核燃料経済専門部会第一次中間報告書の提出について (2)

2.核燃料所要量の試算

 前章においては、核燃料をリサイクルする意義として、資源的および経済的効果のあることを述べ、同時にその効果の検討は基本的なデータの不確定なこと、リサイクル系に多くの組合せがあること、考慮すべき分野の広いこと等の理由によって、多くの困難を伴うことを指摘した。

 しかしながら燃料サイクルの問題の重要性にかんがみ、リサイクルによる効果を可能な範囲において考察し、わが国の発電炉開発の方針の検討に寄与することは今日の段階において有意義であると考えられる。この章では、発電用原子炉開発の初期段階としての今日の立場から最も近い将来に発展が予想される型式のみを取り上げ、これらの型式の発電炉をわが国に建設した場合、核燃料をリサイクルすることによって資源的にどの程度の効果が期待されるかを例示する目的で行なった試算の結果を述べる。

 試算にあたっては7通りのリサイグル系を考え、それぞれの系について燃料サイクルの資源的効果を試算した。その結果は後述するような考え方と仮定の数値を前提としたうえで燃料サイクルの資源的効果を表わすーつの試算として意義のあるものと思われるが、各リサイクル系の優劣を判断するにはここには行なわなかったが経済的効果をあわせ検討する必要があることに注意しなければならない。

(1)試算の前提

(イ)発電炉型式

 発電炉の型式として、天然ウラン黒鉛減速ガス冷却型(A型)および低濃縮ウラン軽水減速型(B型)を取り上げる。これらの発電炉に関する要目は、近い将来実際に建設されるものにあてはまることを予想しつつ第1表の数値をとることとする。

第1表 原 子 炉 要 目

(ロ)原子力発電の開発規模

 昭和32年12月に原子力委員会が決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」において目標となっている開発テンポを昭和37〜50年度の14年間にたどることを前提としてリサイクルの効果を検討する。 1基150MWの送電端出力を有する発電炉を建設するものとすれば、年度別の開発量および開発基数は第2表のごとくになる。

第2表 開 発 規 模

 第2表に示す開発規模に従ってA型およびB型の発電炉を開発する場合、炉型式の組合せとして、 A型発電炉のみを建設する場合、 B型発電炉のみを建設する場合およびA型とB型を同容量ずつ開発する場合について、それぞれリサイクル系を想定して試算を行なう。

(ハ)燃料の取替方法と燃焼度

 A型発電炉は運転中に燃料の連続交換が可能であるという一つの利点を有しているが、同時に、個々の燃料要素の炉内滞留期間は燃料交換のスケジュールによっても影響をうけ、運転開始後比較的短い期間を経た時点で取り出される燃料の燃焼度は,発電炉の耐用年数の終期に近い時点の取替燃料の燃焼度に比していっそう少ないものと考えられる。第1表のごとく電気出力、熱効率をきめ、運転開始後0.75年のおくれをおいて年々一定量の燃料の連続交換を行なうことを前提とし、さらに耐用年限にわたって年間の平均負荷率を75%、炉内全燃料の平均燃焼度と使用済燃料の平均燃焼度との比を0.5、耐用期間内に取り出される燃料の総平均の燃焼度を3,000MWD/トンと仮定すれば,年間の補給燃料は46.7トンになる。

 その際年々の使用済燃料の平均燃焼度を計算すれば第2図のごとくになる。

第2図 A型原子炉の運転年数と使用済燃料の特性

 B型発電炉においても第1表のごとく電気出力、熱効率をきめ、年間の負荷率を75%とし、燃料の取替方法は使用済燃料の平均の燃焼度が常に11, 000MWD/トンになるようなfive-batch方式によるものとする。炉内全燃料の平均燃焼度と使用済燃料の平均燃焼度との比はある程度の中性子束分布の平担化を考慮して,0.71と仮定すれば、以上の前提によって運転開始後燃料交換を始めるまでの期間は、 2.4年、年間の補給燃料は12.4トンになる。

 (ニ) Pu の評価

 Puはウランとブレンドして原子炉に再使用しうると考える。この場合Puを含む核燃料の核燃料としての価値の評価を決定するには現在では核的データが不備であるし,また複雑な計算を要するという事情もあるので、かりにPuはそのなかに含まれる同位元素239Puと同一重量の235Uに匹敵するものと仮定する.

