ダンハム博士を囲む懇談会

放医研で開催


 放射線医学総合研究所では、ジュネーブ会議の帰途、来日した米国原子力委員会生物医学部長(Director, Division of Biology and Medicine)ダンハム(Charles L.Dunham)博士を招いて、10月14日(火)、午前10時から、霞ヶ関人事院ビルの原子力委員会会議室において懇談会を開催した。当日、Dunham博士とともに米国原子力委員会東京事務所からPennington氏も出席、放医研幹部および所員のほか石川原子力委員会委員、中泉正徳博士ならびに科学技術庁原子力局から亘理科学調査官、鈴木アイソトープ課長らが同席し、友好的雰囲気のうちに進められた。
 懇談会はまず、塚本放医研所長から「1954年、国際癌会議以来ここに再びお会いできたことを大変うれしく思う。今回、放医研の所長に任命されて、責任の重大なるを痛感しているが、各位の御協力を得て努力したい」旨の挨拶、つづいて中尾調査課長から放医研設立の経緯、事業目的、建設計画、現況などの説明あったのち、Dunham 博士の挨拶があり、懇談に入った。以下、当日の記録により、発言の要旨を列記すると、Dr. Dunham:講話をするよりも、自由討論に時間をかけたほうがよいと思うので、簡単に御挨拶したい。  放医研が単一の研究所として発足したことは賢明であるが、今後いろいろの困難をともなうであろう。他の研究分野との連絡を paper の上だけでなく、実際に緊密にとって行っていただきたいと思う。米国の原子力計画では、Chicago大学あるいは大学連合、またOak Ridge National Laboratory も同様、AECと契約の形で研究を行っているのであ るが、私の生物医学部も予算の範囲内で仕事をし、ほかの、たとえば農業部門などと連絡をとりつつ事業をしているのである。また、国際的にも国際放射線防護委員会や国際連合科学委員会との関係など、ますます緊密さを増し、この方面の仕事は今後とも重要性を加える一方であろう。

筧教授(放医研):各研究機関との協力の方法について御意見を承りたい。

Dr. Dunham:たとえば研究員を関係ある大学へ2年間ぐらい派遣するのも一方法であろう。また、米国では、研究所内に有給あるいは無給の研究協力者、研究生などの制度を設けているところもある。

塚本所長:大学のほうから来ることもできる。

Dr. Dunham:交流をさかんにするのがよいと思う。

伊沢分析室長(放医研):米国ではHealth Physicistの教育をどう行っているか。

Dr. Dunhum:たとえばRochester大学や Seatle のWashington大学に9ヵ月入って、fellow-Ship pro-gramに参加する。産業界との連繋も必要となってくる。Harvard大学のSchool of Public Healthでは2ヵ年のprogramがある。

Mr. Pennington:そのほかにもいくつかの大学で教育している。

Dr. Dunham:WHOでも女子留学生を出している。

筧教授:現在米国では何人ぐらいHealth Physicistが出ているか。

Dr. Dunham:Health Physicistを養成するためには、生物学、放射線物理学など、いろいろの研究が必要だが、この10年間に500名を下らないであろうか。

Mr. Pennington:年々相当数を養成している。

筧教授:Health Physicist と医師との関係はどうなっているか。

Dr. Dunham:研究所によってちがうが、要は協力である。上に立つ人が物理学着か医者か生物学者かによって、組織はおのずからちがってくる。衛生管理者を再教育する場合もあり、Idaho Falls では若い人を養成している。
 つぎにOak Ridgeの事故についてお話ししよう。放射線の影響はなかなか困難な問題であって、Har-wellでは、動物実験で動物を原子炉に入れて死亡との関係などしらべていたが、人間の場合はなかなかむずかしい。Oak Ridgeの事故は6月20日午後50%濃縮ウラン溶液により起ったもので、被災者は同日夕方Oak Ridge National Laboratoryの病院に入院した。8名の患者は同じ部屋に入室していて心理的影響も観察された。数週間後に退院して職場に復帰した。いろいろ議論されたが、前にもいったとおり、犬などの動物実験の場合と人間の場合はちがいむずかしい問題である。健康安全ということについては今後とも大いに努力せねばならない。

鈴木アイソトープ課長(原子力局):2、3ヵ月前、米国やソ連で放射線保護剤が成功したときいたが・・・・・・。

Dr. Dunham:猿なんかの動物実験で効果があったかも知れないが、人間の放射線感受性を考え合わせると、慎重でなければならない。

亀山生化学研究室員(放医研):いったいHealth Physicist とは何なのか、一人でいろいろな分野をやることができるだろうか。

Dr. Dunham:Health Physicistの養成計画をいろいろ考えて、放射線防護のすべてに関して十分な判断力を持つ人をつくるべきである。必ずしもすべての分野の知識経験を持つということではない。

塚本所長:Health Physicist の養成は、放医研の主要任務の一つになっている。

Dr. Dunham:貴研究所の重要な責務である。

江藤障害研究部長(放医研):放射線防護の問題で、酸素効果の機構をどう考えているか。

Dr.Dunham:解釈はいろいろあると思うが、実験的研究が大切である。

亘理科学調査官(原子力局):放射線許容量の将来の見通しについて。

Dr. Dunham:強制することは不可能であるが、国際放射線防護委員会やBritish Medical Councilなどで勧告案をつくっている。科学的根拠はなかなかむずかしい。インドのMonazite地帯の住民は、厳密にいえば50分で天国へ行かなければならないことになる。

中泉博士:各国の生活慣習により異なると思うが・・・。

Dr. Dunham:照射率の基準がある。

Mr. Pennington:これも放医研の研究課題であろう。

塚本所長:やはり各国環境がちがう。

Dr. Dunham:インドの Monazite砂の例があるように。

塚本所長:日本は経験を持っている。

中泉博士:貴国では原水爆患者はめずらしいであろうが、わが国には多い。

Dr. Dunham:California大学などで、ある程度研究している。

鈴木アイソトープ課長:もしもあなたが放医研の所長であったら・・・・・・。

Dr. Dunham:むずかしい質問だが、各方面と緊密に連絡してやって行きたい。

(以上文責在記者)

 最後に、塚本所長から「本日の有益なお話を念頭において、今後放医研の運営にあたって行きたい」と挨拶があり、概要以上のような約2時間に及んだ懇談会を終った。