昭和33年第11回

原子力委員会参与会


〔日 時〕昭和33年12月11日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕東京都千代田区永田町 総理官邸

〔出席者〕稲生、井上、大来、倉田(代理駒井)、瀬藤、高橋、中泉、伏見、松根、三島、山県、脇村各参与
 石川、有沢、兼重、菊池各原子力委員
 篠原事務次官、佐々木局長、法貴次長、島村調査官、藤波管理課長ほか担当官

〔議 題〕

 1.核燃料開発に対する考え方(案)について
 2.原子力関係科学者技術者に関するアンケートの集計結果について
 3.その他

〔配布資料〕

 1.核燃料開発に対する考え方(案)
 2.原子力関係科学者技術者に関するアンケート集計表
 3.東海大学原子炉の設置について
 4.東海大学における原子炉の設置に関する質問主意書
 5.東海大学における原子炉の設置に関する質問に対する答弁書
 6.関西研究用原子炉設置計画の審査について
 7.動力炉調査専門部会の設置について
 8.原子力災害補償についての基本方針
 9.原子力災害補償専門部会の設置について
 10.原子炉安全審査専門部会専門委員の追加について
 11.第10回参与会議事録
 12.国産1号炉燃料要素の製造方針

1.核燃料開発に対する考え方(案)について

 資料1を説明し、各参与の御意見を聞いた。

 石川委員:参与の方から寄せられた意見も入れて書き改めたが、今後も御意見を聞きたい。決定は今月中に済ますことを期している。

 島村調査官:主要な改正点は次のとおりである。

(1)目次を大きな項目にわけて整理した。
(2)「まえがき」の最後に書いてあった「技術導入」と「海外よりの核燃料の購入」とを「あとがき」に移した。
(3)「探鉱」と「採鉱」には大きな変更箇所はない。
  地質調査所の概査のところで「4ヵ年計画で」とあったのを「新らしい計画によっで……可及的すみやかに……」となおした。その他、燃料公社等の御意見を取り入れた箇所がある。
(4)「粗製練」と「精製錬」は稲生参与、燃料公社などの御意見をいただいてなおした箇所がある。大きな変更点はない。
(5)「ウラン濃縮」では、将来ウラン濃縮を行うということをはっきりさせた。
(6)「加工」については多くの御意見が出た。字句の訂正を待ったが考え方はあまり変っていない。
(7)「再処理」では、国産1号炉の燃料再処理を対象とする試験設備は将来大規模なプラントを建設するための試験という意味を持っていることを示した。
(8)「プルトニウム」の項では、基礎的な研究に当面力を注ぐことを強調した。
(9)「核燃料の開発体制」という項をおこし、燃料公社に期待する役割と各種機関の間の研究協力体制とについてのべた。「公社法の定めるように……」とあるのは「原子炉等規制法の定めるように……」となおすべきである。このあたりの文章はまだ練れていないので手直しする考えである。

 各参与から次の意見があった。

 大来参与:将来は民間企業を中心にするという考えと、現在はすぐに民間に期待はできないので燃料公社でやるという考えとの間のつながりが、全般的にはっきりしない。たとえば、燃料公社の性格について、「中核的」、「先駆的」および「補完的」という表現が使ってあるが、これらはどう区別しているか。

 三島参与:(1)各種機関の協力をよくするようかさねてお願いする。
(2)それに関連し、民間企業で考えているように西独等から精錬等の技術導入が行われたならば、導入したところと官民の機関、大学との研究体制の連絡をよくして技術を活用してほしい。
(3)MTRを設置しなければ、燃料、構造材の照射試験が十分にできない。

 伏見参与:「思うにこのような核燃料開発のための国家機関を……」という箇所は、「日本がめざすのは原子力の軍事利用でなく平和利用だから民間のみには任せられない」という意味に受けとれる。

 有沢委員:加工の技術は民間ではどの程度進んでいるか。加工についてパイオニア的研究を国家的に行う必要はないか。

 瀬藤参与:皆をエレベーターで3階までつれていくという程度のことは必要である。

 有沢委員:外国の技術を導入しそれを土台にして民間の技術を発展させる方向をとるならば民間に任せてよいか。

 瀬藤参与:日本で得やすい材料、得がたい材料という環境は外国と当然異なっている。日本の特殊性から国家的な研究が必要になろう。

 三島参与:加工の定義も広く考えられる。いろいろな分野で日本の独創性を出そうとすれば、民間でなく、国立試験研究機関、大学等で研究することが必要である。

 有沢委員:国家で基礎的な研究をやればすぐに民間に結びつくか。

 三島参与:結びつくと思う。

 稲生参与:材質の問題を研究するのは特に大切である。もちろん、民間は黙っていろというのは困るが。

 脇村参与:研究しようとする技術が外国の特許で抑えられていれば、燃料公社が特許を買って利用方法を研究するのがよい。硫安の製造技術は各種のものが技術導入で日本に入ってきたが、そういう方針が結果的に成功であったか。

