原子力関係科学者技術者に関するアンケートの集計

その1(民間企業)


目次

1.はしがき
(1)アンケートの目的
(2)集計の範囲
(3)照会先の選定および調査方法
(4)回答数について
(5)集計の方法

2.集計結果
(1)原子力関係科学者技術者の現状
 (a)原子力関係科学者技術者数
 (b)専任率について
 (c)総従業員数、科学者技術者数との対比
 (d)原子力関係科学者技術者専門別内訳
 (e)原子力関係科学者技術者養成実績
 (f)原子力関係科学者技術者不足数
 (補)

(2)原子力1関係科学者技術者の将来
 (a)将来の原子力関係科学者技術者数
 (b)将来の原子力関係科学者技術者専門別内訳
 (c)全体としての科学者技術者数との対比
 (d)原子力関係科学者技術者養成の見通し

 付表1 部門別会社名一覧
 付表2 調査票様式


 1.はしがき

(1)アンケートの目的
 本アンケートは、さる6月13日の原子力委員会決定にもとづき、行政管理庁の承認を得て行われたもので、その目的とするところは原子力関係科学者技術者養成計画策定の基礎資料をうるため、原子力の研究開発ならびに利用に従事している科学者技術者について、その現状および将来の必要数を把握し、あわせてその養成計画に対する意見を調査するにある。

(2)集計の範囲
 このアンケートは、民間企業580件、国立・公立試験研究機関等(日本原子力研究所、原子燃料公社を含む)56件、大学(学部ごと、短期大学を含む)約400件を対象に実施したが、ここではとりあえずさる9月15日回答受付を締め切った民間企業分について集計を行った。

(3)照会先の選定および調査方法
 民間企業照会先580社は、日本原子力産業会議会員会社を基準に選定したが、本アンケートの目的にとって当面さして重要性をもたないと思われる報道、興業、デパート、銀行等は除外した。照会先の業種別内訳は第1表に示すとおりである。
 調査方法は15〜17ページに示す調査票を7月28日上記照会先の会社あて送付し、記入を求めたが、一部聴取調査も併用した。

第1表 業種別照会先数・回答数

(4)回答数について
 上記照会先からの回答は8月20日の締切後督促の結果、9月15日現在265社を数え、全体としての回答率は45.7%となっている。
 回答会社265社中68.4%にあたる181社は現在原子力関係科学者技術者を持っているか、または将来これら科学者技術者を持つことを計画していると回答してきており、残り84社は当面は現在ならびに将来とも原子力関係科学者技術者を持つ計画がなく、本アンケートの調査に該当なしと回答してきている。
 回答会社の業種別ならびに該当・非該当別内訳は第1表のとおりであるが、業種別にみた回答率はかなりの高低がある。
 全体としての回答率45.7%は一般のアンケート回答率に比して低率であるとみられるが、これは、

1)調査対象をきわめて広くとったこと
2)調査対象中には、回答会社の31.6%が非該当と回答してきている点にみられるようにアンケートの調査項目に該当する原子力関係科学者技術者を持っていないものが多く含まれていること
3)調査項目がアンケートの目的から将来の計画にわたるものが多く、回答することが困難なこと等によるものと思われる。

 しかしながら電気業、電力用機械器具製造業、通信用機械器具製造業、船舶製造修理業等の回答率は70%を越え、その他原子力に関係の深い業種の回答率は高いので、アンケートの結果は、一応原子力関係科学者技術者の現状ならびに将来の必要数を推定するに足りるものと考えられる。

(5)集計の方法
 アンケートの集計にあたって回答会社を主業分類により業種別に集計することは、たとえば黒鉛メーカーが化学肥料製造業に、重水メーカーが化学繊維製造業に分類されている等あまり意味を持たないので、原子力産業の特殊事情にかんがみ業務内容により次の17部門に分類して集計した。
(1)動力利用(発電)
(2)動力利用(船舶)
(3)原子炉主要機器製造
(4)原子炉付属機器製造
(5)原子力船推進機器製造
(6)燃料製錬加工(含採鉱関係)
(7)燃料製造機器材料製造
(8)原子炉材料製造(金属)
(9)原子炉材料製造(非金属)
(10)遮蔽材料製造
(11)安全防護機器材料製造
(12)その他機器製造(除RI機器)
(13)RI利用
(14)RI機器製造
(15)建設
(16)商事
(17)その他