 一般にPuはそのなかに含まれる同位元素の量の比率によって、その燃料としての核的価値は異なると考えられているが上述の仮定を設けることは、高次同位元素の量とは無関係に239Puの量のみによってPuの燃料としての価値が定まり、Puの全量とは直接には関係しないと考えることになる。本試算の場合のように原子力発電の開発期においては次々と新しいPuが生成されて燃料系に加わってくるので、たとい数回の再循環使用をくり返したPuが一部含まれていたとしても全体としてはそれほど高次同位元素の量は増さないから、原子力発電の開発期において得られるPuは同位元素の比率が比較的安定していると考えられるので、その限りにおいては、このような考え方は便宣的な方法として許される余地があろう。本報告において仮定したPuのウランとの等価性は本報告に示す試算結果に直接影響を有しており,今後Pu燃料の研究開発が進むにつれ、解明されねばならぬ問題である。

 (ホ)リサイクル方式

 本試算においては濃縮プラントは計算の便宣上最終濃縮度を2.5%、廃棄濃度を0.35%とするdual feedまたはsingle feedのプラントを考慮する。

 発電炉の組合せ、濃縮プラントの有無と内容および減損ウランとPuのリサイクル方式における相違によって第3表に説明しているようにA, B, B', C1, C2, C'1, C'2 の7通りのリサイクル系を想定し、第4表の数値を使用して各系における核燃料の所要量を試算することとする。各リサイクル方式は、それぞれ第3図〜第9図に図示されている。

(2) 試算結果

 (イ)核燃料所要量

 核燃料の所要量の計算に際して、ここでは核燃料を初期装荷燃料と補給燃料に分けることにする。燃料交換方式がsingle-batch式である場合のように、このように区別しても無意味であることもあるが、ここで考えているような連続的または準連続的な燃料交換方式の場合には十分意味がある。

 初期装荷燃料とは原子炉の運転開始のおりに、その臨界量とexcess reactivityを確保するために必要な一定量の核燃料および若干の予備のために必要な核燃料を意味する。

第3表 リサイクル方式

 原子炉に装荷された初期装荷燃料は原子炉の運転と同時にまたはそれから一定期間経過後、一定の方式に従がって連続的あるいは間歇的に逐次新しい燃料と交換されていく。この新しい燃料を補給燃料と呼び、補給燃料の装入と同時に炉内から排出される燃料を補給燃料に対応する使用済燃料と呼ぶ。初期装荷燃料はリサイクルされた燃料を含まないfreshな燃料とし、Puおよび減損ウランをリサイクルした燃料は補給燃料に使用されるものとして、前記七つのリサイクル系における核燃料所要量と期待される天然ウランおよび濃縮ウランの節約量を示すと第5表〜第11表のごとくになる。

第4表 計算に使用した数値表

第3図 A方式燃料サイクル

第5表 A方式(天然ウラン型)核燃料所要量(年間量)

第 6 表  B方式(濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第4図 B方式燃料サイクル

第 7 表 B'方式(濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第5図 B'方式燃料サイクル

第 8 表 C1方式(天然ウラン型+濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第6図 C1方式燃料サイクル

第 9 表  C2方式(天然ウラン型濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第7図 C2方式燃料サイクル

第10表 C'1方式(天然ウラン型+濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第8図 C'1方式燃料サイクル

第11表 C'2方式(天然ウラン型+濃縮ウラン型)核燃料所要量(年間量)


第9図 C'2方式燃料サイクル

第12表 各方式によるリサイクルの効果(昭和50年度までの累計量)


 (ロ)リサイクルの効果

 A型炉のみ, B型炉のみ、さらにA型炉とB型炉を半々に開発するという三つの場合について減損ウランとPuをリサイクルしないときの核燃料所要量の試算結果は第12表に示すごとくになる。すなわちA型炉のみを建設すれば初期装荷燃料ならびに補給燃料として昭和50年度までに約23,100トンの天然ウランが必要であり、 B型炉のみを建設する場合は、同じく昭和50年度までに2.5%濃縮ウランの形で約3,200トンが必要で、これを天然ウランに換算すれば約20,900トンとなる。 A型炉、 B型炉を半々に開発することを前提にするならば、天然ウランの形で約11,500トン、 2.5%濃縮ウランの形で約1,600トン、天然ウランに換算した量の合計で約22, 000トンの核燃料が必要とされる。

 減損ウランとPuのリサイクル方式として第3表に示したように七つの方式を考え、それぞれのリサイクル方式について、昭和50年度までに可能な燃料の節約量と節約の比率を第5表〜第11表の数値から試算して第12表に示している。

