には東西の陣営の対立をこえて65ヵ国が代表団を送った。米国が31名、ソ連12名、英国11名をはじめ、総数300名以上の代表団と国際機開からの代表を加え、原子力の分野における本年最大の会議となった。このような加盟国の代表は表面にあらわれた動きとは別にお互いに意見を交換し、かつ事務局とも接触する機会を持ち得たのである。

 日本代表の議長選出 今回の総会はわが国にとって特に記念すべきものであった。すなわち総会において日本代表(古内大使)が議長に選ばれ、ややともすれば政治的な論議に花をさかせがちな総会の会議を適切に運営し、各国代表に実質的な論議をつくさせたことであった。

 総会の議長としては、すでに数ヵ月前からブルガリアのNadiakov氏が候補とされていたのであるが、わが国は米国その他の諸国に推されて総会直前に立候補することになった。そのため総会においては議長候補2名となり、投票の結果古内大使(日本)39票、 Nadiakov氏(ブルガリア)15票でわが国の代表が選ばれることになった。

 新理事国の選出 総会のおもな仕事の一つは新理事国の選出である。理事会は23カ国をもって構成され、そのうち13ヵ国は前の理事会で指定され、他の10カ国が総会で選挙される建前となっている。総会選出国は2年を任期としているので実際に毎年の総会で選ばれるのはその半分の5ヵ国である。新理事国は次のとおりである。


 代表演説 総会のおもな仕事である各国代表の演説は参加国および関係国際機関の代表団を前にして行なうものである。この演説の意義はもとより加盟国の代表に対する効果はあるが、同時に事務局に対する効果も考えにいれなければならない。たとえば日本代表が原子力船の事業の推進を強調することによって事務局内部の原子力船の事業をクローズアップすることになる。

 ソ連の代表演説は1959年の機関の活動状況が決して思わしいものでなかったことを指摘しかなり批判的であった。

 米国の代表はこれに対してきわめて鮮明に国際原子力機関支持を表明した。内容の中で特に目だつものとしては,

(1)技術援助における機器提供 これまで技術の援助が専門家の派遣を主としていたのに対して、特にIAEAが機器の提供を行なうことを主張した。

(2)核融合研究の推進 資料の交換についてIAEAが重要な役割を果すことを提案した。

(3)中小型動力炉の共同計画の設定 後進国の原子力発電をすすめるために、小型の加圧水型動力炉計画を米国がたて、これにIAEAの技術関係者を参加させる計画を提案した。

(4)廃棄物処理に関する提案

(i)廃棄物の地域的または国際的廃棄場設定の可能性の検討。
(ii)海洋投棄地区指定の検討.
(iii)河川に流入する放射性物質の基準に関する実地調査の実施。
(iv)アイソトープ実験室の基準の設定。
(v)廃棄物処理研究の推進。

米国が廃棄物処理を大きく取り上げたことはこの問題に関する同国の関心がきわめて深いことを示す。

(5)保障措置の移管IAEAの保障措置の重要性を確認し、米国と双務協定を結んでいる国が保障措置をIAEAに移行することを確信していると述べた。

(6)ウラン配分機能の強化 IAEAのウラン配分の構想はウランの僅少な時期に産みだされた構想であった。しかし現在のようにウランが豊富になってもその役割は重要であり、各国が双務協定に基づくものよりIAEAにより多く依存することになるであろうと述べた。濃縮ウランについては、研究用として50,000ドル相当の濃縮ウラン(約3kg)の寄贈を申し出た。

 英国の代表演説は米国代表にくらべて地味であった。第1に保健安全に関する各種の基準の意義を述べ、第2に情報の交換、第3に技術援助の推進について述べた。この演説で英国はIAEAのこれまで行なってきた事業を全体的に推進することを示したが、特に新たな提案は行なわなかった。

 日本代表の演説は嵯峨根博士が行なった。

 最初にIAEAからの3トンの天然ウラン購入の協定が結ばれたことを指摘してわが国がIAEAを積極的に支持していることを明らかにし、続いてIAEAのこれまでの業績を具体的にあげてその活動を支持した。

 第2に原子力発電をすすめるにあたってわが国がたどってきた道程を説明した。すなわち、わが国が基礎研究の積上げと外国技術の導入とを組み合わせ、 4、5年のうちには先進国と肩をならべるところまでいきたいと考えている。この過程において、放射線障害、廃棄物処理、第三者賠償責任など各国の共通課題を克服しなければならないが、これらについてはIAEAが大いに力をかすことができると思われる。同時にわれわれの歩んできた道は今後原子力発電をすすめるにあたって低開発諸国の参考になると考えられる。したがってこの経験をIAEAを通じて大いに活用してもらいたい、という趣旨を述べた。

 第3に原子力船についてわが国が深い関心、を持っていることを明らかにし、 IAEAが原子力船の保健と安全の国際的基準を設定することおよび原子力船に関する第三者賠償に関するパネルを開くことを提案した。

 第4に各種の科学、技術上の会議開催の際燃料サイクルの研究に関するシソポジウムの開催を考慮することを提案した。

 なお、日本代表は事業計画、予算、技術委員会において、環境汚染の調査方法の確立、廃棄物処理研究の推進についてわが国が大いに支持することを述べ、また、中小型動力炉開発についてもかなり詳しい意見を述べ積極的に支持した。

 1960年度事集計画と予算の承認 総会において代表演説とならんで重要な意義を持つのは1960年度の事業計画と予算の承認である。この審議にあたっては、事業計画、予算、技術委員会という特別の委員会が設けられ、そこで各部門にわたって検討を行なう。今度の総会で来年度の事業計画に関して最大の問題となったのは低開発国における原子力発電の問題であった。この問題についてはすでに前回の総会において、理事会に報告書の作成を要求していたのである。今回はこの報告書(GCIII/76)を中心に活発な論議が行なわれた。特にブラジル、インド、インドネシア、パキスタン、アラブ連合の5カ国共同提案によって低開発国の原子力発電を具体的に推進するための決議案が提出された。この提案は米ソ両国の支持を得(英国はやや消極的)低開発諸国の大多数の賛成を得て成立した。

 事業計画および予算は理事会の原案のとおり採択された。その内容のおもな点は次表のとおりである。

通常予算


事業予算


 なお、通常予算は各加盟国の分担金で賄われ、事業予算は自発的拠出金で賄われるものである。

 分担金および拠出金 1960年度におけるわが国の分担金は約118千ドル(2.03%)となり、拠出金については22,000ドルを申し出た。

 写真展示会 各国の原子力開発の状況を示す写真の展示会は、総会会議場の一角に設けられた展示室で開かれた。わが国からの出品は日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所および産業界の現状を示し、光彩を放った。

 IAEA研究所の起工式 総会会期中にウイーン郊外のseibersdorfでIAEAの研究所の起工式が行なわれた。これは米国からの60万ドルの寄付によって建設されるもので1960年10月に完成の予定である。