 上記業務内容別部門への分類にあたっては、回答会社の「原子力関係取扱品目」についての回答を基準とし、また日本原子力産業会議編「日本の原子力体制」を参考とした。なお分類は、将来の原子力関係業務内容に重点を置き、いくつかの部門にわたり業務を行っている会社については将来重要になると思われる部門に分類した。ただし兼業部門の人員を区分することは不可能なので、すべて主業務の部門において集計した。

 上記17部門の会社名一覧は付表1のとおりである。

2.集計結果
(1)原子力関係科学者技術者の現状
 (a)原子力関係科学者技術者数
 現在すでに原子力関係科学者技術者を持っているか、または将来これら科学者技術者を持つと計画していると回答してきた181社のうち、172社が昭和33年3月末現在これら科学者技術者を持っており、その総数は2,412名に達する。このうち619名は他の業務との兼任者であるので、原子力関係業務の専任者は1,793名で、全体としての専任率は74.5%となっている。
 これを各部門別にみると、第2表のとおりで、絶対数では電力用機械器具製造業を主体とする「原子炉主要機器製造」、船舶製造修理業を内容とする「原子力船推進機器製造」の人員が多く、「原子炉材料製造(金属)」、「動力利用(発電)」、「RI利用」、「燃料製錬加工」、「建設」、「商事」と続いている。「その他」は科学研究所を含むために多い。

第2表 原子力関係科学者技術者現在数

              (昭和33年3月末現在)



 (b)専任率について
 これら部門別の原子力関係科学者技術者の専任率をみると、全体としては74.5%であるが「原子炉主要機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「RI機器製造」、「建設」等における専任率はいずれも90%以上になっており、このことはこれらの部門においては原子炉はともかくRI機器、放射線測定器、各種実験機器等の生産がすでに開始されている事実を反映したものである。またこれらの部門においては、その業務内容からみて原子力についての専門知識を要する科学者技術者を多数必要とすることも専任率の高い理由となっていると思われる。さらに「動力利用(発電)」、「RI利用」、「商事」のごとく、実際の業務にたずさわっている部門ないし近く業務が開始されようとしている部門の専任率が高くなっている。
 これに対して「動力利用(船舶)」のごとく早急に実際の業務が開始されないとみられる部門ないし「燃料製造機器材料製造」、「原子炉材料製造(金属)」、「安全防護機器材料製造」、「その他機器製造」等のごとく、在来の生産技術に密着して、特に原子力に通暁した科学者技術者を多く必要としない部門における専任率は低くなっている。

 (c)総従業員数、科学者技術者数との対比
 昭和33年3月末現在の原子力関係科学者技術者数を回答会社168社(総該当回答会社181社から同時点において原子力関係科学者技術者を持たないものおよび総従業員数、科学者技術者数の記入のないものを除く。)の総従業員数、科学者技術者数と対比すると第3表のとおりである。

第3表 総従業員数、科学者技術者数との対比−1

 すなわち168社の総従業員数は951,454名、うち科学者技術者数は63,476名で、6.7%となっている。ただし部門別にこの比率をみると、高度の知識、技術水準を要求される「原子炉付属機器製造」、「燃料製造機器材料製造」、「RI機器製造」、「その他機器製造」等の部門および特殊の労務組織を持つ「建設部門」等においては科学者技術者の比率が高くなっている。
 次に科学者技術者中の原子力関係科学者技術者の比率は、全体として3.8%(専任者のみでは2.8%)となっているが、部門別にみると、実際に業務が開始されている「原子炉主要機器製造」、「RI機器製造」、「その他機器製造」、「商事」等の部門ではこの比率が高くなっている。これに対して当面原子力関係の業務の開始されていない部門においては、科学者技術者のうちわずかな部門しか原子力関係にさいていない。かかる傾向は(b)に述べた専任率の高低と同じ理由にもとづものといえよう。ただし「動力利用(船舶)」および「その他」は例外となっている。なおここで注意すべきことは「RI利用」の部門において、原子力関係科学者技術者の絶対数が比較的大きい割に、その全体の事業規模ないし科学者技術者数からみてきわめてわずかな原子力関係科学者技術者しか持っていない点で、今後RIの工業利用の進展につれてかなり急速に増加することも予想される。