 石川委員:悪い点が50%、よい点も50%あった。

 井上参与:それぞれ長所があるので一概にはいいきれない。

 脇村参与:今度の場合も民間の考えでよいと思うものを導入してくる方針でよいか。

 井上参与:最終的な目的がどこにあるかが問題となる。ある特定の技術を導入しないと達成できない場合があり、いきおい各種の技術を入れざるをえないことが考えられる。

 瀬藤参与:テレビの技術導入は導入の競争になって価格をせり上げたのは失敗であった。

 三島参与:ドイツから精密鋳造の技術を4千万円で導入した。これは買い争った場合には2億円を要するかと思われるが、現在では160社がこの技術を使っている。基礎的な技術の導入は皆で活用できるように行うべきである。

 伏見参与:完成した技術にはそれがいつまでも役だつかどうか危険要素が多い。基礎研究を重視すべきである。

 兼重委員:「従来一部に原子燃料公社は事業体であって、研究は行わないとするような誤解も見受けられたが……」と書いてある。このような誤解をしておられた方があるのか。

 瀬藤参与:大蔵省ではそう考えていたということだが。

 燃料公社原副理事長:研究は原研でやる建前だから公社は研究をするなということを以前いわれたことがある。現在ではどうか知らないが。

 佐々木局長:基礎的な研究は原研でやるべきか公社でやるべきかという問題はどうか。

 三島参与:おおまかに言って、原研は基礎研究、公社は生産に付随した研究を行うべきであろう。ただし一方でやっている研究だから重複してやるなと他方に言えるような時代ではないと思う。どの方向に進むかはっきりしていないから、なるべく広く研究を行うべきである。常識で判断して基礎的な研究だがぜひ公社でやりたいと思うことは公社でやってもよかろう。個々に考えないと決しない問題である。

 三島参与:再処理の研究をどこがやるかは問題である。

 高橋参与:再処理については基礎研究から一挙に生産的なものに移るようで中間的なstepが書いていない。「公社が事業化を予定する部門については、研究は当然公社で行われねばならない」と書いてあるところで読むのか。

 法貴次長:そういう解釈をしてもよい。

 島村調査官:原研の再処理設備が実験的なものか中間設備なのかは考え方による。

 伏見参与:原子力局が各方面に助成金を出している。そのテーマと支出先は重要なことだが、協力体制の箇所に何も触れられていない。

 佐々木局長:従来は原研、公社、局の考えを総合してテーマをつくり、原研でやるべきものはまず原研でやり、その他を公表し希望者を募っている。将来はだんだん補助金をしぼって委託費に移していくのがよいと考えている。これは、需要もだんだん固まってきて、メーカーグループも研究費を按ずるようになったので、少額を補助するよりも問題を限って積極的にやってもらったはうがよいという考えである。

 伏見参与:そのだいたいの考え方には賛成である。小さいことはだんだん原研に移してほしい。

 法貴次長:製造研究が必要となり、逆に原研から民間に移すべきものもでてくる。

 石川委員:なお御意見があればのちほどいただきたい。

2.原子力関係科学者技術者に関するアンケートの集計結果について

 島村調査官から資料2によって説明した。

 島村調査官:集計した数字の表のみである。推定を加え数字のもつ意味を考えて今月中には解説を付けたいと思っている。海外でどのように養成しているかも研究し、大学や文部省とも連絡して養成計画を考える。場合によっては専門部会の必要もあろう。

 石川委員:注意を促す意味でもう一度アンケートをやってもよい。

 島村調査官:国の計画、世界的な大勢がはっきりしないので、わからないことは何度聞いてもわからないということも予想される。

瀬藤参与:数字は最初の1桁くらいなら信用できると思う。

3.各専門部会の審議状況について

 資料3〜10にもとづいて、法貴次長から各専門部会の審議状況を報告した。

 瀬藤参与:東海大学の原子炉の問題に関する松前議員の質問主意書というのは、難点を数量的に示してくれというものか。

 有沢委員:そのとおりである。しかし数量的に示すのはまだどこの国でも不可能である。

 瀬藤参与:数量的にというのは言いすぎだが、どこをどう直せば設置してもよいかということになると、どう直してもだめだというのは言いすぎになろう。

 佐々木局長:安全審査専門部会から原子力委員会へ答申された段階であって、専門部会の結論がよくわからないからというのなら、必要とあればもう一度専門部会に戻して審議することも考えられる。

