核燃料経済専門部会第一次中間報告書の提出について


 核燃料経済専門部会はわが国に最も適した燃料サイクルのあり方を検討することを目的として昨年4月に設置せられ、大山義年氏を部会長に13名の専門委員によって構成されているが、このほど、これまでの審議結果を取りまとめた第一次中間報告書を原子力委員会に提出した。

 第一次中間報告書の内容は全文を本号(23ぺ-ジ)に掲載しているが、やや長文にわたるので要約を示せば次のごとくである。

要   約

 報告書の内容は1部、 2部に分かれ、最後に「結び」が置かれている。

1. 第1部では「1.燃料サイクルの考え方」として、燃料サイクルの概念と意義ならびに燃料サイクルを構成する各因子における問題点等を述べており、いわば燃料サイクルを教科書的に種々な角度から検討したものということができる。

 第1部において注目されることとしては、第1に核燃料の成型加工工程における問題点を述べ、特にPu系燃料に関しては海外の研究状況に触れるとともにPuに関する研究の重要性を強調している点があげられる。

 次いで再処理、ウラン濃縮等燃料サイクルに特に関連の深い分野に関する技術の開発方針にも触れている。発電用原子炉に関する技術にも世界的に開発の余地が多く残されているが、燃料サイクルに関する技術の広範な分野はいまだ開発の初期にすぎず多くの未解決の問題を包含している。このような現状から考えられる方針として、再処理については、「将来わが国に再処理工場が必要となる時期との関連において最も経済的な再処理法が採用されると思われるので、今日は各方法の技術的問題の解決および特色の比較検討を行なって将来に備えるべきである。」としている。またウラン濃縮については、「将来わが国にウラン濃縮施設を建設することの可否および可とすればその時期等を予測することは困灘であるが濃縮施設を必要とする可能性が考えられるので、今日においては各種濃縮法の経済性を検討し、濃縮プラントを含んだリサイクル系の採用の適否を探求することが必要である。」と方針を述べている。

 第1部について注目される第3の点は、燃料サイクルという考え方を採用する意義は結局経済的に判定されるべきであることを示した点である。原子炉内で生成された新しい燃料物質をリサイクルすれば当然物量的な節約効果が期待され、長期的なエネルギー需給の観点からこの効果は重要な意義を持つこととなるが、将来実現すべき対象として考えられる燃料サイクルのパターンとしては多くの可能性があり、その時々において期待される具体的なリサイクル系としては経済性の観点から最適な系が選択されねばならない。その際強調されねばならぬことは、経済性は単に発電原価のみではなく、関連産業をも含めた全体の資金所要量、産業構造の変動および外貨バランスの変化による経済的影響等をも考慮して国民経済的な立場から判断されねばならない。したがって燃料サイクルの経済的意義を評価せんとするときの主要な困難は、考察の範囲がきわめて広範なことと前提となる諸条件が不確定なこととであって、今日のように原子力技術の発展途上にある時期において将来の見通しを立てようとするときには、許容されるような仮定を置き考察の範囲を限定して問題に接近することもある程度やむをえないであろう。

2. 第1部では以上述べたように、広く燃料サイクルの事象一般に考えられる問題点を取り上げて検討した結果であるが、第2部には、今日において比較的信頼のおけるデータに基づいて燃料サイクルの効果を評価せんとした試算を示しており、本報告書の核心をなしている。

 燃料サイクルの効果を判断するには、前述したごとく国民経済的な評価が窮極的には必要となるのであるが、今日の段階で問題を広範囲に取り上げ、計算に必要なデータを求めんとするには多くの困難が伴う一方、発電用原子炉の開発がその緒につこうとしている現在の時点で燃料サイクルの問題の検討成果を示すことは開発方針策定上にも参考となると考えられるので、前提条件を比較的妥当なものにしぼりつつ燃料サイクルによる物量節約的効果を試算したわけである。

 試算にあたってはPuと減損ウランをリサイクルするものとして7種類のリサイクル系を考え、それぞれの系について核燃料の所要量、したがってまたリサイクル前に比較した節約量を試算している。得られた結果はいくつかの前提を置いたうえで燃料サイクルの物量節約的効果を表わすーつの試算として意義のあるものと思われるが、各リサイル系の優劣を知るには、今後経済的効果の検討をも行なって合わせて判断せねばならない。

 第2部の試算結果は本文の第5表〜第11表に各リサイクル系ごとに示してあり、さらに第12表に結果を集約している。これらの結果を得るに至った前提条件は次のように列挙される。

(1)発電炉型式

 天然ウラン黒鉛減速ガス冷却型(A型)および低濃縮ウラン整水型(B型)とする。発電炉に関する要目としては今日比較的固まった設計に対応するデータ(本文第1表)をとった。

(2)原子力発電の開発規模

 昭和32年末に原子力委員会が決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」における開発テンポ(本文第2表)をそのままとり、昭和50年度までの核燃料所要量を試算した。

(3) Puのリサイクルに関する仮定

 Puは使用済燃料から取り出した時点において、ウランとブレンドして発電炉に再使用することが技術的経済的に可能であると仮定する。その際、 Pu はそのなかに含まれる同位元素239Puと同一重量の235Uに匹敵するという仮定を置く。

(4)リサイクル系の種類

 A型のみを開発する場合、 B型のみを開発する場合およびA型とB型を半々に開発する場合を考え、A, B, B', C1, C2, C1',C2'という合計7種類のリサイクル系について考察している。リサイクル系に関する記述は本文第3表に、各リサイクル系の図示は第3図〜第9図に与えられている。

