原子力船開発のための研究題目とその方法に関する報告書


 原子力委員会原子力船専門部会においては、昭和32年11月29日原子力船開発の基本方針の検討を当面の目的として設置されて以来、「原子力船開発のための研究題目とその方法の検討」について7回にわたって審議をかさねてきたが、一応の結論を得たので、さる12月12日付で同専門部会の山県部会長から原子力委員会三木委員長あて、次のような答申が行われた。

                昭和33年12月12日

 原子力委員会
  委員長 三木武夫 殿

原子力船専門部会  
部会長 山県昌夫 

 本専門部会は、昭和32年11月29日原子力委員会の決定により、原子力船開発の基本方針の検討を当面の目的として設置され、まず「原子力船開発のための研究題目とその方法の検討」について諮問された。その後昭和32年12月9日の第1回の部会以来別紙のとおり7回にわたって専門部会を開催して慎重に審議をかさねた結果、一応の結論を得たので下記のとおり答申します。


1.研究すべき問題点

 原子力を動力として利用する研究は日本原子力研究所を中心として進められているが、原子力船の開発にはこれらの研究のほかに船舶の特殊性を考慮した次のごとき諸問題の解明が必要である。

(1) 船舶においては貨物の積載容量および積載重量の増加を図ることが経済的見地より必要であるので、これに搭載する原子炉はできうるかぎり小型かつ軽量であることが望ましく、これらについてはほとんど考慮する必要のない陸上に設置される原子炉とはおのずから異なるところがある。また船舶は静止した陸地とは異なり、水上または水中にあって常に動いている状態または容易に動きうる状態にあるばかりでなく、風、波等の外力による衝撃を受けることが多く、これに搭載される原子炉もこれらの条件下において着実かつ安全に運転されるものが開発されなければならない。

(2) 原子炉を含む原子力船の推進機関部は在来のものと異なり、放射線が放出されるのでその遮蔽を考慮せねばならず、そのため原子炉室およびその周辺に特殊の構造を必要とする。また衝突等の事故に備えた特殊構造、原子炉室の位置、船舶の大型化および高速化等による船型および船殻の設計についても再検討が必要である。

(3) さらに船舶は特定の場所に定置されるものでなく、世界の各地にわたって広く航海するので、わが国においてもこれを受け入れる港湾設備、補修設備等の整備を考慮する必要があり、かつ船舶がいったん海上その他において事故を起した場合には、その乗組員が災害を受けるのみならず、その周辺に及ぼす影響もあるので、これら災害の対策ならびに補償等についても十分に検討を行わなければならない。

 さらにこれらの諸問題は国際的に解決を必要とするものも多いので、これらについては単に国内の問題としてのみならず国際的にも早急に検討を行う必要がある。

2.研究の進め方

 原子力船の開発は多岐にわたる各種工業技術の結集により初めて達成しうるものであるという点より見て、その研究開発はややもすれば散漫になりまた費用もかさみがちであるので、技術的、経済的に最も効果を挙げうる方法を選び、これによって行うことが得策と考える。

 そのためには研究の対象として最も適当と考えられる船舶および原子炉を選定し、これについて基本設計より着手しこれを設計、製造するために必要な「船体の振動、動揺等が原子炉に及ぼす強度上の影響およびその対策」、「船として要求される運転特性と原子炉の動特性との関連」、「原子炉の支持構造ならびに保護構造法」、「原子炉およびその周辺の遮蔽構造」等に関する各種試験研究をあわせ行い、最終的に原子力実験船および船舶用実験炉を設計製造しこれを実験的に運航あるいは運転せしめて原子力船および船舶用原子炉として具備すべき諸条件および問題点の解明を行うための総合研究を行うことが必要でありかつ最も有効な方法である。

3.研究題目およびその方法

 原子力船開発のために必要な研究題目およびその方法は次に述べるとおりであるが、その進め方については前述の方針にそって行われることが望ましい。

 原子力船の開発を促進するために必要な研究を大別すると(1)船体関係、(2)機関関係、(3)運航関係の三つになる。

(1) 船体関係

1.1 原子炉、原子炉系室およびその周辺の遮蔽に関する研究

 原子炉、原子炉系室およびその周辺の遮蔽について貨物油、バラスト海水等液体の利用、船底、船側、その他における遮蔽機の合理的な組合せ、その配置および構造方法について理論的ならびに日本原子力研究所の試験研究炉を使用した実験的研究を行い、船舶に適した遮蔽構造法を確立する。