 天然ウランを燃料とする熱中性子炉の転換率は濃縮ウランを燃料とする熱中性子炉に比較して一般に高いので第12表の試算によれば、 A型炉のみで開発を行なった場合の239Puの生成量は昭和50年度までに13.4トンに達し、 B型炉のみ、もしくはA型炉、 B型炉を半々に開発する場合より多くなっている。このため、 A方式ではPuをリサイクルしてつくられる天然ウランの等価燃料の量が比較的多く、したがって等価燃料を利用することによる天然ウランの節約畳も多い。以上のような理由に基づいて第12表に示す試算結果からは、 A方式で昭和50年度までに所要する補給燃料の量は他のリサイクル方式に比べて最も少なく約5,100トンとなる。ただしA型炉では初期装荷燃料が比較的に多いので、初期装荷燃料を加えた全体の所要量ではBおよびB′方式について少なくなっている。

 A方式の燃料サイクルの利点は補給燃料のために必要な天然ウランを大幅に節約しうることとウラン濃縮プラントを必要としないことであるが、同時にPuをプレンドした等価燃料の使用量も最も多く約6,000トンにも達することになる。このように物量的にはA方式が有利であるように見えるがA方式を採用することの適否は、競合する他の炉型式に比較したA型炉の発電原価とPu添加燃料の成型加工費のいかんに大きく影響されると考えられる。

 B型炉のみで開発を行なう場合には、 A型炉のみの場合に比較してPuの生成量が少なく等価濃縮燃料の量が限定されるとともに、ウラン凍結プラントから一定の廃棄濃度のウランが排出されるため、補給天然ウランの節約という物量的な効果がそれによって制限される。すなわち第12表に示される試算結果からみれば、 B型炉のみを開発する場合のPu生成量はA型炉のみを開発する場合の約40%で, Puをリサイクルしてつくられる等価濃縮燃料はB方式の場合300トン、B′方式の場合348トンとなり、等価濃縮燃料としてPuをリサイクルすることによる天然ウランの節約量はB方式の場合約1,500トン、B/方式の場合約2,000トンでA方式における6,000トンとはかなりの差が生じている。 B方式とB′方式における補給天然ウランの節約量はそれぞれ4,100トンおよび3,700トンで、 A方式の約6,000トンには及ばない。

 B方式およびB/方式によるリサイクルの効果として第12表にあげた数値はすでに述べたごとく、第1表第2表第4表に示されるような前提条件によって導かれているが、一般にA型炉のみによって開発を行なう場合に比較したB型炉のリサイクル系の物量的効果の相対的な大きさは、 A型炉とB型炉の転換率の差、B型炉で期待される燃料の燃焼度、ウラン濃縮プラントの廃棄濃度のいかん等に特に影響されると思われる。経済的な考察を行なう場合には、濃縮ウラン系の発電炉を含むリサイクル系ではウラン濃縮プラントの建設費および濃縮コストが大きな問題となる。濃縮ウラン系の発電炉には少なくとも年々の補給燃料を供給しうる程度の規模のウラン濃縮プラントを随併せしめねばならないとすれば,ウラン濃縮プラントを含む原子炉系では濃縮プラントで使用する電力だけは発電炉の出力が事実上低くなり、濃縮プラントの建設費だけは発電炉の建設費が増したものと考えることができる。また、現在までに各国で研究されているウラン濃縮法によれば、ウラン濃縮プラントは多額の建設費と相当量の電力の投入を必要とするので、濃縮プラントの資本費や運転の電力費を考慮すれば、わが国にウラン濃縮プラントを設置した場合の濃縮費は比較的高い水準になると予想される。したがってわが国にウラン濃縮プラントを設置する必要があるとすれば、濃縮プラントをも考慮に入れたB型炉の発電原価がA型炉による発電原価に比して低廉になり,補給燃料についての物量的効果における不利を十分にカバーして総合的な経済的効果を期待しうるよう、濃縮ウラン系の発電炉の建設費,燃料成型加工費、燃料燃焼度、ウラン濃縮プラントの建設費、分離効率等の要因について検討を続ける必要があると思われる。

 B型炉によるリサイクル系としてここにあげたB方式とB/方式とにおけるリサイクルの物量的効果を比較するならば、 B方式ではPuから濃縮ウランの等価燃料をつくるのに際して天然ウランをブレンドするのに対し、 B′方式では0.96%の減損ウランを使うので、B/方式のほうが等価燃料の量が増し、 2.5%の濃縮ウランと等価燃料を所要の1.84%までうすめるために、B方式では天然ウランを、B'方式では減税ウランを用いるので、B/方式のほうが、2.5%濃縮ウランと等価燃料との合計量は少なくてすむ。これらの理由によって、ウラン濃縮プラントを経てつくられる2.5%濃縮ウランの補給量はB′方式のほうが少なくなる。この反面、 B′方式では減損ウランの余剰が若干生ずるので,これの利用を考えないならば、系に投入される補給天然ウランの量はB方式よりも多くなる。