(5)燃料サイクルの所要期間の想定

 燃料の成型加工、再処理、輸送等の所要期間を本文第4表に示すごとく想定し、燃料所要量の算定にあたって前提としている。

 以上のような仮定を設けて試算した結果は本文第12表に示されているが、試算結果に触れるに先だって本試算のねらいとするところを述べるならば、わが国のように比較的急速に原子力発電を開発せんとする場合には初期装荷燃料のウェイトが大きくなり、燃料所要量の算定が経済計算を離れて一つの重大な意義を持つこととなる。さらに、急激な原子力発電の成長を前提としているからには、この燃料所要量の算定にあたっては期間の考慮が必要になる。このような観点からサイクルの所要期間を加味した物量計算の意義を認めたわけである。同時に、本中間報告書の試算にはPuの等価性が大きな仮定となっているが、原子力発電の急速な開発期に得られるPuは同位元素の比率が比較的安定していると考えられるので、このことによって、前記の等価性の仮定は幾分妥当性を主張しうるものである。

 本文第12表に7種類のリサイクル系の効果を比較しているが、詳細は本文に譲ることとして、ここには主要な結果のみを箇条書とする。

(1) A方式(A型炉のみを開発する場合)ではA型炉の転換率が高いことによって補給天然ウランを昭和50年度までに6,000トン節約でき、節約率が最大である。 A方式のリサイクル系を採用することの適否は、競合する他の炉型式に比較したA型炉の発電原価とPu添加燃料の成型加工費のいかんに大きく影響されると考えられる。

(2) B型炉のみによるリサイクル方式としてはB方式(第4図)およびB'式’(第5図)が取り上げられたが、いずれもA方式に比較してPuの生成量が少なくまたウラン濃縮プラントからの廃棄ウランがあるために、昭和50年度までの補給天然ウランの節約量は4,000トン前後になっている。これらのリサイクル系はB型炉の経済性が他の炉型より高い場合に意義があり、その際には、もしもわが国にウラン濃縮プラントを建設するものとすれば、濃縮プラントをも考慮に入れた系全体の経済性が問題とされねばならない。 B方式とB'方式を比較すれば、天然ウランの節約量ではB方式がすぐれ、濃縮ウランの節約量では逆にB'方式がすぐれている。

(3) A型炉とB型炉を半々に開発する場合のリサイクル系としてはC1, C2, C1', C2' の4種を考え、それぞれ第6図〜第9図に示してある。これらはA方式とB方式との特徴をそれぞれ取り入れたものということができ、このようなリサイクル系を採用することは、A型炉の高い転換率を利用して物量節約的効果をあげると同時に、 B型炉による低廉な発電原価が期待できる場合に意義があることとなる。リサイクル方法に若干の差があるので期待される物量的効果にも差があり、昭和50年度までに期待される天然ウランの節約量ではC1'方式が最も大きく4,500トン、 2.5%濃縮ウランの節約量ではC2'方式が最も大きく633トンに及んでいる。この結果、 C2'のリサイクル系で昭和50年度までに必要とする補給2.5%濃縮ウランの量は97トンに過ぎないことが注目される。

3. 最後に「むすび」においては、第1部、第2部の考察から得られる結論を述べている。

 すなわち、まず、燃料所要量の試算の結果は、多くの前提にもとづいているのであるが、リサイクルによる核燃料の節約効果が相当大であることを示しており、今後Puリサイクルに関する研究を促進する必要があると強調している。

 さらに、 B型炉をリサイクル系に採用する場合には、ウラン濃縮プラントを並置するものとすれば、リサイクル系の経済性を評価するにあたって濃縮プラントの固定費負担や運転費中に含まれる電力費をマイナス要因として考慮せねばならないので、この点から、今後さらにウラン濃縮に関する技術的経済的な調査を続けることが核燃料経済を検討する立場からしても望まれることとなる。

 また、 A型炉とB型炉を併用するリサイクル系を考察した結果からは、炉型の組合せ比率とリサイクル方式を適当に選ぶことによって補給燃料のためのウラン濃縮プラントを省略してB型炉を運転することも可能であろうことが示唆されている。この場合、開発パターンは最初A方式で出発し、将来B型炉を導入してC方式のリサイクル系とすることが考えられる。この考えは、開発の初期段階においてはまずA型炉を手はじめとすべしとした「長期計画」の既定方針と同一の線を示すものであるが、同時にまた、 B型炉の技術的進歩と開発の動向を絶えず注目しつつ、わが国における最適燃料サイクルのあり方について常に検討を怠らないようにする泌要を痛感させるものである。

 本中間報告書は検討結果からの結論をこのように述べているが、燃料サイクルの経済的検討をはじめ、なお審議の十分につくせなかった問題のあることを認め、今回の試算結果から直接長期的なリサイクル方式を確定するにはまだ時期尚早であると断わっている。核燃料経済専門部会は、今回の第一次中間報告書を最初のステップとしてさらに審議を続け、燃料サイクルに関する技術が確立しデータが判明するに伴って問題を検討していく方針である。




核燃料経済専門部会第一次中間報告書

昭和34年8月19日

原子力委員会委員長

      中 曽 根 康 弘 殿

原子力委員会核燃料経済専門部会   
部会長 大 山 義 年  

 当部会はわが国に最も適した核燃料経済を検討するため昭和33年4月18日に設置せられ、以来11回にわたって審議を行ない、(1)燃料サイクルの問題の考え方の検討、(2)わが国に適用すべき燃料サイクルの計算方法の検討、(3)燃料サイクルの計算にあたって前提となる諸数値の検討等を並行的に行なった。