4.国産1号炉燃料要素の製造方針について

 資料12にもとづいて島村調査官から説明した。

 島村調査官:IAEAをあと押しする考えもあり、不足分の燃料3トンを提供するようIAEAに申し込んだ。燃料をもっている各国がどういう条件でIAEAに売り、IAEAからいかなる条件を日本に提示してくるかが問題で、条件のいかんによっては承知できなかったり、国会の承諾を得る必要が生ずることも考えられる。

 佐々木局長:三島先生から協力態勢について御要望があったが、国産1号炉の建設に際し、原研の冶金工場を民間の企業が共同で使用して研究するような組織を考えていただけないか。

5.第3回原子力シンポジウムについて

 伏見参与から、第3回原子力シンポジウムの開催予定について説明を聞いた。

 伏見参与:学術会議、原研、燃料公社のほか多くの学会、協会の共催で34年2月中旬に第3回原子力シンポジウムを行う予定になっている。原子炉技術に限定して論文を募集したが、260篇ほど集まった。そのうち1/3を採用して口頭による発表またはアブストラクトによる紹介を行う。

6.その他最近の動向について

 島村調査官:原子力専門家として英国からコッククロフト、米国からグレアムがすでに訪日した。今後は来年3月中旬に西独の原子力大臣パルケを呼びたい。
4月以降には、IAEAの fact finding team が来たいといっている。
アメリカの原子力商船サバナ号の建設状況について視察し、運転操作を勉強させるコースに日本人を参加させてくれるという申入れがあった。産業会議で民間の希望をまとめている。

 有沢委員:災害補償調査団は1月末まで英米を視察中である。

 伏見参与:ユーゴで原子炉の事故があったがその詳報は入っていないか。

 佐々木局長:まだ入っていない。外務省に照会することにする。

 伏見参与:原研にストが起ったというが。

 佐々木局長:ストが起ったのではない。原研の職員組合が原研の運営に対する不審事項を公開質問状として理事長に提出したものである。

 伏見参与:原研の組織について改めるべきことがあったからではないか。

 島村調査官:東海村の設備が整備されてくると幹部が東海村に常駐することが望ましく、理事者も組織の改正を考えていた。10月に実施しようとする案は職場の意向が十分聞かれていなかったという反対があったので撤回し、今回改めて来年から実施しようという案が提示された。これに対して組合が公開質問状を出し、明日組合大会を開くといっている。待遇問題も絡んでいるようである。
 原研を運営する組織と人の配置をどうするかは原研の理事者の責任と権限に属する。理事者にお考え願うべきことと思っている。機構改革は来年春ごろまでゆっくり考えたうえで行うほうがよいという声もある。

 佐々木局長:組合からの質問事項は次のような諸点である。

(i)原研の確固たる運営方針をもっているか。
(ii)多額の国費を使った研究設備は円滑に動いているか。
(iii)事業規模と人員とにアンバランスはないか。
(iv)人事施策の重点はどこか。
(v)今度の機構改革案に対する疑問点。
(vi)労働協約はいつ締結するか。

 伏見参与:老若の間で何を大切にするかのズレがあるので、研究態勢については大学の研究室でもよく問題になる。お役人にはおわかりにならないかと思う点もあるので、原子力委員が東海村に行って両方の意志疎通をうまくいくようにやってほしい。

 有沢委員:責任者に処理していただくように考えるべきだと思う。組合から私に話を聞いてくれといってきたが会わなかった。ある時期にならねばなかに入るのはむずかしい。また、なかに入って聞くということになると何かしなければならない。それが問題である。

 伏見参与:感情的にこじれた場合には当面の責任者以外の人ならば触媒的な働きができるのではないかと思うが。

 瀬藤参与:聞いてくれといってきたときには、聞いてやるほうがよい。

 有沢委員:委員は監督する立場にあるのでむずかしい。委員と個人との区別もつけにくい。

 倉田参与代理駒井氏:会社の問題だったらほかからは口を出すわけにはいかない。

 脇村参与:組合があるとすれば労働委員会に提訴できる。それを受理するかどうかはそこが判定する。労働委員会に持っていく前に原子力委員会に事情を話しにくることは考えられる。

 有沢委員:原子力委員会としては現状では軽々には動けないと思う。