原子力委員会参与会


第9回

〔日 時〕昭和33年9月18日 (水)14.00~17.00

〔場 所〕東京都千代田区永田町2の1 総理官邸

〔出席者〕
 稲生、大屋、茅、瀬藤、田中、伏見、松根、三島、安川、山県、脇村各参与
 兼重、菊池各委員、佐々木局長、法貴局次長、島村、太田、藤波各課長、ほか担当官
 原子燃料公社原副理事長、今井理事

〔議 題〕
1.核燃料開発に関する諸問題について
2.その他

〔配布資料〕
1.核燃料開発に対する考え方(案)
2.原子力留学生受入れ交渉進捗状況

核燃料開発に関する諸問題について

 兼重委員:核燃料に関する長期計画が必要だという考え方を持っていたが、計画といえるほどのものを作るには資料が不足している。基本方針を示すものとして今回の案を作った。これに対する御意見はこの席上または後日になってお伺いし、直すべきところは直していきたい。

 島村課長:「まえがき」には今度の案を作った際の考え方をのべている。これをもって基本方針であるといいきれない面もあるが、何もいわないのも今後の研究開発に支障を来すと思われるので、現状でいえる範囲のことを文章にしたものである。
 「探鉱」では概査を早急に完了する方針をのべている。これは網の目が粗くても大づかみの全国的な概査を早く済ませたほうがよいということである。地下の資源は逃げていくこともないので、あとは情勢を見て開発する。
 「採鉱」は将来民間でやってもらえばいちばんよい。しかし需要が確定し採算が明らかになるまではそうもいかないので必要な措置をとって助長していく。
 「精製錬」に関しては民間にも積極的な意欲がみられ、パイロットプラントを建てたいという企業もある。核燃料の需要が不確定なうちにほうぼうでのりだすことは避けたほうがよいという従来の考えを踏襲している。
 「加工」は基礎研究は別として、製造研究については網羅的ではないが民間に助成金を交付している。この効果をも期待して、加工は民間企業で行うことを考えている。
 「ウラン濃縮」は在来の方法では困難だが、その他の方法でわが国に適したものがあれば研究開発に努める。
 「劣化ウラン」、「再処理」、「廃棄物処理」は今すぐの問題ではないが、今後の方針を示している。
 「検査」については、燃料は国による検査制度が必要であるとは考えないが、万一の事故を未然に防ぐため国家の検査制度を確立するという方針を示した。

 田中参与:I探鉱、II採鉱、III粗製錬、IV精製錬は国産の鉱石に関するものである。将来ウランの国際市場の需給関係からイエローケーキや燃料が安く輸入できるようになった場合に国産の鉱石をどの程度の規模で利用するかという方針を考えておく必要はないだろうか。

 島村課長:精製錬までの文章に散見されるように、国内の鉱石をできるだけ開発するという考え方はとっていない。民間で採鉱した鉱石の買上げを保証する買上げ価格は国際価格との関係で考えており、また燃料公社の採掘は利益をあげないとしても損失をださないでやっていける範囲に止める考えである。

 田中参与:粗製錬の設備に投資したがむだになるという場合も考えられる。

 三島参与:民間企業のなかには粗製錬から精製錬までやりたいと思っているが政府の方針と時期の問題から手をだしかねているところがある。政府の考えを示してほしい。

兼重委員:昨年6月に原子力委員会でウラン鉱石の買上げ価格を決定した。これは国際価格より1割程度高めとし5年ぐらいは維持する必要があるものとした。買い上げた鉱石の製錬は国際価格との関係からどう考えていくべきか検討する。

 大屋参与:海外の精鉱のほうが当然安いだろう。したがって国内の鉱石を開発しようとすれば二重価格になる。結局は輸入の精鉱と国内産の精鉱とをいっしょにして特別会計に入れ、特別会計で差額を負担する以外にないのではないか。これはそのときになって考えてもよい問題と思う。

 瀬藤参与:ニッケルが前例である。輸入すれば安いのに国産の高いニッケルを買わされた。こんな方法をやってはいけない。

 田中参与:実験炉の燃料にするのは国産の高いものでもよいが、発電炉に高い燃料費を適用するのはおかしい。

 松根参与:粗製錬までの段階はそろばんが合うまでは燃料公社がやるのではないのか。

 兼重委員:燃料公社といえども、採算に合わぬものはやらないという考えである。

 大屋参与:明らかに日本のウラン鉱石のコストが高いとわかれば高く買ってやらねば産出量はふえない。将来買上げ価格をあげる必要も考えられる。

 田中参与:国内鉱が割高なものばかりとわかったなら、将来使うことにしてそのまま置いておけばよい。

 大屋参与:やまは掘らねばあるかどうかわからない。とっておくのではないのと同じことである。

 兼重委員:特に燃料公社とは関係が深いので、燃料公社の原副理事長から御意見をのべていただきたい。

 原副理事長:各専門理事と相談したところにより、燃料公社としての意見を申し上げる。

① 「原子燃料公社は探鉱を行った・・・・・・随時公表し」を削除し「採鉱を」に替える。

②「鉱区のうち、特に原子燃料公社に・・・・・・開発の困難な鉱区について」を次のように改める。「鉱区または特に原子燃料公社による開発を適当とする鉱区について」

③「精製錬事業の方針を決定するものとする。」を次のように改める。「その時期、規模等の具体的方針を決定するものとする。」

④「被覆材の製造、鋳造・・・・・・原子燃料公社において実施する。」を次のように改める。「被覆材の製造、鋳造、圧延、成型等製造技術の開発は民間に委託し、これが組立その他原子燃料公社において行うことが適当であるものは原子燃料公社が中心となって実施する。」