 なお、検討を要する問題点は残されているが、これまでの審議によって天然ウラン黒鉛型および低濃縮ウラン軽水型の発電炉の組合せによる燃料サイクルが核燃料所要量に及ぼす影響について一つの試算をとりまとめたので、この段階において第一次の中間報告書を提出する。



目    次

まえがき
1. 燃料サイクルの考え方
(1)燃料サイクルの概念
 (イ)燃料サイクルの意蔑
 (ロ)燃料サイクルの構成因子
(2)技術の現状と問題点
 (イ)核燃料の使用方法
 (ロ)再 処 理
 (ハ)ウラン濃縮
(3)燃料サイクルの効果
 (イ)燃料サイクルの資源的意義
 (ロ)経済面に関する諸問題
(4)炉型式の組合せと燃料サイクル
2. 核燃料所要量の試算
(1)試算の前提
 (イ)発電炉型式
 (ロ)原子力発電の開発規模
 (ハ)燃料の取替方法と燃焼度
 (ニ)Puの評価
 (ホ)サイクル方式
(2)試算結果
 (イ)核燃料所要量
 (ロ)リサイクル効果
3. 結 び


ま え が き

 昭和32年末に原子力委員会が決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」においては、原子力発電の効果を試算する前提として昭和50年までに約700万kWという発電炉の開発規模が想定されているが、具体的な炉型式の組合せに関しては燃料サイクルの見地を重視してさらに検討を行なうものとし、問題を後に残している。

 核燃料経済専門部会はわが国に最も適した燃料サイクルのあり方を検討するために設置せられ、昨年7月以降11回にわたって審議を行なってきた。審議は(1)燃料サイクルの問題の考え方の検討、 (2)わが国に適用すべき燃料サイクルの計算方法の検討、 (3)燃料サイクルの計算にあたって前提となる諸数値の検討等を並行的に行なった。

 本報告においては燃料サイクルについての種々な考え方を整理しまたサイクルを構成する各因子についての現状を把握する意味で、まず燃料サイクルの概念およびその意義ならびに上記の各因子における問題点等を述べた。

 次に燃料サイクルの問題の具体的なアプローチの手段の一つとしてPuと235Uの等価性を仮定した燃料サイクル計算の一つの方法を採用し、上記「長期計画」の開発規模に基づいて天然ウラン黒鉛減速ガス冷却型ならびに低濃縮ウラン軽水型の発電炉を建設し生成Puと減損ウランとをリサイクルした場合の核燃料所要量の物量収支を第一段階として試算した。

 試算の結果は技術発展の今日の段階から得られる諸前提に基づくものとして多くの問題を含んでいることはもちろんであるが、さらに燃料サイクルを形成する多くの要因とそれらの間の複雑な関連を十分考慮するにはなお相当の時日を費やさねばならない。したがって一応得られた試算の結果に関しては、今後技術的ならびに経済的な基礎データがより確実となり、また技術的発展の方向がいっそう正確に予測できるにつれて、さらにより広い視野から検討しなおす必要があると考えられる。

 また、本文中に述べるように燃料サイクルの問題はこのような物量収支のみではなく、経済計算にまで発展することが必要であるし、物量収支の計算にも本報告で述べた方法以外にも種々の方法が考えられる。

 したがって本報告で述べた計算は、あくまでも燃料サイクルの検討の一つのアブローチであって、さらに多くの計算方法を比較検討し、その後経済計算をも合わせ行なって結論を求めるという立場が理想的には考えられる。

 しかしながら燃料サイクルの問題がわが国の原子力開発上の多くの分野に関連を持つことを考慮すれば、発電炉の開発がその緒につこうとする現在の時点において検討の成果を示し、開発方針策定上に参考となるデータを提出することは意義があると思われるので、この段階において一応の中間報告を取りまとめ、試算の結果ならびに残された問題点を示し、今後の発展を期することとした。

1.燃料サイクルの考え方

(1)燃料サイクルの概念

 (イ)燃料サイクルの意義

 核燃料は在来の石炭、重油等の燃料と異なって一般的には原子炉内で完全に燃焼しきることはできない。すなわち炉内には最小限臨界量の核燃料を必要とするし、また核的、冶金的限界から炉内燃料の燃焼には限界があるので、炉内において燃焼を完了した核燃料をそのまま捨てさることは資源的にも経済的にも不経済なこととなる。一方親物質である238U、 232Thは原子炉で中性子を吸収してそれぞれ分裂性の239Pu、 233Uに転換するので、これらの物質を使用済燃料から分離して再使用することは資源的にも経済的にも重要である。

 このように原子炉では使用済燃料中に含まれる減損ウランおよびあらたに生成した239Pu、 233U等の核分裂性物質を分離して再使用する必要があることから、燃料サイクルという考えが提案されている。したがって燃料サイクルは独立した個々の原子炉においてもなりたつが、また多数の異なった型式の原子炉を含む一つの系についても、この系全体としての燃料サイクルが成立することになる。

 要するに一つの原子炉または原子炉系において、物量的にも経済的にも最適であるような燃料サイクルを研究すること、またはこのような意味で最適な燃料サイクルを有するような原子炉または原子炉系を検討することが燃料サイクル研究の目的であるということができよう。

 (ロ) 燃料サイクルの構成因子

第1図 燃料サイクル

 ウラン濃縮プラントを含んだ燃料サイクルの一例を図示すると第1図のようになる。図中に示した原子炉は必ずしも単一の原子炉と考えずに各種の型式の原子炉を含んだ原子炉系と考えることもできる。

