原子力平和利用研究の紹介



 原子力平和利用研究のうち、①原子炉冷却系統における弁のベローによる漏洩の防止に関する基礎研究(岡野バルブ製造)、②天然ウランの熔解及び造塊に関する研究(住友金属工業)の2件を以下に紹介する。

原子炉冷却系統における弁のベローによる漏洩の防止に関する基礎研究

岡野バルブ製造(株)

1.緒言

 原子炉から熱を取り出す方法は、使用する流体の種類により温度圧力に種々の段階を生じ、また炉の使用目的その他の要素から規模および構造に多様な方式を生ずるが、これらに共通する事項として次の点を挙げることができる。

(1)炉内の熱は冷却流体の潜熱または顕熱の形で取り出されるので、冷却系統の配管および各種の弁を必要とする。

(2)弁は放射能による汚染を防止する目的および経済的理由から、外部への漏洩を厳重に管理しなければならない。この場合無漏洩が望ましいが、漏れた流体を管外に流出させることなく管理するためには究極的には小口径、低圧の場合に対してでも無漏洩を保障された弁を必要とする。

(3)弁がその本来の機能を発揮する必要のある場合は、炉の始動時、停止時および付属機器に故障を生じた場合である。故に弁の機能は他のいかなる機器よりも高い信頼性を必要とする。

(4)弁および管の多くのものは、炉内の機能を良好な状態に保つためにも、また流体の放射能を最小限に保つためにも、一般配管用弁より高い耐食性を必要とする。

 以上の点にかんがみ岡野バルブ製造(株)においては昭和32年を基礎研究期間、昭和33~34年を応用研究期間とし、昭和35年から逐次実用規模の弁を生産することを目標として、基礎研究テーマとしてグランドパッキングの研究、操作装置の研究、材料の防食法の研究等に区分して、それぞれ別個に研究を推進している。掲題のベローによる漏洩防止の研究も上記の基礎研究の一環を構成するもので、1,296,000円の補助金の交付を受けて研究を行い、昭和33年6月末に終了したものである。

2.研究の目的および範囲
 弁は圧力容器内に包蔵された弁板を管内の流体の静圧ないし動的圧力に抗して操作するものである以上、外部から弁板に力を伝える機構を必要とする。このために電磁的に伝える方法や流体圧力を利用する方法等も一部には実施されているが、確実性ならびに信頼性の点で弁棒により操作する方法には及ばない。この場合グランドパッキングからの漏洩防止の方法として第1図に示すような不銹鋼製ベローを適用できる限界を確める目的で、輸入および国産の各種のベローについて、静荷重試験、耐圧試験、繰返荷重試験を常温および350℃の状態で行った。

第1図 供試ベロー 左からNo.1、No.2、No.3、No.4、No.5、No.6


3.供試材料
 供試ベローは市販品のうちから選んだ。なお比較のためリン青銅のものを別に2種類加えた。その主要寸法を比較すれば第1表のとおりである。
 不銹鋼はメーカーにより多少その成分を異にするが、分析の結果では炭素0.03~0.07%、クロム18~20%、ニッケル9~11%で、ほぼAISI304または304L型のものである。
 供試ベローの内径、外径および高さの寸法を計測した結果、寸法公差に関しては次のとおりとなった。

(1)外径=称呼寸法+0.1、-0.7mm

(2)内径=称呼寸法±0.8mm

(3)高さ=平均高さ+0.7、-2.0 mm

 またベローに関し以下の試験を行った後、展開してミクロテスターで厚さを計測した結果、輸入品は厚さのばらつきがほとんどないが、国産品はいずれも肉厚差が甚しい点が対照的であった。これは製造方法の差によるものと考えられる。

第1表 供試ベローの主要寸法表


4.試験装置および方法
 前述のようにベローの優劣を比較し、これが実用可能なる範囲を確定する目的で、次の各項の試験を行った。

(1)静荷重試験(第2、3図)
 ベローの一端を固定して、他の端に重錘で引張または圧縮の負荷を加え、このときのびまたは縮みの量をダイヤルインヂケータで計測した。
 なお同一の装置で荷重を加えた場合の各部に生ずる歪をストレンゲージにより第3図に示す要領で計測して、寸法と応力と伸縮量の関係を調査した。

(2)耐圧試験
 水圧試験治具にベローの上下端を取り付けて、水圧ポンプで圧力を加え、ベローの耐圧力を計測した。水圧試験は、内圧および外圧の両方式について検討した。前者の場合ベロー各部にストレンゲージを取り付け、加圧した場合の歪の大きさをあわせ計測した。また、後者の場合には、内部から破壊の状態を観測し得るように装置を試作した。