1.2 原子炉の船内配置に関する研究

 船体に生ずる動揺、振動等による外力および原子炉のこれら外力に対する許容度等よりみた原子炉の最適設置場所または範囲について研究するとともに従来の海難資料を分析して海難発生件数が少なく、また災害程度の軽い位置等を調査し、原子炉の船内配置についての設計基礎資料を得る。

1.3 原子炉周辺の船体構造に関する研究

 海難資料の解析ならびに起りうべき事故に対する原子炉および原子炉系室の防御方式としての衝撃吸収構造、原子炉の支持方法、コンテイナーあるいは船体構造の一部をコンテイナーと兼用せしめる可能性およびその構造方法等に関して設計研究および模型による実験研究を行い、原子炉周辺の船体構造設計法を確立する。

1.4 原子力船の船型等に関する研究

 原子力船は従来の船舶に比較して大型かつ高速であると考えられる。また従来の船舶とは異なり燃料の消費による吃水の変動がないので船型推進器等の設計に際してこれらの点を考慮する必要がある。さらに原子力船においては燃料の燃焼に空気の補給を考慮する必要がなく、また推進効率の有利な点よりみて潜水船についても研究を進めるべきである。

  以上の諸問題を解明するため試験水槽による自航試験を含めた船型試験を行い、原子力船に適した船型および推進器等の設計に必要な基礎資料を得る。

1.5 原子力船の設計および建造技術の開発に関する総合研究

  前に述べたとおり原子力船の開発を技術的、経済的に最も効率よく行うため、開発の対象として目標とする船舶を選定し、それを実験的に設計、建造ならびに運航せしめて原子力船としての総合実験研究を行い、原子力船の開発に必要なる資料を得る。なおこの研究はここに述べる他の各基礎研究と並行して行い、それらの成果および外国において行われた研究の成果に常に留意しながら行うことが必要である。

(2)機関関係

2.1 原子炉および原子炉系の機構、強度等に影響を与える船体の振動、動揺等の実体の把握ならびにこれら諸条件を満足する炉の開発に必要なる基礎研究

 既存の船舶による実船試験により原子炉室周辺ならびに原子炉部における船体の動揺、振動等の及ぼす影響の実体を把握するとともに、一方においては陸上において動揺、振動試験装置を用いて原子炉の制御機構その他原子炉系各部の動揺、振動等による影響について系統的実験研究を行い、船舶用原子炉およびその付属装置の設計基礎資料を得る。

2.2 船舶の出入港時または非常の際における機関の負荷変動の実体把握ならびにその対策に関する基礎研究

 既存の船舶による実船試験により船舶用機関の受ける負荷変動の実体を把握するとともに、模擬回路シミュレータ、動力試験炉等を利用してその負荷変動の原子炉の動特性に及ぼす影響等についての実験ならびに理論的研究を行い、船舶用原子炉の設計基礎資料を得る。

2.3 原子力機関の付属装置に関する研究

 原子炉をともなった機関室およびその周辺は一応遮蔽設備を備えてはいるが、従来の船舶におけるごとく常時機関室員がその内部にあって作業を行うことは好ましくないので、原子炉および主、補機類もできうれば船橋もしくはこれに準ずる場所から遠隔操縦によって行うことが必要である。これら遠隔操縦装置および危急時用の補助機械等在来船とは異なるものまたは新たなる機械類につき試作をともなった実験研究を行う。

2.4 船舶用原子炉の設計および製造技術の確立に関する研究

  船舶用原子炉の設計および製造技術を早急に確立するために最も適当と考えられる種類の炉を選定し、その設計研究および必要なる実験所究を行い、炉を設計、製造して、それらの経験を得るとともに各種条件のもとに運転実験を行い船舶用原子炉の製造に必要なる技術の確立を図る。