 このサイクルに供給される核燃料は天然ウラン、または他の系で生産されたPuである。(この歩合233Uは一応省略する)

 天然ウランはそのまま、もしくは濃縮プラントを通じて濃縮されたのち成型加工工程に送られる。またPuはこの系内で生産されたものと合わせて成型加工工程に送られる。

 成型加工工程には、図の場合UF8を金属ウランに還元する工程、金属ウランを燃料要素に加工する工程、 UF6をUO2に転換する工程、 UO2を燃料要素に加工する工程、 Puを燃料要素に加工する工程等を含む。

 成型加工された燃料要素は原子炉まで輸送されて原子炉内で燃焼される。この場合燃料サイクルの観点から特に問題となるのは、核燃料の燃焼度と転換率である。

 使用済の核燃料は炉内から取り出され一定期間の冷却の後、再処理施設まで輸送され再処理される。再処理によって抽出されたPuは金属の形に還元された後、成型加工して再使用される。減損ウランはその濃縮度により金属またはUO2に転換した後、天然ウラン、濃縮ウランまたはPuと混合して再使用するか、または図のようにUF6の形で濃棺プラントに送って再濃縮した後、成型加工するかいずれかの方法で再使用される。もちろん系によってはPuまたは減損ウランを系内で再使用する以上に生産し他の系に供給することが可能な場合もありうる。

 このように燃料サイクルを構成する各因子について、その収率経費、期間等を推算することが燃料サイクルの検討上必要であるが、現段階ではこれらの各工程は技術的に確立していないものが多く、推算が困難である。

 特にPuの再使用に関する技術は各国とも開発の初期であるので、データを得ることは非常にむずかしい段階にある。

(2)技術の現状と問題点

 (イ)核燃料の使用方法

 核燃料を原子炉内で使用するのには種々の方法がある。すなわち原子炉の型式によって燃料要素の形状が異なり、それぞれに特有な成型加工方式がとられる。またときによっては濃縮ウランやPuをスパイクして用いる場合もあって問題はなかなか複雑になる。

 現在各方面において開発されている原子炉を核燃料の使用形態から分類すると固体燃料と液体燃料とに分けられ、前者はさらに金属型および化合物型に、後者は水溶液型、スラリー型および液体金属型に分類される。これらをさらに被覆材料や製造方式から細分するならば、その分類は多数にのぼるが、それらのうち動力炉として現在実用され、あるいは実用の可能性の強いものはごく限られている。燃料サイクルの見地からみて成型加工工程で時に問題となるのは、成型加工費、歩留り、所要期間等である。以下においては現在最も実用の域に近づいていると思われる天然ウラン金属系と低濃縮ウラン酸化物系の燃料要素ならびに将来その実現が期待されているPu釆燃料について成型加工工程の概略および問題点を述べる。

 Th系燃料も熱中性子増殖炉に関連して将来開発が予想されるが、炉内における実用方法は技術的な研究結果の発表された例が少なく、わが国においても当面はまず238U-Pu系のリサイクルに期待するものとして、 Th系燃料の検討は今後にまつこととする。

 天然ウラン金属系燃料の一例であるコールダーホール改良型燃料要素の成型加工工程は、まずウラン地金を加工して燃料棒とし、一方マグノックス押出棒を加工してキャンとし、キャン内にウラン棒を装入して端栓を溶接して燃料要素とする。黒鉛のスリープを持つもの、ウラン棒が中空のものなどがあって加工工程もそれぞれいくぶん異なるようである。各工程における歩留りや発生クズの比率、加工期間などに関する発表データはほとんどないが、文献に散見する例によれば溶解歩留り93〜96%、鋳造歩留り70〜90%、切削加工歩留り90% (antiratchetting groove)および両端面切断代を含めるとさらに10〜15%低下する)であり、これに検査合格率を考慮に入れると50〜60%またはそれ以下の総合歩留りであると推定される。発生クズには再溶解に回転しうるものと汚染したり酸化したりするので製錬原料にふり向けなければならないものおよび回収不能またはきわめて困難なロス分とがある。

 低濃縮ウラン酸化物系燃料にはジルカロイ被覆のものとステンレス鋼被覆のものとがあるが、一例をしてジルカロイ管型燃料要素の製造工程を述べると、まずUF4を酸溶解してアンモニアを加えて重ウラン酸アンモン沈殿を作り、焙焼、水素還元を経てUO2粉末とするもの、 UF6を直接酸処理する方法または高温水で加水分解する方法などがある。また所定濃縮度のUO2粉末を得るのにその濃縮度のUF6を用いるもの、高濃縮ウランと天然ウランとの混合によるものなどがある。後者の場合混合する段階がまたいろいろ考えられているようである。

 いずれもUO2粉末に少量の、バインダーおよび潤滑剤を加えて十分混和し、プレス成型してペレットを作り、低温加熱および高温加熱によって焼結する。焼結されたペレットをグラインダーによって所定寸法に仕上げる。一方ジルコニウム合金工場では、ジルカワイビレットの真空溶解鋳造ののち、押出、引抜、熱処理、矯正、清浄などの諸工程を経て規定寸法の管を製造し、これにUO2ペレットを装入し、要すれば真空排気、ヘリウム充填またはNaK充填ののち端栓の溶接によって燃料棒を作り、設計に従って数本〜数百本の燃料棒を組み合わせジルカロイまたはステンレスの台座および冷却材の流入のためのオリフィスを取り付けて燃料群体を作る。 UO2粉末製造までの歩留りは90%以上であるが、焼結、仕上加工および検査の工程における歩留りは金属棒製造と大差ないと考えられる。発生クズの回収のためには金属の場合以上に手数がかかるようである。