(3)繰返荷重試験(第4、5図)
 圧力または圧力と温度の作用した状況でベローを繰返伸縮させたときの耐久力(伸縮回数で表示する。)を調査するために第4図に示す繰返荷重試験機を製作した。すなわち供試ベローはシリンダー内部に取りつけ、水圧ポンプの圧力がレシーバーを介してシリンダーに加えられ、その圧力は圧力計で計測する。またベローは電動機から減速歯車で減速した後クランクで往復運動を行うロッドで外部から駆動され、その伸縮量はクランクの偏心量を加減することにより任意に調節することができる。
 ベローが破損すると、水圧が低下するので自記圧力計で確認できる。 
 本装置で水圧の代りに蒸汽をシリンダーに導入することにより、加熱、加圧の状態で伸縮を加えることができる。この場合圧力はシリンダーに直結した圧力計で計測し、温度はシリンダー内に挿入された熱電対で計測した。第5図はこの状態を示すものである。

第2図 静荷重試験(引張)の状態

第3図 静荷重試験(圧縮および歪計測)

第4図 繰返荷重試験機(水圧)

第5図 繰返荷重試験機(加熱)

5.試験結果

 試験成績の主要な結果をまとめると次のとおりである。

(1)静荷重試験

 引張および圧縮荷重を加えたときの伸びまたは縮みと荷重の関係を第6図に例示する。本試験の結果から各ベローにつきその剛性係数および降伏限度を求めた結果下記の関係を得た。
   δ/W=KN/D
 ただし δ;変形量  mm
       W;荷重   kg
       N;山数
       D;平均径  mm
       K;定数

第6図 BN-5静荷重試験

第7図 ベローの剛性係数と厚さの関係

第8図 耐久力試験

 Kは3~2.1(平均2.3)となったが、t2/ΔDにより変る。ただしtはベローの厚さ、ΔDは内外径の差であって、この関係は第7図に示す。
 またベローは引張より圧縮に対する耐力が大きい。圧縮に対する耐力は近似的に次の式で計算される。


 σの値は実験上ほぼ12kg/mm2となった。

(2)耐圧試験
 両端固定して内圧を加えた場合圧力12~15kg/cm2にいたると、湾曲を生じて挫屈する。また外圧を加えると圧力15kg/cm2内外で永久変形を生じ、20kg/cm2を超えると、隣接する山が接着し、撓みが減少する。しかし120kg/cm2まで加圧しても漏洩は生じなかった。
 歪計測の結果に徴しても内圧12kg/cm2、外圧25kg/cm2までは静的圧力に対しては安全である。また加圧下で伸縮の歪を加えた場合は両者の応力が加算されるが一般的には内圧と圧縮歪を加えると山部の応力が低下し、谷部の応力が増加する。国産ベローでは谷部の厚さが厚いためにかえって外圧と圧縮歪の両者が加わったときのほうが強度が向上する傾向がある。外圧と引張歪についても同様のことがいえるが、内圧と引張、または外圧と圧縮の組合せでは逆に強度の低下を生ずる。
 輸入ベローではこれらの関係が認められないのは厚さの差がほとんどないことに起因するものと考えられる。
 なお耐圧強度250psiを目安として別にベローを試作したが厚さが増し、伸縮性が少ないため弁の漏洩防止上の目的には不適当であった。

第9図 耐久力試験で繰返し1万サイクルに耐える範囲


(3)耐久力試験

 ストロークを全長の20~25%とし、圧縮と引張の比率および圧力を変え、破壊するまでの伸縮回数を計測した一例を第8図に示す。

 また蒸汽を通じ370℃に加熱した状態でも同様の試験を行った。これらの総合結果を第9図に示す。これらの結果から次のことがいえる。

(イ)圧力を高くすると耐久力は一般には低下するが、国産ベローでは5kg/cm2内外の圧力があるときのほうが圧力のないときより耐久力は大きい。

(ロ)全ストロークのうち1/3を引張とした場合が耐久力は最大である。

(ハ)各ベローとも12kg/cm2までは1万回の伸縮に耐えるがセットの方法によっては25kg/cm2まで1万回の伸縮に耐えるものもある。

(ニ)ストロークが静荷重試験の永久変形点を30%超えるストロークではいずれのベローも1万回繰返し伸縮には耐えない。

(ホ)加熱状態では耐久回数は低下し、370℃では圧力、ストロークの等しい常温耐久力の約60%になる。

(ヘ)国産ベローでは1重、2重ベローで耐久力にほとんど差が認められないが輸入ベローの3重のものは耐久力が大きい。


6.結言
 以上をまとめると次のとおりとなる。

(1)市販ベローは一般には10kg/cm2以下で使用するのが安全であるが、適当な用い方をすれば20kg/cm2まで使用可能である。

(2)撓みは永久変形を生じない範囲で使わねばならない。供試品は永久変形を生ずる限度は自由長の20%内外であった。

(3)ベローは外圧をかけて使用したほうがよい。また全ストロークの1/3を引張とし、2/3を圧縮に使うのが最も耐久力が大きい。

(4)370℃では耐久力が60%程度低下するので、使用圧力またはストロークを減らさねばならない。

(5)国産ベローは肉厚の不同が甚しく、この結果計測値が一致せず信頼度が低い。この点では輸入品は3重ベローとなっていることと相俟って性能がよい。


天然ウランの熔解及び造塊に関する研究

住友金属工業(株)

