〔日時〕昭和33年7月17日(木)14.00〜17.00 〔場所〕東京都千代田区永田町2の1総理官邸 〔出席者〕 稲生、井上、大屋、岡野、脇村、茅、高橋、田中、 〔議題〕 1.昭和34年度原子力関係予算案作成上の問題点について 〔配布資料〕 1.昭和34年度原子力関係予算案作成上の問題点
昭和34年度原子力関係予算案作成上の問題点 予算案作成上の問題点として、(1)日本原子力研究所における研究の重点、(2)原子燃料公社の事業の重点、(3)原子力船開発に対する考え方、(4)助成制度のあり方の4点をあげ、(1)については駒形参与(日本原子力研究所理事長)、(2)については高橋参与(原子燃料公社理事長)、(3)については運輸省亀山企画課長、(4)については島村政策課長および堀助成課長からそれぞれ説明を行い、質疑応答を交した。 (1)日本原子力研究所における研究の重点 駒形参与:日本原子力研究所の34年度予算要求は内部で検討を行っている段階であるが、考え方としてつぎの3点がある。 (イ)新規の研究は原則としてとりあげないこととし、今までに着手してきた設備や研究を整備、完成させることに力をいれる。 (ロ)原研の規模も大きくなり人員が不足している。施設を十分に動かすためにも34年度は思いきって人員を増加したい。 (ハ)研究の対象を幾つかにしぼり、研究所全体の仕事の骨格となるような研究計画をつくる。研究計画の内容としては、
が考えられる。原研全体の物理、化学、工学等の基礎ないし応用研究をこれらの問題に集約していきたい。 大屋参与:民間の施設をできるだけ利用する方針をとり、原研は原研でなければできないことをやるようにしてほしい。 駒形参与:私どももそういう考えをもっている。ウオーターボイラーやコバルト60の1万キュリーの照射室等の大きな施設は来年度も引き続き共同利用の態勢をとっていきたい。共同利用に際しては、学界・産業界から人を入れた運営委員会をつくり、合理的な設備の利用を期する考えである。 岡野参与:原研の予算の問題ではいつもでてくることだが、民間出資と政府出資のかねあいの問題について、皆さんのお知恵を拝借したい。 松根参与:いつまでも民間出資を多額に要求するようでは不安もでる。今度の動力試験炉を最後として、考えられる政府予算も入れて一応そこまででくぎった計画をだしてほしい。そうすれば民間出資として出す金もだいたい見当がつき、そのほかは年々の経費として少額のものになる。増殖炉のような大きなものが出たときは改めて相談することを前提として、こういったことを考えてはどうか。 駒形参与:いろいろな点からそういった5ヵ年計画を考えていく必要がある。私も計画の策定に着手している。 大屋参与:5年なら5年という計画をたて、その先は一応うちきって必要となったときに考慮するという意見が産業会議ででている。 島村課長:松根参与の御意見は、原研に対する国家および民間からの出資の合計額が将来においてかなり少額になったならば、民間から出さなくてもよいということですか。 松根参与:そうではない。全体が少額になればそれに応じて民間出資も減らして出すということである。 島村課長:日本原子力研究所法では原研への出資は国が半分以上を出すということになっているが、東研の経費の膨張が急なために、国の出資額と民間からの出資額との間にかなり開きができている。 民間出資が望めないようなら民間から出資した金額を返して国家で自由に原研を運営していきたいという考えが一時大蔵省にもあった。しかし給与の上でも開きがあるので、今日の段階では原研を国がひきとることは事実上不可能と判断される。しかしながら、民間の出資がなくなればたとい国営にならなくても国家の監督が厳しくなることは否定できない。 石川委員:研修所のことを話していただきたい。 駒形参与:原研は東京の科研においてアイソトープの研修所を開いている。1回に32名ずつ1万2千円の授業料ですでに3回行っている。8・9月にはユネスコの依頼により東南アジアの人を対象として開き、さらにその後コロンボ計画によって、アジアの学生をうけいれて開講する。来年度もこれに準じて続ける予定である。 岡野参与:ユネスコを通じて東南アジアから研修にくる人々は程度にかなりの開きがあり、アメリカの学校を卒業し本国で数年勉強してきた人や本国で卒業したばかりの人がまじっている。この点からアイソトープ研修所はやり方をよほど考えていかねばならない。 (2)原子燃料公社の事業の重点 高橋参与:人形峠地区は確定鉱量がつかめるような程度まで探鉱が進展している。