 加工期間および加工費については、各種の発表があるが、現在は天然ウラン金属系、低濃縮ウラン酸化物系ともに開発の初期段階であるので、技術の進歩と大量生産化に伴って将来加工期間が短縮され、加工費も安くなることが期待される。

 Pu系燃料については現在まだ実用化されているとはいいがたいが、海外で行なわれている開発研究の2、3の例を述べると、高速中性子炉の燃料としてPuを使用しようとするものには、アメリカのEBR、EFFBR、イギリスのFRDなどがある。 EFFBRの燃料要素は直径0.15インチのピン状燃料棒をインジェクション、キャスティングまたは遠心鋳造法で作り、これにジルコニウム合金を被覆する。 EBRおよびFRDの燃料要素も同様な形式であるがFRDでは管状燃料体で被覆材は前者がステンレス鋼、後者がNbおよびVである。

 Puを熱中性子炉の燃料として用いる例にPRTRがあり、これはAl-Puの合金を直径1/2インチのスラブにしてジルカロイ管に収めている。カナダの NPXにおける実験用燃料要素も同型式であるが、後者の被覆はAlである。これらの燃料休は溶融AlでPuO2を還元するとき過剰のAlをルツボ内に入れておいて還元と合金化とを同時に行なって作られ、 Al管内に鋳造してそれ自体スラブとして加工することも行なわれている。またAl-Pu合金を心材とするMTR型の板状燃料要素がいくつかの試験炉で用いられている。これは他のMTR型燃料要素と同様スラブの圧延によって得た心材をAlまたはジルカロイの間にはさんでロールで圧接する方法がとられている。

 PuO2-UO2固溶焼結体の燃料の研究がアメリカのノールス国立研究所で行なわれている。これは高速中性子炉(FOR)に使用が予定されているが、硝酸ウラニルと硝酸プルトニウムの混合溶液にアンモニアを加え重ウラン酸アンキンと水酸化プルトニウムを同時析出させ焙焼、水素還元によってPuO2-UO2混合粉末とし、圧縮成型した後焼結するといわれる。

 またアメリカのロスアラモス国立研究所ではPu-Fe共晶合金(融点410℃)を燃料としNaを冷却材としてTA製の熱交換器を用いる1MWの実験炉を計画している。

 金属プルトニウムは溶融点が低く、変態点が六つもあり、照射損傷をうけやすいので燃料体としての使用に多くの困難が伴うので、合金による改善、他の合金系への分散型燃料として用いる方法、酸化物としての利用、溶融金属として用いる方法などが考慮されているが、いずれの場合もPuはα放射体であり、また有毒物でもあるので、その取扱は遠隔操作でなければならない。

 以上述べたようにPuを核燃料として用いる技術は、各国とも研究段階であるので、加工方法、加工費、歩留り等のデータは未知である。特にわが国では現在まで相当量のPuを得る方法が全くなかったので、この方面の技術開発が連れており、今後はなんらかの方法で試験用のPuを得て、 Puに関する研究を促進する必要がある。

(ロ)再 処 理

 使用済燃料の再処理は燃料サイクルの考察にあたって考慮に入れられねばならぬ一工程であって、技術の進歩とわが国の原子力発電開発の進展に伴い、将来はわが国においても国内で使用済燃料の再処理を行なうことが経済上の理由、外貨節約の要請ならびに核燃料資源確保の見地から必要になるものと思われる。

 わが国において再処理を経済的な規模で開始しうる時期については、 (1)回収した減損ウランとPuの価値、 (2)回収した減損ウランとPuを利用するための技術の開発の見通し、 (3)経済的になりたつ単位再処理工場の能力と再処理費、 (4)原子力発電の開発速度などの因子を総合的に検討したうえで決定せねばならない。 今日までに世界各国において研究されている燃料再処理の方式は核燃料の種類と直接関連しており、たとえばジルカロイ系にはフッ化物分留法、ある種の増殖炉燃料に対しては高温冶金法などが研究されているが、いずれもまだ工業規模で行なえるまでに至っていない。溶媒抽出法は処理費が高い欠点はあるがすべての現用燃料の処理が可能であり、現在の段階では技術的にも最も確立されている。溶媒抽出法の工場の建設費は米国の資料から推察すると、処理能力の0.5乗に比例して増加するから、 Puの臨界量から制約される限度以内でできるだけ大規模な工場を建設して集中処裡することが経済的に有利であると考えられ、同時に天然ウラン燃料ではアルミ・マグノックス系、低濃縮ウラン燃料ではステンレス・ジルカロイ系のいずれでも溶解工程だけをそれぞれ別に設けるだけで、他の工程は同一の設備が使用できる多目的方式をとることが現段階では最もよいと考えられる。

 上記の各再処理法のほか今後はさらに新らしい方法の考案されることも考えられるが、将来再処理工場を建設することが必要となる時期との関連において、最も経済的な再処理法が採用されるに至るものと思われる。今日においてはまずこれらの再処理方法の技術的問題の解決および各方法における特色の比較検討を行なうことによって将来に備える一方、再処理を要する使用済燃料は初期段階においてはその量が経済単位の再処理工場を建設するほど多量にはならないと考えられるので、外国において再処理を行なうかもしくは未処理のまま貯蔵しておくこととなろう。