 なお本研究は他の諸研究と並行して行うが、必要に応じてそれら諸研究および外国における研究の成果ならびに外国技術の導入を行い促進を図ることを要する。

(3)運航関係

3.1 原子力船の航法およびこれに必要なる機器に関する研究

 原子力船の出入港時、航海時における航法につき調査研究を行うとともにこれに必要なる航海計器の開発のために必要な試作をともなった実験研究を行い原子力船の航法の確立をはかる。

3.2 原子力船の荷役設備および港湾設備に関する研究

 原子力船の安全けい留、早期出港、荷役の迅速化等について調査研究を行うとともにこれらに必要な設備、方法等について研究を行う。

3.3 原子力船の修理および検査に関する研究

 原子力船の修理およびこれにともなう検査ならびに定期検査等の方法および必要なる設備等について調査研究を行う必要がある。

3.4 陸上に設置すべき燃料交換設備、使用済燃料保管設備等に関する研究

 原子力船の燃料の交換設備については船側および陸上側の両者をあわせて考慮し、模型および試作研究を行う。また陸上における燃料保管のための設備についても研究を行う必要がある。

3.5 原子力船の衝突、沈没、坐礁等の事故またはビルジ等による海水の放射性物質による汚染およびその対策に関する研究

 原子力船におけるビルジその他船内に発生する放射性廃棄物の処理および原子力船の衝突、坐礁、沈没等の事故による海水の放射性物質による汚染についての調査研究およびその対策についての研究を行う。

3.6 原子力船の災害およびこれにともなう補償等に関する研究

 原子力船の運航、入港、入渠時等における事故およびこれにともなう災害ならびにその補償等これに対する対策について調査研究を行う。

3.7 原子力船の経済的考察に関する研究

 内外における原子力船の開発状況を常に把握しつつ原子力船と在来船との比較研究を行い、原子力船についての経済的考察を行う。

4.むすび

 諮問のあった「原子力船開発のための研究題目とその方法」については上に述べたとおりであるが、これらの研究題目は研究の進捗にともなって、より具体化され、また追加、変更等も考えられるが、現在の段階において必要と思われるものを列記した。また研究の方法についてはさしあたり原子力船開発の基本方針の検討を行うに必要な程度にとどめ、それぞれの研究の進め方についての基本的な考え方を述べた。

 したがって個々の研究の実施に際しては、より具体的な対象、方法等についてさらに検討をする必要があろう。一方米国において目下建造中のサバナ号をはじめ外国において建造された原子力船の就航を考慮して、わが国においても早急に国際条約および関係法規の検討を行う必要がある。このためにも原子力船の設計、建造に関する研究を促進しなければならず、開発の対象となる実験船を早期に選定し、総合的な研究開発に着手することが望ましい。

 なお別添資料として本部会において調査した世界における原子力船の開発現状を添付する。

部会の構成

部会長
参  与
山県 昌夫 日本海事協会
岡野保次郎 日本原子力研究所
稲生 光吉 三菱原子力工業(株)
専門委員
大沢 清一 三井船舶(株)
嵯峨根遼吉 日本原子力研究所
篠田 一郎 日立造船(株)
竹内 誠一 大阪商船(株)
中島 隆秀 三井造船(株)
中田 金市 運輸技術研究所
中西  久 日本船主協会
西脇 仁一 東京大学
二瓶  豊 川崎重工業(株)
牧浦隆太郎 石川島重工業(株)
山口 宗夫 三菱造船(株)
山下 正雄 運輸省船舶局
山下 正雄 飯野海運(株)
山本広三郎 富士電機製造(株)
渡辺  浩 日本造船工業会