引き続いて夜次地区の探鉱を行っており、ここは鉱量はともかく品位がかなりよい。峠地区の品位がだいたい1万分の5であるのに対し、夜次地区では1万分の6〜7で中津河地区には千分台もある。中津河地区でも相当の鉱量が期待される。 (3)原子力船開発に対する考え方 運輸省亀山企画課長:原子力船の開発計画全体については原子力船専門部会で検討していただいている。34年度の予算を考えるため、とりあえず40年度ごろまでに最初の試験船として原子力船を試作する段階に入ることを予想し、それに備えた基礎研究を続けるものとした。 (イ)遮蔽に関する研究 (ロ)動揺・振動の研究 (ハ)船用原子炉の補機に関する研究 (ニ)船体の研究 (ホ)原子力機関 以上の項目にともなう研究室の整備・人員の増加を考え、金額としては結局8億3千万円になる。これは33年度の約20倍に相当する。この考え方に対して原子力局から現在の研究体制でよいのかという指摘があった。研究規模が拡大するにつれ原研のような研究体制の必要も考えられる。現在では運輸技研と原子力船調査会との間でバランスをとってやっていく。 山県参与:原子力船の予算を考えるのに一番問題となるのは原子力船の開発方針がはっきりしていないことである。長期計画を策定すべきだということは前からいわれているが、同時に短期計画を考えるという声が諸方面からでている。これは2〜3千トンの試験船を1隻まずつくるべきだというものである。その結果、原研の動力試験炉は長期計画的なもので、そのほかに試験船をつくるべきだという議論がでる状態で混乱を起している。原子力委員会へのお願いとして、原子力船の開発計画を策定していただきたいと思う。 石川委員:専門部会で案を練っていただいてよい計画をつくりたい。こちらからもよろしくお願いする。 大屋参与:産業会議では、原子力船の開発に関しては基礎的な研究はやらないが、具体化するにはどの道が一番早いかを検討している。たとえば、調査団をつくって海外に調査に行くことも検討している。また、原研や運輸技研などで行う基礎的な研究のほかに、2〜3千トンの船を造ってそれによる実際的な研究も行いたいという民間の考えがあり検討している。 島村課長:原子力船の開発計画は検討を進めるべきだと考えている。専門部会でも計っていただいて早急に策定したいが、とりあえずの計画は34年度予算のためにつくりたい。 石川委員:運輸技研のスイミングプール炉は原研の敷地内に置きたいというものである。 山県参与:運輸技研のスイミングプール炉は原研の動力試験炉と並行してくる。したがって、国の原子力船開発計画を確定し、現在の動力試験炉といっしょにスイミングプール炉を設置せねばならないという意義を出さなければ実現は困難である。この点検討してほ しい。 岡野参与:原子力船の問題には特殊性があり早く船体を手がけておかないといざとなって間にあわない。100点満点のうち75点ぐらいになったら手をかけるべきである。 兼重委員:原子力船舶用の原子炉は急激な負荷の変動に応ずる必要があるのでそういった特殊性を研究するということだが、それと小型の船で実験を急ぐということとはどういうつながりがあるのか。 (4)助成制度のあり方 島村課長:初めて原子力予算のついた昭和29年以来補助金、委託費による助成制度が行われている。33年度はだいたい債務負担行為とあわせて6億円程度、そのうち今年度に使えるのは補助金2.5億円、委託費3千万円である。 堀課長:問題点の一つは5年間助成制度を続けるうちに情勢が大きく変化したことによる。29年に助成制度を始めたときはこの制度によらなければ原子力の研究をやるところがなかったが、今では自力でやろうという空気がかなりでてきた。研究内容にも変化があり、当初の重水とか黒鉛といった大きな問題はある程度の研究を終り、今では規模の小さいものが残るようになった。その結果企業が主体となって研究をやり助成制度は文字どおり補助的な働きをすることとなった。 茅参与:原研で必要な研究のうち民間でやれるものは民間にやらせてほしいという大屋参与のお話には賛成だが、今の助成制度の問題とはどういう関係があるか。 堀課長:要望テーマの決定にあたり、原研と民間の意見を十分きいている。 大屋参与:助成金の制度がある以上民間ではむやみに助成金をほしがるであろうが、元来日本の産業はいずれも需要がないという状況から出発し、企業の勇気で成長してきた。したがって、むしろ各企業の勇気でやることのほうが大事だというように企業を指導していくのがよいと思う。