 (ハ)ウラン濃縮

 ウラン濃縮施設は、天然ウランおよび再処理済の減損ウランを再濃縮するため、燃料サイクルを構成する重要な施設として考慮に入れる必要がある。

 現在、米、英、仏の3国が気体拡散法によって濃縮ウランを生産している。またソ連のウラン濃縮施設も同じ方法によるものと考えられている。今日では濃縮ウランを燃料とする発電炉はまだ開発の初期的段階にあるので発電炉用としての濃縮ウランの需要が確定していない一方、ウラン濃縮施設は巨額の投資と大量の電力を必要とするため、上記各国における濃縮施設はいずれも軍事用もしくは研究用の目的を有するものと考えられ商業的生産のみを目的とするプラントの完成した例はない。さらに、西独では遠心分離法ならびにノズルを利用した気体拡散法の改良を研究しており、ウラン濃縮工場の建設を計画しているユーラトムを通じてこれらの方法による濃縮ウランの商業的生産を考慮していると伝えられる。

 わが国で採用すべき燃料サイクルを明確に描くことは、今日の段階ではまだ困難であるが、将来濃縮ウランを使用する発電炉が相当数設置せられ、年々かなりの濃縮ウランが需要されるに至ったときは、エネルギー源の供給の安定を図る観点からは、わが国自身の手でウランの濃縮を行なう必要が生ずると考えられ、また天然ウランの使用済燃料からの減損ウランを濃縮ウランにブレンドしたり、低濃縮ウランの使用済燃料からの減損ウランを再濃縮もしくは濃縮ウランとブレンドするという方法をとることにより濃縮プラントが燃料サイクルの輪を完結するために必要となることも考えられる。

 このように将来のわが国におけるウラン濃縮施設の必要性は、今後建設される発電炉型式やリサイクル方式のいかんとともに決定されるべきものであるが、特にわが国情を前提として考えれば、建設費の少なく、工程における使用電力量の少ないことがウラン濃縮施設建設の可否を定める重要な因子となろう。このように将来わが国においてウラン濃縮施設を建設することの可否および可とすればその時期等を予測することは今日では困難であるが、発電炉開発の趨勢からみればやがて低濃縮ウランを燃料とする炉型式の開発が進み、また減損ウランのリサイクルに濃縮施設を利用するようになる可能性もあると判断される。したがって今日においては将来の必要にそなえて、各種ウラン濃縮法の経済性を検討し、濃縮プラントを含んだリサイクル系の採用の適否を探求することが必要である。

(3)燃料サイクルの効果

(1)燃料サイクルの資源的意義

 燃料サイクルの見地からわが国に最も適した原子炉系を研究するのが当専門部会の当面の審議事項であるが、この場合前述のように燃料サイクルの問題の検討にあたっては資源的と経済的との二面を考えなければならない。

 核燃料がエネルギー源であるという見地からは燃料サイクルの資源的意義を見逃すことはできない。

 すなわち、 235U、 233U、 239Pu等の核分裂性物質および238U、 232Thなどの燃料親物質を有効に再循環利用することによって、一定のエネルギー量に対して系に投入される核燃料の量を最少とするような原子炉系を研究することは、時にわが国のように化石燃料の賦存が少なく核燃料資源の豊富とはいえない国にとっては重要なことである。

 また世界的に見ても核燃料資源の埋蔵量は有限であるから、これをできるかぎり有効に利用する努力は原子力技術発展の一つの大きな目標であるといえよう。

 以上のような見地からは増殖炉を含む原子炉系を開発することが長期的には重要な意義を持つものであって、米、英、仏等の原子力利用における先進国が、 Puを燃料とする高速中性子増殖炉、 233Uを燃料とする熱中性子増殖炉等を開発しているのはこのような努力のあらわれであると考えられるが、このうち233Uを燃料とする熱中性子増殖炉は天然に賦存している物質232Thの有効利用の意味を持つものである。

 一般に炉内で生成される核分裂性物質239Puまたは233U量は燃料転換率U(γ)で評価することができる。通常の熱中性子炉においてはγ<1であり、リサイクルによってエネルギーに転換しうる核燃料物質の量は初期の核分裂性物質の量をaとすればa /(1-γ)となる。たとえば天然ウラン炉においてはa=0.7%であるから、γ=0.8とすればa/(1-γ)=3.5%となるわけである。

 増殖炉ではγ> 1であるから理論的には炉内で燃焼した核分裂性物質以上に238U、 232Th、が239Pu、 233Uに転換する可能性がある。このように原子炉では炉内で核分裂性物質が燃焼すると同時に新たに核分裂性物質が生じ、時に増殖炉の場合には燃焼する量以上に炉内で生成する可能性があるので、資源の有効利用の見地からは化石燃料に見られない大きな特徴を有している。

(ロ) 経済面に関する諸問題

 上述のように物量的に核分裂性物質を有効に利用することは重要であるが、リサイクル系の採用にあたっては経済的見地を無視することはできない。

 すなわち核分裂性物質をリサイクルすることがリサイクルしない場合に比して経済的に有利であるかどうかを検討することが重要である。

 このことは狭義には再循還費を含めた燃料費すなわち燃料サイクルコストが、再循環しない場合の燃料費に比して安くならねばならないことを意味するが、現段階では燃料費最低の条件とこれに資本費等を加えたエネルギーコスト、たとえばkWhあたりの発電原価の最低の条件とは必ずしも一致しない。したがって最適の原子炉系を選ぶにあたっては、単に最低の燃料費のみに着目して一義的に定めるわけにはいかず、全体の発電コストの面をも考慮しなければならない。