原子力船専門部会開催経過

第1回(32.12.9.(月))
 1.設立経過および主旨説明
 2.部会運営規程の説明
 3.審議方針

第2回(32.12.25.(水))
 1.原子力船調査会による原子力油槽船の設計結果について
 2.世界の原子力船開発状況
 3.原子力船の利点

第3回(33.1.22.(水))
   民間海運造船各社における原子力船の研究開発状況

第4回(33.7.3.(木))
1.各国における原子力船開発状況
2.原子力船の開発方針
3.原子力船研究開発上の問題点

第5回(33.8.7.(木))
   原子力船開発上の問題点

第6回(33.10.31.(金))
 1.ジュネーブ会議における原子力船関係論文について
 2.原子力船の研究に関する報告書の作成について

第7回(33.12.12.(金))
  原子力船の研究に関する報告書の作成


  別添資料

内外における原子力船の開発状況

1.海外における原子力船の開発状況調査

 原子力船の開発に必要なる研究題目を検討するに当ってまず海外先進諸国の開発状況を把握することが必要であるが、現在の段階ではこれらを現地にて把握することさえもほとんど不可能であり、学会、雑誌等に発表せられたものによってのみ窺い知ることができるのみであるので、これらにより調査を行った。

 以下諸外国のうち主要な海運造船国における原子力船の開発状況につき調査したところを報告する。

1.1 米国

 米国における船舶用原子炉の開発は(1)AECと海軍の協力によるものと(2)AECと海事局の共同による原子力船開発計画の二つに分けられている。

(1) AECと海軍の協力による計画は潜水艦ノーチラス号用の陸上原型炉に始まって現在では完成したもの、建造中のものおよび計画の決まったものを合わせると実に陸上原型炉6基以上、潜水艦22隻、巡洋艦1隻、空母1隻、原子炉の数は原型炉を含めて37基以上の多きにのぼっている。

(1)陸上原型炉 計7基


(2)艦艇建造計画 計24隻 炉32基


(注) コストは炉についてはAEC、船体については海軍省の評価による。

(2) AECと海事局の共同による原子力商船開発計画は二つに分けて考えられる。すなわち(イ)前述の艦艇建造計画により開発された技術を基盤として、主として原子力商船の設計建造技術の開発およびその運航により得られる各種の実験的または経験的データの集積等による主として原子力船としての船体に関する問題点の解明および商船用原子力機関の備うべき各種条件の把握を早急に得んとするためのものと(ロ)将来船舶用原子炉として有効と考えられる各種の炉およびそれを含めた機関の開発研究とである。

 前者は原子力貨客船サバナ号の建造計画で、これは原子力船の建造、運航経験の獲得、海上実験、乗員の訓練等を目的とし、初期の実験段階においては政府が運航し、やがて民間に移管されるものと見られる。サバナ号は総トン数12,000トン、機関の最大出力22,000SHP、原子炉の熱出力は85MWで完成予定は1960年(昭和35年)である。本船の原子力推進装置の設計および建設はパブコックアンドウィルコックス社と米国AECとの間で契約され、同社は9,872,000ドルで原子炉、蒸気プラントを含めた主機関装置を製造提供する。この金額にはコンテイナー、遮蔽等は含まれていない。一方船体の建造契約は同様に米国AECとニューヨークシップビルデング社との間に結ばれ、建造費総額は20,908,000ドルと見積られている。サバナ号に塔載する原子炉設計のために必要な零出力原子炉は本年2月に臨界に達し、着々と研究が進められている。

 後者については米国AECと海事局はそれぞれ民間会社と将来の船舶用原子炉の開発について1957年(昭和32年)中に七つもの契約を結んだ。すなわち、米国AECとの契約によるものでは、有機材減速冷却型原子炉をアトミックインタナショナル社、ガス冷却型原子炉および密閉ガスタービンサイクルプラントをフォードインスツルメント社およびゼネラルダイナミックス社、炭化水素減速ヘリウムガス冷却型原子炉および密閉ガスタービンサイクルプラントをゼネラルアトミック社がそれぞれ開発することとなり、一方米国海事局との契約により、加圧水型原子炉についてはパブコックアンドウィルコックス社、沸騰水型原子炉についてはAMFアトミックス社、黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉および密閉ガスタービンサイクルについてはゼネラルモーターズ社がそれぞれ開発を進めている。

1.2 英国

 英国における原子力船の開発は海軍大臣を委員長とし、海軍、船会社、造船会社および原子力公社の各代表よりなる委員会を中心として原子力船の可能性等を検討するとともにコールダーホール型を小型化し、超大型船に適用する方法ともっと広範な船舶に適用される新しい型の船舶用原子炉を開発するための企画等具体的な問題について論議が行われている。