第4表 原子力関係科学者技術者専門別内訳−1

(d)原子力関係科学者技術者専門別内訳
 原子力関係科学者技術者2,412名の専門別内訳は第4表のとおりで、全体としては、機械26.4%、電気17.6%、理学関係数物系14.2%、工学関係化学13.7%、鉱山冶金8.4%、理学関係化学系7.2%、土木建築6.2%、農学関係3.0%となっている。

 部門別に科学者技術者の専門別内訳をみると、
  「動力利用(発電)」−電気
  「原子炉主要機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「RI機器製造」−電気・機械
  「原子力船推進機器製造」、「その他機器製造」−機械
  「燃料製錬加工」、「原子炉材料製造(金属)」−鉱山冶金
  「建設」−土木建築
 のごとく、各部門の業務内容によって専門別構成に一定の型が看取される。また化学工業が比較的多数を占める「原子炉材料製造(非金属)」、「RI利用」の各部門に理学関係化学系および工学関係化学が多いことも注目される。
 全体として理学関係数物系の比率が高くなっているがこれは原子力産業の特殊事情によるものとみられ、同時に当面なお試験所究の段階にあることを示すものとみられるが、将来核設計その他原子炉の基幹部分を担当するものと思われる。事実「原子炉主要機器製造」、「遮蔽材料製造」、「RI機器製造」、「商事」、「その他」の各部門において数物系の比率が高くなっている。
 将来、理学部数物系に原子核物理が、また電気機械等の一部は原子炉工学がそれぞれ代位してくるものと考えられる。

 (e)原子力関係科学者技術者養成実績
 原子力関係科学者技術者を確保するために、原子力関係学科の履修者を新規採用する方法および既存の科学者技術者を原子力関係科学者技術者に再教育する方法が考えられるが、前者については原子力専攻の大学院ないし学部学科がここ2〜3年来ようやく設置された状況で卒業生はほとんどなく、現在までのところ大部分後者の方法によっている。

 昭和33年6月までの原子力関係科学者技術者の養成機関別の養成実績をみると第5表のとおりで、合計121社が554名を養成している。この養成人員は延数字であるので、必ずしも一義的に割り切れないが、一応全体としての原子力関係科学者技術者2,412名のうち約21%がいずれかの養成機関に派遣または出向されたことになる。

第5表 原子力関係科学者技術者養成実績

 ただし「動力利用(発電)」部門の原電派遣または出向58名はほとんど33年3月末現在の原子力関係科学者技術者数の外数となっており、また一般に原研への派遣または出向も大部分原研のスタッフとなっており、民間企業の現在員数からは除外されていると見受けられる。(原研では民間企業から原研スタッフにならない、いわば自前の研究員受入れは8月末現在17名にすぎないといっている。)しかし、これらの科学者技術者もいずれはそれぞれの派遣または出向先から各民間企業に帰任し、主要な地位を占めるようになると思われる。
 かかる問題は含まれているが、現在までの養成実績では、養成内容の質的な差異はあるものの、海外派遣が最も多くの人員を養成したことになっており、全体の24.8%を占めている。次いで原研アイソトープ研修所(日本放射性同位元素協会による講習会等を含む。)20.6%、大学派遣17.3%、原電派遣または出向10.7%、その他10.6%が続いている。 部門別に養成実績の特徴をみると、「動力利用(発電)」では当然のことながら原電への派遣または出向が圧倒的なウェイトを持ち、「RI利用」では原研アイソトープ研修所への派遣が大きな役割を果している。これに対して「原子炉主要機器製造」、「原子力船推進機器製造」等の部門では海外派遣が多い。ただし「建設」部門の海外派遣が多いのは、視察程度のものを多く計上しているためである。
 なお大学への派遣は「その他機器製造」を除きすべての部門で実施されており、従来再教育の機関としてはあまり重視されていなかった養成部門だけに注目される。
 また、従来の原子力関係科学者技術者の養成にあたっては、まず1週間程度の講習会、シンポジウム等に出席、次いで本格的な講習会ないしは養成機関への派遣または出向というコースをたどるのが通例のように見受けられる。

