国際見本市展示用原子炉の設置に関する原子力委員会の答申

規制法の許可基準に適合と認定


 国際見本市で運転展示されるアメリカ合衆国原子力委員会の軽水減速濃縮ウラン不均質型原子炉の設置について、原子力委員会は3月18日付で諮問を受け、審議をかさねた結果、3月27日付で高碕委員長から岸総理大臣あて次のような答申を行った。

アメリカ合衆国原子力委員会の軽水減速濃縮ウラン不均質型原子炉の設置について(答申)

 昭和34年3月18日付をもって諮問のあった「アメリカ合衆国原子力委員会の軽水減速濃縮ウラン不均質型原子炉の設置」について審議した結果、下記のとおり答申する。


 アメリカ合衆国原子力委員会が展示の目的をもって東京都中央区晴海町晴海埠頭1959年東京国際見本市晴海会場アメリカ原子力特設館に設置する軽水減速濃縮ウラン不均質型原子炉(熱出力0.1W)の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、おのおのの基準の適用に関する意見は、別紙のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号の許可基準の適用に関する意見

(平和利用)

1.当該原子炉は、昭和34年5月5日から同年5月22日までの期間に開催される1959年東京国際見本市において、在日アメリカ大使館の監督のもとに一般観衆に公開展示することを目的とするものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2.原子炉および燃料は、アメリカ合衆国原子力委員会の負担において、アメリカ合衆国から搬入され、かつ一定期間内の展示に使用されるので、当該原子炉の設置、運転がわが国の原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3.原子炉の設置その他運転等に要する経費(約54,000千円)は、アメリカ合衆国原子力委員会の予算から支出されることになっており、所要経費の資金調達に問題がないものと考えられるので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があると認める。

(技術的能力)

4.アメリカ合衆国原子力委員会の責任と在日アメリカ大使館の監督のもとに、原子炉の設置、運転を行うことになっているアメリカン・スタンダード会社は、当該原子炉の製作者であり、かつ、同型式原子炉については設置、運転の経験もあるので、適切妥当な実施者と考えられる。

 また、具体的に、原子炉の設置工事の監督は当該原子炉の製作監督者がこれに当り、かつその運転はアメリカ原子力委員会の認める原子炉運転許可者2名が主体となって行い、そのうち1名の者は原子炉主任技術者に相当する資格をも有しており、原子炉の設置、運転は適確に行われるものと考えられるので、原子炉を設置するために必要な技術的能力があり、かつ原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

(災害防止)

5.原子炉施設の位置、構造および設備については、次の検討結果により、核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

(1)原子炉の安全性

 当該原子炉は、

 (イ)熱出力(0.1W)および過剰反応度(0.25%)がきわめて小さく、また負の温度係数(−0.008%/℃)を有し、仮に制御装置および安全装置が作動しなくとも、原子炉出力はある値で飽和し、炉心部の損傷発生の可能性がなく、したがって外部に対する障害の起る恐れがないこと。
 (ロ)制御装置および安全装置の機能は十分であること。
 (ハ)放射線遮蔽が十分に行われること。(原子炉遮蔽の表面における放射線強度0.2m rem/h)
 (ニ)原子炉の上部構造は簡単かつ軽量であるので、本計画の炉心構造および基礎構造をもって耐震性は十分確保されること。

 等のためにその安全性は高いものと認められる。しかも本原子炉は定格出力で運転する以外に特別な実験は行わないので、原子炉の特性が変化を受けるようなことはない。

 なお、本原子炉の安全性はすでに米国原子力委員会から運転許可を受けた原型炉(UTR−1、出力1W)の実際の運転について確認されているほか、本原子炉と同型式のBORAXおよびSPERTの暴走試験により、その安全性が実証されている。

(2)廃棄物処理と放射線管理

 原子炉の運転にともなう放射性廃棄物の生成は皆無に等しいので、廃棄物による障害が起るとは考えられず、また原子炉周辺の放射能管理計画も適当なものと認められる。

(3)一般住民、観衆および一般会場勤務者に対する障害

 原子炉の位置から民家までの最短距離は約500メートルであり、原子炉の安全性と相まって一般住民に対する障害の発生はないものと考えられる。さらに−般会場勤務者および会場の見学者に対しても、原子炉の運転に直接起因する障害の恐れがないのみならず、予想される多数の見学者の混雑防止についても必要な措置が計画されている。なお、原子炉本体および制御盤に接近して、原子炉の運転状況の観察を許される者は、原子炉について相当程度の認識を有するごく少数の者に限定するなど、観衆に対する障害防止の対策は十分であると認められる。

(4)その他

 火災、高潮、浸水等の場合についても検討したが、安全性に関して、特に問題がないものと考えられる。

(損害賠償)

6.なお、申請者から、当該原子炉に関し、全面的に責任を負う旨の申出もあるので、原子炉の災害による第三者に対する損害賠償も保証されている。