原子力局

放射線審議会運輸大臣に答申

 放射線審議会は放射性物質を車両により運搬する場合の運搬従事者に対する最大許容週線量に関する諮問に対して運輸大臣に答申を行った。放医研所長として塚本憲甫博士が決定、10月6日付発令された。アイソトープ関係海外留学生の受入れについてはさきに紹介したICAおよびコロンボプランにつづきIAEAのフェローシップによるものの計画が決定した。また国際原子力機関の第2回総会の開催を機会に、同機関の活動状況を紹介した。

放射線審議会運輸大臣に答申

運搬従事者の最大許容週線量


 本年6月20日運輸大臣から、放射線審議会に対して「放射性物質を車両により運搬する場合の運搬従事者に対する最大許容週線量」に関する諮問があり、6月30日の第1回放射線審議会総会において、放射線影響部会(注1)(部会長欠員中につき、代理村地孝一立教大学教授)に付託されたが、問題点がさほどなく、簡単に結論が出る場合には、部会の決議をもって放射線審議会の決議とすることができることとなり(注2)、爾来約2ヵ月間にわたり、同部会において種々の角度から審議が行われ、その結果本年8月27日別記のとおり答申がなされた。
 本答申において注目されることは、従来最大許容線量は週間線量で定めることが通例とされているのに対して、はじめて13週間という数字が持ち出されたことである。
 放射性物質を車両により運搬する場合の運搬従事者は、直接放射性物質の取扱に従事する者と異なり、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」にもとづく放射線障害に関する健康管理がなされているとは限らないので、放射線の脅威に対して丸裸である一般大衆と同じカテゴリーに属すると考えられる。したがって最大許容週線量は、原則的に職業人の10分の1である30ミリレムとすべきであるとされた。ただ、現在の運搬の実状から考えて、これではあまりにもきびしすぎるのではないかとも思われるので、この数字に対して若干の疑義がはさまれ、小委員会において、より具体的妥当性を持った数字の検討を行うべきであるとされ、7月22日日本放射性同位元素協会に岡本、筧、浜田および山下4専門委員が集まり協議したところ、13週間に300ミリレムをこえない被ばく放射線量の場合には、30ミリレム毎週の線を一時的にこえるようなことがあってもさしつかえないこととする旨の結論が出(注3)、これを放射線影響部会にはかったところ了承を得、別記のとおり決定の運びとなった。
 なお、付帯要望事項として、現実に即応した結論が出た以上、この数字が恒久的なものとは考えられず、したがって運輸当局は、今後の放射性物質の利用の進展に応じ変更しなければならない場合もあると思われるので、その状況を十分に把握し、将来の改正に備えるとともに、放射線取扱主任者の選任が要求されていない運輸業者に抽象的に最大許容週線量をうんぬんしてもむだな場合が少なくないと考えられるので、これを担保する方法に留意するよう、運輸当局において指導にあたるべきである旨付け加えられた。
 なお、この答申にもとづく運輸大臣の告示は、昭和33年10月15日現在においてまだ定められていない。

(別 記)

昭和33年8月27日

総理府放射線審議会会長

都築 正男

運輸大臣 永野 護殿

放射性物質を車両により運搬する場合の運搬従事者に対する最大許容週線量に関する諮問に対する答申について昭和33年6月20日自総第405号をもって諮問のあった標記について、次のとおり答申する。

 なお、今後の状況の推移を把握することが必要であるので本答申に付帯して次の事項の実行を要望する。

1.当局は第1種放射性物質の運搬の実状に関する調査を早急に行うこと。

2.当局は第1種放射性物質の運搬に従事する者の1週間の被ばく放射線量が最大許容週線量をこえないようにすることを確保するために、使用者等に運搬従事者の被ばく放射線量を計算その他の方法により測定させ、その結果を記録、保存させる等適宜指導すること。


 運搬従事者に対する放射線の最大許容週線量は、30ミリレム(手、前ぱく、足又は足関節部のみについては150ミリレム)とする。
 ただし、現在の運搬の実状にかんがみ13週間につき被ばく放射線量が300ミリレム(手、前ぱく、足又は足関節部のみについては1,500ミリレム)をこえない場合については、例外として週線量が30ミリレム(手、前ぱく、足又は足関節部のみについては50ミリレム)をこえることがあっても差し支えない。放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律その他の法令に基く放射線障害に関する健康管理が行われている者にあっては最大許容週線量は300ミリレム(手、前ぱく、足又は足関節部のみについては1,500ミリレム)とする。

(注1)  放射線影響部会構成員名簿

 委  員 村地 孝一 立教大学理学部教授

      都築 正男 日赤中央病院長

      中泉 正徳 東京大学名誉教授

      勝木 新次 労働科学研究所長

      刈米 達夫 国立衛生試験所長

      田島 英三 立教大学理学部教授

 専門委員 松村 清二 国立遺伝学研究所 変異遺伝部長

      田島弥太郎 国立遺伝学研究所 形質遺伝部長

      管原  努 放射線医学総合研究所 障害研究部室長

      筧  弘毅 千葉大学医学部教授

      岡本十二郎 東京医科大学教授

      山下 久雄 慶応大学医学部助教授

      久保田重孝 労働科学研究所労働病理 第1研究室主任

      佐藤 徳郎 国立公衆衛生院栄養化学部

      勝沼 晴雄 東京大学医学部助教授

      長沢 佳熊 国立衛生試験所 特殊薬品部長

      河端 俊治 国立予防衛生研究所 食品衛生部室長

(注2)   放射線審議会運営規程(抄)
第8条 部会の決議は、あらかじめ総会の定めた事項については、会長の同意を得て、審議会の決議とすることができる。

(注3)  放射線審議会放射線影響部会小委員会報告       33.7.22

(筧、山下、岡本、浜田)

A 小荷物
 I−131、1箇4キログラム以下のもの、100箇(40ユニット)月1回輸送、表面線量率40ミリレム/時、1箇につき0.4ユニット

A−1 トラック積の際の荷送人の被ばく線量 現状5人、15分、実測(配分業務を含む。)25ミリレム/1回

A−2 遠方輸送の場合のトラックの被ばく線量

(a) 現状
 東京−大阪 20時間(実際は15時間)12〜13箇、(0.4ユニット×13=5.2ユニット)

  5.2 × 1/1.52 × 20 ≒ 50 ミリレム/1回

(b)最大(40ユニット)
 東京−大阪20時間(実際は15時間)

  40 × 1/32 × 20 ≒ 90 ミリレム/1回

B 大荷物
 コバルト60等の場合
 荷役所要時間:最大30分、通常1〜3分が多い。この場合、小荷物のときほどは線源に近づかない。1メートルで10ミリレム/時以下に押えられているので、30ミリレムをこえることはないと考えられる。

結 論
 30ミリレム/週で押えたのでは、引っかかる場合があるが、13週(1/4年)で300ミリレムをこさないこと(I.C.R.P.の規定による)を採用すれば、まず健康管理しなくてよい。