放射線の許容線量および放射性物質の許容濃度についての原子炉安全基準専門部会の答申


 原子力委員会原子炉安全基準専門部会においては、昭和33年7月22日開催の第2回部会で、放射線の許容線量および放射性物質の許容濃度に関する基準作成のため第1小委員会の設置を決定して以来、この問題について審議をかさねてきたが、この小委員会から部会への報告書にもとづき、11月27日の第5回部会でこれについての答申書を決定し、伏見部会長から原子力委員会三木委員長あて次のような答申を行った。

昭和33年11月27日

原子力委員会
委員長 三木武夫 殿

原子炉安全基準専門部会  
部会長 伏見康治  

放射線の許容線量および放射性物質の許容濃度について

 標記の件について、当部会で審議した結果、別紙のとおり結論を得たので報告します。

 なお、放射線の許容線量等の検討は、関連する各分野において広く行われるべきものであり、たまたま、今回ICRPの1958年9月勧告の草案も入手されたことでもあるので、わが国における許容量等の基本的基準は今後放射線審議会等において全般的に再検討を加えられるものと考えられる。しかしながら原子炉安全審査の面から現在安全基準の確立が急がれているので、本部会では審議の対象を原子炉の設置および運転に直接関連する点に限定し、ICRP1958年勧告の草案をできるかぎり織り込むこととしたものである。

放射線の許容線量および放射性物質の許容濃度

1.制限区域における放射線の許容準位

1−1. 放射線従事者に対する許容線量

1−1−1.ある年令における放射線従事者の全身、生殖腺、造血器管および眼の水晶体に対する許容積算線量は、レム数において18をこえる年令数の5倍とする。したがって許容積算線量は5(N−18)レムである。ここでNは満年令で18より大きいものとする。ただし、引き続く13週間の最大線量は3レムをこえてはならない。
 (注)設置者は従事者各人の積算線量を常に知り得るよう適当な措置を講じなければならない。

1−1−2.放射線従事者の生殖腺、造血器管および眼の水晶体を除く単一の内部器管に対する最大線量は、引き続く13週間につき4レム、年間につき15レムをこえてはならない。

1−1−3.放射線従事者の手、前ぱく、足および足関節部の皮膚を除く皮膚および甲状線に対する最大線量は、引き続く13週間につき8レム、年間につき30レムをこえてはならない。

1−1−4.放射線従事者の手、前ぱく、足および足関節部に対する最大線量は、引き続く13週間につき20レム、年間につき75レムをこえてはならない。

1−2.放射線従事者に対する許容濃度

1−2−1.科学技術庁告示第9号(注;昭和32年12月28日、許容週線量、許容濃度および許容表面濃度、本誌第3巻第2号55ぺ−ジ参照)別表第2の数値を1/3に切り下げた新表をつくる(以下これを別表第2という)

1−2−2.放射線従事者の作業時間が1週間につき48時間である場合には、従事者が常時呼吸する空気中および飲用する水中の放射性物質の許容濃度は、別表第2に定める値の2.5倍とする。作業時間が1週間につき48時間に満たず、または48時間をこえる場合には、比例的にこの倍数を増加または減少させることができる。

 ただし、放射性物質が1種類で、かつ、問題となる内部器管が、生殖腺、造血器管および眼の水晶体以外である場合には、上の値の3倍をとることができる。また、この項に定める濃度は1週間の作業時間における平均とみなすことができる。

1−3.放射線従事者以外の者に対する許容線量

1−3−1.放射線従事者以外の者であって、制限区域の付近で作業を行い、またはその職責上制限区域に時々立ち入る者の生殖腺、造血器管および眼の水晶体に対する許容線量は年間1.5レムとする。また、皮膚および甲状腺に対する許容線量は年間3レムとする。

1−4.放射線従事者以外の者に対する許容濃度

1−4−1.制限区域の付近で作業を行う者が常時呼吸する空気中および飲用する水中の放射性物質の濃度は、別表第2の値の3/10とする。ただし甲状腺に対しては別表第2の値の3/5とする。また、この項に定める濃度は1週間の作業時間における平均とみなすことができる。