 (f)原子力関係科学者技術者不足数
 本アンケートは、現在民間企業の設置している原子力関係部門の科学者技術者の充足状況について、(イ)不足していない (ロ)不足しているの2点を調査し、(ロ)の場合には、人員およびその専門別内訳を明記するよう求めた。しかしながら、この調査はいわば意識調査に属するので、回答者の主観が混入することは避けられない。

 回答会社181社中77社が、現在原子力関係科学者技術者が不足していると回答しており、うち75社が不足数の専門別内訳を明記してきている。これによれば現在の不足数総計は672名でその内訳は第6表のとおりである。

第6表 原子力関係科学者技術者不足数

 不足人員の専門別構成は、機械22.0%、化学16.8%、電気16.5%、理学関係数物系14.9%、土木建築ならびに鉱山冶金8.3%で現在人員の専門別構成比にかなり類似した形を示しているが、現在人員に対する不足人員の割合をみるとかなり不足人員の専門が片寄っている。すなわち不足人員合計672名の原子力関係科学者技術者合計2,412名に対する割合は27.9%となっているが、この比率を専門別にみると土木建築の37.6%を筆頭に、化学34.2%、理学関係数物系29.2%、鉱山冶金27.6%となっており、これらの専門分野での不足数が相対的に大きいことを示している。もちろん理学関係生物系、農学関係、医学関係その他の比率はきわめて高いが、これは絶対数が少ないのでさして深刻な問題とならないであろう。
 また部門別の不足数では「原子炉主要機器製造」、「動力利用(発電)」における不足数が大きいが、ともにさし迫った業務量の増大に応ずるための高度の知識、技術水準を持った科学者技術者が不足しているものとみられる。特に前者については、大型動力炉の導入を控えて土木建築関係の技術者の不足が告げられていることは特徴的である。また「RI利用」部門の不足にその他が多いのは放射化学、高分子化学等新しい専門分野の科学者技術者が不足しているためである。
 (補)
 以上のごとく、原子力関係科学者技術者の現状は、すでに原子力関係業務が開始されている部門ないし近く開始されようとしている部門においては一般的な傾向として原子力関係科学者技術者の絶対数が大きく、またその専任率、全体の科学者技術者中に占める比率が高くなっている。
 この傾向からみて原子力関係科学者技術者も他の一般の従業員数と同様、業務規模(具体的には売上高)と相関関係を持つものと予想されるが参考資料として調査した原子力関係取扱品目についての売上高または数量についてほとんど回答がなかったので定量的に上記相関関係を算定することはできなかった。また「商事」部門を除き生産利用の部門では原子力業務のうち営業活動よりも試験研究ないし調査等に従事しているものが圧倒的に多い現段階においては、業務規模と従業員数との間に一義的な関係を見出すことは困難である。

(2)原子力関係科学者技術者の将来
(a)将来の原子力関係科学者技術者数
 将来の原子力関係科学者技術者数については今後の原子力関係業務規模が明確に予測しえないため、かなり希望数値が混入するおそれがあり、また逆に保守的な見通しを立てるものもあるので必ずしも正確を期しがたい。

第7表 将来の原子力関係科学者技術者数(集計結果)

 一応各社の回答数を集計すると第7表のとおりで、昭和33年3月末の現在人員2,412名(172社)に対し

  昭和34年3月末    2,565名(143社)
  昭和37年3月末    3,182名(125社)
  昭和40年3月末    4,066名(109社)

