原子力委員会

 日本原子力研究所が行う水性均質臨界実験に関する装置、使用方法および操作方法について内閣総理大臣に答申を行った。放射性廃棄物の海洋投棄に関する国際原子力機関第3回パネル会議が開かれた。原子力施設周辺地帯整備懇談会が原子力施設を設けた場合の周辺地帯の諸施設整備施策について第1回会合が開かれた。またコールダーホール改良型原子炉の設置にともなう安全問題に関する公聴会が開催されたが、この席上における各公述人の公述内容を別冊資料として添付した。

原研水性均質臨界実験の安全性に関する原子力委員会の答申


 日本原子力研究所が原子炉開発に関する研究の一環として、茨城県那珂郡東海村日本原子力研究所東海研究所において行う水性均質臨界実験について、原子力委員会は昭和34年6月26日付をもって、その安全性について諮問を受け、審査を重ねた結果、昭和34年8月18日付で中曽根委員長から岸総理大臣あて次のような答申を行った。

 なお、この実験は、核燃料物質の使用の許可のために申請されたものであるが、臨界実験としては、わが国最初のものであり、政府としてはその許可を行う上に万全を期するために原子力委員会に意見を求めたものである。

34原委第62号
昭和34年8月18日

内閣総理大臣
岸  信 介 殿

原子力委員会委員長
中 曽 根 康 弘

日本原子力研究所の水性均質臨界実験の安全性について(答申)

 昭和34年6月26日付をもって諮問のあった標記の件について、この実験に係る核燃料物質の使用許可申請書により、実験装置の安全性の外に、その具体的な使用方法、操作方法等について審査を行った結果、下記のとおり答申する。

1. 臨界実験装置の安全性

(イ)装置の概要

この実験に使用される臨界実験装置の本体は球形の炉心タンク(アルミ製、内面ポリエチレン被覆)のまわりに球形のブランケットタンク(アルミ製)をもつ装置であり、炉心タンクには硫酸ウラニルの重水溶液、ブランケットタンクには酸化トリウムの重水スラリーが入っている。装置にはこの外、各種の附属タンク、中性子計測系装置、安全制御系装置が附属し、中性子計測系装置を除く大部分は鉄製のコンテーナー内に設備される。また、コンテーナーの大半は地下に埋められ、その地上部分は3方向が厚さ120cm、 1方向が厚さ60cmの遮蔽用コンクリートで遮蔽されている。

(ロ) 炉心の核的安全性

 この装置の炉心は、均質の重水素であって,中性子寿命が軽水系の10倍以上長いので、超過反応度が軽水系の10倍になっても、炉周期は同程度にとどまり、この装置の安全性を増加している。

(ハ) ブランケットにスラリーを入れた場合の安全性

反射体が1, 000g ThO2/lD2Oの場合の臨界量はU-235で約2kgであるが、純粋な重水の場合の臨界量は約その1/3となるので、スラリーよりの酸化トリウムの沈降は大きな超過反応度を与えることが予想される。
 そのため、ブランケットに重水スラリーを入れて行う実験については、日本原子力研究所において酸化トリウムの沈降に関する十分な試験を行い、その結果に基き、あらためて、安全性を検討する必要がある。

(ニ) 暴走に対する評価

制御板で制御しうる反応度は重水ブランケットの場合は13%、1,000gThO2/lD2Oスラリーブランケットの場合は2%である。仮に、事故によって1%の超過反応度が段階的に加えられた場合を考えると約0.5秒の炉周期で出力をましていって、数秒後に約200kWのピーク出力値に達し、その後、出力値は急速に低下し、そのバーストの際の全エネルギー発生量は300kW秒程度と思われる。
 この程度のバーストは安全性の点で特に問題とはならない。また、炉心容器は±1気圧の設計になっているが、KEWBのデータを参考にして考えると、1%のステップでは殆ど圧力変化を生じない。
 万一更に大きな反応度が入り、燃料液が系外に出た場合でも外側には気密性のコンテーナーがあり、外部に対する危険は防止されている。

 (ホ)その他

 この種の臨界実験装置にあっては炉心液およびブランケット液の注入および排出方法がその安全性に大きな関係を有するのが、この装置にあっては注入バルブが二つ直列に、また、排出バルブが二つ並列に入っており、安全性を増している。

2.立地条件

 この臨界実験装置は東海研究所の原子炉開発試験室内に設置される。その設置場所から最も近い原子力研究所の建物(ホットラボラトリー)は約50m、研究所以外の建物(村松小学校)は約350mはなれているから安全性は確保されるものと認められる。

 なお、開発試験室は気密建物ではないが、放射線に対しては十分な遮蔽が施されたものと認められる。

3.技術的能力

 この臨界実験装置の運転に当っては、運転管理責任者1名、同代理1名、運転担当者3名、燃料管理担当者2名および健康管理責任者1名がこれに当ることになっているが、その人員、分担および技術歴から考えて、この臨界装置を適確に使用するに足りる技術的能力があると認められる。

4.運転管理

 本臨界実験装値に使用する燃料の保管について定められている方法は、十分妥当なものと認められる。また、ブランケットに重水を入れて行う実験の場合を除けば燃料の充填作業および臨界接近の方法については、前述の安全性および技術的能力よりみて十分安全に行い得るものと認められる。

 なお、本実験の関係者以外の者が、あやまって装置に近づくことは、災害の防止および燃料の保全を期する上から望ましいことではないので、同試験室への立入りの制限等適当な考慮を払うことが望ましい。

5.結論

 この臨界実験の安全性に関する以上の諸事項を総合判断した結果、申請書に記載された実験のうち、ブランケットに重水スラリーを入れて行う実験を除いては、安全性は十分確保され得るものと認める。

 なお、ブランケットに重水スラリーを入れて行う実験については、日本原子力研究所におけるスラリーの沈降に関する試験研究に基く許可申請をまってあらためて安全審査を行うべきである。