原子力委員会参与会

第8回

〔日 時〕昭和33年8月21日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕東京都千代田区永田町2の1総理官邸

〔出席者〕
 稲生、岡野、脇村、茅、高橋、中泉、倉田(代柴田)、山県、
 安川、伏見、駒形、三島、瀬藤各参与
 石川、兼重、菊池各委員
 石井政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、法貴局次長、
 島村政策課長、藤波管理課長、大田原子力調査課長ほか担当官

〔議 題〕
 1.昭和34年度原子力関係予算について
 2.その他

〔配布資料〕
 1.昭和34年度原子力予算概算総表
 2.技術導入によるウラン製錬技術の開発について
 3.核燃料に関する海外技術調査について

昭和34年度原子力関係予算について

 佐々木局長が資料1を説明し、続いて質疑応答をかわした。

 佐々木局長:34年度原子力予算の総表をお配りした。大蔵省にやがて提出するが、これは原子力委員会で正式に決めたものではなくて原案である。したがって修正も可能で、皆さんの御意見を聞きたい。

 島村課長:本年度から防衛庁関係の予算要求がでてきた。防衛庁は今まで数年間アイソトープ関係の予算を大蔵省に要求し若干を得てきた。昨年も原子力委員会の査定をうけたいという申し出があったが、時期的に遅かったので原子力予算には入れられなかった。今年度は時期的にまにあっている。
 原子力基本法では原子力の研究や利用は平和目的に限るということになっている。原子力委員会設置法に原子力委員会は原子力基本法を守らねばならないと明文化されているわけではないが、基本法は国民全部によって守られるべきである。防衛庁も基本法に服さねばならないはずであるから、防衛庁の予算は基本法に矛盾しないものだという形式論理でなく果して平和利用の精神に矛盾しないかどうか原子力委員会が見守っていくという見解を持っている。
 防衛庁から今度提出された予算要求には核兵器に直接関係したものはなく、核兵器が日本に使用された場合国土や国民に与える影響に備えるもので、それもやや初歩的なものである。原則としては防衛のためのものだから原子力委員会の予算見積りの対象になると考えられる。特に防衛庁だからということで特別扱いをせずに査定した結果、他の機関の研究と重複するものとか他の機関でやるほうが妥当と考えられるもの等はかなり落ちている。その内容は資料に示されるとおりである。

 山県参与:潜水艦の推進用動力炉の調査はいかに取り扱うか。

 石川委員:まだ結論をだしていない。

 兼重委員:潜水艦までを平和目的に入れるのは拡張解釈だという見方がある。

 山県参与:普通の潜水艦はすでに防衛庁で造りつつある。

 兼重委員:防衛庁が造っているからといってそのまま平和利用だと考えるのは疑問であるというのがわれわれの考えである。

 伏見参与:日本が核兵器攻撃をうけたときに備えて汚染除去の方法を研究するのは防衛庁で考えてもよい。それ以上に踏みこまぬようによく監視すべきであって、潜水艦をもしやるとなれば三原則と矛盾するのではないか。

 菊池委員:防衛庁以外で潜水船を研究するのはよいか

 伏見参与:それはいい。

 瀬藤参与:武器を積まない潜水船をつくり、潜水艦の運転は防衛庁のほうがなれているから運転に関しては防衛庁に研究をさせることになれば問題は微妙になろう。

 兼重委員:潜水船と潜水艦と同じ炉で造れるものか。

 山県参与:現在のアメリカにおける例では全く同じ炉ではない。

 兼重委員:潜水タンカーを防衛庁が研究する必要はない。原子力船研究協会でやってもらえばよい。

 山県参与:私が提起した問題は潜水艦用の炉を考えるということで潜水艦をつくれということではない。ただし、サバンナ号の動力炉も潜水艦に使えるかも知れないし、潜った船を考えると非常に似てくるので問題がある。

 瀬藤参与:原研の民間出資金2,500万円をどう使うか。民間出資として意味を持つように使いたい。

 石川委員:議論はしているがはっきりした結論には至っていない。民間出資は毎年でており昭和35年度で5年目になるが、それまではいままでどおりでいきそれから考え直すという考えがある。5年たった後は5,000万円程度の金額でよい。ただ特別の事業があれば考慮することとする。

 島村課長:民間からの出資分ははっきりした形で使いたいという御希望は以前からあったが、国家からの予算に比して少額である点と民間からの金で造ったといえるような適当な設備がない点に困難がある。