となっており回答社数はかなり減少しているが、人員は急速に増大することを示している。
 また回答社数を部門別にみると「動力利用(船舶)」、「燃料製錬加工」、「原子炉材料製造(非金属)」のごとく原子力関係業務規模について将来の見通しが特に困難なものは、将来の回答数がきわめて低くなっている。また「建設」についても将来の回答数はきわめて少なくなっている。これに対して「動力利用(発電)」、「原子炉主要機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「原子力船推進機器製造」(この場合は原子炉耐圧容器、交換器メーカーとみるべきであろう。)、「RI機器製造」等すでに原子力関係業務が開始または近く開始されようとしている部門においては比較的将来の見通しやすいことから回答社数は多くなっている。 
 次にこれら回答会社の将来の原子力関係科学者技術者数をみると社数が異なるので増加率を算定することはできないが、例に1社あたりの人員をみると、

  昭和33年   14.0名
  昭和34年   17.9
  昭和37年   25.4
  昭和40年   37.3

となっており、33〜34年中に27.6%、33〜37年中に81.5%、33〜40年に166.0%の増大となっている。
 また30年3月末から37年3月末まで一貫して原子力関係科学者技術者数を回答してきた125社についてその増加傾向をみよう。
 すなわち、上記125社の原子力関係科学者技術者数の増加状況は第8表のとおりで30〜33年中に約3.7倍の増加を、33〜37年中に約2倍の増加を示している。この傾向は30〜37年中ほぼ直線的に原子力関係科学者技術者が増大することを示している。
 また部門別に増加率をみると「動力利用(発電)」、「原子炉付属機器製造」、「RI利用」、「RI機器製造」の各部門における今後の増加率が高くなっており、「原子炉主要機器製造」、「原子力船推進機器製造」等の部門においては、増加の絶対数は大きいが増加率は漸次低下する傾向にある。
 なお、将来の人員について注意すべきことは、いずれも各年3月末現在の人員を集計したものであって、実際には退職、部署異動等による交代要員を考えると回答されてきた各年3月末現在人員数以上に原子力関係の知識技術を持った科学者技術者を必要とすることである。この点については原子力関係科学者技術者の勤続年数別構成、原子力関係部署の科学者技術者の平均勤務年数等が明らかにされなくてはならないが、本アンケートでの調査範囲を越える。

第8表 昭和30〜37年中原子力関係科学者技術者増加状況

 

 (b) 将来の原子力関係科学者技術者専門別内訳

 次に将来の原子力関係科学者技術者の専門別内訳をみると次のとおりで、37年3月末の実数は第9表のとおりである。


 すなわち将来絶対的にはもちろん、相対的にも増大が予想される専門分野は、機械および電気で特に前者についてはきわめて大幅な増加を示しており、これは「原子炉主要機器製造」、「原子力船推進機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「RI機器製造」等の部門における増加が大きいためで、内容的には従来の一般機械工学のほか、精密機械計測工学さらには原子炉工学等の人員が大幅に増大することを反映しているとみられる。また電気については「動力利用(発電)」、「原子炉主要機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「原子力船推進機器製造」等の部門における増加が大きいためで、内容的には従来の電気工学のほか、電子工学等原子炉関係その他の計測制御に関する分野を担当すべき科学者技術者が多いものと思われる。
  なお理学関係数物系の比率が34年に一度高くなっているが、これは「原子炉主要機器製造」の部門でかなり大幅な増員を予定しているほか、各部門において生産活動の基盤となる各種の設計、計算等の要員を早急に確保しようとしているためとみられる。
 ただし、将来の原子力関係科学者技術者の専門別内訳については、部門別に回答状況がきわめて不揃いであるため現在時においてかなり明確に将来を見通しうる部門の専門分野−「動力利用(発電)」、「原子炉主要機器製造」、「原子炉付属機器製造」、「RI機器製造」等に多い電気、機械−の比率が高く現われてくることに注意すべきであろう。

(c)全体としての科学者技術者数との対比
 調査票においては、将来の原子力関係科学者技術者の相対的な規模を明らかにするため、総従業員数および全体としての科学者技術者数についての回答を求めたが、両者回答してきたものきわめて少ないので、ここでは、昭和37年3月末における原子力関係科学者技術者数を全体としての科学者技術者数と対比した。

