昭和33年度放射能調査実施計画


 昭和33年度における放射能調査は、原子力委員会(放射能調査専門部会)においてその計画大綱について審議され、この決定にもとづいて予算要求を行ったが、最終的に決定した予算にもとづく33年度の放射能調査実施計画は下記のとおりである。

昭和33年度放射能調査実施計画

1.目的
 この調査は、最近大気、地表、海洋、動植物、食品等の放射能が漸次高まりつつある実情にかんがみ、大気、地表における自然放射能ならびに核爆発実験等による人工放射能につき、わが国および周辺の分布、生活環境の汚染度等につき放射能レベルを調査し常時その調査結果を把握し、もって国民生活への影響、今後の原子力平和利用の推進等に関する基礎資料とするものである。

2.調査対象

大気の放射能
 成層圏大気から地表付近の大気にいたるまでの浮遊塵埃、雨水を対象とする。

海洋の放射能
 わが国の近海における海水、海洋生物、海底沈殿物を対象とする。

地表の放射能
 陸水(天井水、同沈殿物、上下水を含む)および土壌を対象とする。

動植物および食品の放射能
 家畜および農作物(米麦、野菜、果樹その他)につき、自然の状態と食品として摂取する状態のものとを対象とする。

その他(特殊調査、特殊地点調査)
 核爆発振動の観測、日本近海の重要定線の観測、東海村付近の放射能

昭和33年度放射能調査予算(原子力研究所を除く)


3.調査時期
 昭和33年4月から実施する。

4.実施計画
(1)大気の放射能調査
  (1)地表付近の大気放射能

(イ)浮遊塵埃
前年度に引き続き、電気集塵器により1日おきに試料を採取し、グロスβ放射能の測定を行い、1ヵ月分の試料を気象研究所に送り核種分析を行う。
 特に汚染度の大きいときは数回の測定から核爆発日の推定も行う。(気象庁、気象研)

(ロ)落下塵埃および大量雨水
 前年度に引き続き、大型水盤により1ヵ月間の雨水および自然落下塵埃を採取し、月末にグロスβ放射能を測定し、この分析のため気象研究所に送付し核種分析を行う。(気象庁、気象研)
 試料採取場所:(イ)、(ロ)ともに札幌、仙台、東京、大阪、福岡の5管区気象台および中央(気象庁)

(ハ)降雨(定時、定量)
 従来気象官署で行っている降雨雪の放射能測定について、定量採取装置を改良し、試料の減衰起算時刻を正確に観測する。(気象庁)
 試料採取場所:稚内、釧路、札幌、秋田、仙台、東京、輪島、八丈島、大阪、米子、室戸岬、福岡、鹿児島、鳥島の14ヵ所

(ニ)放射能減衰の測定
 放射能減衰を正確に測定し、核種の判定および核爆発日の推定を容易にするため東京にβ放射能自動測定装置をおき、採取試料の放射能について時間的減衰状況を測定する。(気象庁)

 (2)上層大気の放射能

(イ)成層圏内の放射能観測
成層圏内の低温、低圧の条件に適合するよう放射能ゾンデを改良し、大型気球を用いて、高度20km、25km、30kmの各層について年2回観測する。(気象研)

(ロ)気球による対流圏の放射能観測
前年度に引き続き、年10回、高層気象台(舘野)で放射能ゾンデを飛揚し、(上昇約8,000m)、汚染濃度の垂直分布を測定する。(気象庁)

(ハ)飛行機による放射能観測
前年度に引き続き、年2回飛行機に電気集塵器および粒子計数器を取り付け、高度5,000m まで適当な高度の試料を採取し、試料の化学分析を行う。なお、放射能ゾンデと同時観測し比較検討する。(気象研)

(2)海洋の放射能調査

(1)海水、浮遊懸濁物質、海上大気の放射能
 日本近海の海洋を対象として、気象庁海洋気象部(凌風丸)、神戸海洋気象台(春風丸)、海上保安庁水路部(拓洋、海洋)がこの調査を担当し調査地点および時期を協定し、黒潮、親潮の定線について行う。海水についてはそれぞれ年4回の航海により、数点ずつの採取地点において、3層(10m、表層、中層)に分けて採取しグロスβ放射能を測定、分族分析を行う。必要な資料の元素分析も行う。(気象庁、海上保安庁)
 海水中の浮遊懸濁物質については、海水から分離してグロスβ放射能を測定する。(気象庁)
 海上の大気中の放射能は凌風丸により大気中の浮遊塵埃を採取し、帰港後その放射能を測定する。(気象庁)

(2)海洋生物および海底沈殿物の放射能
 前年度に引き続き、日本近海の海流、海産生物からみて重要な3定線(房総半島沖、大瀬崎沖、新潟沖)について年1回ないし2回、海洋生物(稚魚、ネクトン、プランクトン、重要水産物)および海底沈殿物(ヘントス、底質)の試料採取を行い、グロスβ放射能を測定する。(担当区水産研)
 さらに人工放射能による海洋生物の汚染を調べるため元素分析を行う。(東海区水産研)