 一般に原子力発電の経済性を検討する際には、ある特定の原子炉についてある特定の時点における発電原価を推算し、これを他の電力原価と比較対照してうんぬんするということが行なわれている。単一の発電用原子炉における原価の推算においては、燃料サイクルの観点は使用済燃料中の核燃料物質に対するクレジットの付与という形で通例考慮される。しかしながら、われわれがここで対象とする問題は原子力開発の初期に始まって将来相当長期にわたる間、多数の原子力発電所がある成長のパターンに従って開発されていく場合の一つの原子力発電体系としての核燃料コストの経済性である。したがって原子力発電事業の企業経済的考察に加えて、さらにわが国における原子力産業の発展という国家経済的な観点が加味されるべきである。

 この場合体系を構成する原子力発電所に採用されるべき炉の型式は対象期間の初期および後期において必ずしも同一ではないことが予想され、またある特定の炉から出てくる使用済燃料は必ずしもそれが出てきたもとの炉に再装入され利用されるとは限らない。さらに燃料の使用済の時点と再使用の時点との間には、ある時間のおくれがある。しかもこのような燃料サイクルのループには発電部門以前の諸産業部門における経済、すなわち使用済燃料の化学処理や成型加工の諸過程における費用が発生する。したがって燃料サイクルの経済計算は時間的要素をも入れて考え得べき種々の組合せを取り扱わざるを得ないため、必然的に多岐にわたり、その間金利を考慮した複雑な費用計算を行なわざるを得ないことになる。

 コスト計算を数量と単価の積という形で捕えるならば燃料サイクルのそれぞれの原価場所における物量の時間的変化と、その物量に乗ずべき単位コストとを知る必要がある。前者は核燃料所要量の計算であり、後者はウラン濃縮の費用やPuの価値評価をも含めての核燃料価格や燃料要素の成型加工費、再処理費、輸送費等の単価の推定である。

 しかるにこの両者はいずれも多大の不確定要因を包蔵している。原子力発電ならびに関連諸産業の技術が今なお開発の初期的段階こあって、今後の予測困難な技術進歩が期待される一方、核燃料物質の取引に国際的にもまた国内的にも制約があって自由市場が存在しない現在においては、数量および価格の双方における不確定要因の存在はやむをえないところである。

 しかしこれらの複雑性および不確定性の困難にもかかわらず燃料サイクルの経済性を開発の初期において検討しておくことは、発電用原子炉開発の長期的問題の方向づけをする上にきわめて重要である。この場合経済性の検討の目的は、拡大の規模や炉型の組合せ等を内容とする各種の開発パターンについて経済比較を行ない、最適な選択を行なうことにあるが、それでは何をもって最適の選択とするかということがまず考えられねばならないであろう。

 まず考えやすいのは原子炉内の燃料消費計算のほかに成型加工および化学処理の段階や、さらにウラン濃縮の段階をも含めた燃料サイクルの各部における数量とコストの計算を行なうことで、これは燃料費の極小化という基準による燃料サイクルの選択を意味している。

 いうまでもなく原子力発電のコストは燃料費のほかに資本費や運転維持費を含む。したがって前にも述べたようにかりに燃料費極小のサイクルが明らかにされたとしても、それが必ずしも発電コスト極小の燃料サイクルになるとは限らない。たとえば天然ウラン重水炉を採用すれば核燃料の消費、したがってその燃料費は他の型式のそれより少なくなるといってよいが、資本費、運転維持費も含めた発電原価の比較においては必ずしも最低コストになるとは限らない。この見地からは発電原価を極小とする燃料サイクル系が追求される。

 また燃料サイクルのループを国内と国外とに区分し、燃料物質の要輸入額、あるいは所要外貨量を求めてこれを極小化するという立場も燃料サイクルの一つの選択基準であるといえよう。

 さらにまた、設備資金の所要量に着目して問題に接近する考え方もある。すなわちわが国の金融市場の現在および将来からみて、ここ当分産業設備資金の需要は供給を上回り資金調達の問題は無視しえないであろう。したがって外貨導入をも含めて毎年の所要資金額がわが国の全般経済の成長と見合い、バランスのとれたものであるような燃料サイクルを選択するという立場も軽視できない。

 わが国に最も適した原子炉開発のパターンを選択するという見地からは単に物量的または燃料費の最低な燃料サイクル系を選ぶだけではなく、問題を国民経済の立場から取り上げなくてはならないものであって、理想的には発電コスト、関連産業をも含めた全体の資金所要量、産業構造の変動および外貨バランスの変化による国民経済への影響等、ひとしく国民経済に関する問題ではあるが、それぞれ質の異なったことがらを正当に評価する努力が必要である。このことはたとえば、国民経済の安定成長、完全雇用等の実現への寄与というようなものさしによって同一次元にひきなおして評価する方法も考えられるであろうが、経済政策に関連する重要な問題といえよう。

(4)炉型式の組合せと燃料サイクル

 核燃料をリサイクルすることによって期待される効果としては、前節に述べたとおり、核分裂性物質と親物質との有効なエネルギー的利用ならびにリサイクル系全体の経済的効果があげられる。これらの効果は国民経済的見地から長期的に期待されるべきものであることはいうまでもないが、同時に使用される核燃料ならびに親物質、炉型式さらにリサイクル系に参加する濃縮施設や再処理施設等の取捨選択のいかんによってリサイクルの方法に多くの可能性が考えられるので、各国が与えられている環境を前提として最も有利な効果がリサイクルによって期待されるよう長期的かつ総合的な観点からリサイクル系を選定する必要がある。