第9表 原子力関係科学者技術者専門別内訳−2

第10表 全体としての科学者技術者数との対比−2

 すなわち、上記時点における全体としての科学者技術者数は、回答会社93社、37,905名で、うち原子力関係科学者技術者は2,606名で、その比率は6.9%となっている。その部門別内訳は第10表のとおりで「動力利用(発電)」、「原子炉主要機器製造」、「原子力船推進機器製造」、「燃料製造機器材料製造」、「原子炉材料製造(非金属)」、「その他機器製造」、「RI機器製造」、「商事」の各部門における比率が高くなっている。ただし「動力利用(船舶)」の比率の異常に高いのは例外とみられる。また「燃料製造機器材料製造」についても回答社数が少ないので同様のことがいえよう。
 これに対して「原子炉付属機器製造」、「原子炉材料製造(金属)」、「遮蔽材料製造」、「RI利用」、「建設」等比較的現在の生産技術水準によって原子力業務の拡大に応じうる部門、ないし現在においても原子力関係従事者の比率の低い部門における原子力関係科学者技術者の比率は低くなっている。
 次にこの比率を33年3月末の比率と比較すると、全体としては、33年3月の3.8%(専任者のみで2.8%)から37年3月の6.9%へ2倍近い増加がみられるが、部門別にみると「動力利用(発電)」、「原子力船推進機器製造」、「原子炉材料製造(非金属)」、「RI機器製造」等、原子力関係業務の規模が急速に拡大すると予想される部門での比率増大が目だっている。

 (d)原子力関係科学者技術者養成の見通し
 次に将来増大する原子力関係科学者技術者の養成について、37年度までの見通しをみると第11表のとおりである。すなわち106社が合計1,210名の原子力関係科学者技術者をなんらかの形で養成することを予想しており、昭和33年6月までの養成実績554名の2倍以上になっている。

第11表 原子力関係科学者技術者養成見通し

第12表 原子力関係専攻者の教育制度について

 養成機関別には、あいかわらず海外派遣の比率が高いが、原研派遣または出向、原研原子炉研修所ならびにアイソトープ研修所への派遣等国内諸機関における養成の比率も高くなっている。また大学への派遣もかなりの高率を示している。
 部門別には、原電への派遣または出向114名を含む「動力利用(発電)」の377名が最も大きく、次いで原研アイソトープ研修所派遣43名を含む「RI利用」の93名が続いている。これに対し「原子炉主要機器製造」、「原子力船推進機器製造」等高度の知識、技術水準の要求される科学者技術者を必要とする部門においては養成予定人員も多いが、特に海外派遣の比率が高くなっている。なお「建設」部門の海外派遣が多いのは依然視察程度のものを含んでいるものと思われる。
 さて、37年度までに養成を予定される科学者技術者数1,210名に33年6月までの養成人員554名を加えると1,764名となり、37年3月末における原子力関係科学者技術者数3,182名に対して約55%に達することになる。もちろんこれら二つの対比数の内容は回答会社の社数も異なり、また養成人員は延人員となっているので直接的な対比はできないかもしれないが、それにもかかわらず、今後かなり積極的な原子力関係科学者技術者の養成を予定していることはまちがいない。特に日本原子力研究所に対しては、原子炉研修所、アイソトープ研修所、さらには研究員としての派遣または出向の形で期待するところきわめて大である。
 なお、その他将来の原子力関係科学者技術者の大学における養成制度について回答を求めたが、その結果は回答181社中112社が回答を寄せており、第12表にみられるとおり

