教育用原子炉について


 最近2、3の大学において原子炉を設置しようとする動きが活発となっているが、その現況および大学における原子炉(教育用および研究用)に関する政府の取扱方針はおおむね下記のとおりである。

1.現況
(1)東海大学
 本年3月31日付で内閣総理大臣あて原子炉設置許可申請書を提出、目下原子力委員会および原子力局において審査中である。
 設置せんとする原子炉はノースアメリカン社製L−77型原子炉であり、その概要は下記のとおりである。
 原子炉の型式、熱出力および基数
  ウォーターボイラー型軽水均質炉10W 1基設置の場所
  東京都渋谷区代々木富ヶ谷町1431同大学構内
 工事に要する資金の額 約7,300万円

(2)京都大学
 原子炉設置許可申請の段階には至っていないが、同大学および文部省の要請にもとづき原子力委員会は本年7月以降その安全性の評価について予備的検討を開始している。
 本炉は関西方面における大学の共同利用のための研究用原子炉であって、その設置についてはすでに原子力委員会においても設置の方針を明らかにし、文部省において一部の予算措置が講ぜられ一応の設計もできているが、設置場所が確定していないため建設計画が遅れているものである。

 原子炉の型式、熱出力および基数
  スイミングプール型1,000kW 1基
  設置場所(関西地方 未定)
  工事に要する資金の額(概算16億円)

(3)立教大学
 原子炉設置許可申請は提出されていない。
 本炉は米国聖公会の寄付金4千万ドルその他第一原子力産業グループ等からの資金合計総額2億円程度で原子炉を設置しようとしているもので、当初スイミングプール型を考慮していたようであるが、最近はゼネラルダイナミックス社製トリガ炉に変更するべく準備を進めている。

 原子炉の型式、熱出力および基数
  固体均質型 30kW 1基
  設置の場所(未定)
  工事に要する資金の額 約2億円

(4)武蔵工業大学
 原子力委員会および原子力局に対してまだなんらの連絡もない。
 東急(東京急行)原子力研究委員会が中心となって武蔵工大に上記立教大学と同じトリガ炉を設置せんとする機運があると聞いている。

2.取扱方針
 大学における原子炉設置の機運に対処して、原子力委員会は昨年12月13日第48回定例会議において教育、研究用原子炉の設置許可基準を次のように内規として決定した。
 なお、教育用、研究用の区別は、とりあえず熱出力10kW以下のものと、それよりもやや大きいものとに大別して考えたものである。

大学における教育、研究用原子炉について

1.主として教育に用いられる小型原子炉(たとえばアルゴノート等)については、次の諸条件に適合するかぎり、その設置を認めるものとする。

 イ、規制法の諸条件を満たすものであること。
 ロ、原子力に関する教育について十分のスタッフを有すること。
 ハ、原子炉の型式が使用の目的に合致するものであって、その熱出力が原則として10kW以下であること。

2.主として研究に用いられる原子炉については、次の条件に適合するものにつき、そのつど検討の上決定する。

 イ、規制法の諸条件を満たすものであること。

 ロ、研究、開発、科学者、技術者の養成等その原子炉の使用目的が適切であって、原子炉の型式、性能がその目的に合致するものであること。

 ハ、原則として大学の共同使用の目的に合致すること。

 なお、1.の教育用原子炉の対象としては次の原子炉が考えられる。



3.規制法の諸条件
 原子炉の設置については、原子炉等規制法によって一般的な設置基準が定められ、さらに安全確保等の見地から原子炉の運転、管理についても諸種の規制がなされ、基準が定められている。
 今、設置の場合の基準(規制法第24条)を掲げると

(許可の基準)
 第24条 内閣総理大臣は、前条第1項の許可の申請(注 原子炉設置許可申請)があった場合においては、その申請が次の各号に適合していると認めるとき でなければ、同項の許可をしてはならない。

 一 原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。

 二 その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。

 三 その者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。

 四 原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。

2 内閣総理大臣は、前条第1項の許可(注 原子炉設置の許可)をする場合においては、前項各号に規定する基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見をきき、これを尊重してしなければならない。
 これら基準の適用のうち特に安全性の評価を必要とする部面については、原子力委員会に原子炉安全審査専門部会を設け、安全性の審査を行うこととしている。
 なお、原子炉の設置については、設置場所の地元民の意志を尊重することが最近国会(第28国会衆議院本会議における原子炉安全性についての論議)および学会(本年4月の日本学術会議原子力問題委員会の検討結論)において要望されているので、政府としてもこの点をあわせ考慮し、設置の許可に際しては慎重に取り扱いたいと考えている。

4.原子炉安全審査専門部会(原子力委員会下部機関)
 現在、原子力委員会および原子力局において安全性の審査を行っている原子炉は、東海大学のウォーターボイラー型10W原子炉、日本原子力発電(株)会社のコールダーホール改良型150MW原子炉および関西研究用原子炉1MWの3炉である。
 原子炉安全審査専門部会においては、これら各炉につきそれぞれ小委員会を構成し、詳細な検討を行っている。

5. 東海大学炉については、規制法にもとづく設置許可申請が提出されているので、同申請にもとづき原子炉施設の位置、構造、設備の細部および原子炉の建設、運転の技術的能力等の検討が行われている。