1−4−2.職責上制限区域に時々立ち入る者の立入時間は、1−2−2の放射線従事者の作業時間の1/3をこえてはならない。



2.事業所の周辺における放射線の許容準位

2−1.許容線量

2−1−1.許容線量は年間500ミリレムとする。

2−2.許容濃度

2−2−1.許容濃度は別表第2の値の1/2とする。ただし放射性物質が1種類で問題となる器管が生殖腺、造血器管および眼の水晶体以外である場合には、上の値の3倍をとることができる。上の濃度は引き続く13週間の平均をとることができる。

3.事業所の周辺への放射性廃棄物の排出基準

3−1.一般

3−1−1.事業所の周辺へ放出する気体ならびに液体の放射性物質の濃度は、3−2および3−3の場合を除き放出点において別表第2または第3の値の1/10の濃度をこえてはならない。上の濃度は引き続く13週間の平均をとることができる。

3−2.希釈を下水、河川または海に期待する場合の液体廃棄物の排出

3−2−1.廃棄物を下水、河川または海などに放出する場合には、その廃棄物は、水溶性または分散性のものでなければならない。

3−2−2.下水または河川の流量が、廃棄物の放出点において放出せんとする廃棄物と混合された場合、廃棄物の濃度を別表第2または第3の値の1/10以下に希釈しうるだけの流量があるときには、下水または河川の流水に放射性廃棄物を廃棄することができる。この場合には次の(a)または(b)方法によるものとする。

(a)廃棄物の一時貯蔵を行って、測定により全量を確認したものを放出する場合は、放出時間中の下水または河川の流量ならびに放射性物質の濃度に従い放出することができる。
 (注)設置者は放出点、下水または河川の流量、廃液の種類、キュリー数を常に記録し、保存しておかなければならない。

(b)廃棄物の放出全量をあらかじめ確認しないで放出する場合は、排出口における濃度を連続測定する記録式監視装置を設けその濃度が別表第2または第3の値の100倍以下で警報を発するようにし、警報が出た場合には、ただちに廃棄物の放出を停止しなければならない。

 また、廃棄物放出口の外側の放出経路にそった通常人の立ち入る場所において、排出の影響のある期間中に、週1回試料採取を行い、濃度の測定を行わなければならない。上の試料採取は、排出口の上流においても行い、下流における濃度が、3−1の規定を満足するように管理しなければならない。
 (注)設置者は記録を保存しておかなければならない。

3−2−3.海中に直接廃棄物を放出する場合は3−2−2(b)に準ずるものとする。
 (注)設置者は記録を保存しておかなければならない。

3−2−4. 3−2−2の(b)の方法による場合、液体廃棄物の日間廃棄量は1事業所あたり障害防止法、告示第4号(注;昭和33年3月31日、放射線を放出する同位元素の数量等を定める件、本誌第3巻第4号52ページ参照)第1条の表の値の1万倍をこえてはならない。

3−3. 希釈を大気に期待する場合の気体の排出、気体状の廃棄物を大気中に放出するときは、通常人の立ち入る場所の適当な箇所に連続監視装置を設け濃度が3−1の規定に適合することを確実にしなければならない。
 (注)設置者は記録を保存しておかなければならない。

4.事故の場所への計画的立入り

4−1.事故の場所に放射線従事者が計画的に立ち入らなければならない場合における許容線量は5レムとする。ただし、この場合1−1−1に定める許容積算線量をこえてはならない。

4−2.再生産年令にある婦人および18才未満の者は事故の場所に立ち入らせてはならない。

5.RBE値

5−1.RBE値は中性子以外の放射線については計量法に定めるところによる。

5−2.中性子に対するRBE値は、エネルギー未知のものについては計量法に定めるところにより、エネルギー既知のものについては、1週間300ミリレムに対応する線束密度として科学技術庁告示第9号別表第1に定める値をとる。