 第12表には、 A型炉とB型炉を半々に開発した場合のリサイクル方式として取り上げたC1、 C2、C1'、C2'の四つについてそれぞれにおける物量的効果を示してある。これから知られるように、 A型炉とB型炉を半々に設けてその間でPuと減損ウランをリサイクルする系を採用することは, A型炉の高い転換率を利用して物量的効果をあげると同時に、 B型炉による低廉な発電原価を期待しうる場合に意義がある。これらのリサイクル系は第6-9図で説明されているように、リサイクル方法に若干の差があるので、それぞれ期待される物量的な効果にも差があり、系に投入される補給天然ウランの節約比ではC1′、C2、C1、C2′の順に大きく、補給燃料の供給のためにウラン濃縮プラントで濃縮されねばならない2.5%濃縮ウランの節約比では、C2′、C1がC2およびC1′よりまさっている。この四つの系のうちでいずれを選ぶかは、物量的効果のほか、シングルフィードおよびデュアルフィードのウラン濃縮プラントの建設費と運転費、Pu添加燃料の成型加工費、天然ウランの供給価格等の要因によって主としてきまってくる系全体の経済的効果によって判断されねばならないのはもちろんであるが、本試算によればC2′のリサイクル系では補給2.5%濃縮ウランの87%の節約が可能となり、昭和50年度までに97トンを要するのみであることが示されている。

3. 結  び

 以上本報告では、初めに燃料サイクルの考え方と一般的な問題点を述べた。核燃料物質といえども、それが有限な地下埋蔵資源である以上、その中に含まれている核分裂性物質のみならず燃料親物質にも転換によって分裂性を与え、これをリサイクルし、できるだけ有効に利用しつくすことが長期的窮極的な資源の有効利用の見地からすれば望ましい。

 しかしながら具体的にどのようなリサイクル系を採択して開発を進めるべきかということを考える場合には、リサイクル系を構成する諸因子の技術上の発展段階と核燃料の価格その他の経済的諸要素のその時々の水準をも考慮に取り入れねばならない。さらにこれにリサイクル系を実施する背景としての国際情勢もある意味での制約として加えられるであろう。

 周知のように核燃料のリサイクル系は238U-Pu系とTh-233U系とに大別され、さらに系を構成する原子炉の型としては多種多様のものが考えられるほか、ウラン濃縮プラントを系の一部に取り入れるか、あるいは重水のごとき燃料節約的効果をもつ減速材を導入するか等によって、将来のリサイクル系には多くの可能性が生じる。しかし一方において、その可能性には遺憾ながら今日の段階においては多くの不確定要因が存在する。したがって問題の困難性を幾分なりとも軽減するためには,問題とする対象物とその考察の範囲を多少制限することもさしあたってはやむをえない。本中間報告書で重水炉や増殖炉、さらにはトリウム炉について詳細取り扱わなかった理由の一半はこのような事情にも関係している。

 本報告の第2部をなす「核燃料所要量の試算」は、わが国において将来まず最初に開発され実施に移されると一般に考えられている型式の発電炉のみを対象として限定し、これについて238U-Pu系の燃料サイクルを行なえば、核燃料所要量にどの程度の物量的な節約が期待できるかということを,今日入手しうる比較的信頼のおけるデータと仮定をもとにして計算し、それによって燃料サイク/レの効果を検討する辛がかりとしようとした一つの試みである。

 すなわち、選択した発電炉型式はA型(天然ウラン黒鉛減速ガス冷却型)とB型(低濃縮ウラン軽水型)とであって、これが総体として昭和32年12月に原子力委員会が発表した「発電用原子炉開発のための長期計画」に示された規模とパタ-ンの線に沿って開発されるものとし、その際リサイクルの方式としては七つの方式を仮定した。

 試算の結果は前節の第12表に一覧表の形で取りまとめて示し、それぞれについては個々に説明したとおりであるが、ここにその結果をながめて要約を試みるならば概要次のごとくである。