1.装置の試作

 熔解造塊のための設備としてアーク式熔解炉およびアーク熔接装置を設計製作した。アーク式熔解炉は不活性ガス雰囲気ないし真空中で、ウランをそれ自身消耗性の電極として、またはタングステン電極を用いて直流正極性のアークにより、水冷の銅性鋳型中に熔かし込む構造になっており、最大4"φ×12"l 約46.5kgのウランを熔解することができる。真空系統は排気速度800l /secの油拡散真空ポンプおよび1,500l/minの油回転真空ポンプを具えており、最高1×10-4mmHgの高真空を得ることができる。電源には直流電動発電機を用い、その容量は40V、1,500A、60kWである。本熔解炉の構造図を第1図、外観写真を第2図に示す。
 アーク熔解装置は不活性ガス雰囲気中においてウラン小塊を熔接して消耗電極を作るためおよびできた鋳塊の表面をアーク加工により改善するため製作したもので、その構造図を第3図に、外観写真を第4図に示す。上記装置を収容する建家については、ウランは粉塵を体内に吸収すればきわめて有害であるので次のような配慮を施した。建家は41.4坪鉄筋コンクリートブロック造りで、汚染した空気が外にもれ出すことを防ぐために気密式とし、内面はすべてビニル塗料で上塗りし、隅々まで水洗可能とした。また建家の外にウランの粉塵がそのままで出ないように第5図のような収塵装置を設けた。建家内の各装置作業台の上にフードを被せ、これをダクトを通じて外のブロワーで引き、粉塵は途中のベンチュリースクラバーおよび湿式サイクロンで落し、最後に湿式グラスウールフィルターで吸着させる構造になっており、この装置の収塵効率は99.9%である。その他安全装置としてサーベイメーターを用意し、また作業用防護衣、マスク等を具えた。


第1図 アーク式熔解炉構造図

第2図 アーク式熔解炉外観写真

第3図 アーク熔接装置構造図

第4図 アーク熔接装置外観写真

第5図 収塵装置外観

第6図 フランス製インゴット側面外観


2.研究の成果
 日本原子力研究所から分譲を受けた地金を用いて次の究を行いそれぞれ下記の成果を得た。

(1)地金の確性試験
 入手した地金は第6図に示すように約6"φ×220mml、68.250kgのフランス製鋳塊である。その規格値および二、三の成分について分析した結果は第1表のとおりである。

第1表 フランス製インゴット分析値(単位ppm)

 横断面に内部欠陥は比較的少なかったが、そのブリネル硬度は17点測定し最大値208、最小値159、平均値189で相当不均一であった。そのマクロ組織は第17図のようなもので通常の鋳造組織とはかなり異なっており、マグネシウム還元をルツボ中で直接行って得られたインゴットではないかと思われる。

(2)熔解法の研究
 上記地金を適当に切断し、これを熔接により接合して消耗電極とし、これを熔解して造塊した。まずこの熔解の最適作業条件を確める目的で小塊の熔解実験を行った。そのとき用いた電極および得られた鋳塊の写真を第8図および第9図に示した。次いで上により確めた条件を用いて大型鋳塊を試作しその確性試験を行った。用いた電流は30V、1,500Aである。電極および得られた鋳塊は第10図および第11図のとおりで、鋳塊は99mmφ×195mml、28.45kgで表面は比較的平滑で、ヒケ、割れ等もなかった。横断面には、一、二の小孔がみられるのみで概して良好な鋳塊といえ、そのブリネル硬度は7点測定で最大値226、最小値186、平均値204で熔解による硬度増加は比較的少なかった。
 マクロ組織は消耗電極式アーク熔解炉に特有の組織の成長がみられた(第12図)。この鋳塊にアーク加工を施した写真を第13図に示す。この方法により鋳塊の表面を改善することができた。以上のほか、切削屑の再熔解、収塵装置の効率の検討等も予備実験的に行った。

第7図 フランス製インゴット縦断面の
マクロ組織

第8図 熔接せるウランの消耗電極

第9図 できたインゴット
(悪い例:電流不足による表面の不良)

第10図 電極

第11図 インゴット

第13図 アーク加工を施したウランインゴット

第12図 ウランインゴットの縦断面のマクロ組織