 英国における船舶用原子炉の開発は米国と同様に潜水艦用のものから着手されている。すなわち潜水艦用の原子炉開発のための零出力研究炉ネプチューンは1957年(昭和32年)11月からハーウェルで運転を始めている。さらに、陸上原型炉として加圧水型のものをドーンレイに建設中で、この設計、建設はニュークリアエンジニアリング社(ヴィッカース社、ロールスロイス社、フォスターウィーラー社の3社の出資会社である)と契約された。また原子力船における遮蔽の研究はLIDOによって行われており、その他腐食と熱伝導の問題についてはいくつかのグループを新設して実験を行う等着実なる歩みをもって進んでいるし、将来の船舶用原子炉として20,000馬力以下程度のものに適したものとして有機材減速冷却型原子炉の研究が進められている。

 一方民間においても原子力公社および海軍省の後援のもとに原子力船の設計、建造を具体化するため研究を行っている。

1.3 西ドイツ

 西ドイツにおいては原子力船に関する研究協会およびその開発会社を主として民間が中心となって設立し、これに政府が協力して船舶用原子炉、原子力船の開発研究を行っている。すなわち、造船、海運における核エネルギー活用促進のための研究協会(Studiengesellschaft fur Forderung der Kernenergie - Verwendung in Schiffbau und Schiffahrt G.V.)と造船、海運における核エネルギー利用のための有限会社(Gesellschaft fur Kernenergie - Verwertung in Schiffbau und Schiffahrt m.b.H)で、ともに1956年(昭和31年)に設立された。

 前者は西ドイツ連邦交通省海運局長のシューベルト博士を会長として船主、造船所、石油会社、その他関連産業等の法人会員、学者、政府関係者等の個人会員により構成され原子炉の建設、原子力船開発促進のための啓蒙活動、開発に必要なる資金の獲得等をその目的として活動しており、本年1月初めの総会では原子炉製造用各種材料に関する研究および原子炉の冷却系統に関する研究の二つについて総合的研究を推し進めることを決議しており、また、これらの計画を前提として研究活動を進めるとともに、産業界との研究成果の交換を行うために次の七つの専門委員会を設けている。すなわち
(1)船舶用原子炉 (2)原子炉材料 (3)放射線防護 (4)科学者および技術者の養成 (5)保険 (6)経済問題 (7)関係法規
の各専門委員会である。

 なお、船舶用原子炉に関しては加圧水型およびガス冷却型のものについての設計研究の一部は発表されているものもある状況である。

 後者は資本金50,000マルクで前記協会により定められた各種事業の実施機関として原子炉の建設運転および研究の実施を行うものである。資本金50,000マルクのうち、大部分の40,000マルクは前記研究協会が出資し、残りの10,000マルクを銀行その他の民間会社が出資している。この資本金のほかに出資者はそれぞれの出資額の100倍に相当する金額をこの会社に贈り施設費等にあてる。このうち研究協会の負担すべき4,000,000マルクは連邦政府および北部4州(ハンブルグ、ブレーメン、ニーダーザクセン、シュレスウイッヒホルシュタイン)よりの補助金によりまかなっている。

 この会社は現在原子炉材料等に関する基礎的研究、遮蔽体に関する研究等を行う目的で5MWの水泳プール型原子炉をさる6月に完成した。

1.4 ノルウェー

 ノルウェーにおいてはその原子力研究所において原子力油槽船の試験設計が一応終了し、海運19社が共同して原子力船研究財団(Association for Joing Financing of Nuclear Research)が設立された。

 同財団は原子力研究所との間に船舶用原子力推進機関の開発を行うため年間1,000,000クローネ(193,000ドル)で2年間にわたる契約を結び研究開発を行っている。

1.5 ソ連

 ソ連における原子力船の開発は米国と同等あるいはそれ以上に進んでいるものと思われるが、昨年12月に進水した原子力砕氷船レーニン号(出力40,000馬力、原子炉3基搭載)に関して報道されているもの以外にはなんら公表されていない。