 使用済燃料中の生成Puと減損ウランをリサイクルし再使用することによって期待しうる補給天然ウランの節約量は、昭和50年度までの累計量で約4,000〜6,000トン(リサイクル方式によって差がある。第12表第13欄参照)に及び、リサイクルしない場合の補給燃料所要量に対して40-50%を節約できる(第12表第21欄)。さらにこれをリサイクルの方式別に比較すれば,A方式が他のいずれの方式よりも節約効果が大で(初期装荷畳も含めた所要量に対する節約率25.8%。第12表第22欄)あるが、しかし諸方式間の節約率の開きは最大8%である。この節約率を補給天然ウランだけでみれば、諸方式間の開きは、15.8%に及び、このことは「長期計画」のように開発速度が急速な場合には、初期装荷燃料の影響が大きいことを示している。

 もちろんこの計算にはPu燃料の等価性を初めとして多くのだいたんな仮定と議論の余地のある推定データが用いられているのであるから、結果の数字はだいたいの傾向を示すという程度において解釈されるべきであり、またこのような核燃料の物量的な節約額の多寡のみから各種リサイクル方式の優劣比較やその最終的な選択を速断すべきではない。それぞれのリサイクル方式によって燃料サイクルの費用が異なるのであるから少なくともリサイク/レの経済的効果が判断の一つの基準として取り入れられねばならない。

 この場合低濃縮ウランを使用するB型炉のリサイクル系への導入については、ウラン濃縮プラントに関係する費用についての考慮が特に重要である。一般にB型炉については将来における発電原価低減の可能性が相当大きく期待されているが、一方においては、系に導入されるB型炉が毎年必要とする補給濃縮燃料を供給しうる程度の規模の濃縮プラントを並置する必要があるとすれば、その固定費負担や運転費中に含まれる電力費をマイナス要因として考慮せねばならない。この意味からも今後ウラン濃縮に関する技術的および経済的研調査究がなされることがわが国の核燃料経済を検討する立場からしても望まれる。

 次にA型炉とB型炉とを組み合わせ併用するリサイクル方式は、その意図するところが、 A型炉の高い転換率を利用して物量節約的効果をあげると同時に、 B型炉に期待されている発電原価低減の可能性を有効化しようとする点にある。そのような見地から第12表の試算結果をながめるときに注目されるのは、もし炉型の組合せ比率(試算の場合は1 : 1)とリサイクル方式(試算の場合は4例)とを適当に選ぶならば、補給燃料のためのウラン濃縮プラントを省略してB型炉を運転することもあるいは可能であろうことが示唆されることである。すなわち、この場合の開発パターンとしては、最初A方式で出発し、将来B型炉を導入してC方式のリサイクルを確立するいき方が考えられるのである。

 このことは、開発の初期段階においてはまずA型炉を手はじめとすべしとした「長期計画」の既定方針と同一の線を示すものであるが、同時にまた、 B型炉の技術的進歩と開発の動向を絶えず注目しつつ、わが国における最適燃料サイクルのあり方について常に検討を怠らないようにする必要を痛感させるものである。

 当専門部会は、今回の試算の結果を一つの手がかりとして、リサイクルの効果およびリサイクル方式の選択について、一応以上に述べたような定性的な判断を下したのであるが、最後に今後の問題点に触れるならば,第一にPuリサイクルに関する研究が促進されることが要望される。リサイクルによる核燃料の節約効果が少なくとも物量的には相当大であることが判明したのであるからPuの核的な諸性質に関する研究使用済燃料の再処理、 Pu燃料要素の成型加工等の諸工程におけるPu技術う確立が原子力技術開発の一つの重要でかつ大きな目標であると断じておそらくまちがいはない。第二にPu技術の確立と並行して、リサイクルにともなう費用の検討が要望される。特に再処理費、ウラン濃縮費、成型加工費等に関するコストデータをかため,最適燃料サイクル選択の経済的根拠を明確にすることがたいせつである。もちろんこの種のいわゆる燃料費と呼ばれるもののほかに、資本費、運転維持費をも含めた発電コストの比較、関連設備をも含めた投資効果の問題の解析もなさねば、最終的な検討が終ったとはいいがたい。

 このように燃料サイクルの問題は広範かつ複雑であるので本中間報告に示す試算の結果から直接長期的なリサイクル方式を確定することはまだ時期尚早であるといわねばならない。

 当専門部会は燃料サイクルの問題が有する一般的な問題を集約し、燃料サイクルの物量的な節約について試算の一つを示した本中間報告を最初のステップとして、今後は他の専門部会における関連ある問題についての審議結果をも参考とし、さらに核燃料をリサイクルする技術が確立され、データが判明するにともなって、燃料サイクルの問題の検討を継続する所存である。