放射性廃棄物の海洋投棄に関する
国際原子力機関パネル第3回会議


 放射性廃棄物の海洋投棄に関するパネルの第3回会議は、昭和34年6月24日から6月30日までオーストリア国ウィーンのIAEA本部において開催された。このパネルにはプライニールソン委員長のほか米国、フランス、オランダ、スウェーデン、チェッコスロバキア、日本(斎藤信房東大教授)、英国、カナダ、インドからの科学者各1名(チェッコは助手1名をともなって来会)、WHO、FAOの代表が出席し、UNESCOは今回も代表を送らなかった。パネルメンバーは前回と全く変らず、ティト氏ほかのIAEA事務局側も前回と同様であった。なお、短時間ではあったが、ゲストとして国連科学委員会事務局のアブルヤード氏、米国スクリップス海洋学研究所レベール博士が来会し、それぞれ本パネルの仕事に対し有益な助言を行った。

 今回の会議においては、委員長司会のもとに5日間の総会を行い、また半日間の部会を行ったが、総会においては本パネルの作成しつつある報告書草案の逐条審議を行い、部会においては米国のプリチャード、英国のハウエルを中心として海洋投棄に由来する放射線量をどの程度にすべきかについての討論が行われ、特にICRPの新勧告を本パネルの報告にどのように取り入れるかについての意見が交換された。本パネルの報告書草案は、7章から構成されているが(第4巻第7号29ページ参照)、今回特に新しい章を加えることなく、各章ごとに多くの改変が行われた。ただし、まったく新しく加えられた節があり、これは海洋の性質に関する章のうち、海洋沈積物に関する節で、斎藤教授が提案し、執筆した。海洋沈積物に関する知識は、海中から海底への元素の移行に関連してきわめて重要であるからである。

 報告書の付録の草案については、専門家向のデータが多いので、その内容について活発な議論が行われたが、いまだ相当に改変を要する箇所が多く、また未完成のままに残された部分もある。これらについては、モナコ会議直後最後的な加筆修正が行われて完成される予定である。

 今回の会議では、本パネルの結論、勧告の草案を起草することが試みられたが、その内容のうち注目すべき点は、 1)海洋投棄に二つの場合があることを明らかにしたこと、 2)海洋に投棄した放射性廃棄物から由来する線量についてある限界を考えたこと、 3)海洋投棄に対する登録およびモニタリングの方法の標準化を勧告したこと、などであるが、特に1)については、多くの沿岸水に対する投棄のように、一つの国のみが影響を受ける場合のほか、原子力船からの投棄のように、多くの国に影響があり、たとい一国が国内法を作って自国からの海洋投棄を厳重に制限しても、公海における投棄や特定港における原子力船からの投棄などによって影響を受け、国内法規によっては海洋汚染を防ぎえない場合があることを明らかにし、海洋投棄の問題の国際性を強調している。 2)については、いまだ問題があり、十分決定的な結論を得るに至らないが、日本のように世界のほかの国よりも海産物を多量に食用に供する国においては、特にこの問題に留意すべきことを明らかにしているのは注目すべきである。 3)については海洋投棄の登録をIAEAが行うことを勧告し、そのデータは各国政府が供給すべきこと、各国が定めた海洋投棄を行う区域の設定や投棄についての許可条件などは、投棄が実際に行われる以前に十分の余裕をもってIAEAに通知すること、海洋投棄を行っている各国の政府はすべての海洋投棄箇所の状況について、次の事項を毎年IAEAに報告することなどを勧告している。すなわち1)海洋投棄を行っている箇所についての投棄許可条件の変更、 2)過去1年における投棄の全体量と投棄物の性質、詳細な内訳表は不要であるが放射能全量、包装の方法、最も危険な放射能の量、性質などについては記載すること、 3)モニタリングの計画およびすべての科学的資料である。

 なお、原子力船に関してはそれから出される廃棄物はすべて適当なレコードブックに記入されて港の関係者の点検に便ならしめること、この記録の抄録を毎年船を保有する国の関係官庁に提出し、さらにIMCOに回送することなどを勧告している。

 また、これらのパネルの結論や勧告(草案)は、放射性廃棄物や海洋に関する現在の知識にもとづくもので、新しい資料や新知識が集積されるとともに定期的に改変修正を要するものであることを述べている。終りに放射性廃棄物の投棄に関連ある重要な分野の研究が進められることの必要性を強調し、この問題の解決に国際的努力が必要であることをうたっている。

 ゲストとして来会したアブルヤード氏はICRPの新勧告の取入れ方について、国連科学委員会の立場から種々意見を述べ、スクリップス海洋学研究所レベール博士は、モナコ会議の行い方についての一般的勧告および海洋における水および元素の循環などについての説明を行い、いずれもきわめて有益であった。

 会議中にモナコ会議の内容について事務局側から説明あり、放射性廃棄物の地中埋没または投棄と海洋投棄の2部会を平行して行うこと、海洋投棄の部会においては本パネルメンバーは会議を能率よく推進するために努力することなどについて話合いが行われた。

 本パネルの第4回会議はモナコ会議の直後に開かれる予定であるが、その詳細については未定である。本パネルの任務は第4回会議をもって一応終了し、IAEAの理事会、総会に対してパネル報告が提出される予定である。