2.国内における研究開発状況調査

 わが国における原子力船開発に対する関心は最近にいたって急に高くなり、海運会社、造船会社を中心としておもに調査研究を行ってきた原子力船調査会は発展的解散をし、新たに社団法人日本原子力船研究協会が発足し、原子力船の開発研究を本格的に推進しようという意気込みを見せている。

 現在、日本原子力船研究協会を初めとし、船会社を中心として造船会社および関連会社によって構成されたいくつかの研究グループがそれぞれ独自の研究を行っており、中には試験設計を行いながら研究を進めているものもある。これらは次に述べるごとく活躍している。

(イ)原子力船調査会

 原子力船調査会は海運、造船および関連会社により結成されており、昭和30年12月設立されて以来本年10月発展的解散をとげるまでに原子炉、機関、船体、安全性、経済性、その他原子力船の実用化に際して必要なすべての分野にわたって基本的な調査研究を行った。

 原子炉としては加圧水型、沸騰水型およびガス冷却型の3種類のものにつき検討を加え、また在来型式の大型油槽船の機関部をそのまま原子力機関に置換した場合に生ずる諸問題を検討する意味で次の4種類のものにつき試験設計を行った。

 また将来の原子力船の運航に関連して原子力船入港時の諸問題、港湾施設、災害補償、関係法規上の問題点等についても調査所究を始めている。

(ロ)飯野海運グループ

 飯野海運(株)を中心として日立造船(株)、(株)日立製作所および飯野重工業(株)が共同して、原子力船は大型であるほど経済的に有利であるという観点に立ち、さしあたりわが国で運航可能と考えられる最大のものを選び、載貨重量65,000トンの油槽船を対象として研究を進めている。

 その主要目は次のとおりである。なお、航路は一応日本−ペルシャ湾12,000カイリを考えている。

(ハ)川崎汽船グループ

 川崎汽船(株)、川崎重工業(株)、その他第一原子力産業グループの会員の一部により構成され研究を進めている。

(ニ)三井船舶グループ

 三井船舶(株)は三井造船(株)およびその他三井系関係各社と共同して、原子力船にはガス冷却型炉と組み合わせたガスタービン方式が有利であるという見地よりガスタービンプラントの開発を進めている。

(ホ)日産汽船グループ

 日産汽船(株)と日本鋼管(株)と共同して鉱石運搬船の大型化の傾向と鉱石積出港における燃料油のコスト高等を考慮して45,000トン型鉱油兼用船の開発を目的として研究を進めている。さしあたり試設計としては次のごとき仕様の45,000トン型鉱石運搬船について行い、検討を行っている。なお航路としては日本―南米ヴェネズエラ間18,000カイリを考えている。

(ヘ)日東商船グループ

 日東商船(株)は(株)播磨造船所、石川島重工業(株)および東京芝浦電気(株)と共同して載貨重量60,000トン程度の大型油槽船の設計研究に着手している。

(ト)大阪商船グループ

 大阪商船(株)は、新三菱重工業(株)ならびに三菱原子力工業(株)の3社共同の研究グループとさらに石川島重工業(株)と共同して別に研究グループを持ち、ともに将来の移民計画による移民の増加による必要性より従来よりも大型高速の移民船の原子力化を目標として原子力船の総合的諸問題の研究調査を行っている。

 試験設計を行い検討しているものはそれぞれ下記のごとき仕様のものである。

(チ)その他

 以上のほか、新三菱重工業(株)は載貨重量30,000トン、加圧水型原子炉1基を搭載し機関出力40,000軸馬力、速力22ノット程度の潜水油槽船について研究を行っており、また石川島重工業(株)は原子力船の最小可能寸法を検討する目的もあって排水量2,500トン、加圧水型原子炉(熱出力36MW)1基、主機としては、5,000軸馬力程度の蒸気タービン2基を搭載し、速力21ノットにて連続行動日数90日くらいの哨戒練習船の試験設計を行い、研究を進めている。

 大同海運(株)は新たに三菱造船(株)、三菱原子力工業(株)および東京海上火災保険(株)と共同研究を開始し、浦賀船渠(株)その他、各船会社、造船会社等も着々と研究態勢を備え、原子力船時代への準備を進めつつある。