⑤「在来方式によるもの・・・・・・が期待でき、かつ」を除く。

⑥「・・・・・・考えられる。」の次に「国家検査制度は国において直接行うもののほか原子燃料公社に委託して行うものとする。」を入れる。

 稲生参与:燃料公社から12頁の一部を訂正したいという御意見があったが、炉心の組立は民間では適当でないとお考えですか。

 原副理事長:現在は燃料の形状もはっきり決っていない。燃料要素の製造技術はともかく、炉心の組立はただちに民間の会社に期待するのは無理だから燃料公社で引き受けるのが適当であろう。将来採算がとれるようになればあらためて考えることとする。

 稲生参与:燃料要素の製造が民間にできて炉心の組立ができないという判断はどういう理由からでてきますか。

 原副理事長:民間と公社の間に線をひいて分けることはわたしにはわからない。ざっくばらんにお話し願って加工がうまくいくようにしたい。

 兼重委員:いまのようなお話なら原文のままでよい。

 原副理事長:民間でやれないことがわかってから急に公社がやれとなると困るので研究を進めていけるようにしたい。

 大屋参与:原文を修正するならば加工業者の意見を聞いて修正してほしい。

 兼重委員:民間の創意を生かすことは必要である。民間でやるか公社でやるべきかは、それを判断する人と時期とにも問題がある。

 伏見参与:こういう「考え方」を作る際には、問題点があればそれを局内だけでなく原研など局外にも出して検討することを考えてほしい。

 兼重委員:専門部会の意見を聞くことは考えている。

 伏見参与:専門部会からは既存の知識がもらえるがそれ以上は望めないのではないか。

 島村課長:そのような点は感じている。予算に新しく調査委託費を計上し、その点を補うことを考えている。

 三島参与:核燃料、金属材料の専門部会ではジュネーブ会議の成果に期待している。各専門部会でジュネーブ会議のデータを早く整理したい。

 伏見参与:18頁ではPuの平和利用をもっと強調してほしい。

 兼重委員:この「考え方」は期限に迫られてはいないが、適当な時期に発表したほうがよい。この次の参与会で御意見を伺ってもよい。

その他

(1)各専門部会の審議状況について
 法貴次長から各専門部会の審議状況を口頭で説明した。

(2)原子力留学生受入れ交渉の進捗状況について
 島村課長から留学生の受入れ交渉の進捗状況を資料2によって説明した。

 島村課長:留学生の研究テーマは一般的なものから専門的なものに移っている。

 瀬藤参与:文部省から行くのは別ですか。

 兼重委員:文部省の予算で行くのは別である。特に原子力にだけ力を入れるわけにいかないので毎年5人ぐらいが派遣されている。

 島村課長:原子力留学生に支給される経費は8~10ドル、文部省からの留学生では5~6ドルの場合もあり、一般に比べてよい取扱いになっている。

(3)前回の参与会ののちに起った主要な問題について
 島村課長が報告した。

(4)その他

 茅参与:毎日新聞に「原子力開発計画練り直し」という投稿が載せられている。こういうものを放っておくか、どうするか。

 兼重委員:ジュネーブ会議の出席者が帰って来てから態度を決めたい。

 安川参与:報道関係から質問がありジュネーブ会議からの報告に対してどういう態度をとるかと聞いてきた。一部の会議出席者の主観的印象のみが伝わっていることも考えられるので、帰って来た人の報告を聞かねばなんとも言えない。会社の方針としては英国のメーカーと談判し3,000MWDの言質をとらなければ話をすすめないつもりである。一般的な問題はAEAを相手にして話をすすめる。

 田中参与:3,000MWDを固執しますか。

 安川参与:しません。要は経済ベースで限界は2,500MWDと思う。

 菊池委員:原子力委員会がなんでもかんでも発電炉を輸入しようとしているかのように外部で判断するのが間違っている。新聞のいうことに対して委員会として何かをなすべきだとは考えない。

 兼重委員:この問題に限らず、世論が動かされるということもあり、言うべきことは適当な時期にいったほうがよい。

 大屋参与:委員会が一般の啓蒙を考えるのはよい。しかしその前に学者と考えられている人が、なにかネガティブな問題が起ると真相のわからないうちに軽々しく発表するのは適当でない。