そのようにしても民間でやれないようなことが原子力の場合特殊な性格としてあると思うので、国による助成も必要だと思うがその範囲にとどめ、民間で独力でも競争してやろうとしているようなことに助成金を支出することは避けたほうがよいと思う。 中泉参与:フィルムバッジの問題について申しあげる。ある民間企業が初めX線用のフィルムのバッジケースを助成金なしで工業化した。つぎに助成金の交付によりγ線用のフィルムとバッジケースを完成したがすこしも使われない。需要が少ない原因として二つある。まず、バッジを使う人はフィルムを evaluate してもらうために1回300円も費用を払わねばならないこと、つぎにバッジを使用者に提供しフィルムをevaluateするほうの人からいえば、保険や補償にものをいうので evaluation の結果は注意して保存し整理しておかねばならない。こういう面倒が考えられるので誰も手をださない。 その他 (1)英国の発電炉の設計変更に関する英国側の説明について 法貴次長:軍事用プルトニウム生産の場合を考えて多量の燃料の取替が可能なように取替用設備を増大したもので、発電用と軍事用プルトニウム生産の両用目的に変更したのではなく、やはり商業用発電をめざすものであるということである。 佐々木局長:プラスの温度係数という欠陥をカバーするために今度の企画をしたのであれば、問題が大きいので調査した。調査した結果は、そういう原因ではなく、将来の軍事用に備えて操作のための設備を多少加える程度であり、日本によこすものは全然設計を変えないといっている。 (2)外人招聘の件 大屋参与:コックロフトはどうか。 松根参与:やはり英国からがよいと思う。 安川参与:コックロフトに来てほしいと一本松さんが手紙をだした。返事はまだこない。 石川委員:原子力局の次長の考えではリズレーのカニンガムがよいということである。 岡野参与:人を呼ぶときはその人の世界的な重要性を一般にもよく知らせておきたい。2人呼ぶとすれば発電関係とアイソトープ関係の専門家を呼ぶことになるかと思うが、できれば原子力船も考えてほしい。 (3)大学用原子炉について 島村課長:端的にいえば、大学のもつ炉は case by caseで考えていく。 茅参与:Case by caseとすると計画性がなくなる。原研の下につづく研究を行う大学として、こうあってほしいという考え方があってもよいと思う。 佐々木局長:今までのところ大学側の希望を聞いてみても案外小さいので特に取りあげることは考えていない。いずれは国として何か体系づけたほうがよいと思う。 茅参与:東大でもはっきりした計画は何ももっていない。さしあたり大学生の教育を考えるだけで、国の方針のようなものができるのをまって計画をねるつもりである。 (4)原子力アタッシェについて 篠原事務次官:外務省との調整が難しい。 大屋参与:大使にそういう必要性がわかっていないのですか。 篠原事務次官:大使にはわかっているが本省のほうがわかっていない。 島村課長:原子力アタッシェは旅費を持たず資料を集める金もない。33年度は原子力アタッシェだけに若干の予算がついていたが、34年度からはそれもなくすると大蔵省ではいっている。何とかしなければいけない。 大蔵省貝堀主計官:科学アタッシェにどれだけのWeight を置くべきかは外務省と科学技術庁とで話しあってもらいたい。経費が少ないことはわかっているが、実際は派手なほうに経費がいってしまうのでそれを改めたいと思う。防衛庁・外務省・科学技術庁の関係をひっくるめて、在外公館で使う機密費は8億円で決して少なくはなく、使い方の問題であると思う。その使い方を大蔵省からは指示しにくい。 荒木課長:外務省出身者として申しあげるが、現在のように在外公館からの予算でアタッシェの十分な活躍を望むことは困難である。外務省とは別に、長期出張、滞在ということを研究すべきである。 脇村参与:もっと地位の高い人を送り10年ぐらいは滞在するようにしないと効果はあがらない。今いる人達としては仕事は高く評価されている。 安川参与:村田アタッシェはよくやってくれるがあれでは力がだせない。今度今井という若い人を行かせたが、外貨の割当がきわめて少ない。大蔵省は目的と職務を考えて外貨の割当をしてほしい。 貝堀主計官:駐在員でなく渡航のみであれば規定がある。為替局に駐在員を許すよう交渉していただきたい。 安川参与:駐在員を認めて貰えない。大蔵省はもっと理解してほしい。 |