 瀬藤参与:民間から出資した資金については自由に使えるようにしたいという考えである。

 島村課長:将来、原研の建設的な仕事が一段落して収入源も考えられるようになれば、人件費等は原研の収入で賄い大蔵省にとらわれずにやることもよいであろう。国家機関として困難な点はあるが、人件費等の必要額を算定し救済の余地があるかどうか研究している。民間からの出資を続けるという建前は崩さぬほうがよいと思う。

 駒形参与:民間から原研への出資はその使途を明確にしてほしいという声はしばしばあった。33年度はアイソトープ研修所等の費用にあてたいと話してきた。少なくとも5年ぐらいは今のような状態で特殊法人の趣旨を生かしていきたい。その後はもっと少ない金額でたりると思われる。現在では資金を弾力のある方法で使うことはできない状態で、今後民間の金を使いやすくする方法はないかという線で名案を探している。

 駒形参与:原子炉研修所は advanced course 10名、general course 30名という考えで計画を進めている。前者は講義もあるが実験室で測定を行う。後者は講義を主とし一定の実験を行う。これに関し学校関係の方から御意見をうかがいたい。

 茅参与:だいたいの考えとしては、大学で教育をうけずに卒業した人に対する応急措置をやっていただくことでいまのところはよい。大学・大学院の課程がはっきりしてくれば、それに続くようなことをのちには考えていくべきであろう。

 瀬藤参与:東大では原子炉関係の講座はなにがあるか

 茅参与:原子炉工学という講座を置いている。

 瀬藤参与:原子炉はなにを使うか。

 茅参与:東海村の原研のウォーターボイラーを共同使用することを考えている。

 茅参与:金属材料技術研究所の予算に「原子炉用金属材料の腐食防食の研究」があり、原研の試験研究費中に「燃料材料冶金研究費」という項目があり、原子炉用材料の腐食防食を研究することになっている。これらは重複するおそれがあるのでその間の区別をはっきり知りたい。

 法貴次長:原研と金属材料技術研究所の予算要求で内容が重複していたので当事者と話し合い整理した。その考え方としては放射線下で起る腐食とそれに対する防食は原研でやり、そうでない一般の場合の腐食防食は金属材料研究所でやるように考えた。

 茅参与:こういう二つ以上の機関における研究に線を引くのは注意が必要である。それは原子力局で判断するのか。

 法貴次長:現在では局ばかりでなく原子力委員や専門委員の考えを聞いてやっている。研究内容が重複せぬようにまた施設の点も吟味している。来年度は研究企画課を置く考えで、これによって資料を集め研究の分担を考える。

 島村課長:問題によっていろいろなケースがある。他の機関での研究を知らずに予算要求に入れてきて、わかってから要求を撤回するケースもある。二つ以上の機関からだされたテーマが重複する場合に、当事者に相談してもらってうまく話合いがつけばよいが、最後までお互いに譲らないでもめることもある。その際は委員や専門委員等の御意見を聞くこととしている。

 茅参与:文部省から大学の研究に予算がでている。この研究内容と原子力局で査定する予算による研究内容と重複しないように考えているか。

 島村課長:文部省の予算要求はコミで要求しあとからわけるので、予算要求の段階でつきあわせることはできない。したがって今日の資料にも、文部省の大学予算との関係を考えてきめたというものはない。しかし、テーマにより、たとえば核融合などは文部省と相談している。

 茅参与:文部省の科学研究費に原子力という項目があるので、原子力局で考える予算と関連させていきたい。

 石川委員:そういう気運を早く醸成すべきである。

 瀬藤参与:研究者同志をつきあわせるのが早道である

 兼重委員:金属材料に関する研究については金属材料専門部会をつくり研究分担の分野をだいたい考えてもらうことにしているが、なにか問題にぶつからないと進められない。この次の金属材料専門部会にこの問題を提出することとする。研究の分担はその他の部門でも起ることで複雑な問題である。

 中泉参与:資料1の21ページに「アイソトープの利用に関する研究」がある。これには昭和33年度の予算額は省路してあるが、新規のものと継続のものとを区別して示してほしい。
 また、研究事項の中にアイソトープをトレーサーとして行う研究というのがあるが、トレーサーは研究の手段で研究の目的は原子力でないというものがあるかと思われる。これに関する方針を聞きたい。

 島村課長:「アイソトープの利用に関する研究」については、この次にはもっと詳しくわかりやすい表をつくる。
 アイソトープをトレーサーに用いる場合でも、原子力の利用は原子力委員会の任務になっているからトレーサーが研究の手段だからという理由で原子力委員会から離すのには疑問がある。アイソトープをトレーサーとして使う場合でも研究段階にあるものは原子力委員会で考えるべきであって、それが実用化したときは原子力予算からはずしていく考えである。