 したがって原子力発電を志している各国はそれぞれ自国に最も適した燃料サイクルを確立することを目途として種々の研究実験、開発方式の検討等を行なっているが、この分野ではその国のエネルギー事情、天然資源の保有量とその開発状況、既存の工業水準とその特長等の因子が基本的なものであるためにそれぞれの国によって考え方に大さな相違が見い出される。他方このような燃料サイクルの系を構成すべき原子炉、再処理施設成型加工設備等は現在急速な発展の途上にあるので、燃料サイクルというような比較的長期にわたるペき問題を確固たる基礎的事実の上に立って考えることはむずかしく、これらの原因からまたいずれの国も確定した構想をもってこの問題に望んでいるものはない。

 しかし、前に述べた燃料サイクルの二つの目的のうち、いずれに重点を置いているかという程度のごく概念的な点から各国の燃料サイクルに対する考え方を検討することは一応可能で、このような見方をすれば、資源的面に重点を置いていると見られるイギリスと、発電原価の低下を優先的に考えているアメリカとが対比的なものとしてあげられよう。

 すなわち、イギリスで考えられている天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉からのPuにより、高速中性子増殖炉を含むPu-238U系をスタートし、これから得られる余剰のPuの燃焼用として高温ガス冷却炉(HTGCR)を使用するという例は、一つの系に専念して、天然資源が貧困でエネルギー事情の悪い状態からぬけ出そうとするイギリスの努力を端的に表現するものと居ることができる。

 これとは全く反対にアメリカでは発電原価の低下がどのような系で最も早く到達できるかを確かめるために、高速中性子増殖炉、熱中性子増殖水均質炉等、燃料サイクルの中心となるべき原子炉型式の開発に同時に手を付けている傾向が見られる。

 これら両端の中間としては、カナダがその独特な重水減速炉を開発して天然ウランを一回通過系で十分に燃焼さす方向に努力していることおよびスウェーデンは、カナダと同様、重水減速炉でスタートはするが、その主要な利点として重水炉での燃料インベントリーが少ない点を重視していること等があげられるであろう。

 以上各国における考え方の概略を述べたが、わが国において燃料サイクルの観点から合理的に原子力発電を開発せんとする場合にも、各炉型式がリサイクル系のなかで果す役割とこれらの原子炉の技術的な開発段階のずれとから、いくつかの炉型式を時間的に組み合わせていくことが考えられる。

 原子炉をリサイクル系のなかで果す役割からみて大きく区分すれば、ごく大まかに燃料サイクルをスタートするための炉、 Puまたは233Uにより運転する熱中性子炉(非増殖型)、熱中性子ならびに高速中性子増殖炉という区分が考えられる。

 現在種々の発展過程にある原子炉を上記の三つの区分にあてはめて見ると、

 スタート用の炉としては天然ウランのみを使用する場合には、黒鉛減速および重水減速の熱中性子炉-たとえば、コールダーホール、 NPD_濃縮ウランをも使用する場合には、上記2型式に加えて軽水減速および有機材減速の熱中性子炉-たとえば、 SGR、 DNR、PWRおよびBWR、 OMR-がこの範囲に属する。

 非増殖型のPuまたは233Uの燃焼炉としては、特に現在このためだけに開発されているものはないが、これら人工核分裂性物質を燃料体として使用するための技術的開発が進めば、前項の低濃縮ウランを使用するスタート用の炉は核的または熱的設計をいくぶん変えることによって、すべてこの目的に使用しうると考えられる。もちろんこの場合これらの人工核分裂性物質を一様に混合するか、スパイクするかによって原子炉の型式はかなり変ってくるかもしれず、ある場合には天然ウランを使用するスタート用の炉にスパイクするのが最も良いという結論が出るかも知れない。

 熱中性子増殖炉として現在有利であると考えられているのは水均質炉、たとえばHRTで、最も良い増殖利得を得るには親物質としてトリウムを使用することが望ましいと思われるが、これは種々な点で未開発の分野が多い。

 高速中性子増殖炉は当然、最終的にはPuを燃料とするものになるべきであろうが、現在はこれに属すべき非均質型のもの-たとえばEBR-および液体金属燃料型のもの-たとえばLMFR-はともに高濃縮ウランを使用している。

 以上横に組み分けた各種の炉を燃料サイクルの系に組み込むには当然非常に多数の組合せが考えられるが、前述したイギリスの構想であるスタート用として天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉、 Pu循環炉として高温ガス冷却炉、増殖炉として高速非均質型という組合せもその一例であり、またスウェーデンが考えているスタート用として重水減速炉、 Pu循環炉としても上記の重水減速炉の設計を変えたもの、増殖炉として高速非均質型という組合せもその一例である。

 さらに普通に考えられる組合せとして、天然ウラン黒鉛減速ガス冷却炉でスタートし、軽水炉をPu循環炉とし、高速非均質炉を増殖用とする組合せ、またTh低濃縮ウラン軽水炉からスタートし、 233Uを同型の炉に循環させ水均質炉を熱中性子増殖炉とする組合せもあるであろう。

 しかし、いずれの場合にもスタート用の炉からの人工核分裂性物質を熱中性子炉で循環さすべきか、増殖炉に使用すべく蓄積しておくか、またおのおのの範囲に属する炉をどのような時期にどのくらいの割合いで建設すべきか等の問題は、エネルギー需要の増加速度と発電用原子炉技術の開発速度との相対的な関係からきまってくるものと思われる。

 したがって、これらの動向を常に調査検討しつつ、国情に最も適切と思われる燃料サイクルの構想を基礎として、開発計画を適時修正していくことは、一国の原子力開発に必要不可欠のことである。