(イ)大学学部内に専門学科(たとえば原子核工学科等)を設けることにすべきであるという意見が75社に達し

(ロ)大学院における専攻とすることにすべきであるとの意見(25社)に対し3倍となっている。

原子力関係専門学科が大学学部内に設けられたのは33年度からであるが、今後早急にこれら専門学科を新設すべきであろう。

 追記 国立・公立試験研究機関等および大学に関するアンケートについては現在集計中であるがその集計結果については追って発表する予定である。

付表1   部門別会社名一覧

(1)動力利用(発電)11社

関西電力  北陸電力

中国電力  九州電力

四国電力  東北電力

中部電力  電源開発

東京電力  北海道電力

日本原子力発電

(2)動力利用(船舶) 6社

大阪商船  山下汽船

日本油槽船 飯野海運

三菱海運  日本郵船

(3)原子炉主要機器製造 6社

日立製作所 東京芝浦電気

三菱電機  富士電機製造

バブコック日立 三菱原子力工業

(4)原子炉付属機器製造12社

荏原製作所 横山工業

石川島芝浦タービン 山武ハネウエル計器

明電舎  北辰電機製作所

横河電機製作所  沖電気工業

酉島製作所  日本電気

汽車製造  東洋電機製造

(5)原子力船推進機器製造10社

三井造船  名古屋造船

飯野重工業 播磨造船所

川崎重工業 三菱造船

石川島重工業 浦賀船渠

日立造船 三菱日本重工業

(6)燃料製錬加工(含探鉱関係)13社

大阪金属工業 三菱金属鉱業

住友金属鉱山 横沢化学工業

旭電化工業  住友電気工業

小松製作所  三井金属鉱業

中外鉱業   住友金属工業

ラサ工業   古河電気工業

日本鉱業

(7)燃料製造機器材料製造 5社

千代田化工建設 三菱化成工業

日本オルガノ商会 日本真空技術

三菱化工機

(8)原子炉材料製造(金属)10社

三宝伸銅工業  神戸製鋼所

日本鋼管    三徳金属工業

大阪チタニウム製造  東洋ジルコニウム

日本碍手  日本金属工業

川崎製鉄  日本冶金工業

(9)原子炉材料製造(非金属) 7社

昭和電工  日本酸素

東海電極製造  東亜合成化学工業

住友ベークライト  旭化成工業

日本カーバイド工業

(10)遮蔽材料製造 7社

旭硝子  野田セメント

秩父セメント  日本板硝子

野沢石綿セメント  日本セメント

大阪窯業セメント

(11)安全防護器材料製造 5社

富士写真フイルム  関西ペイント

神東塗料  日本ペイント

千代田保安用品

(12)その他機器製造(除RI機器)5社

月島機械  東洋キャリア工業

栗田工業  日本エヤーブレーキ

木村鉛鉄機械工業所

(13)RI利用 42社

日本専売公社  三菱レイヨン

鐘淵紡績  神崎製紙

雪印乳業  宇部興産

東亜燃料工業  興亜石油

昭和石油  阪東調帯護謨

横浜護謨製造  鐘淵化学工業

協和醗酵工業  日本化薬

別府化学工業  伊奈製陶

日立電線  東芝製鋼

光洋精工  東海炉材

菱鋼材  藤倉電線

久保田鉄工  富士通信機製造

日本電信電話公社  味の素

出光興産  丸善石油

日本石油  日本農薬

田辺製薬  武田薬品工業

東洋レーヨン  東邦レーヨン

日東紡績  東洋紡績

大和紡績  電気化学工業

多木製肥所 帝国人造絹糸

日本曹達  東洋高圧工業

(14) RI機器製造 7社

島津製作所  理学電機

堀場製作所  浜松テレビ

日本無線  島田理化工業

神戸工業

(15) 建設10社

大成建設  大林組

日建設計工務   間組

竹中工務店  日立工事

西松建設  清水建設

三菱地所  鹿島建設

(16) 商事14社

三菱商事  日綿実業

岸本商店  木下商店

松下電器貿易  伊藤忠商事

明和産業  東陽通商

東洋棉花  安宅産業

住友商事  東芝放射線

日商  極東貿易

(17) その他12社

豊田自動織機製作所  酒井鉄工所

吾嬬製鋼所  日本国有鉄道

東京海上火災保険  日本燃料

新明和興業  鈴木自動車工業

帝国酸素  昭和電線電纜

科学研究所  愛知電機工作所


付表2 原子力関係科学者技術者調査票

原子力関係科学者技術者調査票