 伏見参与:茅さんから提起された問題を考えても研究者による討論の場が必要である。学術会議の予算が貧弱なので資金あつめに間接的に応援してほしい。

 兼重委員:学術会議は審議を行うところで、事業を営む機関ではない。委員会を設けることはできるが通常の審議会というほどの形となっていない。法律改正という声もあるが、学術会議の性格を考え直さないと正式には解決できない。

 石川委員:今日の予算の資料はまだ正式にきめたものではなく、新聞への発表はしないでいただきたい。

その他

(1)技術導入によるウラン製錬技術の開発について
 資料2を島村課長が説明した。

 島村課長:民間企業が個々に米、独などの会社からウラン製錬の技術導入を行いパイロット・プラントの建設を計画している例がある。政府としてこれに対する考え方を練る必要がある。わが国のウランの需要は正確に予想されていないが、長期計画の想定するところによってもウランの大規模な製錬が必要となるのはかなり先である。国内のウラン鉱石は燃料公社で探鉱中の段階であり、海外からの輸入も態勢が整っていない。さらに、製錬事業のあり方もまだ考えられていない。これらの点から、10トン以上の能力を持つプラントを造るようないわば企業化に直結する技術導入は、現状としては差し控えたはうがよいというのが結論である。ただし、燃料公社か民間かによって製錬事業がやがて必要になるのは明らかであり、自学自習のみでなく、技術情報の導入を考えていくことは必要と思う。

(2)核燃料に関する海外技術調査について
 資料3により島村課長が説明を行った。

 島村課長:先般きまった一般協定によれば、日本が燃料を輸入するとき検査する権利は日本に留保されている。どのような方法で検査を行うかがきまっていないので資料に示す要領で調査団を派遣し調査することとした。
 調査団が視察する施設は各国の国有施設が大部分で全部が一般に公開されるまでに至っていない。調査員の選出範囲に「民間」を除外してあるのもその点を考慮したものである。調査の対象が確定すれば11月ごろ出発する段取りである。一般協定の正式発効のめどがつかないと効果が上らないことも考えられるので、11月という時期を考慮したものである。今後の情勢の推移によっては資料に示されるとおりが実現するかどうか疑問である。

 高橋参与:検査の対象は天然ウランだけか。

 石川委員:CP−5型炉の燃料も考えられる。

 高橋参与:11月は結構だが、できればコールダーホール改良型動力炉を発注する時期の前後としたい。

(3)第7回議事録の内容について

 島村課長:前回7月17日の参与会において助成制度についてお考えをうかがった際、大屋参与の御発言があった。そのまま速記したところでは御発言の趣旨の誤解を招くおそれがあるので訂正したいという申し出が大屋参与からあった。そこで大屋参与の御発言の部分のみはあらためてお考えを聞いて速記を訂正したものを議事録としてある。この点御了承いただきたい。

(4)その他の質疑

 伏見参与:原研では増殖炉の研究方針を変更するということだが。

 駒形参与:一般協定でウランが入らないとタイムスケジュールにのらないということだけである。原研では熱中性子炉でスラリーを使うものを発注済であり、増殖炉の研究にはやはり力を入れていく。

 伏見参与:元来増殖炉はタイムスケジュールにのせるのが無理なのではないか。

 駒形参与:長期計画に示されるところを現在はタイムスケジュールとしている。

 伏見参与:CP−5型や国産1号炉のようにすぐに造れるものとは非常に差があろう。

 駒形参与:程度問題である。増殖炉のほうが不明の点は多いが、増殖炉の研究を放棄するわけにはいかない。

 瀬藤参与:原子力関係の科学者技術者に関するアンケートが原子力局から出されている。技術者の分類に電気とか機械とかいう専門別があるが、原子力工学をやった人間を記入する欄がない。これは入れておくべきではなかったか。

 島村課長:御発言のとおりで、こちらの手落ちである。

 伏見参与:原電が英国からとりよせたテンダーは内容が不備で役にたたないと新聞にでていたが。

 安川参与:新聞の記事は誇張している。三社からテンダーがきたがそれぞれの事項について内容の精粗がまちまちであり比較が難しい。そこで9月15日までに補足したいところがあれば受けいれると申し込んだ。2週間に一度記者会見を行うことにしており、そのとき話した内容が誇張した記事になったものである。テンダーに書いてあることについてもさらに質問したい箇所がある。一部の会社ではジュネーブ会議ののちに相当の権威者をよこすということである。