(3)地表の放射能調査

(1)陸水の放射能
 前年度に引き続き、上下水、天井水、河川水、湖水等を対象として地方衛生研究所に委託し(前年度の北海道、東京、福井、京都、岡山、福岡の6ヵ所のほか、地理的分布を考慮して、宮城、茨城、鳥取を増加する)地域ごとにその地域内の検体を採取し、毎月ないし年数回cpm測定を行う。さらに分析を必要と認める場合は放射線医学総合研究所(完備するまでの期間を国立衛生試験所)にその試料を送り分析する。〔放医研、(地方衛生研、衛生試)〕

(2)土壌の放射能
 前年度の4地域(札幌、東京、金谷、熊本)のほか、日本海側の北陸を加え、土壌から植物への汚染の関係を明らかにするため、土壌の種類および利用型態別に分けて年2回以上採取し、cpm測定(各農試)ならびに元素分析(農技研)を行う。採取地点は8地域農試、8県農試および平塚、千葉、金谷、熊本の各試験場(地域農業試、農技研)

(4)動植物(畜産業、農産物、水産物)および食品の放射能調査

(1)農産物の放射能
 前年度に引き続き、米麦、飼料、牛乳、蔬菜、果樹、茶等につき、土壌と同様な調査網および調査方法、回数により行う。大気、土壌、農作物の関連性の調査であって、食品として加工しない自然の状態に重点をおく。(農業試、農技研)

(2)家畜の放射能
東京において年6回屠殺牛の肝蔵10例ずつ採取グロスβ放射能の測定を行う。
また8地域(北海道、山形、宮城、新潟、東京、鳥取、福岡、鹿児島)の牛骨15例ずつを集めてSr90の分析を行い、さらに本場において飼育された牛、山羊、豚の約10例ずつにつき骨、内蔵、筋肉等に分けてSr90を分析し、放射能の移動経路をしらべる。(家畜衛生試)

(3)各種食品の放射能
前年度に引き続き、陸水と同様な調査網を拡張し地方衛生研究所に委託する。各地域別に、食する状態の試料を採り、毎月ないし年数回cpmを測定し、さらに分析を必要と認める場合は放射線医学総合研究所(完備するまでの期間は国立衛生試験所)にその試料を送り分析する。〔地方衛生研、放医研、(衛生試)〕

(5)その他(特殊調査)

(1)特殊調査
核爆発実験による大気振動の観測
核爆発日および地点を確定し、大気放射能の核種の推定、外部照射線量算定を行うため微気圧計の倍率を200倍とし(従来のものは30倍であり、ネバダ、クリスマス島の実験はキャッチできない)全国4ヵ所(釧路、東京、米子、鹿児島)に設置し、毎日観測する。(気象庁)

(2)特殊地点調査

(イ)東京湾近海における調査
前年度に引き続き、東京湾および相模湾における海水、海洋生物および沈殿物を対象に年1回試料を採取し、cpm測定および必要な試料分析も行う。

(ロ)原子力研究所周辺の放射能
原子力研究所の原子炉を中心として、前年度の7kmを10kmに拡大し、空間分布線量率(連続)、大気(浮遊塵および降水;連続)、地表(上下水、土壌;年4回)、植物および食品(年4回)、海洋(海水、海洋生物、海底沈殿物;年4回)の放射能を測定する。(原研)

(6)放射能分析

(1)大気および海水の放射能分析
 大気および海洋中の放射性物質約200試料以上のものにつき濃度抽出法および沈殿法により分離操作し、リビーカウンタ・フローカウンタによりSr90を計測、自動エネルギースペクトロメータによりCs137を計測する。(気象研)

(2)土壌、農作物、海洋生物および家畜の放射能分析
 土壌から植物への汚染の関連を明らかにするため、土壌は種類および利用形態に、農作物はその土壌から立毛するものについてSr90、Cs137の分析を行う。(農技研)
家畜については、主として牛を対象として骨および臓器につきSr90等の分析を行い、経年的増加状況を調査する。(家畜衛生試)
海洋生物等についてはSr90分析に主力を注ぎ、Cs137については前年に引き続いて分析法を検討し33年後半から具体的に実施する。なお、Fe55,59、Zn65、Cd113,115についても定量分析を行う。(東海区水産研)

(3)陸水および各種食品の放射能分析
 陸水および各種食品中の放射性物質の分析は、必要とする場合放射線医学総合研究所(完備するまでの期間は国立衛生試験所)においてSr90,Cs137等の核種分析を行う。〔放医研(衛生試)〕

(7)報告

 毎日または毎月定期的に測定を行う機関にあっては月報、期報、年報とし、毎月ないし年数回の測定を行う機関では期報、年報として原子力局に報告せしめその報告を原子力局において取りまとめの上印刷し、各関係機関および必要機関に配布する。

昭和33年度海洋(海水)放射能採水観測線


昭和33年度放射能調査地点分布図